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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第二章 萌芽
20/100

2-7


 新しく固有魔法を覚える前に、すこし魔力と魔法の関係をおさらいしよう。


 大雑把に魔力と呼んでいるが分類すると、俺の持つ全ての魔力である総魔力と魔法を覚える為に必要な器としての魔力、そして魔法の燃料として使用可能な魔力の三つに分けられると言う話だ。

 総魔力は鍛錬や魔獣を食う事で上昇し、高ければ高いほど、身体能力の上昇や生命力の強化などの様々な恩恵を得られるのだが、これは実感が得られているので解り易い。

 魔力の器は俺の感覚的な命名だ。マルグリットの説明では、ノーマンだったかノイマンの“座”と呼ばれていたが、意味としては大きく間違ってはいないだろう。

 燃料としての魔力は、『万能マルチツール』を使って魔法の道具や魔獣の素材に魔力を供給し続けると、体力や精神力とは違う、体内のエネルギー的な“ナニカ”が失われていくのが分かるので、これも一応認識できる。

 どの魔力も目には見えないし、魔法以外の方法では感知する事はできないらしく、本来ならこの三つの魔力を感じ取る事が、魔法使いの最初の修行なんだそうだ。

 ここまではマルグリットの話でも聞けた事なのだが、ゴブリンに固有魔法を与えたり、一号に『自在工房ワークショップ』のフィールド内で魔法を使わせたりした結果、一つ仮説が見えてきた。


 固有魔法を覚えるに当たって問題視してきたのは魔力の器の容量だけだったのだが、総魔力そのものも関係してくるのではないか?と言う事だ。

 正確には総魔力と言うよりも、“魔力の濃度”だな。

 例えば、総魔力10で容量10の器なら魔力濃度は1、総魔力10で容量1の器なら魔力濃度は10といった感じになるのかな?

 容量が少なければ複数の固有魔法は覚えられないし、逆に魔力濃度が低く固有魔法の必要濃度に足りていないのに魔法を覚えれば他の部分に不具合が出るような感じがする。

 事実、バグバとグンツに固有魔法を付与した時に魔力を確認したところ、詳細な数値までは把握できなかったが、二人とも同程度の総魔力だったのに、魔法を覚えた後、バグバだけはしばらく体調不良を訴えていた。

 これは、与えた固有魔法にバグバの器の魔力濃度が足りなかったんだと考えると納得がいく。二人に与えた固有魔法は同程度のデータ量だが、バグバに与えた固有魔法は他者の精神に影響を及ぼす魔法だったので、その分強い魔力が必要だったとしてもおかしくは無い。

 その後、毎日経過観察していたら自然とバグバの魔力の器が容量を減らしつつ濃度を高めていった事からも、この仮説の正しさが証明されていると思う。


 勿論、穴は幾つもある。

 その一つとして、“なぜ、マルグリットはそれを俺に教えなかったか”だが……。

 これ等の事に人間が気がついていない可能性も無くは無いが、俺が気がついている程度の事を専門家であるマルグリットが知らないとは考えにくい。

 なにより、マルグリットは独学ではなく師について教えを受けていたようなので、知識量はかなりのものの筈だ。

 ゴブリン如きに魔法の知識を分け与えるのを嫌がったとか、危険視した。……と言う可能性も無くは無いが、マルグリットの性格を考えると少々考えにくい。魔法に関しては黙っていろと言っても語るようなタイプだからな。

 なのに、マルグリットが教えなかった理由はと言うと、……良く考えると俺の所為かもしれない。

 マルグリットにはなるべく簡単に、と講義を頼んだので、固有魔法を覚えられる程度の知識しか教えられていない可能性があるんだな、これが。

 正直、失敗したと思わなくもないが、あの時はあまり専門的な話を聞いても理解できるとは思えなかったので、仕方がないと言えば仕方がない。

 機会があったら改めて勉強するとしよう。機会があるかどうかは分からないが。


 まぁ、先の事は置いて置いて、今の事に話を戻そう。

 固有魔法の取得と魔力的な身体能力の強化の関係だが、器が大きくその占有率が高いほど、魔力による身体能力強化は低下するようだ。

 その証拠に『周辺感知パッシブセンサー』、『方向感知コンパス』、『隠形ハイディング』の三つの固有魔法を持たせた一号は、バグバ達よりも総魔力は多いのに、身体能力はほとんど変わらない。

