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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第一章 産声
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1-8


 森の中で準備を終えた俺は、十字槍を担いで悠々と集落の中に入っていく。

 集落にゴブリンの影は無い。皆建物の中で息を殺して、事態の推移を見計らっているようだ。

 攫ったゴブリン、ギールに長への伝言を頼んだ結果だろう。

 文面は「今からお前をぶっ殺して集落を乗っ取りに行くから覚悟しろ!」である。

 今頃、長の腹の中は良い具合に煮えたぎっている事だろう。

 これで長が俺の事を馬鹿な若造だと考えてくれれば良いのだが、怒りで正常な判断ができなくなっているだけでも構わない。

 最悪、長が隠れて出てこなかったら、別の手を考えなければならないんだがな。


 などと考えながら集落の中を歩いていると、小屋の中からあの呪い師のゴブリンを担いでいた体格の良いゴブリンが棍棒片手に襲い掛かってきた。


「俺の言う事じゃないが、問答無用ってか?」


「余所者がほざくな!」


 魔法の指輪のお陰で襲撃の気配は察知できていたので、振り下ろされた棍棒を危なげなく避け、槍を腰だめに構えながら『万能マルチツール』を使って十字の穂先に炎を纏わせる。

 それを見た体格の良いゴブリンが一瞬ひるんだので、その隙に体格の良いゴブリンの腹を槍で突いた。


「ガァァァァ!」


「止めは刺さないからそこで寝てろ。運が良きゃ死なずにすむだろ」


 苦鳴を上げながら無茶苦茶に暴れる体格の良いゴブリンから槍を引き抜き、そう言い捨てて集落の中央に進む。

 腹を深く刺された上に傷口を焼かれたんだから死ぬのは時間の問題かもしれないが、そのかわりに失血死の可能性は低いので、重要な臓器にダメージが少なければ死なずにすむかもしれない。

 事が終わっても生きていたら、『自在工房ワークショップ』による治療(実験)をしてやっても良いしな。


 騒ぎを聞きつけたゴブリン共が、物陰から俺を見ている。

 その顔には怯えと諦めしかない。

 余所者の襲撃に怒りは無しか。ずいぶんと集落に対する不満がたまっているようだ。


 その後、集落の中心部に着くまで障害は無かった。

 代わりに数時間前に長と呪い師の一戦があった広場には、長と呪い師と、手に手に武器を構えた守り人らしきゴブリンが六人、俺を囲むように待ち構えていたのだが。


「大歓迎だな」


「随分と余裕ではなイグァッ?!」


 長に台詞をみなまで言わせず、目を伏せたまま鞄に腕を突っ込んで、取り出したクロスボウを腰だめに撃つ。

 既に弓を引かれ矢もセットされていたクロスボウは、引き金を引くと爆発するような反動と共に、特殊な矢を放った。


 飛び出した矢はすぐにほぐれ、数十本の針のような矢となって長を襲う。

 名付けてフレシェットアロー。

 構造としては筒の中に細い矢をぎっしりと入れ、筒がクロスボウから放たれた後に脱落するようにしただけの簡単な構造だが、効果は中々のモノだった。

 横に立っていた呪い師と共に十本以上は矢を受けて、長が蹴り飛ばされたかのように倒れる。


 殺ったかな?


