6-1
さて、楽しんでばかりもいられないので、やっておかなきゃならん事もしようか。
今回俺がトーラスの街を訪れた目的は、マルグリットに会う為だけじゃあないんだからな。
裏社会のヤツラにクスリを卸さなきゃならんし、スラムの連中に施した治療の経過も確認したい。
それにトーラスの街に来たんだから、ご隠居さんに土産の一つも渡した方が良いだろう。
順番としては、ご隠居さん、裏社会、スラムってところか。
ヘタに力のある所を後回しにして、機嫌を悪くされてもイヤだしな。
ただ、ご隠居さんの所はともかく、裏社会のヤツラにクスリを渡すにはフェリシアが起きるのを待つ必要があるんだよなぁ。
一々フェリシアを通さないと連絡もできないのは面倒だが、俺の様に目立つヤツに動き回られのは迷惑だと言外に匂わせられたんだから仕方がない。
俺も裏社会のヤツラと本気で敵対したい訳じゃあないから、必要も無いのに向こうの要望を無視して険悪な雰囲気になってもバカらしい。
で、問題となるのは、フェリシアが何時になったら起きて来るかなんだが……。
何しろ、色々な体液で汚れた体とベットを魔法で綺麗にしてやっている間も、マルグリットと一緒に死んでるかのように寝ていたからなぁ。
もしかすると、今日一日使い物にならない可能性もあるか?
男と違い弾切れが無いからって限界までマルグリットの相手をさせた上に、それでも満足できないマルグリットの頼みでマルグリットの股間にアレを生やしてやったら、今度はフェリシアが気を失うまで腰を振ってやがったからなぁ。
さすがにまずいと思ってその後は俺が相手をしたが、フェリシアはそのまま今朝になっても目を覚まさないままだ。
慣れてきたお陰で多少の無茶をマルグリットが受け入れられるようになったのは嬉しい事だが、一度スイッチが入ると底無しなのは少し手に余る。
寝取られる趣味も無いので、欲求不満にさせない方向で何か方法を考えた方が良いのかも知れないな。
なぁにキモチよくしてやる方法なんていくらでもあるんだ。
今みたいに回数や勢い任せのヤリ方ではなく、焦らされながら我慢する快感と溜めに溜めた後に一気に開放する快感を教え込んでやれば、コッチが先にダウンする事もなくなるだろう。
それはそれとして、あまり長期間集落を空けてトラブルが起きても面倒だし、やらなきゃならん事をさっさと終わらせるか。
今の集落には不穏分子が居るので、あまり長期間集落を空けたくはない。
一応マコラとクビラを使って監視しているとは言え、俺の居ない期間が長くなれば長くなるほど、ゴブリンや奴隷達にイルメラの影響力が広がっていくかもしれないしな。
・
「……おはよ。ニグレド」
予想よりは随分と早いが、おはようと言うにはかなり遅い時間になって、フェリシアは起きてきた。
昼まで待っても起きて来ないようだったら裏社会へのおつかいは後回しにしようかと思っていたが、これなら問題は無さそうだな。
「おう、おはよう。
フェリシア、マリーはまだ寝てるのか?」
「……うん、幸せそうな顔でぐっすりだったよ」
そりゃアレだけヤればなぁ。
しかし、そう言うフェリシアもたっぷりとヤったはずなのに、言葉に力が無い。
「なんだ?調子が悪そうだな」
「あんたとマリーで昨日、散々あたしをオモチャにしといてどの口でそんな事を言えるのよぉ」
そんな恨みがましい顔で言われてもなぁ。オモチャにと言うが、俺はオマエに直接手を出してはないだろ。
まぁ、マルグリットをけしかけはしたがな。
「あ~……、正直すまんかったとは思う。いくら一月ぶりだからって、まさかマリーがあんな風になるとはなぁ……」
「まだどっちも痛いんだからね!」
「そいつは、なんだ……。両方とも初めてをマリーに捧げられたんだから良いじゃねぇか」
いきなり突っ込もうとしたマルグリットを止めて、じっくりと解させてやったんだから感謝されても良いくらいだ。
初めてだってのに何時間も相手をさせたのは、悪いと思わなくもないけどよ。
「それは……。そうだけどぉ……」
愚痴を聞かされ続けていると頼み事もできないので、話の流れを変えるか。
「しかし、アレだな」
「なによ?」
「マリーがあんな風になるとは思わなかった」
最初に迫られた時は酒の勢いで、その後の夜は不安から俺を強く求めていると思ったんだが、昨日の様子を見るとどうも違う気がする。
「んー、子供の頃からマリーを見てきたあたしとしては、そんなに不思議でも無いんだよね」
ふむ?
まさか、ガキの頃から多淫症のケがあったとかって話ではないよな?
