表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第五章 構築
53/100

5-8


 寸前に感じたのは、首筋に僅かな衝撃。

 世界が縦に(・・・・・)回転していく(・・・・・・)

 森の風景は地面へと移り変わり、次に俺の靴が見え、それから足と胴体、更に空へと変化した。

 

 考えている暇は無い気もするのだが、状況を理解しないと対処もできない。

 コレは……、アレだ。

 なんか俺、首を切り落とされてねぇ?

 俺の胴体に頭が乗ってなかったし、なぁ。


 って、落ち着いてる場合じゃない!脳が酸欠になる前になんとかしないとさすがに死ぬ!!!

 急いで『万能マルチツール』を使って体を動かして落下する頭を両手でキャッチし、頭を元の位置に戻して『肉体再生リジェネレーション』で首を繋げる。


 しかし一体、今、ナニが起こった?


「リサ!今、俺にナニが起こったかわかるか?!」


「え?えぇとぉ……。気がついたら、レドちゃんが自分の頭でお手玉してた?」


 おいおい、その表現はどうよ。


「いつ、俺の首が切り落とされたのかは、分からなかったんだな?」


「う、うん。何も感じられなかった!」


 感じられなかったか。

 リサの感知能力は空間系の固有魔法なんだが、それでも感知できなかったとすると、通常の隠蔽能力ではないのだろう。

 俺も感知の指輪は起動させておいたのに、何の気配にも気づけなかったしな。

 高度な隠蔽能力を持ち、首を守る鎧の襟ごと一瞬で俺の首を刎ねる事ができるだけの攻撃力のある魔獣か……。

 ルーテシアの記憶には無いな、新種か?

 いや、リサや俺の感知能力にも引っかからなかったんだし、今まで知られてなった可能性もある。


 ――っと、そんな考察は後回しにして、正体不明の敵をどうにかしないといけないのだが……。


 マズイな、こんな危険な状況なのに思考が上手く集中できない。蒼箆鹿ペイルエルク戦で、疲労の限界点を超えたかな?

 とりあえずは逃げるにしろ戦うにしろ相手の位置が分からなければやりようが無いので、『風使い(コントロールウインド)』で魔力領域を広げ『風の結界(フィールド)』をはる。

 これで、結界内で何か動きがあればすぐに分かる筈……。だったんだが、『風の結界(フィールド)』に隙間が生じた。

 鋭い刃物で切った時のような痛みを伴わない引き攣れの様な違和感。ソレを感じたのが俺の魔力境域を切り裂かれたからだと理解できたのは、俺の体が袈裟懸けに両断された後の事だ。


「ゲフッ」


 傷は『肉体再生リジェネレーション』で回復できるし痛みは脳味噌が勝手にキャンセルしてくれるが、肺を切られると呼吸に支障が出るな。

 切られても死なないとは言え、切られる場所には気をつけた方が良さそうだ。


 いや、そんな事より今のはナンだ?

 生き物の魔力領域は重ならないから他のヤツの領域に負けて押し戻されるなんて事は普通にある。でなければ、『自在工房ワークショップ』の発動領域に入れる事さえできればどんな相手だって殺せるしなぁ。

 魔法によって生じた超常現象を切り裂くなんて事も、剣の達人ならできなくは無いと前任者達の記憶にもあった。

 だが今の切られ方は、そのどちらでも無い気がする。


 アレは……。

 そう、魔力そのものを(・・・・・・)切り取り(・・・・)結果(・・)魔力領域に(・・・・・)空白が(・・・)生じたような(・・・・・・)


 って事は!?


