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この街の魔法使い協会の本部になっている建物は、マルグリットの家の近くにあった。
どうやらこの区画一帯が、魔法使い達の為に用意された区画らしい。
俺は今、その建物の中の、地下にある練習場に居る。
魔法を失敗しても周囲に被害が出ないように地下に作られたこの練習場は、学校なんかの体育館くらいには広く、中で爆発が起きても壊れないほど丈夫に作られていると言う話だ。
ある程度の広さがあり、回りを高い塀かなにかで囲まれた、あまり人目につかない場所を見つけて欲しいとマルグリットに頼んだんだが、この場所はその条件を十分に満たしていた。
魔法使い協会の本部と言うのも丁度良かった。彼らにも、一度話がしたかった事だしな。
これから起きる事をマルグリットから聞いているのか、二階くらいの高さに作られた観覧室に、マルグリットの他に魔法使いらしき数人の男達が居るのが見える。
本当に、丁度良い。
これから起こる事を見てもらえれば、俺がマルグリットと一緒にいる事の利益を、口にするまでもなく納得してくれるだろう。
安全確認はした。必要な道具の準備もOK。さぁ、始めようか。
魔法の鞄を逆さにして、振る。
本来、魔法の鞄は中に手を入れて、取り出したい物を思い浮かべればそれが取り出せるが、この様にすると中に入っている物が全て、口からあふれ出てくる。
「「「「「ギャン」」」」」
現れたのは、四足の状態でも俺よりも高い位置に頭のあるオオカミ。暴狼が五匹。
コレが、土産の正体だ。
例によって、魔獣寄せの香を使い誘き寄せて捕獲した。
恐狼も怖いが、手っ取り早く金とコネを作るには、コイツらが必要だったんでな。
ありがたい事に、どうやら共食いはしていなかったようだ。
火炎鹿の肉を二匹分、一緒に放り込んで置いたんだが、少し不安だったんだよなぁ。
もっとも、火炎鹿とチンピラ共の死体は欠片も残っていないので、これが明日になってたら一匹くらい減ってたかもしれないが。
鞄から放り出されて、まだ状況が把握できていないだろう暴狼の頭を、俺は白い棍棒でぶん殴っていく。
暴狼の頭に棍棒が当たる瞬間に、『万能ツール』で棍棒に残された魔法式を制御して発動。
余っていた叫兎の骨を、『自在工房』で融合成形した白い棍棒は、本来なら切断力が発生するほどの収束率で放たれる筈の振動波を極力収束率を低くして、暴狼の脳味噌に叩き付けた。
収束率が低くなった結果、接触状態でもなければろくなダメージは発生しないが、上手く当てれば暴狼の脳味噌は、器にマッサージ器を当てた豆腐のようによく揺れる事になる。
普通の生き物なら脳挫傷を起こしかねないが、さすが魔獣だけあって、暴狼は脳震盪で動けなくなるだけだった。
しかし、間に合ったのは三匹。
残りの二匹は混乱から回復して、俺に襲い掛かる。
逃げ回られないのは助かるが二匹同時は辛い。いつもなら一匹づつなのに、危険な時には共闘するのかコイツラ?
仕方が無いので一匹は殺すか。
このままだと動けない三匹も巻き込みかねないので、距離をとろう。
暴狼の骨と皮で作られた蛮族鎧に『万能ツール』で魔力を流して魔法式を発動。瞬間移動にも近い加速で十メートルほど移動する。
暴狼共も、固有魔法で加速して俺に追いすがる。
だから二匹同時は辛いんだってぇの!
