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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第五章 構築
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5-5


「さて、クビラよ。お前にも働いてもらう時が来たぞ」


 と、芝居がかって宣言してみたものの、とうのクビラ君は机の上で俺を見ながら首をコテンと横に倒し、俺の言葉を理解したようには見えなかった。

 いやまぁ魔獣だと言っても所詮ネズミでしかないので、人の言葉を理解できる筈も無いがな。

 ……なんか居た堪れなくなって来たし、さっさと始めよう。


「チュ?」


 クビラに『精神感染メンタルウィルス』で指示を送りつつ、『自在工房ワークショップ』でマコラから『直通回線ホットライン』の魔法式をクビラの魔力の器に複写する。

 魔法を使っても抵抗されない程度には信頼関係が築けているので、何の抵抗もなくクビラの器に魔法式が構築されていった。


 さて、問題はココからだ……。


「ほーれほれ。この干し肉が欲しかったら頭の中の魔法式を受け入れて、俺に『直通回線ホットライン』を繋げて頼むんだな」


 クビラの目の前で恐狼ダイアウルフの干し肉を振ってやると、右に左にと揺れる干し肉合わせてクビラの視線も揺れた。

 今クビラの頭の中では、『精神感染メンタルウィルス』で作った精神体が『直通回線ホットライン』の魔法式をクビラに認識させようとしている筈なんだが……。


 こりゃ、無理かなぁ?

 干し肉に釣られて右往左往するクビラを見ていると、どう見ても固有魔法を発現させようとがんばっているようには思えない。


 むぅ。やはり、動物に魔法式を移植しようってのは無理があるか。

 器に魔法式を複写しても、本人クビラ魔法の存在(・・・・・)を認識できなければ意味が無いからなぁ。

 言葉が通じればまだ誘導もしやすいんだけど、『精神感染メンタルウィルス』で作った精神体も動物相手には言葉で(・・・)意思疎通(・・・・)してる訳(・・・・)ではない(・・・・)んだよな。

 もっと飢えさせて、ぎりぎりまで追い込めばなんとか……。

 と思っていた所に、額の裏側辺りにむず痒いような刺激を感じた。


(……ジ……。……チュ…………)


 お?!


(……ニ……ク……。……ニ!……ク!)


 おお!


(ニクー!ニクー!ニク、ヨコセェー!)


 ふはははは!さすがほぼ全ての生き物が持つ欲望だけあって、動物でも食欲をエサにすれば固有魔法の習得も何とかなるか!

 いや、本人の衝動や渇望から固有魔法が使えるようになるのなら、本能だけで生きているけだものの方が発現は容易なのか?

 だが深層の動物達は魔力があっても固有魔法を使えるようにはなっていなかったし……。

 研究すれば新しい発見のありそうな課題ではあるが、今はクビラの調整を優先しよう。


「良くやった。ほれ、ご褒美だ!」


(ニクニクニクニクニクニクニクニクー!) 


 差し出された干し肉に、クビラが飛びついて凄まじい勢いで貪る。

 待つ事暫し。干し肉の塊をクビラが食い終わったのを見計らって、繋がっている感覚に意識を集中した。


(んっ?んん!……こんなもんかな?)


(????コレ、ナニ?)


 よし。この回線で間違い無さそうだ。


(俺が分かるか?)


(オレ?オレ、ナニ?オレ、ニククレルヒト?ヒト?ヒト、ナニ?…………)


 うぅむ、混乱してるなぁ。


 『精神感染メンタルウィルス』で送り込んだ精神体に翻訳させているはずなんだが、そもそも言語と言う概念も乏しい小動物と会話しようってのが間違ってたか。

 とりあえず回線は繋がったので、『直通回線ホットライン』の微調整は『精神感染メンタルウィルス』使って精神体にやらせた方が良さそうだな。



 ・



 ネズミの視点で見る世界ってのは、随分と巨大なもんなんだなぁ。


 いま俺は、クビラの視覚情報を共有して集落の様子を見ていた。

 記憶にしろ言語にしろ視覚や聴覚にしろ、所詮は全て情報でしかないので記憶を読んだり会話が可能なら相手の見ている物や聞いている音も同じ様に見聞きする事はそれほど難しくは無い。

 ようは電話がテレビ電話になっただけだ。


 ただ、クビラの目があまり良くなかったのは誤算ではあるが。

 それに言葉でクビラに指示を出しても理解してくれないので、『精神感染メンタルウィルス』で作った精神体を経由してナビをしている状態だったりする。

 それでも中々面白い体験ではあるので、奴隷達の様子でも見てこようかな。


 城を出るとすぐに作業中のフランクを見つけた。今はゴブリン達と共に竈小屋を建築中のようだ。

 いや、恐狼ダイアウルフ襲来の所為でゴブリンの数は減ったんだが、奴隷達が料理を教えた事で竈の利用頻度は以前よりも格段に増えて、今使っている竈小屋では竈の数が少なく火力も弱いので、建て替えの必要があったんだよな。

