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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第二章 萌芽
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2-1


 ナ二も、やる気が起きない


 アレ(生まれ故郷を潰して)から、それなりの日数が経っている。しかし、いまだに虚脱感が抜けず、小屋の中でニートのような生活をしていた。

 これでも、最初の頃からはだいぶ改善したのだが……。


 一番酷かった時期は、当然の事ながらアノ(・・)直後だ。

 数日ほど小屋に引きこもり、食事すらろくにとらなかった。

 お陰で集落の不満分子(俺が前の長を殺した時、狩りに出ていた連中が中心の派閥である)がクーデターを起こした。

 面倒だが放っておく訳にも行かないので、不満分子共のリーダーであるグンツと言うゴブリンをダルマ(・・・)にした後、『自在工房ワークショップ』で切り飛ばした手足を繋いでやった。

 勿論麻酔は無しで、だ。

 殺しても良かったんだが、狩人共を減らすと食糧事情に直結するので、今回は生かしておいた。

 狩人の持つ知識にも興味があるしな。


 公開処刑(殺してないが)が終わった後に不満分子共は勿論、集落の他のゴブリン共も改めて忠誠を誓ってくれたので、すこしばかりご褒美をやる事にした。苦痛や恐怖の後に良い思いをさせてやるのが躾のコツだ。

 数日振りの戦闘で興奮してたせいか、少し大盤振る舞いをした気がしないでも無いが、ゴブリン共が使っている錆びたり欠けたりした剣や槍などを『自在工房ワークショップ』で補修して、ついでに集落に残っていた魔獣の骨を使って強化し、グンツにはその力を認めたと言う名目で感知の指輪の能力を固有魔法として移植、本来なら不満分子を出したバグバには罰を与えなければならないのだが、そうなるとグンツとの力関係が面倒な事になるからバグバにも群れ狼(ハードウルフ)の頭蓋骨から固有魔法を複写して移植してやった。

 他のゴブリン達には今まで里を治めてくれた事への報酬と言いつつ、移植する時に小声で「次は無いぞ」と言っておいたので、死に物狂いで仕事に励んでくれる事だろう。

 ちなみに群れ狼(ハードウルフ)の固有魔法の効果だが、今の時点でもよく分かっていなかったりする。

 そんな物を移植されて、死にたく無ければがんばれと言われたバグバが哀れだと思わなくもないが、精神に作用する魔法だという事は感覚的に分かっていたし、群れ狼(ハードウルフ)はどの個体も群れを率いている事から、集落を運営するのに役立つだろうと考えて移植してみた。


 結果、同族限定だが無条件に他者から信頼を寄せられる固有魔法をバグバは発現する。

 グンツにしろバグバにしろあまり大きな力をくれてやる必要も無いので、最小限発動できる程度に調整して移植してやったんだが、それでも移植して以来バグバに対してのみ、ゴブリンに対して持っていた不快感が消えたのは、この固有魔法の所為かも知れない。

 少し危険な力を与えてしまったかな?

 まぁ、バグバが反乱を起こしたら殺そう。生かしておくには面倒な力だし。


 とにかく、この一件で少し気分転換ができたのか、虚ろな引きこもりから仕事をしないだけのニートに症状が緩和したのは良かったと言えるだろう。

 しかし、いい加減動き出さないとまずい。

 明確なタイムリミットは無いんだが、あまりマルグリットを放っておくと、せっかく刷り込んだ好感度が消滅しかねない。

 所詮、危機的状況で上げた好感度でしかないので、日常生活に戻れば俺の印象なんて薄れてしまうだろう。

 分かれてからまだ一月程度、後二三ヶ月は大丈夫かもしれないが、早く会うに越した事は無い。


 ……少し荒療治になるが、意識を切り替えるために強烈な刺激体験してみようか。



 ・



 改造ゴブリン一号二号を魔法の鞄に放り込み、森の奥に向かう。

 コイツラは前の長に精神を破壊された守り人の成れの果てだ。一号には魔法の道具と魔獣から固有魔法を複写して、二号の方は死んだ守り人二人を融合させて体重三倍身長五割り増しの巨漢に仕上げた。

 ついでに言うと、何時不具合が起きてもおかしくないので経過観察中でもある。

 今のところ問題は発生していないのでたぶん大丈夫だとは思うが、前世の世界じゃ移植手術で数年後に拒絶反応が出たと言う話を聞いた事もあるので油断はできない。


 一日自転車で走り、とっぷりと日が暮れた頃合を見計らって焚き火の中にあるモノを放り込む。

 あるモノとは魔獣寄せの香だ。

 あたりに何とも言えない蠱惑的な香りが広がっていく。それにつれて森から生き物の出す音が消えた。

 ああ、はじめて魔獣に会った時に感じた異様な気配が桁違いの濃度で森を包んでいく。

 吐き気を伴う程の恐怖が、生を実感させてくれた。


「オマエラ、とりあえずは手を出すなよ」


 改造ゴブリンズに命令しながら、火炎十字槍を魔法の鞄から取り出す。

 最初に現れたのはシカだった。木々の間から枝を掻き分けて、巨大な角を持ったシカが現れる。

 シカが頭を振ると角が炎に包まれた。火炎鹿バーニングディアーと呼ばれる由来だ。

 体格差は歴然。俺より一回りでかく、体重は四倍以上。

 しかし、何度も狩ったことがある相手である。楽勝とは言わないが、油断しなければ負ける要素は無い。

 こちらも火炎十字槍に炎を纏わせ、火炎鹿バーニングディアーの突進を正面から迎え撃つ。

 この槍の芸は炎を纏うだけじゃあない。元となった魔法の剣の能力か、恐ろしく貫通力が高いのだ。並みの武器では歯が立たない魔獣の頭蓋骨でも、ほらこの通り……?

