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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第六章 侵食
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6-11


「さてバサラ。心の準備は良いか?」


「いいぜ、ダンナ。いつでもやってくれ」


 少し意地悪く聞いてやったのに、バサラの返事があっさりとしたものだったので拍子抜けする。

 これから新しい手足(・・・・・)をくっつけてやるって言うのに、不安な表情の一つも見せやがらねぇ。

 どうにも完全に信じてくる相手ってのには、調子を狂わされるなぁ。


「んじゃ、いくぞ」


「おう!」


 バサラのために用意した義肢は、サンチラと同じく“生命を愚弄する者”ヴィクトルの技術を使って作った逸品だ。

 装着者の意思に反応して動き、多少の破損なら自己修復までするし、本来は人の死骸から切り取った手足を使うところをサンチラ同様深層の魔獣の素材を使っているので、強度も出力も桁外れに強力になっている。


 唯一魔力の消耗に不安があるが、装着者であるバサラが上手く供給できるようになれば問題はない。

 ただ、魔法に対する適正の低いオーガであるバサラが、上手く魔力を供給できるようになるかは分からんが。


「あ゛う゛」


 義足を足の切断面に押し付けると、バサラが僅かに声を上げた。

 擬態ミミクリィスライムが寄生する時に痛みはない筈なんだが……。

 いや、痛みは無くても義肢と神経が接合する時の違和感までは消せないか。神経を直接刺激されれば、変な声が上がってしまってもおかしくはないだろう。


 あ、ちなみに擬態ミミクリィスライムってのは小さい個体なら森の水辺なんかによくいる生き物で、半透明でゲル状の肉体を持ち、水を飲みに来た生き物に寄生すると宿主になった生き物の体組織に同化しつつ擬態し、正常に機能しながら宿主から栄養を得て分裂する事で子孫を増やしていったりする。

 深層では異常増殖して宿主を食いつぶす個体もいるらしいが、それ以外の場所で見つかるような個体はそこまで凶悪でもなく、切断された手足もコイツをはさんで固定すれば繋がるし、内臓に深い傷を負ってもコイツを詰めて縫えば助かる事もあるので、緊急時には治療薬代わりに使われる事もあるようだ。

 欠点と言えば人工的な生育が難しく、処置をせずに使えば使った場所から擬態ミミクリィスライムの幼生が定期的に生まれてくる事があるってな事くらいか。


「よし、完了だ。バサラ、感触はどうだ?」


「ん、っと。おお、すげぇ!動く動く!」


 椅子に座ったままバサラが義肢を動かす。

 その動きは錆付いた機械のようにギクシャクとしたモノだが、バサラの反応を見る限り誤作動ではなく、確かにバサラが動かしているようだ。

 ヴィクトルの記憶の中にある被験者達は、指一本動かすのにも一苦労してたってのに大したもんだ。

 魔法に対する抵抗力が無駄に高いオーガなので魔法による接合ではなく、擬態ミミクリィスライムを使ったのが良い結果をもたらしたのかもしれない。


「初めは違和感があるかもしれないが、ソレはそのうち脳ミソが勝手に調整するだろうから、とにかくオマエはその義肢が自分新しい手足になったんだと自分に言い聞かせろ」


 まったく新しい器官を移植したのではなく、失われた手足の代替品を着けただけなので、脳が上手く認識しさえすれば違和感はすぐに消える筈だ。

 ただ逆に、いつまでも受け入れる事ができなければ、動かす事もできなくなるかもしれないが……。

 まぁ装着してすぐ動かす事ができたんだし、その心配はないか。


「お?おお。分かった!」


 バサラが俺の言葉に挙動不審になりながらも、すぐに満面の笑みで頷く。


 たぶん分かってないんだろうなぁ。

 仕方がないのでしばらく様子を見て、上手くいっていないようならまた考えよう。



 ・



 トーラスの街の戻ってきたその日の夜にバサラの手足を接合し(つけ)てやったんだが、つけてすぐに動かせるようになったとは言えさすがに一晩経ったぐらいでは立ち上がる事もできずに、今朝は朝食をマルグリットに食べさせてもらった後、バサラはベットの上で思うように動かない義肢と格闘していた。

 そんなバサラの世話をフェリシアに頼んで、俺はマルグリットを連れて貧民街の近くにある食堂に向かう。

 ノエルに関する話は昨日の夕食の時に話をしたので、行き先について特に聞かれる事もなくマルグリットは黙々と俺の後ろを歩いていた。


 しかし、マルグリットの機嫌はあまりよろしくない。

 なぜなら俺がノエルの家庭教師をマルグリットに頼んだからだ。

 我ながら(・・・・)不思議な(・・・・)くらいに(・・・・)強引に(・・・)説き伏せた(・・・・・)ので、今朝はマルグリットとろくに会話もしていないほどなんだが、なぁにノエルを見ればマルグリットもすぐに納得するだろう。


「……あっ、ニグレドの旦那」


 職人街のはずれにある食堂に到着すると、開店にはまだ早いのか扉の鍵が閉められていた。

 仕方がないので強めに扉をノックすると奥から店主のジェフリーが顔を出す。


「えぇと、今日は何の御用で?」


 一月近く音沙汰がなかったから仕方が無いのかもしれないが、金を借りている相手にそういう態度は無いんじゃないだろうか?


