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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第二章 萌芽
19/100

2-6


 イルメラが集落を離れてから十日ほど経ったが、ダークエルフの刺客が現れる事はなく、平和な日々が続いている。


 あの夜が明け、朝起きると、イルメラは俺の指示通り『精神感染メンタルウィルス』をかけられていた間の事は覚えていないようだった。

 少し楽しみすぎたのか、イルメラが俺を見る目は前日とは違って艶っぽいを通り越して恐れすら含んでいて俺に対して妙に従順だったが、それでもかけられた魔法を解く術があれば夜の事を全て思い出す可能性があったし、それでなくともイルメラの仲間が俺たちを監視してたら小細工した意味がなかったので、イルメラが集落を離れて数日間は戦々恐々としていた。


 しかしまぁ、今日まで何も無かったのでとりあえず安心して良さそうだ。

 イルメラの誘いに乗ってしまったのは失敗だった気がしないでも無いが、やってしまった物は仕方がない。“仕方が無い事は悩まない”とは行かないが、それでもできるだけの事はやったので、後は野となれ山となれって所だな。


 うん、その、なんだ……。少し調子に乗りすぎたかな?と、反省はしている。

 美人のお誘いだからついつい箍が緩んだのも自覚はしているし、胡散臭いのが分かった上で手を出して、虎の尾をふみかけたのも自業自得でしかない。

 国家の工作員だと知らなかったとは言え、相手は身一つで危険な森の中を行商して歩くような女なんだよなぁ。

 上手くすれば、ほかの集落や他の種族の裏事情でも聞けるかな?なんて軽い気持ちでやるんじゃぁなかった。

 最善としては、適当に翻弄されつつイルメラの肉体に溺れたふりでもして置けば、こんな状況にはならなかっただろう。

 でも、イルメラの乱れる姿がまたそそったんだよなぁ……。

 人間時代に決まった恋人は居なかったし、マルグリットには手を出す訳にもいかなかったから、いい加減溜まってた……、ってのは言い訳にもならないか。


 ふう。

 なんにせよ、事はもう俺の手から離れている。

 たとえ全てばれていても、イルメラやその上司が俺に利用価値を見出せば攻撃的なアプローチをしてくるとは限らないんだし、後々トラブルが発生するとしても今の俺にはどうしようもないので、この件はナニカが起こってから考えよう。


 それよりも今後の事だ。


 イルメラから聞いた薬草とその利用法は、翌日には薬師に伝えて調べさせている。

 いくつか良好な報告も入っているので、それらは量産させていた。

 各種治療薬や様々な毒薬、幻覚剤や依存性のある薬物等々、使用する以外にもイルメラとの取引にも使えるので、過剰に増産しても問題は無い。

 魔法の鞄があるので、保管場所にも困らないしな。


 ダークエルフは向こうの出方待ち。

 俺の考え過ぎならその方が良いが、イルメラの固有魔法が効かないと言うだけでも目をつけられてもおかしくは無いので、何も起こらないと言う事は無いだろう。

 オーガに関しては、生息域が森の中層よりも内側だと言う話だから、狩りの時に注意すれば出会う事も無いはずだ。

 ゴブリンの他の集落はほとんどが一家族から数家族程度の小さな集落ばかりで、この近くには交流する必要があるような集落は無いと見て良い。

 この集落のように百人以上のゴブリンが住む集落はかなり珍しいようだ。

 人間の国の話では、今のところ気にする必要があるようなモノは無かった。

 北の国々の情報が聞けたので、北の山脈に向かう時には活用しよう。


 後の問題は、この集落を出る準備か。

 必要な実験は一通り終えたと思う。

 後は経過観察で異常が出ない事を確認したいんだが、一年で異常が出なくても、二年目三年目で異常がでる事が無いとは言い切れないので、集落のゴブリンに施した魔法は定期的に戻ってきて確認したいところだ。

 魔獣寄せの香を使った狩りもイルメラの件以降で二回行い、中層では大幅な上昇を見込めない程度まで魔力を増やす事ができた。

 魔獣寄せの香は後三回分あるが、これ以上中層で使う意味はあまり無いし、恐狼ダイアウルフに勝てる気がしないので深層で使う事もできない。

 魔力の器はかなり大きくなった感覚はあるが、どうしても欲しい(・・・・・・・・)固有魔法を複製できるかは正直微妙だ。

 しかし、手に入れれば確実に大きな力になる。多少無理してでも使えるようにしたい。


 だが、新たに強力な固有魔法を覚える事で、手持ちの魔法にどんな影響がでるかも分からないので、先に出来ることはやっておこう。成功すれば問題は無いと思うが、失敗した場合どんな不具合が発生するのか見当もつかないからな。

 

 武器と防具の新調は完了している。

 叫兎スクリームラビットの小剣は魔方式を切裂き兎(リパーラビット)のものに書き換え、切裂き兎(リパーラビット)の小剣に作り直した。

 これによって、刀身の周囲に超音波を発生させることで射程十メートルほどの音の刃を発生させる事が可能になり、切れ味も上昇している。

 ちなみに、叫兎スクリームラビットの小剣が音の刃を発生できなかったのは、魔法式が破損していた所為だったりする。

 魔法式を認識してから改めて小剣を調べると、複数の魔法式が交じり合いまともに働いていなかった事が分かった。あの状態で高周波振動を発生させられていたのは、奇跡だと言って良いのかも知れない。


