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千年桜決戦4

 転送魔法は俺達をスパモン桜の前に移動させた。。


 東京タワー近くの広い道路の真ん中だった。


 ヘンダーソンに押さえつけられ、地に根を下ろしたスパモン桜の大きな洞が目の前にあった。


 雪子が先陣を切って走り、詠唱した。


「『私は天幕を裂く一寸の鉄片。仮初の表象を穿ち、蒼穹の深淵を暴け』」


 彼女の指先に純粋な黒が生まれ、水風船が爆ぜるように右腕を呑み込んだ。次の瞬間、漆黒は吸い込まれるように彼女の腕と同じ形になった。


 黒い右腕は金属が引き裂かれるような歪な高音を上げた。


 周囲の全てが引き寄せられ、彼女を中心に、大粒の雨が渦巻いた。


「『絶て、黒釘(こくびょう)』!!」


 雪子の漆黒の右腕が千年桜の幹に突き立てられた。


 その瞬間、千年桜の幹に、幾重もの結界が、攻撃を弾き返そうと展開されたが、それらは黒い腕によって、容易く貫かれ、砕け、吸い込まれた。


「くーらーえーやぁー!!」


 黒い腕は千年桜の幹を穿ち、大きな穴をあけていった。


 が、結界を破るたび、黒い腕は摩耗し、ひび割れ、指が一本、また一本と砕けていった。


 何十層目かの結界で、黒い腕は砕け散り、雪子は障壁にぶつかり、弾かれた。


「よくやった。六割って所だ」 


 弾かれた雪子を俺が受け止めた時には、久作は千年桜に出来た大穴の奥で振りかぶっていた。


 久作は叫んだ。


「『不動』! 『金剛』!」


 雪子と違い、特に久作は何も変化しなかった。


「……ぬんっ!!」


 再生しようとする結界に、久作が拳をぶち込んだ。


 空気が破られるようなつんざく音を上げた拳は、一撃で多重結界を崩壊させ、桜花結界の中心まで穴が開いた。


「暁!」


「暁さん!」


 俺は印を切り、詠唱した。


「『絶』」


 時が止まり、世界が停止した。


 俺は駆けだした。


 久作のあけた人一人分の穴を抜けた。


 中は、千年桜の中心に落ちた時のような白い空間ではなく、苔むした金属の部屋だった。


 円形でドーム状の部屋は、小さな公園くらいの広さだった。


 金属板が重ねられた床は、板は苔むし隙間から草が生え、ドーム状の壁から天井には蔦のような植物が蔓延っている。


 その中心に、テレビ男がいた。


 まるで数十年放置されたかのように体に苔が生え、両手は蔓によって吊られて立っている。ドレットヘアのだった頭部の数十本のコードは天井に接続されていた。


 俺はコルトをテレビ男に向けた。


「あばよ」


 俺は時間停止したまま、コルトの引き金を引いた。


 ダンッ!!!!


 霊弾が放たれた、その瞬間、テレビ男は電気へと姿を変えた。


「くそっ」


 そうだ。こいつは、時間停止でも動くんだった。


 俺は絶を解除した。


 すると背後の穴が一瞬で修復し、外への出口が絶たれた。


 時間停止状態で撃ち込んだ霊弾が暴風となって部屋の中を駆け巡り、吹き飛ばされた俺は壁にぶつかった。


 全身を電流に変えていたテレビ男が実体を取り戻し、海賊姿で笑った。


「ズビャビャビャビャビャ!! 残念でしたね。この空間を桜花結界によって完全に隔絶しました。あなたは今から私に改造され、これから一糸纏わぬヌーディストになるのですよ!」


 テレビ男は盛大に両手を広げ、余裕を浮かべ語った。


「あなた方の作戦は分かっています。リンネ様の血の繋がりがあるあなたが千年桜の中に侵入し、アンカーとなって、水名様とリンネ様もここに侵入する手はずだったのでしょう?」


「へえ、賢いじゃねえか。お前の言う通りだ。母さんとあの雪女がここに来りゃあ、てめえを片付けられるらしいが、二人が来る前に、てめえが千年桜を封鎖することは分かっていた」


「では、ここから挽回する策があると言うのですか」


「俺がてめえをぶっ倒すんだよ」


「あなたが? 私を? ご冗談でしょう?」


 テレビ男が小馬鹿にするように肩をすくめた。


「一回負けてるのに、ずいぶん余裕だな」


「あの時はあなたの力を見誤っていましたから。『五道転輪』に目覚めたのなら、それさえ注意すればいいだけです」


 テレビ男の画面が点灯し、青く、輝きだした。


「お相手致します」


「はっ。もう一回、ぶち壊してやるよ」


 俺はテレビ男にコルトを向け、奴の顔面に照準を合わせたものの、勝算は薄かった。


 なんせ俺は『五道転輪』だかという意味不明な力に目覚めたばかりだし、そもそもの作戦では、俺がここに侵入した時点で、母さんと水名がやってくる算段だったのだ。


 さっきは全くテレビ男の言う通りで、腹立たしいから虚勢を張っただけに過ぎない。


 だが、やらなきゃいけないことは変わらねえ。


 俺は細く息を吐いて、目の前のテレビ男に集中した。。


 作戦会議の時の水名との会話が脳裏をよぎった。


『もしテレビ男と戦うことになった時の為に聞きてえんだけどよ、あいつに弱点とかねえのか?』


『あー君じゃ勝てないから言っても仕方ないよ』


『舐めてんのか?』


『じゃあ言っとくけど、弱点はないよ。桜花結界から霊力を吸収するからエネルギーは無尽蔵だし、桜花結界による死の置換を応用してるから死んでもその場で即時復活する。ストレージ容量はほぼ無限だし、コンピュータウイルスも対策してあるし、無形と有形の状態変化も一瞬。魔術的には日本神道、仏教、アミニズム、古典的呪術の四系統がメインで、近代西洋魔法も八重まで同時詠唱が使える』


 聞いといて、バカみたいな話だった。


 水名がやれやれと肩をすくめた。


『君が五道転輪を使いこなしたならチャンスはあるけど、それよりもスパ子ちゃんが突っ立ってた方が強いよね』


「——だったら、その力、使いこなしてやろうじゃねえか」


 俺は記憶の中の水名に言った。


 テレビ男が、ふっと笑った。


「独り言ですか?」


「そうだ。かかって来ねえのか?」


「私がホスト、あなたがゲストです。どうぞゲストの方から、――あ、思ったより早かったですね」


「なんだよ?」


「今、スパモン桜がヘンダーソンを撃破しました」


「はあ!?」


「ということで、私も全力でもてなさせていただきます」


 俺は即座に引き金を引き、全力の霊弾をぶち込んだ。


 だがテレビ男は、皓月のように無詠唱で結界を展開し、容易く弾いた。


 テレビ男は両手で印を切り、詠唱した。


「『桜花千年桜、ヌーディストビーチ』」


 やつを中心に、閉鎖されていた結界内部の空間が無限にまで拡張された。


 そして世界が生まれていた。


 ここは、果てしなき砂浜、青い空、白い雲、穏やかな陽光、無窮に続く青い海……。


 直観的に理解した。


 俺はヌーディストビーチにいる。


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