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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第四章 暗躍
39/100

4-8


 中年男との商談は何事もなく終わり、いくつかのいかがわしいクスリが金に変わった。

 どれも強力で使い勝手の良いクスリだが、長期間の保存には向かないので、今後も良いお客様になってくれるだろう。


 その後、暴狼レイジウルフの代金が入ったら買いたいモノがあると約束を取り付け、俺はマルグリットの家に帰る。

 夕暮れのトーラスの街は人の行き来も激しいが、つばの広い帽子を目深にかぶれば低い身長のせいで俺の顔はほとんど見えないので、他人とすれ違っても驚かせる事は無い。

 今なら通報されても紋章入りのハンカチがあるが、わざわざ騒ぎを起こす必要も無いからなぁ。


 大通りの酒屋できつめの酒を買って家に帰ると、丁度マルグリットが夕飯の支度をしているところだった。


「ただいま」


「あ、ニグレドさんの帰りなさい。

 もうすぐお夕食の用意ができるから、ちょっと待っててくださいね」


 ドアを開けて帰宅を告げると、家の奥から返事が返ってくる。

 たった、それだけの事だが、妙にほっとするな。

 前世を懐かしく思ってるんだろうか?

 それなりに酷い人生だったと思うが、それでもこんな人並みの幸せを感じられた時期も、確かにあったからなぁ。


 酒を置いて、マルグリットを手伝って夕食の準備をし、たわいの無い会話をしながら食事をする。

 前世では恋人も居なかったけれど、新婚生活ってのはこんな感じなのかねぇ。

 ……なんて考えていたのがまずかったのかもしれない。


「ねぇ?ニグレドさん。聞いてますぅ?」


 ちょっと油断した隙に、マルグリットが俺の買ってきた酒を飲んで、出来上がってしまった。


 あの、マルグリットさん?君、お酒強くなかったよね?

 そんなにきついお酒飲んで、大丈夫なの?


「ああ、聞いてる聞いてる。

 それよりも、マルグリット。オマエ、この指が何本に見える?」


 立てた指は一本。


「えぇ~とぉ……。三本!」


 大丈夫じゃなかった。


「正解?ねぇ正解?キャハハハハ!」


 うわぁ。普段の物静かなマルグリットからは、考えられないハイテンションだ。

 コイツもストレスが溜まってたのかねぇ。

 いや、状況を考えれば、かなり溜まってたんだろうなぁ。


「……ニグレドさん。私、寂しかったんですよぅ?街に戻ってきても、親しかった人たちはよそよそしいし、噂を聞いた人たちは汚い物でも見るような目で私を見て、信じていたフランシス様も、結局助けてくれなかったんですから。なんども、森に居た頃の方が幸せだったかな、って思いました。……何もなくて不便でしたし、夜中に獣の遠吠えが聞こえたりして怖かったですけれども、そう言う時は何時の間にかニグレドさんが隣に居てくれて、助けてくれましたよね?」


「それは、オマエに色々と教えてもらう必要もあってだなぁ……」


 なんか、まずい雰囲気だな。


「そんな事分かってます!ニグレドさんが私の事を、そう言う目で見てくれないのは分かってるんです。最初は安心したんですよ?森に住むゴブリンは女の子を攫って子供を産ませるって聞いていたのに、ニグレドさんは私の事なんか何の興味も無いようにしていて、なのに、困った時は助けてくれて……。だから段々と、ニグレドさんにそういう目で見られない事が悔しくなったんです。この人は私を女の子としてみてくれない。この人にとって、私は知識を得る為の道具に過ぎないって」


 いや、まぁ、そういう風に俺が誘導したからな?成功する確率はかなり低いと思ってたのが上手くいって、俺も驚いたけれども。


「だから、私はこう思ったんです。この人は女なんかに興味がない人だって……」


 オマエに手を出す不利益を考えて、そう思わせるのが一番だと思ってたからなぁ。

 お陰で今の状況にまで持ち込めた。もし、森でオマエに手を出していたら、人間の街で信用を得るのにこんなに簡単にはいかなかったと思うよ。


「なのに……。なのにぃ!何で奴隷なんか買うんですかぁ!」


 なに?奴隷を買う話なんてマルグリットに言ってねぇぞ?どっから洩れた!?


