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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第三章 契約
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3-1


 久しぶりに森の外に出ると、見渡す限りの草原に大きな開放感を感じた。

 森の外に出るのはこれで三度目だが、一度目は酷く混乱したまま森の中に入り、二度目はマルグリットを送り届ける為だけだったのですぐに森に戻ってしまった。


 しかし、今回は違う。これから俺は森を出て、人間が住む街に行く事になる。

 ゲームで言えば、やっとチュートリアルが終わたって所かな?

 今までが楽だったって訳じゃあないんだが、多少ミスっても取り返しはついた。

 しかし、これからはちょっとした事で致命的な事になりかねない。

 なにしろ今の俺は被差別種族のゴブリンだ。

 しかも、他のゴブリンと違って肌の色が黒いので簡単に見分けが付いてしまう。

 この国の情報伝達速度がどれくらいかは分からないが、事件でも起こして手配書が出回れば、二度とこの国に入る事ができなくなる確率が高いだろう。

 それに、前世の記憶が主体になっている今の俺からすればゴブリンより人間の方に親しみがあると言っても、生まれ変わって妖魔として蔑まれているゴブリンになった俺が易々と人間に受け入れられるとは思えない。

 最悪、ただ道を歩いていたと言う理由で殺される可能性だってある。

 ……それでも、森の片隅でくすぶっているよりかは遥かにましなんだよなぁ。

 蒼の森の片隅で周囲の顔色を見ながら細々と生きていたって、大きな災厄に巻き込まれたら簡単に終わりだ。

 今の俺の力ならよほどの事が無い限り生き延びられるかも知れないが、それ以上の力を持っているヤツだって五万と居るだろう。

 実際、恐狼ダイアウルフの一件ではぎりぎりで生き延びる事が出来たが、次に似たような出来事があったらどうなるか分かったもんじゃない。

 何処にいたって死ぬ時は死ぬんだ。なら、より楽しめる選択肢を選んだ方が良い。

 森の中での生活もそんなに悪くはなかったが、こんな面白そうな世界なのに森の中で一生を終えるのはつまらない。

 出来れば世界中を引っ掻き回すような、そんな大冒険をしたいもんだ。


 それに、ある意味人間の街の方が森の中より安全でもある。

 あちらこちらと伝手を作り、周囲に対しての俺の存在価値を高めていけば、俺に生きていて欲しい連中は勝手に助けてくれるし、権力者に貸しを作って必要な時に力を借りる事もできる。

 ……それだけの影響力がもてれば、だけどな。


 まぁ、なんとかなるさ。

 マルグリットとイルメラから得た情報では、この辺りの国は近代以前のヨーロッパと同程度の文明レベルのようだ。

 ある程度社会が出来ているのなら、そのわくの中に入り込んでしまえば逆に排斥されにくい。

 となると、最初にやらなければいけないのは“立場”を得る事からだな。

 幸いその取っ掛かりはすでにある。

 あの時は見捨てる選択肢も頭に浮かべたが、やはりマルグリットを助けてよかった。

 “魔法使い”がこの世界ではどの程度のステータスになるのかは分からないが、協会が存在していてそこに所属していると言うだけでもある程度の影響力が期待できる。

 いや、貴族との取引もあるようだから、影響力は低くない筈だ。

 そうなって来ると逆に下手を打つのが怖いが、土産(・・)もあるので余程まずい手を打たない限り大丈夫だろう。


 問題は、マルグリットとの信頼関係がまだ破綻してないかどうかなんだが……。

 マルグリットと別れてから二月と少しくらいか?

 思ったよりも時間がかかったよなぁ。予定では一月もあれば、必要な実験を終えて人間の街に行ける筈だったんだが……。予定は未定とはよく言ったもんだ。

 ついでに余計な物(ゴブリンの集落)まで背負い込んじまったし……。

 まぁ、人生は万事塞翁が馬。何が後の助けになるかは分からないし、手持ちの駒は多いに越した事は無い。

 ……足さえ引っ張られなければな。


 いかんいかん、妙にネガティブになっているな。

 緊張しているのか?

