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さて、集落に戻って来たんだが……。
自分の目で見た集落が、マコラからの報告以上の発展をしていて、少し頭痛がしてきた。
何故、広大な荒地だった土地が見渡す限りの畑になっているんだろう。
何故、土がむき出しだったはずの道がレンガで舗装されているんだろう。
何故、報告よりも多くの家が建っているのだろう。
いや発展している事自体は良いんだ。
しかし、トーラスの街を出た時に確認した状況から予想される発展速度の、数倍どころではない速度で発展しているのはどう言う訳だ?
俺が『研究室』の中に篭もっていた二日間で一体ナニが起こった?
…………あ。
まさか、ゴブリン達が自力で固有魔法を発現させやがったのか?
――『直通回線』経由でマコラに確認を取ったらソレが正解だった。
ゴブリン達が魔法を発現させたのは俺がトーラスの街を出た日らしいんだが、マコラがゴブリン達に俺が数日後に帰ってくると伝えると、ソレを聞いたゴブリン達の何人かが結果を出そうと奮闘した挙句に魔法まで発現させたようだ。
もしかしたらイルメラが何かをしたんじゃないのかとも思ったんだが、勘違いだったようだな。
まぁ奴隷達の中でも革細工師のオーガスタが自力で固有魔法に目覚めているので、オーガスタよりも魔力量の多いゴブリン達が魔法を使えるようになってもおかしくは無いか。
しかしたった二日でここまでの発展をするとは……。
いったいゴブリン達は、どんな固有魔法を発現させたんだ?
後で調べるか。
ちなみに、オーガスタが発現させた魔法は『匠神の恩寵』と言う固有魔法になる。
コイツは、例えば『戦神の恩寵』なら戦闘時にのみ格段に身体能力が強化されたり、『知神の恩寵』なら記憶力や計算力なんかがずば抜けて高くなる、『神の恩寵』と呼ばれる類の固有魔法だ。
自力で固有魔法に目覚めた者の大半が『能力強化系』の固有魔法か、この『神の恩寵』の系統の固有魔法を発現させると言うくらい有り触れた固有魔法なので希少って訳ではないが、一流の技術者なら誰でも備えているくらいには有用な固有魔法と言える。
もっとも、この魔法を得て調子に乗ったバカが挫折するって話も多いらしいんだがな。
なにしろ能力が高くなるだけで、技術が身につく訳じゃあないからなぁ。
いくら剣が早く振れても当てる技術がなければ避けられるし、機械のように精密な細工ができても有り触れたデザインの細工物しか作れなくては大成はできないだろう。
ついでに言っておくと、この『神の恩寵』の魔法は実際には居るかどうかも分からない神々がそんな力を与えている訳じゃあない。
ただ、特定の作業や行動を行った時にのみ、魔力による身体能力の強化が大幅に上昇しているだけだ。
あと、固有魔法を得れば当然身体能力を強化している魔力は減少するのだが、身体能力を強化する固有魔法を得た場合は身体を強化する魔力の運用自体を効率化する効果もあるので、発現させる事ができればそれ以前よりも強化効率が上昇し、発現以前と変わりない身体能力を維持できるようだ。
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調べた結果、固有魔法を発現させたゴブリンは二十人以上いた。
大半は腕力やスタミナ、器用さなんかを大幅に魔力で強化する『能力強化系』の固有魔法を発現させたのだが、中には不安定に積まれた大量の資材を軽々と運ぶ事ができるようになる運搬用の固有魔法や、植物の声が聞ける(と言っても会話できるのではなく、水が欲しい栄養が足りないなどと言った欲求が分かる程度)固有魔法と言った前例のある魔法の他に、手で触れるだけで土をレンガに変えてしまえる等と言った特化しすぎて俺の知識にも無いような固有魔法を発現させたゴブリンもいた。
個々に話を聞いてみれば、ほとんどのゴブリンには固有魔法を発現させられそうな兆候が以前からあったようだ。
時折普段以上に力が出せたり、畑作業をしている時に何となく植物が何を欲しているかが分かったりと言った感じらしい。
ただ兆候の無かったゴブリンもいて、興味深かったのは、お調子者のゴブリンが持ちきれないほどの建築資材を運ぼうとして危うくとり落としそうなった時に固有魔法を発現させた話や、作業速度が上がりすぎて俺が買い込んできたレンガでは足りなくなり悩んだ末に長に頼らなくても自分で作ればいいんだと考え付いて実際に固有魔法を発現させた話だ。
どちらも人間では稀にある例だと前任者の記憶にはある。
しかし、どちらも稀な例でしかないんだ。普通ならこんな短い期間に連続して起こり得る話ではないだろう。
人間であれば、固有魔法を二つ三つ持っていてもおかしくない魔力を集落のゴブリン達は備えてはいた。
だからと言ってこんなに短期間にゴブリン達が魔法を発現させたのにはナニか理由が――。と思ったんだが、待てよ?
そもそもがこの魔法ってヤツは、人間達にもまともに理解されて居ない領域だ。
研究者の言ってる事が各々違うのは、同じ魔法でも何らかの手段で他人の魔法式を認識しようとすると暗号並に難解なフィルターがかかるからだが、それは他人の心の非言語領域を無理やり翻訳しているのだから仕方が無いとしても、効率を考えなければ無限に近いバリエーションの方程式のある魔法式を自分のやり方が正しいと研究者達が喧々囂々とやっているのが現状では完全解明されるのは遥かな未来の話だろう。
だから魔法の研究に関して人間よりゴブリンの方が劣っているとしても、魔法に対する認識でゴブリンが人間に劣っているとは限らないんだよな。
そう考えれば単純な魔法や効率を考えない魔法であれば、人間よりもゴブリンの方が発現させる確率が高くてもおかしくはない。
何しろ魔法は“不思議な力”なんだ。ヘタにアレコレ理論をこねくり回すより、単純に使えるようになりたいと願った方が上手く行く可能性も無くは無いだろう。
まぁそれはそれとして、集落のゴブリン達には驚かされてばかりだ。
魔法に関してもそうだが、以前は野人さながらの格好だったのに今では俺が以前に買って来た古着の山の中から自分のサイズに合った服を着て、しかも汚れたら洗濯までしているらしい。
以前は手づかみに物を食べていたのが今では食器を使い、以前は立小便に野グソだったのが今では便所で用を足している。
奴隷達からの文化吸収速度が恐ろしく早い。
俺はゴブリンの順応性を見誤っていたのだろうか?
それとも『知神の恩寵』の例も有るように、魔力によって身体能力が上昇するのと同じ様に脳機能が向上した結果なのだろうか?
脳も内蔵の一つでしかないので、魔力によって機能の向上が見られてもおかしくはない。
脳が破損する事で人格に変容を起こしたって話も前世では聞いた事があるし、怠惰で粗暴だったゴブリン達が脳機能が向上した事で、俺の予想以上の速度で人格を変容させた可能性も否定できない。
何にしても、数年は掛かると思っていた成果が一年も掛からずに得られそうなのは良い事のはずだ。
色々と予定を早めなくてはいけないのが、頭の痛いところではあるが。
――さて、現実逃避はここまでにして集落に入るか。
時間は有限だしな。