 まさかリサか?と、思ってテーブルで、マルグリットに絡まれて困っている俺をニヤニヤと見ていたリサに目を向けると、冤罪だと言わんばかりにリサが首を横に振った。


 なら、誰が?


「マルグリット。俺が奴隷を買うって話を、誰から聞いたんだ?」


「え?シアが、ニグレドさんから相談されたって言ってましたよ?」


 フェリシアの仕業か!

 口止めはしておいてんだがな……。


 いや、森の集落を建て直すために、農業や建築、それに鍛冶なんかの技術者が欲しかったんだが、一般人を森に連れて行く訳に行かないので奴隷でも買おうかと、フェリシアにそれとなく聞いてみたんだよ。

 ゴブリンが奴隷を買うってのは、あまりにも外聞が悪いから秘密にしておいてくれって言っておいたんだが、マルグリットには喋っても構わないとでも思ったのか?


「ニグレドさんに奴隷の事を聞かれたから教えたんだけど、あれは絶対、女奴隷を買うためだって」


 うん?フェリシアと話をした時には、そんな色っぽい話になるような要素は何一つなかったぞ?

 フェリシアの思い込み……?それとも冗談のつもりだったのか?


 分からんな。今度あったら聞いてみよう。


「ニグレドさん?奴隷なんか買ってぇ、えっちな事なんかさせません!」


「わぷっ」


 さっきまでの拗ねた雰囲気が嘘のように、楽しそうにマルグリットが俺に抱きつき、そのまま体重をかけて押し倒してきた。

 おいおい、この体勢はまずいだろ。


「奴隷なんか買わなくったってぇ、私が居ますよ?」


「いい加減にっ」


 しろ!と声を上げようとした口が、マルグリットに塞がれた。彼女の口で。


「私じゃ、だめですか?」


 何かに怯えたようなマルグリットの言葉。

 マルグリットに手を出すのはマズイ。マズイんだが……、あぁクソ!そんな目で見るな。


 ……はぁ。

 据え膳食わぬは男の恥って言うよなぁ。


「俺は“愛”ってヤツがわかんねぇ。お前の事は幸せになってもらいたいと思うが、それよりも俺の都合の方が大事だ。

 そんな俺でも良いのか?」


「はい!」


 そんな嬉しそうな顔で頷くなよ。後で泣く事になってもしらねぇぞ。



 ・



 ゴブリンとして産まれて、ゴブリンとして生きた今の俺には当然の事なのかもしれないが、前世の俺も、誰かに愛とか恋とかって感情を抱いた覚えがない。


 他人は自分の為に存在していて、自分の欲望さえ満たせるならそれでいい。

 幼い頃は考えるまでもなく、当たり前のようにそう行動していた。


 本で読んだんだが、これは特別な異常と言うほどの事でも無いようだ。

 単に親の躾が悪かっただけで、幼い頃はそう言う考え方をしていても、多くの子供は成長して他の人間に触れ合っていく事で変わっていくらしい。


 俺の場合も確かに変わった。ただし、悪い方向へと。

 元々素養があったのかもしれないが、子供の頃の短くない期間、心の中を強い怒りや憎しみだけが満たしていた時期があったお陰で、俺の人格は見事に歪んで捻れて壊れた。


 多少衝動的に行動する事はあるが、共感能力が無い訳でも無い。

 良心もあれば罪悪感もある。異常者のように理性がない訳じゃあない。

 犯罪が悪い事だと分かっているし、割に合わない犯罪は馬鹿のやる事だとも思う。


 だが、人を傷つけるのが楽しくてたまらない。

 精神的にでも、肉体的にでも、どちらでも良い。

 特に、自分の事を偉いと思っているヤツや、自分の事を強いと思っているヤツ、そして、自分の事を正しいと思っているヤツなんかを破滅させるのは本当に面白かった。

 別に犯罪ってほどの事はやっていないぜ?