 ただ、占有率による低下がどの程度の割合なのか分からないのが問題ではある。

 魔力の器の三分の一を固有魔法に使っているバグバは、魔法を覚えるより前より僅かに力の低下を感じているらしい。

 対して器のほとんどを固有魔法で埋めてしまった一号は、三割ほど総魔力の少ないバグバと同程度の身体能力を保持していた。

 魔力の濃度など他の要因との関係も気になる所だが、検証するにも情報が少なすぎるので、他人に固有魔法を覚えさせる時は器の三割程度までにした方が良さそうだ。

 幸い俺は、『万能マルチツール』を使えば魔法式の壊れていない魔獣の素材から固有魔法を引き出せるので、習得個数と言う点では制限が無いに等しい。もっとも、この方法では魔法の応用をしにくいので使い勝手は悪いんだがな。


 それでも、魔力を増やして広げた器の半分近くは今まで覚えた固有魔法が占めているし、今回覚える固有魔法で残りも埋まってしまうだろう。

 どれも必要な魔法だと思うので、後悔は無いんだけどな。


 これから“魔法の鞄”から複写する固有魔法も必要な物だ。外の世界に出るには絶対に。

 なぜなら魔法の鞄は便利だが、所詮道具でしかないから盗まれたり奪われたらどうしようもないからだ。

 貴重な品(魔法の道具)弱者ゴブリンが持っていれば、順法精神に欠けるヤツラが徒党を組んででも奪おうとするのは当然の事だろう。

 この世界で人権がどれ程の価値を持つか分からないが、妖魔(被差別種族)である俺にはソンナモノは存在しないと考えた方が良い。

 そうなれば反撃する事すら罪になるかもしれない。

 だからこそ、分不相応に高価な物は人の目に触れ無いようにしなくてはならない。

 そして安全な隠し場所も存在しない以上、人の街に行くにあたってこの魔法は絶対に必要になる。

 空間そのものを操る魔法なんて贅沢は言わない。ただ、魔法の鞄を隠せる程度の大きさで構わないから、他者の手の届かない安全な倉庫が欲しい。

 もちろん、容量が大きければそれに越した事は無いが。


 まぁ容量が少なくても使いようはあるけどな。

 空間に穴を開けるというだけでも、ソコに相手を誘い込み、空間を閉じれば、致命的なダメージを与えられるかもしれない。

 邪魔な物があると閉じないと言うならば、落とし穴のように使ったり、相手の攻撃に合わせて空間に穴を開けて攻撃を無効化しても良い。

 亜空間が作れるならソコに長期間敵を閉じ込める手もあるし、何処とも知れぬ世界に敵を放逐する何て言う方法も、相手に新たな固有魔法を覚える余裕が無ければ効果的だろう。

 ただその場合、裏目に出れば敵が新たな能力を得て帰還する可能性も無くは無いけどな。

 出入り口の大きさと製作速度、内部容量、その他の条件等々、それらによって使い方は限定されるが、ちょっと考えればこれだけの攻撃手段が思い浮かぶ。

 もちろん、日常的な利用方法はもっと幅広い。

 

 いや、何を考えてるんだ俺は。

 夢を広げるにしても、そもそもコレだけ準備しても身につけられるかどうかは分かったもんじゃあない。

 なにしろ空間をどうこうするってだけでも反則級の能力だろう。

 俺も魔法の鞄と言う実物を見ていなければ、こんな能力を得ようとは思わなかった筈だ。

 実際なんでこんな事が可能なのか理解に苦しむ。

 前世じゃあ、念動力サイコキネシス超感覚(ESP)の存在には懐疑的だったが否定もしていなかったので、エネルギーや物質を念じる事で自在に操作したり、通常ではありえない感知能力を発揮しても納得したし、異世界だから魔法的なエネルギーが存在するにしても受け入れはした。

