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「ふ、はははは…………はぁ」
なんと言うか、我ながら勢いだけで生きているなぁ。
まぁ、今回も生き延びたから良しとするか。
「さて、守り人はどうなった?」
寸前まで、こぼれた内臓や失った手足も気にせずに俺に襲いかかろうと這いずっていた守り人共は、今は壊れた玩具の様に静かになっていた。
死んだかな?
近寄ってみると、まだ息は有るものの全員今にも死にそうになっている。
しかし、失神した訳でも無いのに動きを止めているのは長が死んだからなのか?だとすると、このまま死なせるのも勿体無いな。
守り人共を担いで並べ、切り飛ばした手足を切断面に合わせて置いた。
『自在工房』は生物無生物関係無しに効果を及ぼす。
マルグリットと別れてから獣で何度か実験もしたので、傷口を塞いだり手足を繋ぐだけなら朝飯前だ。
問題は流れた血液だが、こればかりはどうしようもないので、後は本人の生命力にがんばってもらうしかない。
一通り施術し終わった後、背後からの視線に気がついた。
集落の住民共のおっかなびっくりとしたソレではなく、力を持った目から放たれたものだ。
振り返ると、腹を押さえた体格の良いゴブリンが立っていた。
「結構深く刺したと思ったんだがここまで歩いて来れたか、中々丈夫なヤツだな」
「これを、全てお前一人でやったのか……?」
「ああ」
俺の返答を聞いた体格の良いゴブリンは、そのまま崩れ落ちる。
「まだ戦るか?」
「いや、正面から戦って長に勝ったのなら、あんたが次の長だ」
「なら良い。ついでだ、オマエも治してやろう」
返答も待たずに、体格の良いゴブリンの治療を始める。
「ギャィィーー!!!」
集落の中を絶叫が走った。
麻酔無しで開腹手術をやるようなものだから、体格の良いゴブリンが尻に火でも着けられたかのようにのた打ち回るのも当然だわな。
ありゃ、腹圧で内臓が飛び出てきたか、損傷部が見やすくて丁度良いや。
神経を一時的に麻痺させてやれば苦痛を感じなくする事も可能だが、俺を襲った相手にそこまでサービスする気は無い。
熱傷を負った部分を排除して、きれいな組織同士を結合する。内臓のいくつかが少しばかり小さくなったが、死ぬよりはましだろう。
「はぁはぁはぁ。これは……」
あっと言う間に塞がった傷を見ながら、体格の良いゴブリンが息も絶え絶えで呟く。
「おい、オマエ。名前は何だ?」
「お、俺の名はバグバだ」
俺の問いに体格の良いゴブリン……、いや、バグバが震え慄きつつも答えた。
「んじゃバグバ。集落のゴブリンを全て集めろ」
「わ、わかった」
バグバはその場から逃げ出すように走っていく。少しやりすぎたかな?
まぁいいや。
さて、集落のゴブリンが集まって来るまでに守り人共をどうにかしよう。
「立て」
守り人共に命じてみるが、反応は無い。
長が死んだからと言って、誰の命令でも聞く訳ではないようだ。
となると少し面倒だが……。
長との戦いで長の魔法の感覚はつかめたけれど、他人にも命令を下せるかな?失敗しても損は無いから、やるだけやってみるか。
守り人の目を覗き込み、長との戦いを思い出しながら視線に魔力を込める。
「立て」
今度は、命令通りに守り人が立った。
上手い具合に命令者の上書きができたようだな。
この調子で他の守り人にも魔法をかけていこう。
全員の処理が終わり、守り人に手持ちの食料から血になりそうな食い物を食わせていたところに、バグバが集落のゴブリン共を引き連れてきた。
「長。これが今、集落に居る全員だ」
少しは落ち着いたようだが、バグバの顔にはまだ怯えが見える。
「今?って事は他にも居るのか?」
「狩りに出ている者達が居る」
「そうか。ソイツラには、帰ってきたらお前から話をしておいてくれ」
長の首を片手に持ち、空跳び栗鼠の靴の力を使った連続ジャンプで小屋の屋根に飛び乗る。
おー、ゴブリン共がぎょっとしてらぁ。
「前の長は俺が殺した!」
長の首を掲げて言い放つ。
「だから今からこの集落は俺のモノだ!文句があるヤツは前に出ろ!!」
ゴブリン共はおどおどとお互いを見て、やがて力なく頭をたれる。
安心しろ。実験材料には守り人が使えるから、大人しくさえしていればオマエラには手は出さないよ。
……たぶんな。
「いないようだな。
よし、バグバ。俺はやる事があるから集落はオマエが取り仕切れ」
「あんたもか……。わかった、好きにしてくれ」
あんたも……?もしかして、前の長もコイツに丸投げしてたのか?
あんなのと一緒にされるのは気分が良くないが、丸投げしているのが一緒なら、そう思われても仕方が無いか。
「ああ、そう言やあ、何でオマエは一人で俺に襲い掛かってきたんだ?」
「俺は守り人だ。余所者が攻めて来たら迎え撃つだけだ」
なんとも頭の固いヤツだ。
まぁ、この分なら与えた仕事に関しては信用できそうではあるか。
「わかった。用はそれだけだ」
そう言って身振りで解散を促すと、ゴブリン共は三々五々と別れて行った。
全員が広場から消えたのを確認して、小屋から降りる。
「さて、先ずはコイツを片付けるか」
守り人に長と呪い師の死体を持たせ、長の住んでいた小屋に入り、長と呪い師を解体する。
脳味噌に心臓、ついでに人丹の原料になったと言う肝臓を食い、あとは肉付きの良い太ももやふくらはぎで腹を満たす。
しかし、人型の生き物をばらして食ってると変な気分になってくるなぁ、クセにならなければ良いんだけど……。
残った肉と内臓は守り人共に食わせた。上手くすればこいつらも魔力が増えるだろう。
・
次の日、長と呪い師を食った事で魔力が増えた感覚を感じた俺は、夜になってから暗闇の中、静かに瞑想して自分の内面と向き合う。
マルグリットが居ないので暗示による導引は無いが、前の時に感覚は掴んだので、問題なく精神の奥底まで開放できた。
自分と言う器の中に満たされた魔力。その中に以前とは違う力が一つ。
コレがあの時の固有魔法か。
未だに形の定まりきってないソレを、少しづつ分解して再構成する。
長と呪い師を食って魔力が増えた事から、長の総魔力は俺よりも多かったと考えていい。
それでも、魔力が大量に増えた訳じゃないので、戦った時に感じたほど圧倒的ではなかった筈だ。
では、その差はドコから来たのか?
勿論、経験の差はあるんだろうが、たぶん、他に固有魔法を持っている所為だろう。
何しろ俺の器のほとんどは『自在工房』で占められている。『万能ツール』は『自在工房』からの派生と言う形で発現させたので効率よく覚える事ができたが、この二つを使えるようになってから食った魔獣で増えた魔力程度で抵抗しても、長の力には対抗できなくて当然とも言える。
だから、長を食ったことで増えた分の魔力を足しても、長と同じような魔法の使い方は俺にはできないだろう。
でも、この固有魔法を捨てるのも惜しい。
自分に都合の良い兵隊を作れる魔法は、とても魅力的だ。
なので、効率良く、少ない力でも使いやすいように固有魔法を調整する。
相手に分からないように精神を繋げ、俺の思考で相手を矯正し、洗脳する。まるで感染症のように。
名付けよう、俺の新たな固有魔法『精神感染』だ。




