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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第四章 暗躍
35/100

4-4


「なぁに読んでんのぉ?」


 部屋でマルグリットから借りた本を読んでいると、リサが暇そうに声をかけてきた。


「ん?レオナルド・アモントン著『魂と魔法』だな」


 マルグリットから借りた魔法の専門書だ。


 俺がこのトーラスの街に来てから三日が経っている。

 その間やる事も無いので、家事を済ませたらマルグリットの家の書庫から勝手に借りた本で魔法の研究をしていた。

 家は大きいが住んでいるのは俺とマルグリットだけなので掃除の手間はほとんど掛からないし、洗濯や食事の洗物も『自在工房ワークショップ』で汚れを取り除いてやればすぐに終わる。料理の方も森の中と違って量を気にせず調味料を使えるので、毎食マルグリットには高評価を貰っていた。料理は前世の一人暮らしの時に色々と研究したから、当然と言えば当然の評価だな。


 大した手間ではないとは言え、俺がこんな事(この家の家事)をする理由は勿論ある。

 この国の国民、どころか人とも認められていない俺は、動きがかなり制限されていると思って良い。

 だから、魔法使い協会の職員であるベックと、この国の国民であるマルグリットを使って暴狼レイジウルフを献上し、俺の意思を伝えてもらっていた訳だ。

 お偉いさん達との折衝ってのは、やはり神経を使うんだろう。マルグリットは、日に日にやつれていっている様にも見えた。

 働かざる者食うべからずでも無いが、そんな風に俺の為に疲れて帰ってきたマルグリットが家事をフェリシアにでも任せてのんびりしている俺を見れば、好感度が駄々下がりになるのは分かりきっている事だ。


 それに、話を大きくする為もあってマルグリットを巻き込んだんだから、少しくらいはいたわってやってもいいだろう。

 なにしろ、俺が一人で暴狼レイジウルフを持って行ったんでは、門前払いされるかもしれない可能性があったからなぁ。

 猟師村の門兵とは違って、こちらは貴族様だ。

 献上品の価値よりも、ゴブリンからの献上品を受け取る事で醜聞になる事を恐れるとしたら、有り得ないとは言えない。

 しかし、魔法使い協会を通じて、マルグリットからの献上と言う形なら、そうはならない筈だ。

 そして、受け取ってしまった以上、俺に対して便宜を図らざるを得なくなる。

 まぁ最悪、辺境伯が献上品を受け取るだけ受け取って便宜を図ってくれないにしても、献上した事実さえあればはったりを利かせる事も可能だからな。

 そう考えての行動だったんだが、夕食の時に聞くマルグリットからの報告では、特にトラブルもなく順調に事は運んでいるようだ。

 残りの暴狼レイジウルフも買い手が決まったみたいなので、マルグリットが忙しいのもあと数日だろう。


 ああ、そう言えば死なせた暴狼レイジウルフだが、アレはその夜の晩飯にした。

 この世界では始めてのまともな調理環境での料理だったので嬉しくなって結構な量の料理を作ってしまったんだが、マルグリットとフェリシアと俺の三人で完食してしまった。

 魔力の高い生き物の肉はそのままでも美味いが、やはり、きちんと料理した方が美味い。

 まぁ、三人(+ゴブリン(マコラ)ロバ(インダラ)ネズミ(クビラ))だけでは中々食いきれないので、そろそろ料理のレパートリーが尽きてきたのだが。


「……面白い?」


 俺が周囲を飛び回るリサを無視して本を読んでいると、リサは焦れた様にそう言った。


「今一。他にも読んで見たけど、言ってる事がばらばらで、どれを信じて良いんだか悪いんだか分かんねぇな」


 ざっと調べた感想だが、魔法に関する研究はまだまだ発展途上っぽい。

 著者がそれぞれ好き勝手に推論を書いているので、どれを信じて良いのか分かったもんじゃあなかった。


「そんなん読む意味無いじゃん!」


 それはそうなんだが……。


「それでも、ナニカ一つくらい、魔法と魔法の道具の作り方のヒントでもあればと思ってなぁ」


「なぁに?レドちゃんってば、魔法の事とか道具の作り方が知りたいの?」


 うん?リサは俺の思考を常時監視してるんじゃないのか?

 だとすると、短時間なら出し抜く事が不可能では無さそうだが……。いや、後でばれると怖いので、やめておこう。


「ああ、分からない事だらけだからな。

 最低限必要だと思う魔法は身に着けたが、できればあと一つ二つ使えるようになりたいし、それに魔法の道具の方も、自分で作れるようになれば格段にやりやすくなる」


「なぁんだ。それなら早く言ってくれればいいのに!

 んー……、一々口で説明するのも面倒だから、経路パス経由で直接記憶を送るね!」


「ちょ!まっ……」


 止める間もなくリサがナニカ(・・・)をして、次の瞬間、俺の意識はブラックアウトした。



 ・



 …………はっ!?