 とも思ったんだが、ジェフリーの視線は俺とマルグリットとを行き来していた。

 もしかしたら、俺が女連れで来たから混乱してるのか?


「前に話した、ノエルの家庭教師の顔を見せに来たんだよ」


 できればもっと早くにマルグリットには家庭教師を頼みたかったんだが、バサラの世話もしてもらわなければならなかったからなぁ。

 せめて義肢が完成してバサラが一人で動けるようになる目処めどが立つまでは、マルグリットに頼む訳には行かなかったんだよな。

 人にモノを頼む以上、相手がパンクしかねないような量の仕事を頼むのはあまり得策じゃあない。

 特に、マルグリットはあまり器用とも言えないので、上手い具合に手も抜けずにがんばりすぎる可能性もあったしな。


「そ、そうでしたか。ノエルを呼んで来ますから、店の中で待っててください」


 失言に気がついたのか、俺の言葉にジェフリーが凄い勢いで店の奥に引っ込む。

 舐められている訳ではないようなので安心したが、置いてけぼりにされても困るんだがなぁ。


「……とりあえず、入るか」


「そうですね」 


 相変わらず不潔ではない物のあちこちに汚れの目立つ店内で待つ事しばらく、重たい空気に居心地の悪さを感じる頃になってようやくノエルが現れた。


 いや、時間的にはそんなに経ってないのかもしれないんだけどな。

 街中を歩いている時はともかく、広くもない店内で機嫌の悪い女と二人きりでやる事も無く待つってのはあまり胃に良くない。


「ゴブリンさん、こんにちは!」


「おう、ノエル。元気にしてたか?」


「うん!ノエルはいつもげんきだよ!」


 相変わらずノエルは無駄に元気だが、お陰で重苦しい空気は消えたので助かった。


「マリー、コイツが昨日の夜に話したノエルだ」


「………………」


 返答が無いのでマルグリットを見てみると、マルグリットはまるで(・・・)魔法にでも(・・・・・)かかった(・・・・)かのように(・・・・・)、ぼうっとノエルを見ていた。


「マリー?」


「……え?あっ、はい。ノエルちゃん、こんにちは。私はマルグリット。レドの……、このゴブリンさんのお願いで、ノエルちゃんにお勉強を教える事になったの」


 再度声をかけると、マルグリットが我に返って自己紹介をする。

 その姿に先ほどまでの不機嫌な様子は露ほどもなく、まるで(・・・)魅了(・・)された(・・・)かのように(・・・・・)熱い視線をノエルに向けていた。


「マルグリットおねえさん、こんにちは!

 わたしノエル。ゴブリンさんにごおんがえしするためにいっぱいがんばるから、おべんきょうを教えてください!おねがいします!」


 幼い表情ながらも真剣な顔でそう言ったノエルに、マルグリットはナニか胸に詰まるモノでもあったのか涙さえ浮かべて強く頷く。


 ……ナンだ、こりゃ?


「あ~、すまん。少し席を外す」


 一言おいて、返事も待たずに店を出て人目の少ない裏に回る。


「なぁ、おい。アノガキは一体どうなってやがんだ?」


 声をかけた相手は、毎度のごとく俺の頭の上で全てを見ていたリサだ。


「面白いコよねぇ、まだ幼いのにあんなチカラを持ってるなんて」


 面白いと言いつつも、リサの声には呆れの色が濃い。

 今までの俺の行動や言動を考えれば、分からなくもないけどな。


「やっぱり気づいてやがったんだな?」


「あったりまえでしょ?でなけりゃあの時(・・・)アドバイスする事もできないじゃん」


 あの時ってのは、スラムで初めてノエルと会った時の事だよな。

 今になって考えりゃ、ノエルを助けてやる事自体はともかく、あんな風にノエルの頼みを尊重する必要なんてナニも無い筈なんだよなぁ。


「……ハァ。で、なんなんだアレは?」


「んー、ちょっと特殊な固有魔法ってところかな。

 レドちゃんが『自在工房ワークショップ』って呼んでいる魔法みたいに、魔力量に関係なく血筋なんかの特殊な条件で使えるようになるタイプの魔法なんだけどね。

 あのコの場合は両親共に特殊な魔法を持ってたらしくって、まだちっちゃいのに少し使えるようになってるみたい」


「やはり魔法なのか……。

 しかし精神に影響する魔法なら、ダークエルフの工作員であるイルメラの魔法でさえ防御できた『精神感染メンタルウィルス』で作った防壁を、幼い人間の一般人でしかないノエルの魔法が突破できたのはなんでなんだ?」


「だって、あのコの魔法は魂に作用するんだもん」


「魂にだぁ?」


 さらりと言ったリサの言葉に驚きの声を上げる俺。その間抜けな姿に満足したのか、リサが満面の笑みを見せた。


「ウン!効果は魅了ね!」


 魅了、ねぇ。

 たしかにノエルに対する俺やマルグリットの態度は、魅了されていたと言われれば納得できるものではある。

 だが問題は、その効果が魂に作用するってところだろう。

 そもそも精神と魂ってのは別物なのか?