「そう、なのか?」
「うん……。マリーってさ。ああ見えて、結構激しい所もあんのよ」
「それは……、たしかにそうだな。
普段は物静かなのに魔法の話しなら熱くなるし、直接見た訳じゃあねぇが、でっかい魔獣相手に派手な攻撃魔法をぶっ放したりしたらしいしよ」
「そそ、他にも困ってる人を助けようって体の大きな相手に突っかかって行ったりとかね。
でさ、マリーって一度好きになると、そのまんま突っ走っちゃうんだよねぇ」
「それは、夜のアレか?」
激しさのままにハマってしまったと。
「ううん。あんたの事よ」
「へ?……俺とマリーの性欲に何の関係があるんだ?」
「あんた、マリーとヤっても全然満足できなかったんでしょ?」
「あぁ……。まぁ、正直な」
純白の布を穢す様に何の経験も無い女を俺の色に染めていくのも楽しいんだが、鬱憤が溜まっていた上に酒も入っていたので、壊れ物を扱うように女を抱くのは快楽よりもストレスの方が多かった気がする。
「マリーは気づかない振りをしてたらしいんだけど、あんたが自分に気を使って我慢してるのを気にしててね。だから色々相談もされたのよ」
むぅ、不満を表面に出すような間抜けなマネをした覚えはないんだがなぁ……。
「で、あんたが満足するようにって、どんどん深みに嵌ってる真っ最中」
「……の割りにはオマエとヤってる最中も楽しそうだが?」
「んー、マリーも慣れてきてからは楽しくなったみたいなんだよねー。
最初は一人で寝るのが怖いって一緒に寝たり、不安だからって抱きしめてただけだったはずなのにさ。
でも、いまのマリーの性癖があんたの趣味とずれてるとしても、やっぱり一番最初の出発点は間違いなくあんたのなのよ」
フェリシアの話に説得力は、残念ながら有る。
たしかにそう言う風にマルグリットの行動を見れば、一応納得はできるんだよなぁ。
そもそも、初めての時にはそんな兆候は見られなかったし、その後の必死さも嫌な事を忘れる為ではなく俺に合わせようとしていたと考えられなくも無い。
しかし、これはあくまで俺に全ての責任を押し付けたいフェリシアの願望でしかない。って反論もできる。
フェリシアはマルグリットに対して妙な幻想を抱いている節があるから、「あたしのマリーがあんな風になったのはニグレドのせいだ」と考えても不思議ではないんだよ。
それに、激しい性格のヤツってのは快楽に対しても抑えが効き難いのが多いからな。
だからカッとなれば衝動のままに行動するし、我慢する時も無理やり我慢するから箍が外れた時には酷い事になる事が多い。
だが、なぁ。
ソンナモンは全部いい訳みたいなモノだろう。
「否定する材料がねぇな。マリーは俺なんかに惚れるようなバカだが、冷静に物事を測れるだけの頭は持っているし勘も鈍い訳じゃあねぇ。
それに慣れてない体で激しく求めてきた理由も説明できるしな」
ああ、クソ!そいつが分かってりゃ、もう少しやりようもあったて言うのに……。
つい調子に乗ってマルグリットを開発してたら、少しばかり厄介な方向に進化しちまったもんだよなぁ。
「マリーをバカって言うな!」
気が立ってつい言葉が荒くなっちまったか。少し、落ち着こう。
「いや、でもよ?異種族に惚れるってのはともかく、その相手がゴブリンってのはなぁ?」
「そりゃ、ゴブリンって種族に良い話は聞かないけど……。
でも、あんたはあんたでしょ?マリーはね、人の本質ってヤツを見る目があるの!だからマリーが選んだあんたは、自分をけなす必要なんか無いんだよ!」
あんたはあんた、か。
良い言葉だが、フェリシアのマルグリットに対する信頼は妄信に近いな。
以前にナニか、そう確信するような事があったのかもしれないが、俺に惚れている時点でマルグリットに男を見る目があるとは思えないんだがなぁ。
「本質、ねぇ。俺は自分を守る為なら平気で他人を見捨てるし、利用する事も殺す事もできるヒトデナシだぜ?」
「そんな話なら、酒場にでも行けばゴロゴロ転がっているわよ。
本当の人でなしってのはねぇ。平気で人を利用したり、他人の命なんてへとも思わずに楽しみの為にオモチャにしたり、散らかったゴミを掃除するみたいに人を殺せるヤツの事を言うんだよ」
自嘲気味に言ってやったら、フェリシアのヤロウ憐れみを含んだ目で俺を見ながら鼻で笑いやがった。
予想通りの反応なのに、やはり腹が立つ。
だが、これで同情を買えたから頼み事もしやすいだろう。
しかし、耳が痛いねぇ。
フェリシアの言うヒトデナシってのは、まんま俺じゃねぇか。
違いがあるとすりゃ、俺はソイツラと違って、時と場所と相手と手段を選ぶ判断基準が一般常識からそれほど逸脱していないってところくらいだろう。
利用するにしても相手から恨まれないように、オモチャにするにしてもそれなりの代価を用意して、殺すのはソレ以外に手がないくらいに邪魔な相手か自分に害意を持つ相手のみ。
そうやって規定しておかないと、手当たり次第にぶち壊してしまいたくなるからなぁ。
生きとし生ける全てのモノを殺したい。
価値のあるモノほど壊したい。
美しいモノほど穢したい。
強いヤツを屈服させたり、尊大な相手を地の底まで引きずり落とす快感は、ナニモノにも変えがたい。
我ながら度し難い欲望だ。
「ああ、分かった分かった。これからは自分をおとしめるような事は言わないから、それで良いだろ?」
「なら、いいのよ」
いかにも辟易したかのように応じてやると、荒かった鼻息を静めるように大きく息を吐きながらフェリシアは満足そうに頷いた。




