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夜が明ける。
結局、一晩中戦っていたのか。
魔獣寄せの香は便利だが、ここまで強力だと使いどころに困るな。
解体された魔獣を数えてみると全部で十匹。俺が半年かけて狩った魔獣より多い。狩場にしていた場所より奥地だとしても酷い差だ。
内訳は火炎鹿が二頭に幻影狐が一匹、暴狼が四頭、叫兎の上位に位置するだろうウサギが三羽となる。
やはり森の奥に入ると、大物の魔獣が多くなるようだ。
ちなみに、暴狼は群れ狼と違って一頭で行動していたのだが、その危険度は群れ狼とは桁違いだった。
普通に四足で立っている状態でさえ俺より頭一つ背が高い体の大きさはそれだけで脅威だったし、それでいて群れ狼よりも素早く動き、牙や爪の一撃は蛮族鎧を貫くほど鋭かった。
なにより瞬間移動のような加速能力は物理法則を超えている。だって、空中でも急加速するんだぜ?コイツラ!
それでも勝てたのは、他の魔獣と一緒に出て来なかったお陰だろう。特に後から出てきた三頭は、まるで順番待ちでもしてたかのように一頭ずつ出てきた。
暴狼同士で牽制でもしてたのだろうか?真実は分からないが、ウサギの魔獣の様に一度に出てこられなかったのは助かった。
そう。火炎鹿と幻影狐のコンビを狩った後に現れた、一頭めの暴狼に止めを刺した瞬間に、ウサギの魔獣が襲いかかってきたんだ。三羽で!
勿論、数だけが問題じゃあない。
大きさは普通のウサギ程度にまで縮んだくせに恐ろしく動きが素早く、叫兎と同じ様に切断力のある超音波を放つのだが、コイツの場合は音もなく、広範囲に、しかも魔獣の骨製の槍の柄を切り落とすほどの切れ味だった。
動きを止めたウサギの魔獣にいやな予感を感じて棒高跳びの要領でジャンプしようとしたと同時に、すっぱりと槍の柄を切り飛ばされてしまった。あと一瞬遅れていたら、俺の胴体は輪切りになっていた事だろう。
火炎鹿の骨を形状変化で整形した槍の柄の強度は鋼にも劣らない。それをきれいな断面を見せて斬られたんだから、喰らっても肉で止まった叫兎の叫び声とは桁違いの威力だと言える。
そんなウサギの魔獣三羽相手に、態勢を崩した状態でよく生き延びた物だと自分でも思う。
苦し紛れに、以前小手に仕込んだ叫兎の頭蓋骨に、『万能ツール』で大量に魔力を流し込んで最大限の叫びを上げさせたら、ほんの数秒だけだがウサギの魔獣の動きが止まったので、なんとか死なずに済んだんだろう。
それでも、すぐに一羽が鳴き声で叫びを中和すれば、残りのウサギどもは再び動きはじめたのでヤバイ事には変わりなかったが。
まぁ、なんにせよ生き延びた。
最中は必死だったが、終わってみればとても楽しかったようにも思う。
「ふぁあぁあ」
眠い。
さすがに休憩を挟んだものの、一日走りとおして、一晩中戦っていれば眠くても当然か。
魔獣の死骸は改造ゴブリンズに守らせていたので横取りされる事もなく、解体も済んでいるので、脳味噌と心臓を食って一眠りしよう。
改造ゴブリンズにも魔獣の内臓を食わせて、残りを魔法の鞄にしまう。
腹も膨れたしこのまま眠りたいが、あたり一面血みどろのぬかるみと化したココで寝るのも少し危険だ。
魔法の水差しで体を洗い流して、すこし移動した。
「一号、二号。交代で休憩しつつ周囲を警戒。魔獣が出たら起こせ」
これだけ狩ったんだから近くには魔獣も居ないだろうし、普通の獣なら改造ゴブリンズで十分対応できるだろう。
一号も二号も俺と同じ様に寝ていないが、精神が破壊されている所為かほとんど睡眠を必要としないので、こう言う時には非常に役に立つ。
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次の日、眼を覚ますと恐ろしいほどの活力が体中から溢れていた。
大量に、しかも自分より上位の魔獣を食ったお陰だろう。
ここまでの全能感は、初めて叫兎を食った時以来だ。
朝食、と言うか時間的には遅い昼食を食ってから、あちこちガタのきている蛮族鎧と、柄が半ばで断ち切られた火炎十字槍の修理をする。
新しく手に入れた素材で装備の強化もしたいところだが、それは集落に戻ってからでも良いだろう。
その後は、折角奥の方まで来た事だし、日が暮れるまで適当に採取をした。
後日薬師に確認した所、ほとんどは雑草だが中には貴重な薬草もあり、中でも二号を捕食しようとした巨大な花からは強力な媚薬が作れるという話だった。
改造ゴブリンズに夜番を任せ、もう一晩を森の中で過ごし、明け方に集落に帰る。
帰りも行きと同じで特に何事もなく、夕暮れ前には集落に到着した。
集落にゴブリンの姿はないが、小屋や物陰からこちらをうかがう気配はある。
何時もの事だ。
グンツの一件以来、俺の長としての株は幾分上がって、顔を見た途端逃げられるような事は無くなったが、それでも俺が出歩いている時にはあまり姿を見せない。
別に仲良くする気も無いのでそれは構わないのだが、今日はとても気分が良い。
「バグバ、居るかぁ?」
俺が住処にしている中央の小屋の隣にある、一回り小さな小屋の入り口でバグバを呼ぶ。ここは守り人達用の小屋だ。
集落に何事も無ければバグバや他の守り人共が居る筈なのだが……。
「長か。珍しいな、なんのようだ?」
ゴブリンに礼儀を求めても仕方ないのは分かっているが、俺よりも体格の良いバグバがこう言う態度だと侮られている気がしないでも無い。
それでも大して苛立たないのは、くれてやった固有魔法の所為なのだろうか?
