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集落のゴブリン共に命じて探させると、ほんの数日で俺の生まれた集落は判明した。
ゴブリンの集落どうしに密接な交流が在った訳ではないようだが、それでも他の集落のおおよその位置くらいは分かっていたらしく、近辺の集落に聞いて回ったところ、しばらく前に色違いのガキを捨てた集落が見つかった。
その集落の長に話を聞いたところ、『闇のように真っ黒の肌をしていている上に、同世代の他のゴブリンよりも一回り小さくて狩の役にも立たず、何時も罠や道具を弄くっていて不気味だからぶん殴って捨てた』と言っていたと、使いっ走りのゴブリンが震えながら報告をする。
ガキ……?
言われてみれば、思い当たる事がいくつかあるな。
のけ者だった俺は兎も角、確か同い年のゴブリンも大人扱いはされていなかったはずだ。
まー、森の中の集落の日常なんて代わり映えのしない毎日だし、季節の変化も無いような世界じゃ記憶から年月を計る方法も無かったんで、すっかり人間時代の延長線上で生きてたんだよなぁ。
しかしそうなると、俺はまだ成長する可能性があるのか?
放逐されてからの数ヶ月の間に成長したお陰で、今では他のゴブリンとの体の大きさの違いはほとんど無い。
まだこの体が成長期にあるのなら、できれば人間に見縊られない程度には身長が欲しい所だ。
相手の体が小さいと言うだけで、自分が優位に立っていると勘違いする馬鹿も多いからなぁ。
………………だめだ。思考をわき道に逸らしても、腹の底に溜まるヘドロみたいな感情は消えてくれない。やっぱりケリを付けるしかないのかねぇ。
「おい、今からその集落に行くから案内しろ」
使いっ走りのゴブリンに命じた。
もう日が暮れかかっているし旅の準備もしていないが、逸る気持ちを押さえようとすると気が狂いそうになる。
「は、はいぃ!」
人食い虎でも見るような目を俺に向けるゴブリンは、命じられた途端、逃げるように走り出す。
すぐに駆け出そうとする衝動を抑え、魔法の鞄を持ち、近くにいたゴブリンにしばらく留守にすると言ってから、走り出したゴブリンを追った。
走り出したらもう止まれない。
昼夜を問わず、前を走るゴブリンが泡を吹いて倒れるまで走り続ける。
幸いな事にゴブリンが倒れたのは役目を果たしてからのようだ。
すぐ先には、木々に隠れて集落が見えた。
どこか見覚えのある小屋に、目に映った瞬間怒りの湧いたゴブリン共。ココが俺の生まれた集落で、間違い無い。
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「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
腹の底から湧き上がった憤怒で目の前が真っ赤になり、その後の事は覚えていない。
気がついたら血の海の中、俺は一人で立っていた。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
手には叫兎の小剣と、炎を纏う十字槍。
そのどちらも血に塗れている。
いや、武器だけではなく俺の全身が血に染まっていた。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
辺りを見回すと、生きているゴブリンは俺と木陰から遠巻きに俺を見るこの集落に案内して来たゴブリンだけだった。
この集落のゴブリンは老若男女にかかわらず赤ん坊に至るまで全て、出来の悪いパズルのようにバラバラになっていた。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
凄惨な屠殺場と化した俺の生まれ故郷だが、事が終わった今、俺の心は晴々としていてとてもスッキリとしている。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
こうなるんじゃないかと思っていたけれど、やっぱりこうなったか。
まぁやってしまった事は仕方が無い、後で多少面倒な事になるかもしれないがその時はその時だ。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
最悪、負けて俺が死ぬ可能性もあったが、怪我らしい怪我を負う事も無く生きている。
暴走が止まらず、死ぬまで狂気に囚われる事も無かった。これで、本来の俺の復讐心が満足したのなら上々と言った所だろう。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
しかし、さっきから煩ぇな、誰が笑ってるんだ?
「ハッハッハッハッ!うるせぇぇぇ!!!」
……あ?ナンだ、俺の笑い声だったのか。