 ただ、偉いと思っているヤツに、周囲の人間がソイツの事を本当はどう思っているのか教えてやったり、強いと思っているヤツの弱みを晒して心をへし折ってやったり、正しいと思っているヤツが否定している相手の正当性をしめして、正しいと思っているヤツの論理の穴を指摘してやったりしただけだ。


 それに、恨まれるようなヘマもしていない。

 あくまで、俺は善意の第三者。敵対しているヤツラの片方に、ほんの少し助言をしたに過ぎない。

 その結果がどうなろうと、俺の知った事じゃあ無い。


 イカレてる?

 自覚があるんで、たいして気にはならねぇなぁ。


 まぁ後になって理解できたんだが、結局のところ、俺は他人が怖かっただけなんだよな。

 俺を傷つける他人が怖い、理解できない、理解したくない。だから、嫌って憎んで壊してしまおう。

 恩人とも言える人達に出会ってソレを知り、山ほど本を読んで俺と他人が大して違わない生き物だと理解し、それでも染み付いた性根はどうにもならなかったのは、笑っちまうがな。


 それでも、あの人達に憧れて、少しはまとも人間に近づけたと思う。

 自分に足り無いモノを知り、知識や他人を模倣する事でそれを補い、欲望は腹の底にしまってまともな人間の振りをする。

 我ながら滑稽だが、こんな俺でも暖かく受け入れてくれた人達に、失望はさせたくなかった。


 まぁ過剰な我慢は暴発を招くので、適度なガス抜きはしたがな。

 そのガス抜きの為に爆弾を作ろうとして、失敗して死んだのは自業自得って事なのかねぇ。

 完成したところで使う気はなかったんだが、箍が外れて大事になる前にけりがついたのは、もしかしたら悪くなかったのかも知れ無いな。

 ほんの僅かな、ちょっとした気の緩みで、何もかもがどうでも良くなる気分になった事が無いとは言わない。

 失望されたくない、嫌われたくない、そう思っているのに、ちょっとした切欠であの人達を壊したくなる事もあったんだから。

 我ながら、死にたくなるほど、業が深かったなぁ。


 ただ、もしかしたら、ぶっ壊れてたのも悪い事ばかりじゃあ無かったのかもな。

 まともだったらたぶん、今の俺が前世を思い出した時に狂っていただろうからよ。


 何にせよ、そんな感じに壊れていた俺は、愛玩動物ペット以上の愛情を他人に対して感じた事が無い。

 たぶん、頭のどこかで、自分と他人を同じ生き物だと認識できなくなっていたんだろう。

 性欲はあったが、感覚としては娯楽や排泄に近かった。

 いい女を犯したいとも思ったが、それは面白いゲームを楽しみたいとか、美味い飯を食いたいとかと同レベルでだ。

 子供だって可愛いとは思う。子猫や子犬が可愛いのと同じ様にな。


 だが、それもある程度距離をおいていれば、だ。

 肉体的にはともかく、精神的に距離が近づいてくると、我慢が難しい。

 あまり近づくと、ついつい箍が緩んで壊してしまいたくなる。

 だから、マルグリットも後悔する事になるかもしれない。だが、それはマルグリットが選んだ結果だ。恨むんなら、男を見る目の無いオマエ自身を恨んでくれ。


「おはよう」


 腕の中で、裸のマルグリットが目を覚ましたので、朝の挨拶をする。


「おはよう、ございます」


 まだ寝ぼけ眼だが状況を理解しているのか、マルグリットは俺と一つのベットで裸で寝ていても、取り乱しはしなかった。


「昨日の事は覚えているか?」


「……はい。うっすらとですが」


 うっすらと、か。

 それでも取り乱さないってのは、昨日の事を酔った勢いや思い付きでやったんじゃないって証拠なんだろうなぁ。


「俺はお前を愛していない」


「は……、い」


 俺の言葉に、マルグリットは怯えたような返事を返す。


 愛してはいない。しかし、こういう関係になった以上、簡単に手放す気も無い。


「だから、俺が欲しければ、俺を惚れさせてみろ」


「はい!」


 いい返事だ。

 オマエの努力が自分の首を絞める事になると思うが、今はまだオマエには利用価値があるんで精々がんばってくれ。



作者からの突っ込み。


 蛇足ではありますが、本作は主人公の一人称で物語が綴られております。ですので、主人公が自分でも気がついていない感情などが表記されていない場合がございます。(笑)

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