表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第四章 暗躍
44/100

4-13


 中年男に案内されたのは、たぶんかなり大きな屋敷の一室だった。

 たぶんとしか言えないのは、目隠しされていたので、屋敷の外観を見ていないからだ。

 ただ、この部屋がかなり広いので、屋敷自体も大きいと思う。


 俺は金を手に入れた日の内に、二つの組織に商売の約束を取り付けておいた。

 一つは魔法使い協会。

 そちらには昨日足を運んで、魔法の道具を色々と、格安で譲ってもらった。

 もう一つが、明確な名を持たない、トーラスの裏社会を取り仕切る組織。

 前に取引を行った時に教えられた方法で連絡を取り、今朝、待ち合わせ場所で待っていたアノ中年男に窓の無い馬車に乗せられ、そこからしばらく馬車を走らせ、着いたところで目隠しをされて、案内されたのがココだ。

 許可を得て目隠しを外すと、傍らには“案内人”と名乗る男がいて、広いだけでこれといった特徴のない部屋で、目の前に並んだ商品の説明を受けた。

 商品とは奴隷。しかも、“裏の”だ。


 工業化以前の文明レベルで、多種族が入り乱れた社会なら存在すると思ってフェリシアに聞いてみたんだが、やはり、この国には奴隷が存在していた。

 表向きには、金に困って身売りしたか借金で首の回らなくなった借金奴隷と、犯罪を犯して奴隷刑の処されている犯罪奴隷の二種類。

 一般人が購入できるのは借金で奴隷になったヤツラだけで、犯罪を犯して奴隷にされたヤツラは国か貴族が管理している。

 ただ、奴隷と言っても借金奴隷の場合は法で保護されているので、そんなに無茶な扱いは受けないようだ。少なくとも、犯罪奴隷のように命に係わるような命令にすら拒否権が無いって事は無いらしい。

 金を貯めた男が奴隷に売られた恋人を買い戻したり、はらませた女奴隷を主の妻が殺そうとして罰せられたって話もあったようなので、ある程度はその話を信じても良いだろう。


 しかし、そうなると俺が奴隷を買っても意味が無い。

 いや、そもそもこの国の市民権の無い俺には奴隷は買えないのだが、そこは、マルグリットの名義で買えば良いので問題では無い。しかし、買った後で蒼の森に連れて行こうとしても、応じる奴隷は居ないだろう。

 無理やり連れていく方法も無いでは無いが、場所が魔獣の住む森の中では怯えて使い物にならないだろうし、万が一逃げられて国に訴えられでもしたら俺の信用は地に落ちる。そんなリスクを負うくらいなら、集落の発展なんて後回しにした方だ良い。


 その話を聞いて諦めようとした時に、フェリシアが声をひそめて教えてくれたのが、裏社会の奴隷だ。

 裏社会の奴隷は、禁忌である精神を操る呪術魔法で、主人に逆らう事も、逃げる事も、助けを呼ぶ事もできないようにもされているらしい。

 勿論その分値段は高く、買うにもコネが必要だが、その問題は両方とも解決している。


 あとは、必要な人材を確保できればいいんだが……。

 今一、碌なのが居ねぇな。


「あー、案内人さんよぉ。俺が欲しいのは、手に職のある人間だ。

 こんな、一癖も二癖もあるようなヤツラじゃなくて、普通に農夫や職人をやっていたヤツラは居ないのか?」


 裏社会の奴隷は、違法な借金や攫われて奴隷にされたヤツラや、裏切ったり大きな失敗をしたヤツが見せしめに奴隷にされていたりと訳ありなヤツラばかりらしいが、俺の前に立つ奴隷たちは皆、ゴブリンに買われるってのに不貞腐れたかのように俺を睨み、一目で裏社会で落ちぶれたヤツラだと分かる。


「お客様。そう言った商品ですと、森の中のような過酷な場所ではすぐに使い物にならなくなるかもしれませんが、よろしいのでしょうか?」


「ああ、そう言うのはこっちで調整するんでかまわねぇよ」 


「承知いたしました。では、新しい商品を搬入いたしますので、少々お時間をください」


 鎖につながれている訳でも無いのに、奴隷たちは案内人の指示に従って、大人しく部屋を出て行く。

 表情以外は従順なヤツラだ。

 アレが魔法の効果だというのなら、ココで買った奴隷を蒼の森に連れて行っても問題は無いだろう。


 案内人は、新たな奴隷を連れてすぐに戻ってきた。入れ替えられた奴隷達の紹介を聞きながら、購入を検討する。

 値段の兼ね合いもあるが、大量に奴隷を買ったところで管理しきれないので今回は五、六人程度を予定していた。

 しかし、ちょっと思いついたので、男女五人ずつ、十人の奴隷を残して他を下がらせる。

 去っていく奴隷達はあからさまにほっとした顔をしていたが、たぶん残ったヤツラの方が、オマエラよりも格段に労働条件は良いと思うぞ?


