千年桜決戦3
時はスパモン桜が空を飛びだした直後に遡る。
上野公園で水名は俺達に作戦を告げた。
「スパモン桜は千年桜と違い、敵を排除する意思がある。よって、破壊は千年桜以上に難しいと予測される。けれど、スパモンを撃退するための魔法があるというなら、スパモン桜の集中をそちらに向けることができるかもしれない」
水名の言葉にエメリアが不満げに眉を寄せた。
「我の力ではスパモン桜を撃退できないとでも?」
「撃退できるかもしれないし、できないかもしれない。仮に撃退できたとしても、今は桜花結界の中枢にスパモンに乗っ取られたテレビ男がいる。テレビ男はスパモン狂信者になってしまったから、スパモンを倒しても、桜花結界はスパモン教になったままだろうね」
「じゃあ、どうするんだよ」
「だから、僕ら全員で千年桜の防御結界を打ち抜こう。中枢にいるテレビ男をもう一度倒し、僕とリンネで桜花結界のコントロールを取り戻す」
作戦の妥当性を確かめるように、久作が尋ねた。
「この一月で結界はどこまで修復された?」
「百八。元通りだよ。僕らの仕事ぶりを舐めないで欲しいね」
「だとしたら不可能だ。千年桜の強度は分かっているだろう? ヒロシ君のような裏技が使えなければ破壊出来ない」
「皓月のように結界各層の完全な破壊はできなくても、部分的には撃ち抜くことはできるだろう? 久作が『不動』をかけて殴れば三分の一くらいは削れると思うけど」
「俺の腕が潰れるが? 明日からどうやって生活すればいい?」
「じゃあキックでもいいよ。久作キック」
「話にならんな。残った七十枚の結界はどうする?」
「雪子が破る」
水名がそう言い切った。
俺だけでなく、全員が雪子を見つめた。
「できんのか?」
「試したことはないですけど、お姉ちゃんが言うなら、多分、できます」
俺を見て、大したことでもないように彼女は言った。水名がつけ加えた。
「魔法強度だけで言えば、本気の『絶対守護領域』はコウゲツと轍の術を超える」
「一月前、俺が負傷したのも、十数年ぶりだからな。とはいえ、防御でしか使えないということはないのか?」
久作の疑問に、雪子は首を振った。
「『絶対守護領域』という名は、ありていに言えば、飾りです。かつて人を傷つけたこの力で、もう誰も傷つけたくないから、『絶対守護領域』という名前を付けたんです。この力は、容易く人を消し去ることができます」
雪子は真剣な表情でそう言ったが、誰も傷つけたくないってのは嘘だろ。
俺はさっき手足消されたぞ。
ふと、一月前の出来事を思い出した。
「エメリアを取り込んだスパモンを破った時、あれが本気の力か?」
「覚えてましたか」
雪子は少し驚いた風に俺を見て、続けた。
「『絶対守護領域』は通常であれば、不可視の障壁です。ですが、それは光や電気など、小さな粒子は透過していることを意味しています。全力の『絶対守護領域』はそれらをも消し去り、空間を断絶させます」
「いいだろう。その作戦に乗った。霊力は早池峰から受け取れ」
久作は頷き、それから雪子に言った。
「ただ、お前が先行した後、俺がぶち抜く。俺の拳では局所的にしか結界は壊せないからな」
「さっきの話からしてあなたの腕が壊れたら、姉でも治せないんですよね。それでもやるんですか」
「安心しろ。千年桜は十六年前の俺と同等の強度しかない。ゆえに俺の腕が壊れることはない。十数年の時は、人間にとって長い時間だ。俺達の中で皓くんや轍という脅威を前に、何もせずのうのうと過ごせた人間がいると思うか?」
この時、常に気だるげな久作の瞳に生気が宿っているのを、俺は初めて目にした。