「ぞ、ぞいづぼごろぜぇぇ!!!」


 ありゃ、まだ生きてら。


 命令された守り人が、なんの感情も見せず襲い掛かってきた。コイツラは全員、長の魔法で支配されているようだな。

 クロスボウを捨てて、鞄からウルフフェイスバックラーと叫兎スクリームラビットの小剣を取り出して迎え撃つ。


 まともに戦う必要は無い、この小剣の切れ味なら相手の武器も防具も容易く両断できるんだからな。

 バックラーで槍を受け止め、小剣で槍の柄を斬る。一瞬たたらを踏んだ守り人を逃さず、返した小剣の突きで腹を刺した。

 守り人は他にも斧や剣で攻撃してくるが、支配されている所為かその動きは単調で、容易く武器を受け止める事ができる。

 後は藁でも刈るように、ゴブリン共の手足を切り落とした。


「火霊に命ず、彼の者を焼き尽くせ!」


 その声に振り向いた俺の目の前には拳大の火の玉。魔法?!呪い師も生きていやがったか。

 咄嗟に、顔だけは庇う。

 想像したような衝撃は来ない。

 しかし、空気の塊が触れたような感触の後に、露出している肌が灼熱に包まれた。


 げ、長に使った火の玉より性質たちが悪いじゃねぇか!

 あわてて鞄の中に手を突っ込み、魔法の水差しを取り出して頭から水をかぶる。


 何とか火は消えたが、まだ戦闘中だ!

 水差しを捨てて横っ飛びに逃げる。

 振り返ると、寸前まで俺が居た場所に守り人の一人が剣を振り下ろしていた。


 水差しを取るために叫兎スクリームラビットの小剣を捨てたんで、バックラーを仕舞いながら鞄の中から新たな武器を取り出す。今度はコンパウンドボウだ。

 狙うは呪い師。

 こちらを指差してなにやら唱えてやがる。魔法なんか何度も撃たれてたまるか!!

 ろくに狙いをつけずに速射。

 弓と一緒に取り出した矢は四本。立て続けに撃って、三本が呪い師に当たった。

 コンパウンドボウを捨て、走りながら掬う様に地面に転がっていた叫兎スクリームラビットの小剣を拾う。

 呪い師は胸と腹に新たな矢をはやしながらも、まだしぶとく魔法を使おうとする。だが、それよりも早く、駆け寄った俺の一撃で呪い師の首が飛んだ。

 残っている守り人は後二人。

 愚直に攻撃してくるゴブリン共に負ける筈も無く、二人の手足を切り飛ばして戦えなくする。


 ふう、後は長だけだ。さっさと止めを刺して終わらせよう。

 そう思いながら、ピクリとも動かない長に無造作に近寄る。それが致命的な油断だった。

 叫兎スクリームラビットの小剣を振り上げた瞬間、長が目を見開き、俺はそれを見てしまう。


 長の目が俺の視界の全てを埋めた。


「従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!…………」


 頭の中に長の声が響き渡る。

 脳みそを蛆虫に虫食むしばまれる様な不快感。

 ああ、うっとおしい!!


「従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!従え!!!!」


 じわじわと、俺を形作るナニカが壊れていく。


「く、そ、が!!!」


 押しつぶすような凄まじい圧力を、気力を振り絞って耐える。


 何と無くコツが分かってきた。が、死に掛けだってのに長の力の方が何倍も強い。押し戻すどころか、耐えるので精一杯だ。


 何か手は無いか?

 何か?何か?何か?

 体は金縛りにでもあったかのように動かない。魔法も長の魔法を耐えるので限界だ。

 ……いや?俺は魔法で(・・・・・)耐えている?(・・・・・・)この感覚が精神系の固有魔法なのか?


 だとしたら!!

 耐えている力を僅かに抜いて、余力を作り出す。当然、長の魔法にじりじりと押し負けるが今はそれで良い。

 長の魔法にかかった者は人形のように長の言う事に逆らえず、二度と元には戻らない、とギールは言っていた。

 それと今の状況を考え合わせると、長の魔法は相手の精神を破壊して、さらに自分の命令を聞かせる能力が有ると考えていいだろう。

 なら、俺が長と同じたぐいの魔法を今使っているとすれば、俺にも命令をする事ができる筈だ。


 さぁ、動きやがれ俺の体!!


「右腕を振り下ろせ!」


 現実世界で叫兎スクリームラビットの小剣が長の首を刎ねる。

 僅かな力で放った命令だが、流石に自分の体だけあって素直に動いてくれたようだ。



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