 準備は万端!とまでは言わないが、保存の利かないナマモノ(・・・・)もあるので後戻りをしている余裕は無い。

 目指すはマルグリットと別れた猟師村。ソコで旅の準備をしよう。



 ・



「止まれ!!!」


 と俺に向かって叫んだのは、村の入り口に立っていた兵士だ。

 子供と言っていいほどの背丈を骨と革で作った全身鎧で包んだ不審人物が、自分よりも大きなオオカミを担いで全力疾走してくれば、兵士が槍を構えて声を荒立てるのも当然ではある。


「貴様、何者だ!」


 十メートルほど距離をおいて足を止めた俺に、兵士が聞いてきた。

 指示に従えば攻撃はしてこないのか、交渉の余地があるのはありがたいな。

 最悪、問答無用で攻撃される可能性も考えていたが、これなら何とかなりそうだ。


「俺の名はニグレド。しばらく前にトレットン子爵の一行からはぐれた魔法使いがこの村に来た筈だが、俺はその魔法使いを助けたゴブリンだ」


 そう言いつつ、俺の頭よりでかい暴狼レイジウルフの頭蓋骨で作ったフルフェイスヘルムを跳ね上げる。


「!?」


 俺の言葉と兜の下から現れた黒い肌の悪鬼面のどちらに驚いたのかは分からないが、絶句した兵士はしばらく考えてから口を開いた。


「その助けた魔法使いの名は?」


「マルグリット」


 質問に即答すると、兵士が苦い顔で槍を引く。心情としては、「面倒だが、その名前を知っている以上追い返す事もできない」と言った所かな?


「何の目的があってこの村へ来た?」


「俺の用事もケリがついたんでね。マルグリットに会う為にトーラスの街に行こうと思うんだが、ここでその準備をしようと思ってね」


「準備だと?」


「一応マルグリットが身分を保証するって書類を書いてもらったんだけれど、コイツがどれだけ人の街で通用するのかあまり信用が置けなくてねぇ。

 それでもマルグリットを送ってきたこの村なら少しは効果が有るだろうと思って、先ずはココに来たのさ」


 それ以外の目的もあるのだが、ここで言ってしまうと中に入れてもらえなくなるので口にはしない。


「……ふぅむ。で、その背中のオオカミは?」


 槍を突きつけられても友好的に話したおかげか、兵士の態度は次第に軟らかくなってきた。

 あと一押しって所かな?


「金に換えようと思って捕まえてきた。群れ狼(ハードウルフ)だが、まだ生きているから俺からでも買ってくれるヤツは居るだろ」


 実の所、俺には手持ちの素材を金に買える方法が無い。と言うか、手持ちの金を使ってもゴブリンである俺に人間が物を売ってくれる保障すらなかった。

 金さえ本物ならば、ゴブリンにでも物を売ってくれるはずだと期待するのは少し虫のいい考えだろう。

 サルが金を持ってきたからって、食い物を渡す人間が居ないのと一緒だ。

 ……買い物をするペットなんて話もあった気もするが、それは例外としてくれ。


 って事で、俺の価値を人間達に示す方法を考えた結果がこれだ。

 トレットン子爵とやらが生きたままの暴狼レイジウルフを必要とした事から、生きている魔獣の価値はかなり高い事が伺える。

 俺を殺して奪おうにも、戦っている最中に魔獣が死んでしまっては意味が無い。

 欲しければ、俺と交渉して買うしかなくなる訳だ。

 ちなみに、手持ちの金ってのはトレットン子爵一行の荷物にあった財布から頂戴したものだ。

 しかし、これを使おうとすると金の出所を疑われても面倒だし、何より殺されて奪われる可能性もある。

 まぁ、戦って負けるとは思わないんだが、その過程で人間を傷つければゲームオーバーだ。

 人間を害した野生生物は駆除されるだろう。

 情報が外に洩れないうちにこの村の住人を皆殺しにすればやり直しができなくも無いが、馬でも使って四方八方に逃げられたら流石に追いつけない。


群れ狼(ハードウルフ)だと!?……本当にそいつはまだ生きているのか?」


 兵士が驚きの声を上げる。やはり、生きている魔獣の価値は高いようだ。


「なんども言わせるな、この通り死んじゃいないよ。暴れるたびに絞め落としているから、少しばかり活きは悪くなっているけどな」


 担いだ群れ狼(ハードウルフ)を軽くゆすってやると、群れ狼(ハードウルフ)は弱々しく呻く。動物を痛めつけるのはあまり趣味じゃあないんだが、こうでもしないと捕まえていられないんで勘弁してくれ。


「……っく。着いて来い」


 しばらくの沈黙の後、兵士が苦々しくそう言った。


 よし!第一関門突破。適当にあしらわれて追い返される可能性もあったが、森の外周に生息する程度の魔獣でも、取引材料としては十分な手札カードだったようだ。


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