 で、その使い勝手の悪い竈小屋では、ゴブリンの女達とアシュリーが食事の支度をしていた。

 女達はアシュリーの指示を聞きながら作業しているが、手際が悪く時には大きな失敗をする事もあった。

 そんな女達にアシュリーは、怒る様なそぶりも見せず何が悪かったかを教えて料理を覚えさせている。


 うん、俺の指示通りに教育しているようだな。

 ゴブリン達に教える時には決して感情的になるなと、奴隷達には言ってあった。怒鳴って萎縮させて、挙句にキレさせたりなんかしたら大惨事だからだ。

 ――と言うのは建前で。

 実際には、そんな効率の悪いやり方で仕事を教えてもらっても困るんだよ。

 怒鳴ったり居丈高に振舞うのは、相手が上下関係を理解していない時にそれ以外に手が無ければ、使わざるをえない事も有るだろう。

 しかし、相手が思った通りに動かなかったからと怒鳴り散らしていては、人材が育つはずが無い。

 やる気と能力の有るヤツは怒鳴ったって怒鳴らなくたって仕事を覚える。

 だが、やる気や能力が足りないヤツは怒鳴れば最初は努力しようとするとしても、怒鳴られ続ければやがて興味すら失くすんだよ。


 根性が無いからやる気が無くなる?

 馬鹿馬鹿しい。そんなのは人を育てられないクソの言い訳でしかない。

 生き物は生存戦略として快感(・・)を求めるように進化しているんだから、苦痛しか存在しない状況では不具合を起こすのは当たり前の事だろう。

 褒められる快感、向上する快感、成功する快感。

 それらを使ってこそ使える人材は育つ。

 サルの薬物自己投与実験なんて話もあるとおり、生き物ってのは行動の先に快感があれば狂ったようにがんばってくれるからなぁ。


 とは言え、そんな裏が無くても仲良くやってくれるに越した事は無い。

 ギスギスしてれば、ちょっとした事でもトラブルになるしな。

 んじゃ、次に行こうか。 


 向かったのは、城を出てすぐにある作業長屋。

 コイツはバグバの家と同じ様に俺とフランクの合作で、デモンストレーション以降では最初に建てた建物だ。

 内部は幾つもの部屋に分かれていて、元鍛冶屋のランドンとその妹で元革細工師のオーガスタがゴブリンを弟子にして、集落に必要な物を作りながら教えていた。


 さて、ここはどんな様子かな?と思ってクビラを長屋の中に入らせようとしたんだが、鍛冶場から漂う鉄の焼ける臭いと槌音、そして獣皮を加工する際に使う薬品の悪臭で、クビラは長屋に近づく事すらしようとしなかった。


 ……むぅ。

 無理強いする事もできなくは無いが、嫌がっているのに行かせる程の意味も無いで別の所に向かわせるか。

 とりあえず、以前の報告や視察では、問題は見られなかったしな。


 次は実験農場を見に行こう。

 城の近くにある実験農場では、元農家のヘイデン一家がゴブリン達に農作業を教えながら畑仕事に励んでいた。

 実験と名前が付くだけあって、細かく区分けされたこの農場では多種多様な植物が栽培されている。

 もっとも今は、区画ごとに名札があるだけで芽も出ていない畑もあったりするが。


 さすがにこの短期間で収穫できるような作物は、異世界といえども存在しないようだ。

 ……いや、存在するかもしれないが少なくとも一般的ではないのだろう。

 まぁそんな存在するのかも分からないような特殊な例は置いて置いて、作付けさせた植物は森に生える薬草から異国の香辛料まで幅広い。

 ヘイデンは「異国の植物の育て方なんか分かりません」と泣き言を言っていたが、生き物なんてモノは条件さえ揃えば爆発的に増えるので、失敗しても良いからやってみろと命じて作らせた。


 ちなみに農場はもう一つ、集落の外れに大規模なものがある。

 コチラで作っているのは芋と麦だ。

 大規模農場ではゴブリン達が農作業しているはずだが、少し距離があるのでクビラの脚では時間がかかる。視察するのは今度、自分の足で行くとしよう。

 ゴブリン達だけで農業がうまくいくのか?と言うのは俺も疑問ではあるが、植えた芋が芽を出し、それを見たゴブリン達が喜び勇んで俺に報告をしにきた、なんて事もあったのであまり心配の必要は無いのかもしれない。

 作業内容は、毎朝ヘイデンが見回りをしてゴブリン達に指示をしているしな。


 あと奴隷は二人居るが、そのうちの一人である元役人のジェイコブは、俺の相談役として細々な作業をしてくれている。

 今は、たぶんゴブリン達に文字を教える為に必要な教科書を作っているんじゃないかな?