 ……まぁ別物だから効果が出てると言われたら、とりあえずは納得するしかないが。

 魂に対する研究はほとんど進んでないので、反論のしようがないんだよなぁ。


「いや、ちょっとまて。両親共に?って事はあの母親も特殊な魔法を持ってたのか?」


 スラムで燻っている様な人間が魔法を使えるとは思っていなかったので、ソレが事実なら患者を診た時に魔力の器を調べなかったのは失敗だったかもしれない。


「そんなに強い力じゃないけど、看破系の魔法を無意識に使ってたよ?」


 ノエルの母親は人を見る目があるんじゃなくて、魔法の力で判断してやがったのか。


「クソッ!全然、気がつかなかった」


「レドちゃんって、結構鈍いからねぇ~」


 うるさいよ。

 戦ってる最中ならともかく、日常的に気配や視線なんか気にしてられるか。

 本当は魔法に頼らずに気配を察知できたりした方が良いのは分かってるんだが、素質がないのかどうにも上手くいかないんだよなぁ。


「……って事は、ノエルは父親から魂を魅了する魔法を受け継ぎ、母親から魂を見通す魔法を受け継いでるのか?」


「たぶん、そんな感じ」


「おいおい。多分ってどう言う事だよ?」


「仕方ないでしょ?アタシだってあのコの事を何もかも知ってるんじゃないんだから。

 状況から考えると、そう言う事(・・・・・)じゃないかな?ってことよ」


「ふぅん。そこらへんは、落ち着いたらノエルに聞いてみるか」


 それよりも、重要なのは魂に影響を及ぼす魔法への対処だな。


「リサ、お前にもらった記憶の中には魂に関連する魔法を研究したヤツはいなかったみたいなんだが、お前はそう言った魔法に関してナニか知らねぇか?」


 死後の復活や死んだ人間を生き返らせる為に魂自体を研究したヤツラはいたが、魂に影響を及ぼすような魔法を研究していたヤツラは前任者の中にはいなかったんだよなぁ。

 少なくとも、リサから与えられた記憶の中には。


「ん~とぉ……。ちょぉぉぉっとデリケートな問題だからノーコメント!」


 いつもなら悪戯っぽくはぐらかしそうなリサが今回に限って、拒絶反応でも起こしたかのように返答を拒否する。


「おいおい、ずいぶんと珍しい反応をするじゃねぇか」


「えっとねぇ。アタシの知る限り、その研究をしてまともな死に方をした人っていないのよねー。だからレドちゃんもこの話は忘れない?」


 リサの表情はいつになく苦い。

 よほど嫌な思い出でもあるんだろうか?


「忘れてどうするよ。たとえノエルを消した所で(・・・・・)他にもそういう魔法を使える奴がいないともかぎらねぇんだ。対応策くらいは確保しておかなきゃ気持ちが悪いだろうが」


「あ、それならダイジョブ!あの手の魔法は防ぎようがないから」


「それは大丈夫って言わねぇだろ!?」


「しょうがないじゃないホントのことなんだもん。

 魂に影響を与える魔法ってどんなにがんばっても効く人には効くから、効いちゃったら運が悪かったと思うしかないのよねー」


「本っ当に、どうしようもないのか?」


「気合とか根性とか、心を強く持てば、どんな魔法だって跳ね返せるかも?」


 それが苦手だから、こうやって対応策を考えてるんだろうが。


 ――前任者達の記憶で知ったんだが、他人にかけられた魔法ってのは自分の魔力を活性化させれば防御できるらしい。

 そして活性化させるのに一番いいのが“気合”とか“根性”のような精神論だったりする。

 魔法や魔力には精神的なナニカが大きく影響を与えているようなのでソレをバカバカしいと否定はしないが、体育会系のノリを自分で(・・・)やるのは好きじゃないんだよなぁ。

 ……他人にやらせる分には、説明する必要が無くて楽でいいんだけどな。


 あと、怒りや憎しみなどの感情でも活性化するようだが、こちらは冷静な判断ができなくなるので止めておいた方が良さそうだ。


「それで、どうするの?あのコ、レドちゃんの嫌いな厄介事の種になりそうだけど」


「俺の前世の記憶を見たんなら、どうするか分かるだろ」


「ん~とぉ、“一度面倒をみると決めたのなら、どんな相手だろうと途中で投げ出さない”だっけ?」


「ああ。“途中で投げ出せば、必ず後で後悔する事になるからだ”ってな」


 ソレは前世で、両親の遺産目当てに俺を引き取った親戚クソ事故(・・)で死んだ後、荒れてろくに家にも寄り付かず暴力団まがいのチンピラとの付き合いもあった俺に、親戚連中が押し付けあう中で貧乏くじを引いて俺を引き取った、ほとんど血もつながってないようなおっさんが言ってくれた言葉だった。


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