 強化方法を思いつかなかった火炎十字槍とバックラーは保留。


 度重なる戦闘でぼろぼろになった鎧は作り直した。

 材料は暴狼レイジウルフの皮と骨、今回は魔法式もきちんと残っているので『万能マルチツール』で魔力を供給すれば暴狼レイジウルフのように瞬間加速が可能である。


 新たな武器として、暴狼レイジウルフの瞬間的な加速能力を有効活用した武器も製作した。

 鎧にしたら俺ごと加速するこの固有魔法だが、武器として使用する場合はロケットのように武器が自分で勝手に飛んでいくので、投射武器としてはとても優秀だと言える。

 暴狼レイジウルフの骨を魔法式が維持できるぎりぎりまで小さく加工して投げ矢(ダーツ)を作り、威力重視で投槍も十本作った。

 投槍にはどれも穂先に牙と爪を贅沢に使い、本体には頭蓋骨や背骨など魔力の強い部分を使用した事で、最大威力では五枚重ねの暴狼レイジウルフの皮すら貫通する。


 『精神感染メンタルウィルス』で洗脳しなくてはならない相手は居ないし、『自在工房ワークショップ』で改造しておきたいゴブリンも居ない。


 ふむ……。こうしてみると、特にやらなくてはいけない事は無いのかな?

 しかし……、いや……、でも……。

 う~ん、必要ではないけれど作ってみたい物は一つあるんだよなぁ。


 だが、それを作るためには魔法の道具を一つ潰さなくてはならない。

 候補としては魔法のコンロ。

 燃料もいらないし火をつける手間も必要無いのは魅力的だけど、火炎十字槍でも代用できるので無くても何とかなる。

 だからと言って、易々と処分するには惜しいが……。


 ……悩む。

 悩む。けど、上手くいけば火薬式を飛び越えた近未来的な銃が作れる筈なんだよなぁ。


 暴狼レイジウルフの固有魔法は、対象を瞬間的に加速させる能力がある。

 本来その対象は自分自身になっているが、魔法の道具に素材を融合しながら魔法式を上書きすれば、ある程度『自在工房ワークショップ』で書き換える事は可能だ。

 なら、魔法の効果対象を、例えば道具の上に置かれた石に変更できれば、自動投射式の投石器の出来上がりとなる。

 更に形状を長く加工し、加速時間を延ばしてやれば、弾速も上がり弾道も安定するだろう。

 電磁力の変わりに魔法の力で弾丸を加速するのだが、構造的にはコイルガンと同じような感じになる筈だ。

 失敗する可能性もあるが、その時はその時だ。使い物にならなくなったら、魔法の道具の構造を知る為に細かく分解する手もある。


 ………………。


 …………。


 ……やるか!


 そうと決まったら、早速取り掛かろう。

 まずは暴狼レイジウルフの頭蓋骨と魔法のコンロを融合しつつ、魔法式を暴狼レイジウルフの固有魔法に上書き。

 そして形状を変更。取り回しも考えて、道具本体とソコから平行して伸びる長さ一メートルほどの二本のレールを作る。

 その後、『万能マルチツール』で魔法式にアクセスする。

 頭に浮かぶのは意味不明の図形と解読不能の文字列。魔法式自体はまったく理解できないが、『万能マルチツール』で俺の意識と魔法式を直結すれば、手探りである程度のカスタマイズは可能だ。

 暴狼レイジウルフの固有魔法は“本体”を“高速で移動”させる固有魔法のようだ。この効果は防具や投槍で確認済み、後は『万能マルチツール』で調整しつつ、レールの間に置かれた物を加速して射出できるように、魔法式を『自在工房ワークショップ』で上書きする。

 さて、これで本体が完成した訳だが、期待通りの性能を発揮するだろうか?


 窓から外に向かってレールを設置し、本体部分に小石を乗せる。と、凄い速度で小石が飛んでいった。

 成功だ。

 衝撃波が発生しなかったので音速を越えるような速度は出ていなかったようだが、発射速度自体は『万能マルチツール』で強化する事も可能だと思うので、大成功だと言っても良いだろう。


 よし、次は銃としての体裁を整えよう。

 ライフル効果を期待してレールを二重の螺旋状に加工し、レールだけでは強度に不安があるので、銃身としての外装も作製して取り付ける。

 以前に作った空気銃を解体して、ストックや給弾機構を流用。銃の形状は大きく変わって、長銃身のスナイパーライフルから、ブルバップ式のアサルトライフルに変貌を遂げた。

 薬室には上下にスリットを設け、下部からはマガジンでの給弾装置、上部には漏斗状の給弾口を作る。

 これで、引き金を引いてスリットを開ければ、そこから送り込まれた物質が高速で射出されるだろう。

 弾丸は、弾頭に狼の牙を使用した狼牙弾と鉄球を用意した。狼牙弾は貫通性能が高く、鉄球は上部の給弾口から入れれば弾が続く限り連続的に発射される予定だ。



 ・



 無数の弾丸を幹の一点に受けた木が、音を立てて倒れていく。

 マシンガンの試し撃ちをしてみたら、鉄球の一連射で一抱えもある太さの木が折れた。


 はっはっは!思った以上の高威力だ。なんとかの電動ノコギリなんて別名のマシンガンもあったらしいが、こいつはそれ(・・)に負けてないな。

 玩具に毛の生えた程度の威力だった単発式のエアライフルが、随分と進化した物だ。

 魔法式マシンガンとでも定義すればいいのか?思った以上に強力な武器が完成した。

 っと、今の音で集落のゴブリンどもが騒がしくなってきたな。説明するのも面倒だからとっとと小屋に帰ろう。


 ……さて、エアライフルは分解してしまったし、残った高圧タンクは何に使おうかな?

 俺はそんな事を考えながら、家路を急いだ。


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