 あれ?俺は一体ナニを?


 たしか、本を読んでいて……、そしてリサと話をして……?


 ああ、そうだ。リサが記憶をどうとか言ってやがったな。


 クソォ、まだ頭の奥がチカチカしやがる。


 リサのヤロウどこへ行った?


 ……いねぇな。太陽が真ん中を通り越して、大分傾いている。結構な時間、意識を失っていたようだ。


 リサは後でとっちめるとして、アイツが言っていた記憶ってのは……。

 うお!?なんだこれ?知らない(・・・・)記憶(・・)がある(・・・)

 魔法の使用、魔法学の講義、魔法の研究、魔法の道具の製造、……等々色々。

 これはもしかして、リサが溜め込んできた今までの契約者の“記憶”か?一人や二人じゃあない、魔法に関する部分だけで十数人分はありそうだ。


 ――ちょっと待て、これが全てリサの記憶ならアイツは一体何歳なんだ?


 ――いや、気にするのはやめておこう。碌な事にしかならなさそうな予感がする。


 そんな事よりも、だ!

 コイツは宝の山だ。

 さすが、娯楽に飢えているフェアリー(リサ)が契約を通して溜め込んだだけあって、この“記憶”の主達はどれも波乱万丈な人生を送るに足る実力を持っていたようだ。

 どの“記憶”から得られる知識もとても刺激的で、恐ろしくぶっ飛んでいる。


 しかし……、ふむ……、これなら……!

 面白い!面白い!!面白い!!!

 どの“記憶”を覗いても魔法式を解読できた奴はいないし、魔法式に書かれた図形の意味も仮説しか立てられていない。

 しかし、膨大な実験結果を知る事で、現象の発現、制御、維持、魔法式のどの部分が何を司り、式や図形がどのような意味を持つか、何と無くだが分かったような気がする。


 『自在工房ワークショップ』に『万能マルチツール』は自分で発現させただけあって完成度が高く、理解もしやすかった。

 たぶん、遺伝子に刻まれた本能に近い部分から生まれたからだろう。

 情報量は多いものの、維持と制御に係わる魔法式は格段と少なく、手を入れられる部分は無さそうだ。


 『精神感染メンタルウィルス』も、同じゴブリンである前の長から奪ったようなものだからか、なんとか理解できなくも無い。

 ただ、予想はしていたのだが、やはり他人の精神に影響を与える魔法ってのは禁忌の魔法だったんだな。呪術の系統として忌み嫌われていて、下手に人に使ってばれるとそれだけで死刑になりかねないようだ。

 ばれないように使えば良いだけだが、対応策もあるようだし、これに頼るのはやめておこう。一応、奥の手としていくつか裏技を使えるようにしておいて、それ以外は現状維持で良いだろう。


 問題は『亜空間倉庫ストレージ』だ。無理やり複写したので、あちこちに粗が目立つ。

 しかし、幸いな事にリサ自身がこの系統の固有魔法を持っているので(契約の時に俺の攻撃を無効化したのもその力だ。次元の位相をずらしていたらしい)、参考にできる“記憶”は山ほどあった。

 リサとは違って素養が無いので同じ事はできないが、改めて組みなおせば格段に効率の良い魔法式になると思う。


 流し込まれた“記憶”の中には、固有魔法と魔法の器の考察もあった。


 そうかこの考え方だと、魔法の器は(ハード)(ディスク)で、固有魔法は単体で(オペレーション)(システム)を持ち、仮想メモリの演算領域まで確保したプログラムって言う風に例える事もできるのか。

 器の大きさはHDの容量、魔力の濃度は演算能力だな。しかも、固有魔法はある程度纏まった領域と形状を確保しなければならないときた。


 なら、OS部分を共有すれば……。

 空間系?物質操作系?呪術系?規格がばらばらすぎるのか?ソレをやると、外部演算装置(魔法使いの杖)が必要になるほどOSが重くなってしまう。

 だから、魔法使いが魔法を使うには杖が必要になるのか。しかし、重複している部分だけでも共有すれば多少は領域が稼げるな。

 新たな固有魔法を追加するのが難しくなるが、“記憶”を覗いても俺以上の魔力を持ったヤツラはそう多くないし、今後、俺が新しい固有魔法を持つだけの魔力を増やせる可能性も少ないと思うので、いっそ全部ひっくるめて組みなおすか?