 火炎鹿バーニングディアーの突進に合わせて突きを放つと、火炎十字槍は見事に火炎鹿バーニングディアーの頭を貫いた。何の手ごたえも無く(・・・・・・・・・)


 なんだ!?


 ろくに困惑する間もなく、ドカン!っと衝撃がきた。

 地面が急速に遠くなる。眼下には角を振り上げている火炎鹿バーニングディアー

 俺は火炎鹿バーニングディアーのかち上げを喰らって宙を舞っているようだ。

 幸い魔獣素材で作った蛮族鎧のお陰で大きなダメージは無い。

 地面に到着するまで後数秒、その間に対策を練ろう。


 一体何が起きた?

 確かに槍は火炎鹿バーニングディアーの頭を貫いた筈だ。

 しかし、現実には俺が空を飛んでいる。

 攻撃の透過?いや、それにしては位置関係がおかしい。

 よく見れば火炎鹿バーニングディアーは俺が居た場所の()に立っている……?

 そう言えば、マルグリットがこの森には幻影狐ミラージュフォックスなんて魔獣も居ると言っていたな。

 コレがソイツ(ミラージュフォックス)の仕業だとしたら?


 しかし、異なる種族の魔獣が手を組む事がありえるのか?

 考えていても埒が明かない。どれだけ疑わしくても事実は一つだけ、調べてみれば分かる事だ!

 周囲に火炎鹿バーニングディアー以外の気配は感じられないが、隠れている可能性もある。

 それなら『万能マルチツール』を使って感知の指輪に魔力を流し込み、通常以上の感度を発揮させたらどうだ!?


 見つけた!

 少し離れた草むらの中に、先ほどまでは感知できなかったキツネが一匹。

 しかも見えている火炎鹿バーニングディアーに実体はなく、火炎鹿バーニングディアーの本体は幻に隠れて俺の落下地点に走っている。


 落下が始まる。

 このままでは落ちた所に火炎鹿バーニングディアーの追撃が待っているだろう。ヤバイな。不安定な態勢だが当たれ!!

 槍を逆手に持ち替え、全力に落下加速を加えてキツネ目掛けて投げる。

 狙い通りに飛んだ槍は、キツネを地面に縫い付けた。


「一号!ソイツの止めを刺しとけ!!」


 叫びつつ、魔法の鞄から叫兎スクリームラビットの小剣を抜く。

 落下地点で身構えていた火炎鹿バーニングディアーは俺と視線が合った事に目を剥くが、すぐさま攻撃に転じて落ちてきた俺に角を突きたてようとした。


 その角が空をきる。

 タイミングはベストだった。俺が魔法の靴でほんの一瞬、ブレーキをかけなければ。


 火炎鹿バーニングディアーには何が起こったのか分からなかったと思う。

 貫いたと思った角には何の感触も無く、次の瞬間には俺に叫兎スクリームラビットの小剣で角ごと頭を斜めに両断されたのだから。

 無理な体勢で攻撃したツケで不恰好に地面に落ちた俺を、いまだ倒れぬ火炎鹿バーニングディアーの頭から吹き出た血飛沫ちしぶきが濡らす。


「ァッハッハッハッハッハ!」


 愉快だ。倦怠感も虚脱感も吹っ飛ぶほど愉快だ!


 火炎鹿バーニングディアーの角を掴み、頭から直接脳味噌をすする。新鮮な血の金臭さの混じった甘さと、濃厚なクリームにも似た脳味噌の味が口の中で溶け合い、暴力的な旨味を感じさせた。

 腹を割き、心臓を、内臓を、肉を喰らう。

 昼から何も食っていなかったから当然腹は減っていた。だが、それ以上に心の餓えた部分を満たすように血を啜り肉を喰った。

 ああ、俺は今生きている。

 ほんの少し前までのダルさが嘘のように全身が熱に包まれ、頭の奥が心地よく冷えていく。

 最高のコンディションだ。


 さぁ、次はどいつだ?


「一号は周囲を警戒。二号、キツネとシカを解体しろ」


 少し腹を満たして、シカの残骸を二号に渡す。周囲には血の臭いが充満しているから、次もすぐ来るだろう。


「グルルルルルル……」


 そう思っている間にも第二陣の登場だ。群れ狼(ハードウルフ)よりも二周りはでかい、暴狼レイジウルフらしきオオカミが現れた。

 どうやらパーティーは、これからが本番のようだな。


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