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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第五章 構築
47/100

5-2


 森を抜けると、先ず目に入ったのは広大な空き地だった。

 空き地のあちこちには、切り倒され、枝を打たれた木々が山積みされ、根っこも掘り返されて別の山を作っている。

 空き地の中心には集落の小屋が見え、その周囲は縦横に走る踏み固められただけの道と、耕された大地が広がっていた。

 その光景に、奴隷達だけでなく、リサでさえ驚きを禁じえないようだ。

 そして、実は俺も驚いている。予想以上に開墾が進んでいたからだ。


「レドちゃん。アナタ、一体ゴブリン達にナニを命令したの?」


「……ん?農業をやるから、俺が人間の街に行っている間に、集落の周りを綺麗にしておけって言っただけだぜ?」


 驚きのあまりに素の表情で聞いてきたリサに、俺も一瞬言葉を返せなかった。

 幸いな事に奴隷達には俺たちの異常を悟られていない様だが、動揺しているのがバレると不信感をもたれるので注意しないとまずい。


 まだ何か言いたそうなリサを目で制すと、リサは僅かに頷いて眼をつむる。


 すぐに目を開いたリサは苦々しげな顔で俺を睨んだ。

 いや、俺の記憶を読んでも答えが見つからなかったからって怒るなよ。それでも俺の考えを理解してくれたのか、リサは大人しく俺の頭の上に乗っかって黙った。


 その僅かなやり取りの間に奴隷達も平静を取り戻していたので、誤魔化す為に奴隷になる前は農家だったと言うヘイデンに声をかける。


「どうだ。これだけの広さがあれば、百人くらいなら食っていけるだろう?」


「は、はい。大丈夫だと、思います」


 このヘイデンと言う男、気が弱いのか俺が話しかけるといつも挙動不審になるんだが、奴隷狩り相手に啖呵を切って娘と嫁を守ったという逸話を持っているので、適度に追い詰めてやればゴブリン相手でも頑張って指導してくれるに違いない。


「集落の住人を増やすにゃ、まず食い物が無けりゃ話にならねぇ。いくらこの森に食える物が多いからって、ってるヤツをってるだけじゃあ限界があるからな。

 小さな集落なら食い物がなくなるたびに移動すりゃあ良いが、腰をすえて大きな集落を作ろうと思ったら、住人が食えるだけの畑を作る必要がある」


 俺の話に嫌な予感でも感じたのか、ヘイデンは顔を引きつらせている。


「だからよ、すべてはオマエにかかってるんだ。

 土の質なんかも有るだろうから、すぐに結果を出せとは言わねぇ。とりあえずはゴブリンに簡単な野良仕事を教えながら、色んな条件で作付けして試してみてくれ」


「が、頑張ります」


 ニヤリと笑いながら頼むと、ヘイデンは泣きの入った顔で大きく頷いてくれた。



 ・



 集落に近づくと、地面を鍬で耕していたゴブリンが俺に気づき、他のゴブリンに声をかけながら出迎えてくれた。

 集落に到着したのは夕方だったので、集まって口々に俺の帰還を祝うゴブリン達に応じながら、明日の朝に集会を開くと言い置いて、ゴブリン達の間を地雷原でも歩くように恐る恐る歩く奴隷達をつれて城に向かう。


 そう、小屋(・・)ではなく()だ。

 それほど大きくは無いが、三階建ての西洋風の城が森を切り開いた集落の中、粗末な小屋に囲まれて建っていた。

 勿論、建てたのは俺だ。

 恐狼ダイアウルフに壊された小屋をどうしようかと悩みながら集落の建て直しをしていたんだが、その作業中に丁度いい建材が手に入ったので、『自在工房ワークショップ』を駆使して建てた。

 トーラスの街に向かう途中にあった砦やトーラスの街の中央にあった城に比べれば格段に小さいものの、三日で建てた割には良い出来だと思う。

 シンプルなつくりだが部屋数もそれなりにあって、俺と奴隷達が住む分には問題は無い。正面入り口以外に出入り口は無く、窓も明り取りと換気目的の小さい物なので、忍び込んでくるのは虫かネズミくらいなものだろう。

