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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第三章 契約
29/100

3-6


 気持ちよく寝入っていた所を、脛を襲う激痛にたたき起こされた。

 悲鳴を飲み込んで目を覚ますと、辺りには誰も居ないのに足を踏まれている感触がある。


 マコラか?

 たしかにマコラには、なにかあったら起こせと寝る前に『亜空間倉庫ストレージ』から出して、姿を消させて寝ずの番をさせていたが、それならもう少し穏便な起こし方をしても良かったんじゃないのか?

 と、思ってマコラに声をかけようとした時に、虫の羽音のような音が近づいてくるのに気がついた。

 かなり早い。

 そして羽音の主は、警戒をしようとする間もなく俺の目の前に現れた。


「たいへんたいへんたいへーん!」


 うっすらと輝く人影が、光の尾を引いて宙を飛んでいる。

 羽音は近いのに人影が小さいままなので最初は遠近感が狂ったような感覚に襲われたが、すぐにコイツが小さいのだと気が付いた。

 体長三十センチほどの、背には薄いガラス細工のような羽を羽ばたかせた女の子が、俺の目の前で空中停止した。


「大変なんだってばぁ!!」


 呆然と目の前の女の子を見ている俺に我慢できなかったのか、女の子が大きな声を上げた。


「いや、大変なのは分かったから、何が大変なのか教えてくれ」 


「あっ。……そ、そうね。もうすぐアナタを狙って盗賊が来るの、だから逃げて!」


 俺を狙って?


「心当たりは無いが、忠告に従って逃げる準備はした方が良さそうだな。

 ところで、君は誰だ?そして、何で俺が襲われる事を知っている?」


 とても胡散臭いのだが、自分の損にならない忠告には従った方が良い。

 悪戯だとしても徒労になるだけだが、本当だったら命にかかわる。


「アタシはリサ!宿場町の宿屋で、たまたま盗賊の人達が話してるの聞いちゃったの!」


「ほう、そうかい。たったそれだけで、見ず知らずの俺に襲われる事を教えてくれたのか?」


「えぇ~~?襲われそうな人がいたら、助けるのが普通でしょ?」


 その言葉が本当だったら嬉しいんだがねぇ。

 五分の一サイズとは言え、ツインテールの小悪魔系美少女に親切にされるなんて、前世も含めて今までに一度も体験した事がなかったからな。


「ありがたいね。ところで、ソイツラはどんな風に話してたか覚えていないか?俺の事とか、ソイツラの狙いとか」


「ンとねぇ。黒いゴブリンが、大金を持ってこの辺りに居るらしいって話してたの!アナタ、群れ狼(ハードウルフ)を素手で捕まえたんだって?すごいわね!」


「なるほどねぇ」


 それは、おかしな話だ。

 盗賊はどうやって俺の事を知った?俺は結構なペースで一直線にトーラスの街を目指している。

 追い越された覚えは無いから、伝書鳩か通信用の魔法の道具でも持っていなければ、俺より西にいる連中が俺の事を知る事は出来ない筈だ。

 それに、この辺りに居ると断言できるのもおかしい。

 群れ狼(ハードウルフ)の事を知っているのなら、猟師村で俺の事を知った筈だ。

 なのに、俺が砦で宿を取らず、素通りしてここまで来た事をなぜ知っている?

 諸々の問題を解決したとしても、猟師村で俺の事を探り、何らかの通信方法で俺が砦を通過した事を知り、俺の現在地の予想まで出来るやつらが何故、俺が大金を持っていると思う?

 それだけの事ができる組織が、俺が群れ狼(ハードウルフ)を売った金で色々と買い込み、街で一月も暮らせばなくなる程度の金しか持っていないと調べられない筈が無いだろう。

 そしてなにより、リサはどうやって俺を見つけた?

 魔法の力だと言われると反論できないが、やはりこの女は信用しない方が良さそうだ。


 しかし、そうなると、コイツの狙いは何だ?