「居たか。狩をしてきたのだが、思いのほか大漁だったんでな。オマエ達にも肉を分けてやろう」
魔法の鞄から魔獣の肉を取り出して、小屋の床に積み上げていく。段々と高くなる山に、バグバが眼を丸くしていった。
ふふん?
意趣返しと言う訳ではないが、そんなに驚いてくれると気持ちが良いな。
狩った魔獣の肉の半分ほどだが、これだけあれば集落のゴブリン共が腹いっぱい食っても足りるだろう。
コイツラに恵んでやるのは多少腹立たしくない事も無いが、それ以上に、肉を腐らせては食うために殺した魔獣達に申し訳ないからな。
「どうやって、これだけの獣を!?」
「どうもこうも、狩りの成果だと言っているだろう?
腐らせてももったいないから、とっとと集落の連中に配って食ってしまえ」
「わ、わかった!」
ゴブリン共が慌てふためく姿を見ていると、高揚していた気分が更に良くなるねぇ。
慌しくなった守り人小屋を後にして、住処にしている長の小屋に帰るとしよう。
小屋に着いて最初にやったのは残った肉の加工だ。
まだ百キロ以上はあるので、このままだと食いきれずに腐らせかねない。
しかし、加工と言っても塩蔵できるほどの塩はなく、燻製にできるような設備も無いので、『自在工房』で肉から水分を抜いて乾燥肉を作る。
高温多湿の森の中だが、魔法の鞄の中に入れておけば虫やねずみの害を受けず、湿度の影響も、頻繁に開け閉めしなければたぶん受けない。
それでも腐りそうだったら、外側から削りながら食えばいいだろう。
ついでだから、加工によって肉の魔力が変質するのかも確認してみよう。
『自在工房』の作業空間を維持しながら一号に料理をさせるのは、なんとも間抜けな光景だが必要な事だから仕方がないな。
結果として、加熱、調理、共に肉の魔力に変化はなかった。
時間的な魔力濃度の低下は、おとつい修理のついでに調べた時に比べておおよそ五割減。
加工しても魔力に変化がないという事は、加工しても魔力の低下率が変わらないと見ていいだろうな。
しかし、二日で半減とは酷い。この後どう変化するかは分からんが、最悪四日で魔力が消失する事になる。
これはたしかに、マルグリットが新鮮でなければ意味が無いと言う筈だ。
「長。少しいいだろうか?」
一通り肉の処理が済んで休憩していたところに、バグバが顔を出した。
「何だ、バグバ」
「長の与えてくれた肉に、集落の者達が感謝している。よかったら少し顔を見せてやってくれないか?」
面倒だが……。取り急ぎやらなければいけない事も無いので、顔を見せるくらいならいいかな。
「ふむ……。いいだろう」
バグバに続いて小屋の外に出ると、小屋の前の広場はお祭状態だった。
いくつもの焚き火に肉がかけられ、焼けた端から焚き火を囲むゴブリン共も口に消えていく。
あちこちに置かれた樽に入っているのは酒か?その近くにはコップ片手に酔いつぶれたらしいゴブリンが倒れていた。
さっきから妙にうるさいと思ってたら、これの所為か。
「お前らぁ!長がきたぞー!」
「おお、長だ!」「長がきたぞ!」「長ー!」
バグバが大声で叫ぶとゴブリン共が手を止め、口々に歓声を上げる。
俺を見る目に恐れは無く、尊敬すら見て取れた。
そんなゴブリン共に対して俺は、背筋が痒くなる様な、そんな居心地の悪さを感じてしまう。
「長、これをどうぞ」
そろそろ小屋に帰ろうかと思ったところに、タイミング悪くゴブリンの一人が杯を持ってきた。
中に入っているのは刺激臭のする液体。口をつけると強烈なアルコールが口内に広がった。
以前手に入れたワインとは比べるべくも無くきついだけの質の悪い酒だが、こんな場所で飲めると言うだけでもたいした物ではある。
「こいつは酒か」
そう言えば、金属製の武器と言いこの酒と言い、どうやって手に入れてるんだ?
「バグバ。この酒や武器はどうやって手に入れているんだ?」
「行商人からだ」
ふむ?こんな集落に行商人?一体どうやって荷物を運び、代価に何を受け取って商売をしているんだろう?なにか秘密がありそうだな。
「今度行商人が来たら、俺にも一声かけろ」
さて、どんなヤツが来るのやら……。