 もっとも、何も参考とする物が無い状態で、素人が建てた城だ。たぶん、いたる所に不具合は有ると思う。

 ソコは奴隷に元役人と元大工がいるので、ソイツラに話を聞きながら直せばいい。今はとりあえず、俺と奴隷達が安全に眠れれば十分だ。


 ちなみに建材の出所がどこかと言えば、地面の下だったりする。

 集落の建て直しの一環として、井戸を掘っていた時に出た土砂が城の材料だ。

 土砂と言っても『自在工房ワークショップ』で融合成形してやれば立派な建材になった。

 そして、潤沢な水が出るまでに結構深く掘らなければならず、途中には分厚い岩盤もあったので、建材は十分に確保ができた。


 城に入ろうとして、後ろから着いて来ているはずの足音がしないのに気がつき、後ろを振り向くと、奴隷達は呆然と城を見ていた。


「何をしている?早く来い」


「い、いや、ご主人様よう。あんたは一体、何者だ?

 なんで、森ん中にこんな砦があるんだ?」


 そう言ったのはフランク。奴隷達のリーダ格で、奴隷を買う時に最初に質問したのもこの男だ。


 城は森を抜けてからずっと見えていたはずだが、巨大な岩にでも見えていたのか?それとも周りの光景に気をとられて気がつかなかったのか……?

 いや、そんな事はどうでも良い事だな。


「俺は先祖返りのゴブリンで、この集落の長だ。

 この城は俺が魔法で建てた。

 分かったんならさっさと中に入れ。ぐずぐずしてると置いて行くぞ」


 大雑把に説明しながら城の中に入ると、足音が慌てて着いてきた。 

 城の中は明り取りの窓があるとは言えかなり暗いので、魔法のランプを使って明かりを灯す。

 魔法使い協会で買った魔法のランプは、手に持って念ずるだけで大型の懐中電灯くらいの光を放って周囲を照らすのだが、買った時の説明では一晩の半分ほどは光がもち、その後、使った時間プラス二時間程度以上休ませればまた同じように使えるという話だった。

 はっきり言ってしまうと、値段の割にはかなり使い勝手が悪い。

 一度光を消せば二時間余分にチャージに時間がかかり、しかも一度に六時間程しか光が持たないとなれば、使えるのは日常の明かりとしてくらいなものだろう。

 揺らぐ事もなく燃料も必要としないのはかなりの強みだが、それでも魔法の道具として平民の年収に近い金を払って買う意味はあまり無い。

 まぁ、それでも酸素を消費しない明かりってのは魅力的だったし、使用できる時間が短いのは複数個所持してローテーションで使うか、『万能マルチツール』で魔力を供給してやれば良いだけなので俺は購入したが。

 値段も買った魔法の道具の中では格段に安かったしな。


「先に言っておくが、俺は建築の事なんかろくに知らずにこの城を建てたからな?おかしな所があったら後で言ってくれ、時間がある時に直しておくからよ」


 身を寄せ合って幽霊屋敷の中でも歩いているような奴隷達の気持ちをほぐす為に、冗談めかして声をかけるが返事は無かった。


 随分とびくついているが、ここに来て怖気づいたのか?

 森の中では結局獣にすら襲われなかったし、リサのお陰で緊張しっぱなしって訳でもなかった。しかし、集落でゴブリンに囲まれ、挙句に森の中には不釣合いな石造りの要塞みたいな城の中にご案内では、腰が引けてもおかしくはないか。


「おい、どうした。集落についてから、随分と顔色が悪いじゃねぇか」


 奴隷達に向き直って話しかけても、複雑そうな顔をするだけで返事が無い。


 ありゃ、まずい兆候だな。

 思った以上に奴隷達の不安感は強いようだ。下手をすると、パニックを起こしかねないか?


