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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第六章 侵食
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6-10


 半月ほど、集落で過ごした。


 その間にやった事と言えば相変わらずの実験と研究だが、以前とは違い城の中に引きこもってではなく、城の外でゴブリンや奴隷達にも協力してもらって実験や研究をした。

 ソレだけの為って訳でも無いが理由の一つとして、ゴブリンや奴隷と触れ合う事で少しでも影響力を保つ為だ。

 マコラの報告ではイルメラは特にナニをするでもなく日々を過ごしているようだが、マコラの見ていない時にあの女がナニか工作していないとも限らないからな。

 折角集落に戻ってきたのに城に引きこもって、ゴブリン達と距離をおくのもバカらしいだろう。


 実験内容はちょっと特殊な調理器具を使ったものと、木製の自転車の実用化実験だ。


 調理器具は、燃料の節約と調理時間の短縮が可能な“圧力鍋”になる。

 圧力鍋は、取り扱いさえ(・・・・・・)間違えなければ(・・・・・・)危険ではないのだが、過熱しすぎると爆発するのが難点だ。

 ゴブリンに料理を教えている奴隷のアシュリーに使い方を教えながら何度も試行錯誤した結果、やはり使い捨ての安全弁をつけるのが一番手っ取り早いと結論が出た。


 木製の自転車の方は鍋とは違い少し調整するだけでオッケーだったんだが、問題はこの不安定な乗り物の乗り方を、いかにして教えるかだった。

 集落の住人にも乗らせてみたんだが、ゴブリンはもちろん奴隷達もイルメラでさえすぐには乗りこなせなかった。

 そこで前世のテレビかナニカで見た、ペダルを外して先ずバランスをとる事を覚えさせる方法を試させたところ、イルメラが何とか乗りこなす事に成功する。

 その後、暇な時に練習して奴隷達が乗れるようになり、ゴブリン達も何人かが乗れるようになったので、これなら売れる(・・・)と判断ができた。



 ・



 そして、二十日ぶりにトーラスに戻ってきた。

 自転車をものすごい速度(・・・・・・・)で走らせて草原を突っ切り、城門の手前で地面を削りつつスライディングしながら止まってやると、城門の前に立っていた兵士が目の色を変えて槍を俺に向けて構える。

 しかし土煙が晴れて俺の姿を認めると、兵士は忌々しげに悪態をつきながらも俺と自転車を興味深げに見た。

 こんな無茶な真似をすれば普通なら攻撃されたっておかしくはないが、ソコは普段から街に来るたびに城門で土産を渡したり、兵士達がたむろする酒場で酒をおごったりして仲良くなったお陰だろう。


「よう!お仕事ご苦労さん」


「……そう思うんなら、面倒事を起こすな!」


 挨拶をしてやったら、凄い顔で睨まれてしまった。まぁ、驚かした上に仕事を増やしたのだから当然か。

 俺が奇妙な乗り物(自転車)に乗ってきた事は、上司に報告しなくちゃならないだろうからなぁ。


「おい、ゴブリン。こいつは何だ?」 


 兵士の一人が自転車を見ながら聞く。

 横に車輪の並んだ二輪の荷車や一輪の手押し車はこの世界でも使われているようだが、縦に車輪の並んだ車両は存在した形跡が無いので、自転車が兵士の目に奇妙に映ってもおかしくはないだろう。


「コイツか?コイツは自転車だ!」


「ジテンシャ?」


「俺が作った乗り物だよ。乗っているヤツが自分で車輪を回しながら走る車だから自転車と名付けた」


 少しばかり気恥ずかしいが、ここで精一杯自慢して兵士の興味を引いておけば、後は勝手に噂が一人歩きしてくれる筈だ。


「今見たとおりに俺なら馬よりも早く走らせる事ができるし、体力が尽きなきゃソノ速度のまま一日中走らせるコトだってできる。車輪なんでガタガタ道には弱いが、舗装された石畳なら、今よりも早く走らせる事だってできるぜ?」


 自転車を見る兵士の目は、俺の話を聞く事でより好奇の色を強める。良い感じに、興味を持ってくれているようだ。


「――なんなら乗ってみるか?」


「お、おお……。貸してみろ」


 提案してやると、兵士はオモチャを渡された悪ガキのように自転車をひったくる。


「と、ととと……おわ!」


 見よう見まねで自転車に跨った兵士がこけた。


 そりゃ初めてならそうなるわな。


「なんだこれは!」


 俺の説明も聞かずに乗ってこけたクセに兵士が悪態をつく。


 俺が走らせていたのを見ていたので、自分も同じ事ができるとでも思っていたのだろうか?