「リサ!ヤツの攻撃はオマエの『位相ずらし』でも防げないかもしれねぇ!だからできるだけ遠くに逃げろ!!!」


「で、でもぉ」


 リサが逃げるのを渋るが、忠告はしたので後はどうなろうと知らん。たとえ死んだとしてもそれはリサの責任だろう。

 まぁ今のところ敵の攻撃目標は俺だけなので、俺が生きている間はたぶん、リサに危険は無いとは思うが。


 そんな事よりも問題は、この状況をどうするかだ。

 敵は正体不明。

 相手を捕捉する事もできずに攻撃もされ放題。

 調べた限りでは魔獣の固有魔法は一種類につき一つ、複数の固有魔法を有する個体はいなかったから切断能力がヤツの固有魔法だとするのなら、捕捉できないのはヤツの身体能力の高さが原因だろう。

 複数の固有魔法を持てばそれだけ身体能力を強化する魔力が低下するので、当然と言えば当然なんだが厄介な事だ。


 しかもヤツの固有魔法は、俺の魔法を無力化できるときた。

 魔法の無効化ってのは俺も考えたし、前任者達の中にも研究していたヤツラもいた。それにマルグリットの家の本棚にもそれ用の研究書があった。つまり誰でも考える事だ。

 その結果、魔法を構成する魔力そのものを乱して魔法の発動を阻止するような固有魔法や魔法の道具なんかも作られていた。

 だがこの切断能力はその上を行く。


 すでに(・・・)発動している(・・・・・・)魔法を(・・・)破壊せずに(・・・・・)魔力領域ごと(・・・・・・)切り取る(・・・・)なんて事は、(・・・・・)できるとも(・・・・・)思わなかった(・・・・・・)


 これならすでに発動している領域系や探知系の固有魔法も無力化できるし、非実体系の魔法にも対処できる。

 つまり、俺の魔法は全てコイツには効かない。最悪だ。俺にとって一番相性の悪い敵じゃねぇか。

 どんな相手とでもそれなりに戦えて、どんな状況でも必ず生き残る事ができる事を目指していた所為で、俺は自分自身の戦闘能力をそれほど重視してこなかった。

 攻撃力は武器や道具に依存してるし、正面から戦えるような戦闘技術も鍛えていない。だから魔法が使えない状況だと、極端にできる事が少なくなる。

 対してコイツは対極の、苦手な相手以外には圧倒的に強く、特定の状況下では最強の魔獣だろう。

 こちらからは攻撃も防御も、探査でさえ魔法は全て無力化されるのに、向こうの攻撃は防御不能。

 さらに、視認が難しいほどの速度で音も無く忍び寄る移動能力に気配の消し方も上手いので、死角から攻撃されれば何が起こったかも分からないうちに狙われた相手は死ぬしかない。


 だが、それだけだと言えば、それだけなんだよなぁ。

 この程度なら、前もって準備ができればいくらでも倒す手はある。ただ、今は何の準備もできていない上に先手を取れてて、今の俺は絶体絶命なんだがな。

 切られても回復できるが、それもヤツが俺の回復魔法を無力化する事に気がつくまでの話だ。

 俺が『肉体再生リジェネレーション』で傷を治している事にヤツが気づけば、発動している『肉体再生リジェネレーション』の魔法式を攻撃する事で俺の回復を邪魔してくるかもしれない。

 しかし、何が一番マズイのかと言えば、『亜空間倉庫ストレージ』が使えないって事だろう。

 いや、使う事は可能だが、使用中に『亜空間倉庫ストレージ』の出入り口が破壊されればどのような結果になるか予想ができない。出入り口が破壊されるだけならともかく、『亜空間倉庫ストレージ』で構築した亜空間が破壊された場合、本体である魔法の鞄にどんな悪影響が出るか分かったもんじゃないんだよな。

 お陰で『ゲート』で逃げる事はできないし、鎧を破壊されたので暴狼レイジウルフの固有魔法を使って逃げる事もできない。

 魔法式自体は無事でも、鎧は装着者ごと加速させるように調整を施しているので、大きく破損した状態で使用した場合どんな不具合が起こるか分かったもんじゃあないからだ。


 逃げられないならるしかないが、『亜空間倉庫ストレージ』が使えないので武器や道具は取り出せない。『風使い(コントロールウインド)』も空気を動かすだけならともかく、周囲の空気の組成をいじって窒息を狙うような繊細な操作をするには集中しなくては無理だ。それに広範囲に作用させるには時間もかかるしな。


