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同族殺しはすでに経験済みだが、人間を殺しても何の感慨も浮かばないか。
前の、人間だった頃から多少倫理観が他人からずれていた自覚はあるが、やはり“人殺し”をしたからと言って、何らかのストレスを感じるような事は無いようだ。
これが、自分にとって大切な相手なら喪失感や暗い悦びもあるんだろうが、今回は俺を襲ってきた相手だからなぁ。溜まったゴミを掃除した時と同じような爽快感しか感じられない。
いや別に、他人の命をなんとも思ってない訳じゃあないんだ。失われれば二度と取り戻す事の出来ないモノである以上、命の価値は等しく尊いと言える。
ただ何故、草木を刈り、虫を駆除し、動物を殺処分するのと同じレベルで人を殺していけないのかが理解できないだけだ。
まともなヤツラは、草木や動物など様々な生き物と人間の間に明確な違いがあると言うけれど、俺にはソレが良く分からない。
勿論、倫理的な話や道徳的な話は知識として理解できる。
人間社会で暮らす以上、他人の権利は尊重されなければならないし、殺人や傷害は放置すれば社会が崩壊するので許されない行為だ。
安心して暮らせる安全な生活の為には、不愉快な隣人とも仲良く暮らす必要もあるだろう。
しかし、だからと言って、景観を損ねるという理由で草木を刈り、ただ不快だという理由で虫を駆除し、襲われる可能性があると言うだけで動物を殺す人間が、宗教だの人権だので人の生き死にの善悪を問うのが不思議でならない。
交通法規に従って車の運転をしていたのに、暴走行為をする馬鹿が勝手に突っ込んできて馬鹿が死んでも、車の運転手に罪は無いだろう?
無差別に殺人を犯すのは論外だが、身を守った結果として死なせるのは仕方が無いだろう?
戦場で兵士が民間人を殺すのは褒められた事じゃないが、敵兵を殺すのは褒められるべきだろう?(そもそも戦場に民間人が居るのが悪いし、民間人が居るような場所を戦場にするヤツラが悪いのであって、命令されて戦っているだけの兵士が責められるべきではないはずだ。勿論、略奪の為や力の誇示の為に民間人を殺すってのなら論外だが)
草木だって、動物だって、虫だって、自分達のルールに従って生きている。
それを理解しようとせず、人間のルールにそぐわないと言うだけで排除するのに、ただ人を殺したと言うだけでレッテルを貼り、ただ人を殺したと言うだけで自責の念を持つのは何故なんだろう?
それが正しかったり、必要なら、人を殺しても良いと思うんだけどねぇ。
もっとも、頭の中でどう思っていたところで、実際に殺ってみたらどうなるか分からなかったんだが、やはりと言うかなんと言うか、結果はご覧の通りだ。
まぁ、倫理や道徳なんて、時代や地域や立場でコロコロと変わる物だから気にする必要も無いか。
さて、この死体の処理はどうしよう?
放っておいてもまずいよなぁ。
食っちまうか?しかし、俺とマコラとクビラとインダラ、ゴブリン二人とラバとネズミでは流石に大人の男五人は食いきれない。
……ああ、そうだ。残ったらお土産の餌にするか。
いい加減腹を空かせているだろうし、明日にはトーラスの街に着くから最後の晩餐って訳でも無いが、腹一杯喰わしてやっても良いだろう。
「危なかったわねー」
バラしながらチンピラを食っていると、リサが声をかけてきた。そう言えば、コイツにも聞かなきゃならない事があったよなぁ。
「そう見えたか?」
「……もう、クロちゃんてば強すぎ!せっかく盗賊が襲ってくる事教えてあげたのに、その場で迎え撃っちゃうんだもん」
「相手があの程度ならな。ところでリサは、こんな街道から外れた場所に居た俺を、どうやって見つけたんだ?」
チンピラの話していた女がコイツラ以外にも俺の事を話していないとは限らないのでココは早く逃げたほうが良いんだが、それよりも先に、リサがこの件にどうかかわっているのかを確認しないとマズイ。
まだ、リサがチンピラ共と同じ側ではないと確定した訳じゃないからな。
「えぇ~とその~、魔法で?」
「そんな便利な魔法があるのに、盗賊が攻撃するまで気が付かなかったのか?」
冷静になって考えれば、マコラは感知していた可能性がある。だからこそ、俺に向かって射られた矢を叩き落せたのだろう。
俺に警告できなかったのは、リサが居たからだと考えれば不思議ではない。
しかし盗賊が来ると自分で言ったのに、リサがそちらを注意していなかったのはおかしな話だ。
「それは……。悪かったと思ってるわよ!あの時は、逃げる事ばかり考えてたから魔法を使ってなかったの!」
リサの今までの言動を考えると、“天然”とか“お馬鹿”とかの類のような気がしないでも無いが、どうも腑に落ちないんだよなぁ。
「だが、盗賊が来るって分かってたんだろう?それに、お前みたいにうっすらと光ってる奴が俺の方に飛んできたら良い目印じゃないか?」
「もう!なによぅ!なんなわけぇ?アタシが嘘言ってるって言うのぉ!?」
問い詰めていったら、とうとうリサが逆切れしだした。リサが本当の事を言っているとしたら悪いんだが、もう少しだけ付き合ってもらおう。
どうにも、リサの言動には信用が置けない。
「そもそも、いきなり現れた相手の言う事なんか、真に受ける訳が無いだろう」
さぁ、どうでる?
「なによなによなによぉ!今までの人たちはみぃーんな信じてくれたもん!」
うん?どっちの意味だ?
「……つまり、今までにもこんな事を、何度もやってきたんだな?」
襲われそうな人を助けてまわったのか?それとも、チンピラを言いくるめて旅人を襲わせてきたのか?