「さて、予想はついていると思うが、俺がオマエラを買い取る」


 俺の言葉に、悲壮感を漂わせていた奴隷達が絶望に表情を無くす。


「だが、まぁ、安心しろ。高い金を払って買ったオマエラを、無茶な使い方して潰す気はねぇからよ」


 その言葉で、奴隷達が自分の値段を思い出したのか、虚ろなままの瞳で俺を見た。


「安心しろと言っても信じられねぇとは思うが、どの道オマエラには拒否する事はできねぇんだ。腹をくくってくれ。

 で、なんで断る事もできないオマエラにこんな話をしているのかと言えば、オマエラがゴブリンに買われるくらいならって自暴自棄にさせねぇ為だ。自分で死ぬ事も許されてはいねぇと思うが、体調を崩されても困るんでな。先にオマエラの未来を話して置こうと思う」


 どうにも、さっきから反応が悪いな。もしかして……?


「もしかして、コイツらは喋れないのか?」


「はい。お客様の中には、騒がしくされる事を嫌うお客様もいらっしゃいますので」


「そう言う事なら、少し話がしたいんでコイツラを喋れるようにしてくれないか?」


「承知いたしました。お前達、此方のお客様の質問に答える事を“許可”します」


 案内人の命令に、奴隷達が驚いたように顔を上げる。これで少しは俺の言葉も耳に入るだろう。


「聞いたとおり、後で質問を受け付けてやる。だから、きちんと話を聞いて、頭の中で考えておけ」


 そう命令してやると、奴隷達はぎらぎらとした目を俺に向け、次の言葉を待った。


 おー、一方的に話を聞かされるのではなく後で質問できる状況にしてやると、話の食いつきが違うなぁ。


「さっきも言ったようにオマエラを使い潰す気は、俺には無い。

 ただ、蒼の森の中でゴブリンに畑仕事や大工仕事を教えろと言っても普通の奴隷じゃあ言う事をきかねぇだろうからオマエラを買う事にした訳だ。

 安全は極力保障しよう。獣に襲われる可能性もあるので絶対とは言えねぇが、少なくとも集落のゴブリンには手を出させはしない。

 住む場所も人間用の小屋を建ててやるから、安心して眠れる筈だ。

 そしてオマエラにやってもらう仕事だが、男たちは畑仕事や大工仕事をしながらゴブリン達にそれを教えてもらおう。女達には家事全般と布作り、それとゴブリンの子供を躾けてもらう。

 以上だ、ナニか質問はあるか?」


 奴隷たちはお互いに視線を送りあい、やがて一人が声を上げた。


「一つだけ聞かせて欲しい。俺と女房が一緒に買われるのは偶然か?」


 その言葉に、他の奴隷たちも目を見開く。なぜなら、他の奴隷達が気になっていたのも、ソレだからだろう。

 夫婦、兄妹、親子。関係は様々だが、残された奴隷たちは、各々大切な人間が、最低一人はこの中に居た。


「いや、偶然じゃあない。オマエラが夫婦だってのは、案内人から聞いている」


「……人質、と言う事か?」


「そう言う面がなくもねぇが、どちらかと言えば報酬の前渡だな。オマエラだって、出来るなら夫婦で一緒に居たいだろう?」


「しかし、森の中になんて……」


「なんだ、女房が場末の娼館で、他の男相手に股開いてる方がましか?」


 意地悪く言ってやると、男は悔しそうに歯噛みして黙ってしまった。そりゃ、特殊な性癖でも無い限り、そんな状況には耐えられんよなぁ?


「どう言う状況で奴隷になったか知らねぇが、オマエラが真面目に働いてさえいれば夫婦仲良く暮らせるんだ。それを幸運だと思うんだな」


 一瞬、男が恨みがましく俺を睨むが、すぐに俺の言葉を噛み締めるかのようにうつむいてしまった。


「お、俺は騙されねえぞ!お前は、俺達を食うつもりで買うんだろぉ!?」


 奴隷の中でも一番がたいの良い男が、緊張の限界に達したのかヒステリックに騒ぎ出した。


「オマエラなんかを騙して、俺にナンの得がある?

 さっきも言ったとおり、オマエラには高い金を払う事になるんだ。払う金の分だけも働いてもらわないと損だろうが」


「だったら、仕事が終わったら食うんだろう!」


「食わねぇよ。そもそもオマエラに、食うだけの価値があるのか?」


 呆れたように言ってやると、奴隷達どころか案内人まで目が点になった。

 実際、街道で俺を襲ったチンピラ共はまずくはなかったが、好んで食いたいってほど美味くはなかったからなぁ。


「ほ、本当に食わない?」


「くどい」


 すっぱりと言い切ってやると、がたいの良い男は身を縮めて黙る。

 うっとおしかったがこの男の所為で少し雰囲気が和らぎ、その後の話し合いは何事もなく進んだ。



 ・



 奴隷達に説明を終え、案内人に金を払う。

 提示された金額はかなり高額だったが、恐狼ダイアウルフ一匹分にも満たない。

 ココで値切っても弱みを見せるだけなので、言われた通りの枚数の金貨をテーブルの上に積んでやると、案内人は恭しく頭を下げた。


 金は払い終わったが、奴隷達を連れて帰る訳にも行かないので、後日、森に帰る時に受け取れるように手配をする。

 値段について何も言わなかったお陰か、案内人は追加料金を請求するでもなく、「承知しました」とだけ、言った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