 固有魔法の情報部分と演算領域部分を分け、魔法の器の一部を中央演算装置化すれば、個々の固有魔法で演算領域を確保する必要は無くなるし、演算能力に特化した部分は高性能になる。

 その分、複数の固有魔法を同時に発動させるのが難しくなるが、魔力の器の大半を占めている『自在工房ワークショップ』と『亜空間倉庫ストレージ』は常時発動するような魔法でもないので大丈夫だろう。


 情報部分に魔力の濃度は必要無いから、魔法の器を階層化し、魔力の薄い階層に移動する。ついでに個々の固有魔法も再構成してスリム化しておこう。

 そして、空いた領域で新たな固有魔法を創造する。


 ――――折角これだけの力を得たんだ、あっさりと死にたくはない。

 しかし、どんな防御手段を用意したって対応策を用意されれば防ぎきれないし、食い物や空気に混ぜられた毒には対応策はとりにくいので、ダメージを受けても極力死なない方向で考える。

 “前任者達の記憶”の中でも、ほとんどの持ち主が同じ様な事を考えていて、色々と対応策を取っていた。

 だが、それぞれ長所と短所があり、やはり一番のネックとなるのは器の容量のようだ。

 俺にしたって、それほど余裕は無い。

 中にはかなりエグイ記憶(・・・・・)もあるが、生き死にが賭かってるんだから、その善悪は俺の判断する事でも無いと思う。

 例えば、SFにあるような体細胞のナノマシン化に似たような実験をしていた“記憶”の持ち主もいるが、結局成功せずに被検体を肉泥にくでいの塊に変えてただけだった。

 成功した例なら、肉体その物を別のモノに変えたり、生命力の強い生き物と同化したりなんて言うのもあったが、こちらは残念ながら俺に適正が無い。


 んー……。

 そもそも死ぬってのは、肉体が生命活動を停止し、魂が肉体を離れるって事だ。なら、体が破損しても魂をつなぎとめ、無理矢理にでも生命活動を続けさせればいい。

 人間(俺はゴブリンだが)の体の中で、脳と心臓以外には機能を停止したら即、死につながると言う器官はない。(内臓破裂なんかで即死する場合は、痛みによるショック死らしい)しかも、心臓は人工のものでも生きていけるし、脳ですら、半分近くを失っても生きている実例がある。

 って事は致命傷を負っても、心臓と脳の機能を何らかの方法で維持しながらダメージを回復してやれば、理論上は死なずに済む筈だ。

 いや?キメラ化した前任者の記憶を見ると、死の認識を変えれば、体細胞が死滅しない限り死んだ事にはならないようにもできるのか?

 難しいようにも思えるが、プラナリアなんてぶつ切りにされてもその全てから再生するんだ。

 転生して死の概念が如何にあやふやか知っている俺なら、そんなに難しく無いだろう。

 後は脳味噌が壊れても記憶が保持できるようにすれば、肉体の再生力が続く限り死なない体にはなれそうだな。

 幸いな事にと言うと少し腹が立つが、記憶に関してはリサとの契約が役に立つ。

 俺とリサを繋ぐ経路パスを応用して、記憶を何かに保存できれば、俺の体内に記憶を保持するよりも安全に保存できるだろう。

 ついでに、ソコに魂の憑代よりしろとでも言うべきモノを仕込んでおけば、この体が消滅しても……、生き残れるかどうかは、さすがに分からんな。

 前任者の記憶を見ても、一から再生した肉体に魂が定着する可能性は、限りなくゼロに近いようだ。

 それでも、やらないよりはましか。

 前任者の記憶を見る限り、魂が取り憑けるような憑代よりしろを作るだけなら何かが失われる訳でも無いようだし、保険はかけて置いても良いだろう。


 死なない様にするのはソレで良いとして、できればもう一つ、固有魔法を身に着けたい。

 俺の持っている固有魔法は、高次錬金系作製魔法の『自在工房ワークショップ』とそこから派生させた魔力操作系念動魔法の『万能マルチツール』、呪術系精神投射魔法の『精神感染メンタルウィルス』と空間操作系亜空間創造魔法の『亜空間倉庫ストレージ』の四つに、今使えるようにしている回復系の再生魔法だけだ。

 つまり、攻撃系の魔法が無い。

 魔法の道具や武器があるので何とか戦えているが、『万能マルチツール』を使っても、身に着けた固有魔法程の自由度は無いんだよなぁ。


 再生魔法の事も考えると、魔法の器にはほとんど余裕が無いので単独では強力な攻撃魔法は無理だ。だが、だからと言ってしょぼい攻撃魔法なんて使えるようになっても意味が無い。

 なので、今ある魔法『自在工房ワークショップ』からの派生と言う形で、新たな魔法を構成する。


 領域が狭ければ動かす力は強く、広ければ弱い。

 他人の領域への強制力が低い代わりに、操作能力は精密に。

 領域を設定して、その内部で魔力や物質を操作、加工できる『自在工房ワークショップ』の魔法から、領域内の空気を動かす魔法を生み出す。


 短くない時間が経ち、完成したのは『肉体再生リジェネレーション』と『風使い(コントロールウインド)』!俺の新たな力だ。


 はっはっはっ!脅されて結んだ契約だが、今だけはリサに感謝しよう!

 

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