「だめよ、レドちゃん!みんな緊張してるんだから、あんまり驚かしちゃ!」


 しかし、リサが俺を叱りつけると、やっと奴隷達の顔がほころんだ。


 助かった。奴隷達には見えないようにウインクでリサに感謝すると、リサも答えるかのように俺の頭をペチッと叩く。

 奴隷に関しちゃリサに助けられてばかりなので、いい加減嫉妬も感じなくなってきている。

 最初こそ良い出会いではなかったけど、リサも悪いヤツじゃあないんだよなぁ。


 そうこうしている内に、広間に着いた。

 広間と言っても、まだ椅子もテーブルも無いので毛皮を何枚か魔法の鞄から取り出し、床に敷いて奴隷達に食事をとらせる。

 手間の込んだ食事を作る時間もなかったので、メニューはパンとたっぷりと肉の入ったスープだけだ。しかし肉は特別イイモノを使ってやったので、先ほどまでの陰気な雰囲気が嘘のように、奴隷達はむさぼるように食う。

 食っている内に段々と奴隷達の顔にも血色が戻り、追い詰められていたような表情も和らいでいく。

 やはり、美味い食い物の力は偉大だ。


「で、どうだ?ゴブリンの集落に来た感想は?」


 全員の食事がだいたい終わったのを見計らって、話を切り出す。

 奴隷達の動きは、俺の言葉でシンクロしたかのように見事に停止した。


「……思ったよりも俺達と変わらなくて、びっくりした」


 そう、口にしたのはやはりフランクだった。

 他の奴隷達の中には、その言葉に肯定的な表情をするヤツも否定的な表情するヤツも居るが、とりあえず口を挟む気はなさそうだ。


「その割には、随分と怯えてみたいじゃねぇか?」


「そ、そりゃあよお。俺達東の人間は、ガキの頃からゴブリンは怖いもんだって聞かされて育ったんだ。ゴブリンに囲まれて、逃げ場も無いような砦の中に入りゃ不安にもなったさ。

 んでも、美味い飯を食わしてもらって落ち着いたら、意外に怖くなかったなって思ったんだよ」


「意外に怖くなかったか。

 ……悪くない感想だな。で、ゴブリンと人間じゃあ随分と違いがあると思えるんだが、オマエラとゴブリンが思ったよりも変わらないってのは、どう言う意味だ?」


「俺は、ゴブリンの集落ってのはもっとこう、バケモノの住処みたいな所だって思っていた。

 ところが、ご主人様は下手な人間よりも話が分かるし、この集落のゴブリン達も姿格好はアレだがやってる事は村の人間と変わりがなくて、俺達を見る目も奴隷商や奴隷を買いに来た連中よりかはましだった」


 フランクの話を聞きながら他の奴隷達の顔を見回すと、さっきは否定的な表情をしていたヤツも渋々ながら同意しているようだった。


「なるほど、なぁ」


 答えは予想通りでも、フランクの言葉に納得したかのように頷いておく。

 努力が実を結ぶってのはやはり嬉しいものだ。

 やる気が空回りしたり飽きて仕事を投げ出すゴブリン達に、なんども『精神感染メンタルウィルス』で意識改善してやった苦労が報われた気がする。


「まぁこの集落のゴブリンは俺が教育してやったんでこんな感じだが、他の集落はオマエラが教わったみたいな獣のようなゴブリンばかりだな」


 脅すようにそう言ってやると、奴隷達は表情を硬くした。

 やっと落ち着いたのに、また怯えさせるような事を言うのはあまり得策じゃあないが、ここらで少し緊張感を取り戻してもらう必要があるんだよなぁ。


「怯えなくてもこの城の中に居る限り、オマエラが獣や他の集落のゴブリンに襲われる事はねぇよ。

 作業をする時も信頼できるヤツに監視させるから安心しろ」


 と言っても、安心できる訳も無いよな?


「それでも不安だって言うんなら、はやく集落のゴブリンと仲良くなる事だな。そうすれば、なんかあったらアイツラが守ってくれるだろうよ」


 さぁ、オマエ達にも分かるだろう?オマエラ十人に対して俺は一人、俺がオマエラ一人一人についていられる訳はないんだ。

 だったらどうする?

 この恐ろしい森の中で安全を確保する為には、この集落のゴブリンと仲良くなるしかないよなぁ?