 自分(人間)よりも劣っている(と兵士が思っている)相手(ゴブリン)が軽々と乗りこなしているのだから、自分でも簡単に乗れるだろうと思うのは分からなくはないけどな。


「最初はそんなもんだ。どんな道具だって練習もせずに上手く使えるようにはならねぇだろ?」


 そう言いつつ、魔法の鞄からペダルを取り外してある人間用の(・・・・)サイズの(・・・・)木製自転車を取り出す。


「ソイツに跨って、少しバランスをとる練習をしてみな」


「む。……こうか?

 …………これは、中々むつかしいな…………」


 通行人や他の兵士達が見守る中、木製自転車に跨った兵士が地面を蹴りながらよたよたとあっちへ行ったりこっちへ来たり。

 その滑稽な姿に他の兵士達から笑いが起こったり、通行人達もあからさまに笑いはしないが吹き出すのを我慢して口を押さえたりしていた。

 

「そろそろ良さそうだな。おい兵隊さん!ちょっとこっちにきな!」


 そんな周囲の状況に目もくれず練習を続け、兵士がそれなりの距離を足をつかずに自転車を走らせられるようになったのを見計らって、木製自転車にペダルをつけてやる。


「さぁ、今度はどうだ?」


 今度は慎重にペダルに足を乗せる兵士。そのままゆっくりとバランスをとりながらペダルを踏み、ふらふらと自転車を走らせる。


「ほっ!ははっ!」


 慣れてきたのか、ろくに曲がれもしないのに兵士が段々と速度を上げていく。


「おーい!あんまりスピード出すと危ねぇぞ!」


「お?おおおおおお!!!」


 案の定、速度を落とそうとした兵士はペダルに蹴られてバランスを崩し、そのまま派手に転倒した。


「……生きてるか?」


「う、うむ。しかし、なんだこれは……。まともに止まらんでは無いか」


「スピードの出しすぎだ。荷車だって荷物を乗せてスピードを出したら急には止まんねぇだろ?」


「……少し値が張るがブレーキ付きの荷車だってある。

 このジテンシャとやらにもブレーキをつけておけ」


「それなんだがなぁ。

 構造上、この自転車には前輪にしか(・・・・・)ブレーキがつけられねぇんだよ」


 木製自転車のチェーンの代わりは目の荒いロープで代用できたが、ブレーキ用のワイヤーの代用品が思いつかなかったのでブレーキを作ろうとすると少し大掛かりな物になった。

 なので、ハンドルと同期して動く前輪には取り付ける事ができるが後輪にはつけられない。

 なんとかハンドルではなく、フレームのどこかに後輪用のブレーキレバーを設置すれば着けられなくもないが、緊急時に片手を離してそんなところにまで手を伸ばす余裕があるとも思えないしなぁ。

 まぁ慣れれば前輪のブレーキだけを使って止まれるようにもなるかもしれないが、ソレまでに怪我人が続出したら売れるものも売れなくなるだろう。


「だからブレーキを使った瞬間に前輪だけが止まって……。ああ、どう説明したもんかな」


 むぅ。走行中に前輪にだけブレーキをかけるとどう言う状況になるかってのは口で説明しにくいな。


「……なぁアンタ、顔から地面に突っ込んでみる気はあるか?」


 実践してみれば早いんだが……。


「俺を馬鹿にしているのか?」


 だよなぁ。俺も嫌だ。


「いや?スピードの出ている自転車の前輪だけを急に止めると、そう(・・)なるんだよ。

 ――ああ、めんどくせぇ。実演してやるから見てろ!」


 どうにも説明が難しいので、自分の自転車に乗って加速し『万能マルチツール』で前輪の動きを止める。

 当然自転車の車体は跳ね上がり、俺は顔から地面に突っ込みそうになるんだが、さすがにソコまで実演するのもバカらしいので、逆立ち状態で前輪の停止を解除。


 そのまま逆ウィリーで兵士の前まで走らせて、車体を捻りつつジャックナイフターンで着地する。


「今のは途中で止めたが、あのままだったらさっき俺が言ったとおりになるのは分かるよな?」


「……まぁな」


 俺の曲芸に目を白黒させていた兵士が、顔をしかめながらも理解を示した。

 この街の兵士の多くは上の教育が良いのか、異種族の俺の言葉でも聞き入れる耳をもっているので助かる。


「分かってもらえて何よりだ。まぁ、土産に一台置いていくから遊んでくれ」


 その後、壊れた自転車を『自在工房ワークショップ』で直し、サドルの位置やチェーン代わりのロープの調整方法等の整備の方法を一通り教えてから俺は城門を後にした。


 

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