 逃げる方向を誘導して罠にかける?それとも、逃げた先で安心した所をだまし討ち?それとも単なる悪戯?それとも…………。

 考えれば考えただけ、選択肢が増えていく。

 手遅れにならない内にコイツを殺して逃げてしまえば簡単なんだが、もしコイツの言っている事が本当だった場合、俺は自分を助けようとしてくれた女の子を殺す事になる。

 敵や邪魔なヤツラを排除するのに躊躇う気は無いが、味方や善意で行動する人達まで殺すのは流石に少し気が引ける。

 必要ならともかく、勘違いでは傷つけたくも無いなぁ。


「もう!早く逃げないと盗賊たちが来ちゃうわよ!?」 


 おっと、迷っている間にタイムオーバーになるのは間抜けすぎる。

 貴族の私兵を一蹴した恐狼ダイアウルフを食った今の俺なら盗賊程度に負けるとも思わないが、油断して痛い目を見るのもいやだ。


 しかし、手早く荷物をまとめてインダラの背中に乗せていると、背後で鋭く風を切る音と乾いた木を叩き合わせるような音が四つ交錯した。

 音のした辺りを見ると、地面に折れた矢が落ちている。盗賊に射かけられた矢を、マコラが叩き落したようだ。


「きゃ!」


 リサが悲鳴を上げて俺のマントの中に飛び込む。信頼できない相手を懐に入れるというのは凄く不安になるんだが、追い出している暇は無い。

 今は襲ってくる相手の方を対処しよう。


 参ったね。

 のんびりしすぎたかな?つい考え込んでしまうのは俺の悪い癖だとわかってはいるんだが、こう言う時には最悪の結果を導き出してくれるなぁ。


「おーーい!いきなり何をしやがるんだぁ?」


「ちょ!なにしてんのよぉ!相手は盗賊なのよぉ?」


「まぁまかせろ。相手が弓を使う以上、今更逃げても逃げ切れねぇよ」


 胸元からリサが文句を言うので黙らせる。

 黙殺していると、どう動くか分からんからな、コイツは。


 感知の指輪に『万能マルチツール』で魔力を流し込み、強化発動させると、半径百メートルほどの範囲の生き物の気配が手に取るように分かる。

 分かる範囲で相手は六人、内四人が弓を構えていた。結構近づかれているな。矢を防いでくれたのは助かったが、こんなに近づかれるまでマコラの奴はナニをやっていたんだか。


 挙動不審にならないように辺りを見回すと、中空に黒い瞳だけが浮いていた。目の周りだけ『隠形ハイディング』を解いたのか?器用な真似をするなぁ。

 まぁいいや、『精神感染メンタルウィルス』で指令を送ろう。


 ――お前はインダラを守れ。盗賊を狩れても足が無くなったら意味が無い。


 指示を受け取った合図なのか、瞳が僅かに縦に揺れて消える。これで後ろの心配は必要無いだろう。


「おーーい!聞いてんのかぁ?」


 近寄ってさらに声をかけると、やつらに動揺が走った。構えている弓を下ろし、指示を仰ぐように中央の人影に顔を向ける。


「おい、金と荷物置いて消えろ。そうしたら、命だけは取らないでいてやる」


 ふぅん、中々良心的じゃないの。ぬるくてありがたいなぁ。お陰で付け入る隙がある。


 しかし、これで盗賊だって事は確定か。

 もしかしたら、懐のコイツを狙っている追っ手って可能性も考えたんだけどねぇ。少なくとも、リサが自分を狙っている相手を俺に押し付けようとしたんでは無いようだ。

 だが、まだリサとこいつらがグルって言う可能性は残っている。

 思ったように動かない俺を、追い立てる為に弓を撃ったとしたら、リサが居るのに攻撃した理由としておかしくはない。

 もう少し聞きたいことはあるんだけど、六人も要らないんだよねぇ。


 ……間引くか。


「そいつは、困った、なぁ!」


 跳び上がって、さらに魔法の靴の力を使って多段ジャンプ。下を見ると、感知の指輪で見つける事のできた六人全員が見下ろせた。


「なにぃ?!」


 俺の行動に盗賊共が驚きの声を上げる。

 とっさに攻撃できない所を見ても戦い慣れしてないのが分かるんだが、本当にこいつら盗賊なのか?まぁ少なくとも、矢を射掛けた上に金と荷物を要求してきたんだから、殺しても問題は無いだろう。

 空中で切裂き兎(リパーラビット)の小剣を抜き、『万能マルチツール』で音の刃を強化発動!共鳴干渉によって切断力が発生した超音波が空中を駆け抜け、先ほど俺に消えろと言った中央の盗賊以外の盗賊共の頭を割る。


「が」「げひぃ」「ごぁ」「ぎぃぃ」「ぐへ」


 と、五つの悲鳴が上がったところでまだ生きている盗賊の背後に着地。切裂き兎(リパーラビット)の小剣を首筋に当てる。


「死にたくなかったら、正直に答えろ」


「わ、わかった!」


「何で俺を襲った?」


「この辺りに大金を持った黒いゴブリンが居るって話を聞いたんで、仲間を集めて狩にきたんだ」


 狩に?


「お前ら、盗賊じゃないのか?」


「ち、違う!この先の宿場町で少しばっかり悪さはしてるが、お尋ねもんなんかじゃねぇ!」


 話が違う……、が、ゴブリンとは言え金を持っている相手を襲う計画を話していれば、盗賊とチンピラの区別は付かないかもしれないよなぁ。


「んじゃ、俺の話を誰から聞いた?」


「見た事も無いようないい女だ。酒場で酒を飲んでる時に声をかけられて、あんたの事を教えてもらった」


 見た事も無いようないい女?そんなものに襲われる……。

 ん?まさか、ダークエルフって事はないよな?俺が人間の街に行こうとしているから暗殺対象になったとか、そんな馬鹿な話では無いと信じたい。


「その女の見た目は?」


「あ、あれ?よく思い出せねえ」


 ちっ。魔法かなにかで記憶の操作でもされたのか?

 コレ以上聞いたところでろくな答えが出てきそうにないな。最悪、その女に操作された偽の記憶を話されて、それを基にして動いた結果、己の首を絞める事にもなりかねない。


「お前達以外に俺の事を知っているヤツラはいるのか?」


「あの女が誰に話したか知らないが、他に話してなければ俺たち以外にあんたの事を知っているやつはいないはずだ」


「そうか」


 んじゃ、コイツを始末すればこの事を知っている奴らはいなくなる訳だ。


「げふ。な、なんで?聞かれた事には答えたのに……」


「答えたから、だよ。

 べつに、答えたら殺さないとは言ってないだろ?死にたくないってオマエが思ったところで、俺には関係ないしな」


 盗賊で無ければ殺す必要は無かったんだが、他の五人を殺した以上、目撃者は残したくない。

 恨むんなら、オマエ達の事を盗賊だと言ったリサを恨んでくれ。


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