「きちんと、最後には幸せにしてあげたからいいじゃない!」
最後には幸せにしてあげた?なんだか分からんが、どうやらコイツが裏でナニかしらの糸を引いてやがったのは間違いないようだ。
「マコラ!捕まえろ!!」
って早えぇ。
俺も一緒になって追いかけっこに参加するが、リサは一向に捕まらない。
マコラが焦れたのか、『隠形』を解いて全力で追い掛け回しても、俺が『亜空間倉庫』の亜空間ゲートを逃げる先に開いても、ヒラヒラと器用に避け、かわし、逃げ続ける。
しかし、こいつは何故、空に逃げない?逃げ回るだけで、逃げ出そうとしないのは何故だ?
それに、マコラが姿を現しても、『亜空間倉庫』でゲートを発生させても、驚きもせずに逃げ回れるのは何故だ?
もしかしたら……。
「リサ、お前がこの一件の黒幕か?」
俺の言葉にリサが動きを止める。
俺も足を止め、マコラにも手を上げて動きを制した。
このままじゃ埒があかないから、攻め方を変えよう。
「……あれ?もしかして、バレてなかったの?」
ああ、コイツはコイツで、全部ばれたのかと思ってたのか。
しかし、だったら何故、逃げない?いや、どこまでばれたか分からないから逃げ回っていたのか?って事は、まだなにか裏があるって事なのか?
……分からん。少し、話をしてみるか。
「いや?最初からおかしいとは思ってたぞ?
そもそも、アイツラが俺の事を知っているのがおかしいし、俺の事を調べる事ができるようなヤツラが、俺がろくに金を持っていない事を知らないのもおかしい。
それに、ゴブリンとは言え群れ狼を素手で捕まえるような相手に、チンピラが六人で戦いを挑もうってのは無理があるだろう。
と言う事は、チンピラ共はそれを知らなかった可能性が高い。なのにお前は知っていた。何故だ?」
「あちゃー!やっぱり、アノ人達にアナタの事を詳しく教えなかったのは失敗だったかぁー」
なんだか楽しそうだな。もしかしたら、俺の方が試されてるのか?
「更に言うと、マコラが姿を現しても俺が魔法を使っても、お前は少しも驚かなかったな?ソレも事前に知っていたかのように。
いや、知っていたんだろう?猟師村の外で見てたんだよなぁ?」
「あれぇ?怒っちゃったぁ?」
反応が芳しくないな。いったいはコイツは何がしたい?こうなったら、手を変えるか。
「少しは、な。
それ以上に色々と知っているお前を生かしておくと後で面倒な事になりそうなんで、今ココで死んでくれ」
さて、どう出る?疑問は残るが、オマエがコレを計画したというのなら、このまま死んでくれても構わない。
「やっだぁ。それ無理!」
「うるせぇ!!」
切裂き兎の小剣を抜いて、『万能ツール』で魔法の力を強化発動!今回は収束を甘くして効果範囲を広くする。
さっきの追いかけっこでお前のすばやさは分かっている、線の攻撃では避けらるかも知れないが面の攻撃ではどうだ?
しかし、リサは避けようともせず衝撃波に身を任せ、くらった後も平然と飛んでいた。
「だからぁ、無理だっていってるでしょ?アナタじゃアタシを殺せないよ?」
「クソがぁ!」
だったら、今度は極限まで収束して音の錐と化した衝撃波でどうだ?高周波振動させた刃の直接攻撃は?『亜空間倉庫』から取り出した火炎十字槍は?魔法式マシンガンの連射は?
「満足した?」
「……クソ。何で効かない?感知の指輪はお前がそこに居ると示しているのに、どんな攻撃もお前を通り抜けやがる」
亜空間に閉じ込めようとしたのに、『亜空間倉庫』のゲートすら素通りしやがった。
「教えてあげなーい!でもぉ一つだけヒントをあげる。アタシはきちんとここに居るわよ?」
つまり、指輪の感知能力を誤魔化せるほどの幻覚や幻像の類ではないって事か?『物質透過』とか、『非実体化』とかって固有魔法だったりしないだろうな?そんならお手上げだぞ。
「その言葉が本当だって保障は?」
「そんなの無いよ?でも、アタシは本当だって言っとくね」
「っは!もういい、分かった、降参だ。好きにしてくれ」
攻撃手段は一通り試して効果がないのが分かった。なら戦うのは時間の無駄だ。
だから、次の手を考える為にも情報をよこせ。
「あれ?もう終わり?」
「終わりだ、終わり!大体、オマエはナニがしたいんだ!?」
こんな面倒な事をして、コイツは一体ナニがしたいんだ?
「ん~~。暇つぶし?」
「あ゛?」
「アタシ達フェアリーってぇ、退屈が大っ嫌いなの。
だからね?面白そうな人を見つけたら、憑いて行く事にしてるの!」
「それに今回選ばれたのが、俺って訳かい」
ははは、ナニがしたいか分からない訳だ。ただ、俺の反応を見て、楽しんでただけかよ。
ああ、徒労感が酷い。どっと疲れた。
「せいかーい!ピンチの時に助けたら、仲良くなれるでしょ?」
なんてぇマッチポンプだ。
はた迷惑な生き物だな、フェアリーってヤツは。
「でもぉ、本当ならもっと仲良くなるはずだったんだよ?クロちゃんが悪いんだからね?」
うるさいよ。あんなザルな計画にハマってたまるか!
「クロちゃんはやめろ。俺の名前はニグレドだ」
「んじゃ、レドちゃん!って事でレドちゃん!“契約”しよ?」




