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【森の守護者たち】

「逃げろぉぉ!踏み潰されるぞぉぉ!!」


エリック爺さんの絶叫が響き渡った。

北の森から押し寄せてきたのは炎だけではなかった。

火の手から逃れようとパニックに陥った野生動物たち。鹿、猪、そして無数の小型バイオヘキサギアたちが怒涛の勢いでウォーターシップダウンになだれ込んできたのだ。


「うわぁっ!?こっちに来るな!」

「ああっ、洗濯物が!」


逃げ惑う動物たちがフェンスを突き破り、洗濯物を角に引っ掛けて走り回る。

集落は大混乱に陥っていた。


「みんな、こっちだよ!広い倉庫へ!」


リンが持ち前の俊足を活かして先導し、鉄腕兄弟が巨大な盾となって住人を守る。

ノエルも必死に叫んでいた。


「怖くないよ!ここは安全だよ!」


しかし、恐怖に駆られた動物たちの暴走は止まらない。

その背後には空を焦がす紅蓮の炎が、生き物のような速さで迫っていた。


「ただの山火事ではありませんね」


ラボの屋上でクラリスが望遠鏡のセンサーを切り替えた。

揺らめく炎の中に、無機質な飛行物体の影が無数に見える。


「あれは『自律式焼夷ドローン』の群れです。何者かが森を焼き払うために放った兵器が制御を失って暴走しているようです」


「なんだと?迷惑な話だ!」


隣に立つフリーテルが舌打ちをした。

炎とドローンの群れはもう目と鼻の先まで迫っていた。


なんとか動物たちを広場に誘導し、居住区への被害は食い止めた。

しかし、新たな問題が発生した。


「グルルルッ……!!」


広場にひしめく数千匹の動物たちが飢えと興奮で殺気立っているのだ。


「おいおい、まずいぞ!腹が減ってやがる!何か食わせねぇと共食いを始めるぞ!」


エリック爺さんが青ざめる。

しかし、集落の備蓄食料ではこれだけの数を養うには到底足りない。


「困ったわね……。私の財力で食料を空輸しようにも、この火災じゃ輸送機が着陸できないわ」


ジェーンも悔しげに唇を噛む。

その時だった。


「フフフ、嘆くことはないよ」


フリーテルが不敵な笑みを浮かべて前に出た。


「質量保存の法則を少しばかり無視すればいいだけの話さ」


彼女は広場の土の上に跪き、自身の白衣の袖を捲り上げた。

そして、その細い腕をズブリと大地に突き刺した。


「えっ!?」


ノエルが息を呑む。

フリーテルの腕が毒々しくも美しいピンク色の光を放ち始めた。

彼女の体内で無尽蔵に増殖する癌細胞のエネルギーが土壌へと注入されていく。


ズゴゴゴゴゴ……ッ!!

大地が脈打った。

次の瞬間、広場の隅にあった枯れ木が爆発的な速度で成長を始めた。

幹は太くねじれ、枝が空を覆い、たった数秒で見たこともない巨大樹へと変貌する。


そして、その枝にはバスケットボールほどもある巨大な果実が鈴なりに実った。


「さあ、お食べ!僕のエネルギーで活性化させた特製フルーツだ!栄養価は満点だぞ!」


ドサドサと果実が落ちてくる。

動物たちは一斉に群がり、貪るように食べ始めた。

不気味な光景だが、食べた動物たちは瞬く間に落ち着きを取り戻し満足げに寝転がり始めた。


「す、すげぇ……」

「まるで魔法だ……」


住人たちは改めてこの魔女の底知れなさに戦慄し、そして安堵した。


食料問題は解決した。

だが、本当の危機はこれからだ。

ドローン軍団と炎の壁が、集落の防衛ラインに到達しようとしていた。


「姉さんは引き続き保水壁となる植物の生成を。害虫駆除と消火は私が担当します」


クラリスがスカートを翻し、ラボの格納庫へと走った。


「了解だ。頼んだよ、クラリス君」


数秒後。

格納庫から、白色の流星が飛び出した。


キィィィィン!!

それはクラリスの愛機・ヘイズル。

第三世代ヘキサギアロード・インパルスをベースに、彼女専用にカスタマイズされた機体だ。

白色の装甲は鏡のように炎を反射し、背部には巨大なタンクと特殊な放水・冷却ガスランチャーが装備されている。


「行くぞウーンドウォート、 クラリスに遅れるな!」


ミヒャエルのウーンドウォートも飛び出し、ヘイズルと並走する。


「ターゲット確認、これより掃除を開始します」


クラリスの瞳が冷徹な戦闘モードに切り替わる。

ヘイズルが跳躍した。

燃え盛る木々を足場に白色のウサギが宙を舞う。


ガガガガガッ!!

ガトリングガンが火を噴き、空を飛ぶドローンを次々と撃ち落とす。

そして着地と同時に、ガスランチャーから広範囲に冷却ガスを散布した。



バシュゥゥゥゥッ!!


「そこです、消えなさい」


紅蓮の炎が一瞬で凍りつき、鎮火していく。

その動きは戦闘というよりも、炎の中で踊る舞踏のように美しく、そして圧倒的だった。


「そこだッ!落ちろ!」


ミヒャエルのウーンドウォートが残存するドローンを強烈な蹴りで粉砕した。

その隙間を縫うように、ヘイズルのガトリングガンが唸りを上げる。


「ラスト・ワン……!」


クラリスは空中で機体を反転させながら、最後の一機を精密射撃で撃ち抜いた。

ドローンは爆散し、鉄屑となって燃える森へと墜落していく。


「消火弾、全弾発射!」


着地と同時に、ヘイズルの背部タンクから残りの冷却剤が一気に放出された。

白い霧が森を包み込み、猛威を振るっていた紅蓮の炎を完全に沈黙させた。


やがて、白い煙の向こうから朝日が昇り始めた。

黒く焼け焦げた森が照らし出されるが、ウォーターシップダウンの集落は無傷だった。

フリーテルが生み出した巨大植物の保水壁が熱波を完璧に遮断していたのだ。


「……助かったのか?」


広場の動物たちや住人たちが恐る恐る顔を上げる。

そこには朝焼けを背に立つ白色のヘキサギアと、巨大樹の前で腕を組む白衣の姿があった。


「おぉ……!!」


ワッと歓声が上がった。

煤だらけになったリンや鉄腕兄弟が互いの無事を祝って抱き合う。

エリック爺さんが煤で黒くなった顔をニカッと歪めて笑った。


「へっ、とんでもねぇ化け物どもだと思ってたが。今じゃウチの最強の守り神だな」


かつては恐れられていた魔女の二人。しかし今、彼女たちを見る住人の目には感謝と敬意が宿っていた。


危機は去った。

森が再生するまでの間、動物たちは集落で保護されることになった。

広場はさながら巨大な動物園のようだ。


「よしよし、もう痛くない?」


ノエルは一匹の怪我をした子うさぎの世話をしていた。

子うさぎはフリーテルが作ったピンク色の果実を夢中で齧っている。


「すごい、傷がもう治ってるよ!」


ノエルが驚きの声を上げる。

果実に含まれた超活性化エネルギーの効果で、子うさぎの傷は瞬く間に塞がっていた。


「フフン、当然さ」


フリーテルが得意げに鼻を鳴らす。


「僕の細胞はエネルギーの塊だからね。滋養強壮、傷の回復、細胞の若返り、あらゆる効果がある魔法の果実さ」


「ありがとう、フリーテル!君ももっと食べて大きくなってね!」


ノエルが微笑み、子うさぎの頭を撫でていた。

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