 せめて、『亜空間倉庫ストレージ』の中からアレ(・・)を取り出せる隙があればなぁ。

 だが嘆いていても仕方が無い。手持ちの札でなんとかするか。

 幸いな事に魔力領域を切られた後、俺が攻撃されるまで僅かなタイムラグがあった。

 コレなら領域が切り裂かれた角度から相手の軌道を計算して、攻撃を避ける事は不可能じゃあないだろう。

 そして、周囲には何も落ちていないし、さっきの攻撃の延長上にある木にもダメージが無い事から敵の攻撃は飛び道具でもなさそうだ。

 となると、ヤツが近づいてきて俺を攻撃したと思っていい。

 切り裂かれた『風の結界(フィールド)』の隙間はそれほど広くなかった。精々小動物が通れる程度だ。

 だとすると……。


 ……そう言ゃあ、ダラダラと考えているのに攻撃がこねぇな。二度攻撃しても殺せなかったので諦めてくれたのか?

 なんて思っていたら、違和感が来た。甘い考えにすがろうなんて、判断力が低下している証拠だ。早く決着をつけないとマズイかもしれん。

 クソッ!本来ならこう言う時に例のクスリを使う筈だったんだが、何でこんな事になってるんだか!


 とっさに避けながら目を向けるば、真っ白なナニカ(・・・)が寸前まで俺の居た場所を通り抜け、草むらに消えた。

 やはり、あんまり大きくない。

 なら、いけるか?


 大きく深呼吸を繰り返し、息を吐ききった後、『風使い(コントロールウインド)』で周囲の空気を排除し、半径5メートルほどの、真空状態の『風の結界(フィールド)』を作り上げる。

 後は運を天に任せて待つだけだ。余分な事を考えれば、その分脳が酸素を使うしな。


 時間が経つ。

 何も考えないつもりでも、脳味噌が勝手に動いて不安感を増大させるていく。

 本当に真空空間に入れただけで、ヤツを殺せるのか?

 体が小さければ小さいほど環境の変化は深刻な影響を与えるので、殺せないまでも数秒ぐらいは動きを止める事ができる筈だ。

 例えば、気圧差で鼓膜が破れる事だってありえる。

 やって無駄って事は無いだろう。


 更に時間が過ぎる。

 酸欠で頭がくらくらしてきた。

 限界が近づき『風使い(コントロールウインド)』を解除しようか迷っていた所に、違和感を感じた。

 同時に『風の結界(フィールド)』を解除する。


 背中に鈍い衝撃を感じ、振り返って地面を見ると、白いウサギがひっくり返っていた。上手い具合に真空暴露と、その後に流れ込んだ空気による衝撃で目を回したようだ。

 ルーテシアの記憶には、こんな能力を持ったウサギの魔獣の記憶は無い。

 やはり新種か突然変異なのだろうか?

 名前がまだ無いのなら、首を刎ねられた事だし、個人的に某ダンジョンゲーム出てくるモンスターの名を贈りたくなるな。

 高レベルの侍が、バックアタックで首を刎ねられたのは良いトラウマだ。


 いや、感慨にふけっている場合じゃないな。さっさと止めを刺そう。

 しかし、頭を踏み潰す為に足を上げようとしたら、膝から下が(・・・・・)着いて来なかった(・・・・・・・・)


 とっさに倒れながらも距離をとる。

 地面に倒れたまま目を向ければ、いまだに(・・・・)地面に(・・・)立っている(・・・・・)両足の間(・・・・)からウサギの魔獣がヨロヨロと逃げていくのが見えた。


 チッ、回復も早いじゃねぇか。

 逃がすと後が厄介だ、ここで止めを刺さないとなぁ!

 一瞬だけ『亜空間倉庫ストレージ』を開いて、中から小さな包みを取り出す。

 その中身をぶちまけながら、『風使い(コントロールウインド)』で広範囲に散布。

 直接ウサギを狙わないのは、魔法を無力化される可能性があるからだ。


 逃げようとしたウサギは、すぐに倒れて動かなくなった。

 さすが手に入る毒の中で、競合しない種類を全部混ぜた猛毒だけの事はある。

 蒼箆鹿ペイルエルクには効かなかったが、小型の魔獣なら広域散布でも十分殺せるようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