 しかし魔法の鞄の能力は、ここに存在する以上疑いようが無いが、あまりにも桁違いだ。

 魔法の鞄に物を入れても重量が変わらない事から、この鞄の能力は内部空間の拡張ではなく、隔絶された異なる空間の維持とそこへの接続能力だと思われる。

 魔法の鞄の持つ魔力は今の俺でも手が出せないくらいに強力だが、それにしたって広大な空間を維持し続けるのにどれだけの魔力が必要になるのか想像もつかない。

 いや、たとえ小さくても空間を作り出す事自体が膨大なエネルギーを必要とするだろう。

 魔力の器を使い切ると普通のゴブリンと大して変わらない程度まで弱体化するかもしれないが、それでもこの能力は魅力的だ。

 器の余白をぎりぎりまで使用しても使えるようになるかは分からないが、魔法の鞄を隠せる程度の空間を維持するだけなら不可能ではないと思う。


 ……あ。

 いや、別に俺が維持し続ける必要は無いのか?

 空間自体は既に存在するのだから、その接続能力だけを身につけたらどうだ?

 魔法の鞄をその中に隠す場合、魔法の鞄が維持している空間に魔法の鞄自体を入れる事になるが可能なのだろうか?

 クラインの壷的な奇妙な構造が思い浮かぶが、何と無く可能なような気もする。

 それが不可能でも、鞄の中の空間への接続能力があれば鞄を隠す場所のはばは広がるな。

 まどろっこしい上に中途半端だが、なんとしても固有魔法によって荷物を収納できる能力は獲得しておきたい。

 その上で、身体能力を強化する余地が魔力の器に残っているならなお良い。

 しかし、その為にはこの魔法への理解が必要だ。俺にそれが可能だろうか?


 やってみるしかないだろう。失敗した所でやり直しができない訳でも無いし。

 体調は万全。

 覚悟も完了。

 さぁて、やるか!!!


 『万能マルチツール』で魔法の鞄の魔法式にアクセス!

 膨大で理解不能な魔法式が、俺の頭になだれ込んでくる。その中から必要だと思われる部分だけを『自在工房ワークショップ』で俺の魔法の器に複写する。

 全体から見れば一割程度だが、それでも負担は大きい。

 体力と精神力がゴリゴリと削れて行く。だが、焦ってデータを破損すればまた最初からやり直しだ。



 ・



「……ふぅ」


 どれ程の時間が過ぎたか分からないが、必要だと思われる魔法式を全て、俺の魔法の器に収める事ができた。


 結局、魔力の器は8割程度まで埋まってしまった。魔法の鞄の魔法式を考えると器の全てを使っても鞄の能力を移植できたか怪しい所だな。

 やはり計画変更して正解だったようだ。

 魔法の鞄は手放せなくなったがその代わり、出入り口の展開は可能な限り素早く、その大きさもかなり大きくできる。

 該当部分の魔法式を制限無しで取り込んだ結果だが、機能を完全に把握できていないので、他にもできる事があるかもしれない。

 試しに魔法を発動させると、空中に厚さの無い真っ黒な円盤が発生する。

 そこに手を入れても、反対側からは手が出てこない。

 能力に問題はないようだ。


 ……あれ?

 魔法の鞄に入れていた物を取り出そうとしても何もつかめない。

 試しに魔法の鞄に手を突っ込むと、頭の中で思い描いた物が手にとれた。

 ふむ?魔法の鞄と俺の固有魔法の空間は別の空間として機能しているのかな?


 良く分からないが、まぁいいや。

 時間はあるからじっくりと検証はできる。今は名前だけ……、そうだな、『亜空間倉庫ストレージ』と名付けよう。正確には接続能力だけだけどね。


 しかし、さっきから小屋の外が妙に騒がしいな。ゴブリン共はナニをやっているんだ?


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