「なぁに、オマエラも感じたとおり、この集落のゴブリンはそんなに人間と変わらねぇんだ。

 いや、人間よりも個人の損得で動かない分、付き合いやすいかも知れねぇぞ?」


 ゴブリン達を教育(洗脳)する時に、特に集落の繁栄を優先するように教え込んだので、ゴブリン達が奴隷達を集落に必要な存在だと認識すれば命すらかけて守ってくれる筈だ。

 ソレも、俺が集落を出た時と変わってなければ、だが……。

 さっきの感じなら、たぶん大丈夫だろう。


「なぁに、頭は悪ぃが気の良い連中だからよ。オマエラが集落にとって役に立つって所を見せれば、すぐ仲良くなれるさ」


 明るく言ってやったが、奴隷達の顔は晴れない。

 しかし、それでも、奴隷達オマエラに選択の余地は無いんだがな。


「……俺達は何をすればいいんだ?」


 絞り出すような声で、フランクが聞いてきた。


「前にも言ったとおり、オマエラの知識と技術をゴブリン達に教えてやってくれ。だが、ゴブリン達は頭が悪い。何度やらせても上手く行かないと思うが、そこは気長に頼む。

 その代わりに、だ。オマエラにも少しは良い目を見させてやろう」


 俺の言葉に、奴隷達は怪訝な顔をした。

 命令すれば逆らえないんだから、俺が奴隷達のご機嫌をとろうとする意味が分からないって顔だな。


「お前達が今食ったスープに入っている肉な、あれは恐狼ダイアウルフの肉だ」


ダイア……、ウルフ……?」


 あ、普通の村人に、森の奥深くにしか住んで居ないような魔獣の名前を言っても分からないか。


「この、蒼の森の奥深くに住む、魔獣の肉だ」


 奴隷達は危険物でも見るような目で、先ほどまでスープの入っていた椀を見る。


「一般市民じゃあ、一生口にする事もできないようなシロモンだ。どうだ、美味かっただろう?」


 魔法の明かりが薄ぼんやりと照らす広間に、誰かが喉を鳴らす音が響いた。


「また、食いたいよなぁ?ああ、言わなくたっていい。お前らの表情を見れば、答えは良く分かる。食い放題って訳にはいかないが、また狩る事ができたら食わしてやろう」


「……な、なぁ。ご主人様よう」


 おずおずと、フランクが聞いてきた。


「あん?」


「なんで、奴隷の俺達にそこまで良くしてくれる?」


 良く……、と言うほど良くしてやってるつもりも無いが、奴隷達にしてみれば、虐げられないのすら不思議なんだろう。

 いくら法律で守られているからと言って、奴隷は人間としての権利を全て剥ぎ取られた“物”でしかない。

 しかも、コイツラはその法律にすら守られていない裏の奴隷だ。玩具の様に扱われて壊されたって文句の言えないような存在でしかない。


「良くしてやりゃ、馬車馬みたいに働いてくれる。とは思ってねぇから安心しろ。

 だがな、がんばりゃ美味いモンが食えると分かってりゃ、オマエラだってやりがいがあるだろう?」


 やりがいってのは重要な要素だ。ただ言われて作業するより、やりがいを感じながら作業する方が、作業効率ははるかに良いからなぁ。


 それに、オマエラに嫌々作業されてもゴブリン達に悪影響しか与えないんだよ。

 陰気臭い顔で作業する奴隷達を見れば、ゴブリン達は要らない自信をつけて増長するだろう。

 人間だって、見下した相手の言う事なんか聞きやしない。頭の悪いゴブリンならなおさらだ。

 そして、人間を自分達よりも下だと思ったゴブリンが狩りの途中にでも見つけた人間を襲えば、更に話はややこしくなる。

 そんなのは御免だ。

 そうならない為にも、奴隷達にはゴブリン達に侮られないように、率先して働いてもらわなければ困るんだよ。


「まだ納得できねぇか?じゃぁ……」


「いや、分かった。

 ご主人様が何を考えてるのかは全然分からねぇが、真面目に仕事さえしてれば俺達を悪いようにする気が無いのは十分分かった」


 俺の意図が伝わったのか微妙に不安にになる返事だが、不安げな奴隷達を目で制してフランクが力強く答えてくれたのでとりあえずは良しとしよう。

 実際どれだけ言葉を費やしたところで、自分の思っている事を正しく他人に伝えるなんてのは不可能なんだ。

 言葉にできるのは、相手の思考を誘導したり共感させたりして、自分の気持ちを想像させる事だけなんだよなぁ。

 まっ時間はあるし、しばらく様子を見て奴隷達が勘違いをしていたと分かったら、その時にまたお話(・・)をして俺の思ったとおりに動いてもらえるように誘導するさ。


「そうかい。んじゃ、明日からの予定だが……」



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