 そして最後の一人、ジェイコブの娘のレミーは集落の小屋で生まれたばかりのゴブリンの相手をしていた。

 このゴブリンの子供達は十日ほど前に生まれたんだが、今では生まれた時の三倍以上の大きさに成長し、拙いながらも言葉を喋る。

 自分でやっておいてなんだが、驚きの結果だ。

 まさか、生まれたばかりの赤ん坊に『精神感染メンタルウィルス』を使って学習の補助をしてみたら、十日で言葉を喋るとは思わなかった。

 いやぁ、知能の成長が促進されたら良いなと思ってやった事なんだが、思った以上の結果が出ていて驚いている。

 元々ゴブリンの成長は早いらしく、生まれて十日で歩き出し、二月もあれば言葉を喋りだすとは聞いていたが、まさか十日でとはなぁ。


 勿論、赤ん坊に大量の情報を流し込んだ訳じゃないぞ?それをやると脳にかなり負担がかかるからな。リサに大量の記憶を押し込まれた俺が言うのだから間違い無い。

 じゃ、何をやったかと言えば、疑問に対する理解を助け、記憶の定着を補助し、自ら答えを導き出せた時には快感を感じるように、『精神感染メンタルウィルス』で作った精神体に脳内家庭教師をさせているだけだ。

 だから子ゴブリン達が通常より早く言葉を喋り始めたのも、本人達のボテンシャルの一端に過ぎない。

 いや、そんなまどろっこしい事をせずに『精神感染メンタルウィルス』で大人のゴブリンに知識を焼き付ければいいんじゃ無いかと思うかも知れないが、単に知識だけを与えても判断力は育たないしなぁ。


 まぁ生まれたばかりの赤ん坊に人体実験と言うのは我ながら酷い事をやっていると思うが、必要だと思ったからやったので仕方がない事だ。

 バグバは今のところ良くやってくれている。それでも今後、集落の規模が大きくなって管理運営が複雑化すればやがて手に負えなくなるだろう。

 その前に、バグバを補助できる人材を確保しておかなければならないんだよな。

 人間の奴隷……、ジェイコブあたりにそれを任せる事も不可能じゃないが、ゴブリンを治めるのはゴブリンでなければ必ず後で面倒な事になる。

 どんなに上手くやった所で、管理や運営、統治と言ったこの手の事には必ず不満が発生するんだが、そう言う不満が限界に達した時には必ずと言っていいほど支配者達に怒りが向くもんだ。

 その時支配しているのが同じゴブリンだけであればかわす方法はいくらでもある。しかし、異種族が係わっているとソイツに怒りが集中して、ややこしい事になるだろう。

 いや、ソイツを切り捨てれれば話は簡単だが、有能なヤツを切り捨ててその場をしのいでも後が続く訳が無い。

 残った無能な支配者層は破滅に向かってまっしぐら、それまで切り捨てたヤツに頼って支配していたんだからどうしようもないだろう。


 俺が一生をこの集落で過ごすのならまた別だが、折角こんな面白そうな世界に生まれ変わったんだ。ある程度状況が落ち着いたら色々(・・)と遊ばせて貰おうかと思っている。

 となると、俺が長期間集落を離れていても安心して集落を任せられるシステムが必要になる訳だ。

 とりあえずはバグバに任せるしかないが、次世代では知能の高いゴブリンにバグバを補佐させ、最終的には俺を言葉を信仰の対象とした宗教社会主義のようなモノを作ってゴブリン達を治めさせたいと思っている。

 自分を神のように崇めさせるってのも気色悪いんだが、他に手が無いんだから仕方が無い。

 単純に君臨すれども統治せずではゴブリン達が暴走するのは目に見えているし、かといって支配者としてゴブリン達を指導し続けるのも面倒臭い。

 折角宗教なんて他人を支配するのに便利な道具の存在を知っているのだから、利用しない手も無いだろう。


 それに、だ。

 俺は生まれ持った生き物の持つさがってヤツを否定する気は無いんだが、その後の教育によってそんなモノはどうとでもなるとも思っている。

 前世で調べた話では、通常は人間を餌としか見ないような凶暴な肉食獣を手なずけたり、必要な教育を施せばゴリラやオランウータンでさえ、手話で人間と意思疎通できるようになるって記録もあったしな。

 で、ガキの頃から宗教で洗脳してやれば、ゴブリンだって一々『精神感染メンタルウィルス』で教育(洗脳)しなくても、優秀な社会の歯車に育ってくれるんじゃないかと俺は思う訳だ。

 勿論、俺がそう思ったからと言って事がそのとおりに運ぶとは限らない。

 しかし宗教におけるこの手(・・・)の話は某宗教の自爆テロを例に出すまでもなく、前世じゃ世界中で語られていた。

 人間にしろゴブリンにしろ、この世界の知的生物も前の世界の人間と大きな違いはなさそうだから、この世界でも上手く行く可能性は高いだろう。

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