左手で切裂き兎の小剣を引き抜いて、『万能ツール』で魔力を流し強化発動!収束されて刃となった振動波によって、目の前の暴狼は二つなって地に落ちた。
最後の一匹が俺に襲い掛かるが、一匹だったら怖くは無い。
カウンターで頭に棍棒を叩き込み、コイツも失神させる。
後は用意してもらっておいた丈夫な檻に暴狼を一匹ずつ放り込み、棍棒と開きになった暴狼を魔法の鞄につっこんだ。
残ったのは暴狼の血痕と、火炎鹿と人間数人分の成れの果て。
掃除をするヤツには、すまないという気がしないでも無い。
「終わったんで、開けてくれないか?」
練習場の扉を指しながら、観覧室で今の戦いを見て、呆然としている男達に声をかける。
「あ、ああ。少し待ってくれ」
慌しく動き出した男達が部屋を出て行った後、こちらを見ているマルグリットに軽く手を上げててやると、微笑んで手を振り替えしてきた。
・
「ほ、本当にいいのかね?」
今回の諸々を任されたらしい協会職員の男は、まるで宝くじにでも当たったかのように嬉々としている。
最初に挨拶した時の、厄介事を押し付けられたとでも言うような表情とは大違いだ。
コノ変化も当然と言えば当然ではある。
なにしろ檻の中の暴狼を一匹、魔法使い協会に寄付すると言うんだからな。
この男、……たしかベックとか言ったな。
ベックにしてみれば、協会員の恩人とは言え、たかがゴブリンの頼みを聞き、教会の施設を貸し、その責任まで負わなければならない自分の運の悪さを、最初は呪ったんだろう。
貸してもらう時に「広い場所が必要なら、郊外に出れば良いじゃないか」とも愚痴っていたが、練習場を貸してみれば、俺が鞄から取り出したのは生きている魔獣だ。
こんな物が外で開放されて、その犯人が協会会員の関係者だと知れたら確実に大騒ぎになる。
渋々ながらも練習場を貸したのは正解だったと思い知った筈だ。
そして事が終わってみれば、王子様への贈り物にも選ばれるような代物を、ゴブリンは協会に寄付してくれると言う。
勿論、協会への寄付なのでベックがどうこうできる物ではないのだが、ベックの責任で取り仕切った話からでた寄付なので、しばらくは教会内で鼻を高くしていられるに違いない。
「俺がマルグリットの世話になるって事は、間接的にこちらの協会にも世話になるって事だ。
これからも色々と迷惑をかけるかもしれないんで、その分の手間賃も含まれていると思ってくれると嬉しいね」
「そ、それでニグレド君。残った魔獣はどうするんだい?」
さっきまで自分とは関係ないと持っていた高価な品でも、自分の属する組織に一つが送られるとなれば、残りの行き先にも興味が出てくるか。
手間が省けたな。
「残りの三頭のうち一頭は、トーラス辺境伯に献上しようかと思っている。
残りの二頭はどこかで買い取ってもらうつもりだ」
買い取っては貰うんだが、上手く行ったら買い手の紹介も、辺境伯にして貰おうかと思っていた。
政治の世界は良く分からないんだが、高価な商品を仲介するって事はそれなりに恩を売る事ができると思うので、辺境伯にとっても悪いは話ではない筈だ。
勿論、三匹とも辺境伯に買い取ってもらっても、構わないんだがな。
「そうか……」
何が「そうか」なんだか。
もしかして、売られる二匹のうち一匹を買おうかとでも思っているのか?
んな無茶な、たぶん目の飛び出るような高額に……。いや、コイツが金を持っていないとは限らないし、ベック自身が持ってなくても実家やパトロンが金を持っていたら買う事もできるわなぁ。
あ、しまった。
それ以前に、この情報自体が十分価値があるんだよ。
知り合いに金持ちや貴族がいれば、話を持っていくだけで小銭くらいは稼げるだろう。
……まぁいいか。いらん事を話したのは俺のミスだし、この男がどう立ち回るか知らないが、それで儲けたんならコイツの才覚だ。今更口止めするのは野暮ってもんだろう。
それに、これから少し働いてもらう給料だと思えば、腹も立たない。
「で、早速面倒をかける事になるんだが、いいか?」
そう、話を持ちかけると、ベックが嫌な予感でも感じたのか身を引いた。
「な、なにかな?」
「魔法使い協会の伝手で、トーラス辺境伯にコイツを献上してくれないか?」
「……はぁ!?」




