千年桜決戦2
豪雨が降り注いでいた。
暗雲が夜空を覆い隠し、暗雲に潜む龍のように絶え間なく様々な色の稲光が、夜空に輝く。
スパモン桜によって呼び起こされた豪雨は、地面で跳ね、黄色く粟立ち、苦い芳香を放っている。
もはや言うまでもなく、それらはビールだった。
ビールの雨は飲んだ人々の衣服を溶かし、東京中にヌーディストを生み出していた。
それだけじゃなく、電気を司る最強の付喪神であるテレビ男がスパモンに操られたことで、全ての音響機器からダンスホールサウンドが鳴り響き、全ての映像媒体ではヌーディストとなり楽し気にバーベキューをする日本の明るい未来が、プロパガンダのように映し出されていた。
関東地方は完全な機能不全に陥っていた。
母さん、水名、雪子、エメリア、久作と俺の六人は、東京タワーの屋上で、秘密警察の魔術師らが展開した結界に守られながら、下界の様子を見つめていた。
『スパモンは真のストリッパーとパーティーが好きだから必ず六本木を目指す』
水名のいう通り、スパモン桜は天居を中心とする環状線結界内郭を迂回しながら、ゆっくりと六本木の方角へ飛行してきていた。
スパモン桜が通り抜けてきた街は、桜花結界の強力な力で塗り替えられていた。
街の電燈は馬鹿みたいに明るいイルミネーションでビカビカ輝き、建物には万国博覧会のごとく海賊旗がはためき、スパモンの誕生を祝うかのごとく、盛大な花火が打ちあがっている。
エメリアは眼下の狂騒を見つめながら、強く言った。
「暁。我は、やるよ」
「覚悟が決まったのか?」
「さっき次郎系ヌードルを食べに行ったら、店主がパスタ茹でてたんだ」
俺達と違い魔法を使った移動ができないエメリアは久作におんぶしてもらい移動したが、その道中、次郎系を食いに行ったようだ。
「で、どうだった?」
「次郎系スープパスタになってて、食べやすくて、おいしくて、最後まで食べれた……。でも、次郎系ヌードルは、食べきれなくて吐きそうなくらいが、ちょうどいい」
エメリアは強い意思を秘めた瞳で、そう言った。
「それは俺も同感だな」
ついに、スパモン桜は、闇夜に桜の花びらを淡く輝かせやせながら、東京タワーに近づいた。
トウキョウタワーの足元から、電流が這いあがるかの如く、あっという間にイルミネーションが生まれ、ビカビカと輝き出した。
「今だよ。スパ子ちゃん」
水名の合図にエメリアは頭のザルを手に取った。
「我は、この国に次郎系ヌードルを取り戻す」
彼女は詠唱した。
「『我の名はエメリア・スパゲッティモンスター! 汝の子にして、終末の巫女なり。汝、彼方の灼熱の深海より出でし者。地芽吹き、気は満ち、力は溢れ、滴るは海なり。汝は麦を愛する為だけに存在するに非ず、愛されるためにこそあり。我は畏きも、汝を聖別し、全きとする者なり。汝が座するは、浅ましきこの星の大地に非ず、無天の玉座である。汝の骨と血肉を以って、我ら卑しき小人らの空腹を収めん!』」
エメリアの握るザルが消失した。
「『禊ぎ、磔刑せよ、ヘンダーソン』」
瞬間、暗雲を突き破り、天から現れた金色に輝く巨大な腕が――それはスパモン桜を捉えられるほど巨大だった――、それまた巨大な湯切りザルを握り――これはラーメン屋にあるものだ――、スパモン桜に振り下ろした。
『ズビャ!! ズビャビャビャビャビャ!!!!』
だが、スパモン桜はその巨大な桜の枝を伸ばし、湯切りざるを受け止めた。
天地を揺るがすような衝撃が、東京を震わせた。
巨体が大地に押し付けられ、スパモンの行進が止まった。地上一帯にクリスマスっぽい赤緑のイルミネーションが広がり、数百の花火が一度に打ち上がった。
しかし、スパモンはその赤い瞳をさらに輝かせると、掴んだ湯切りザルの一部をパスタへと変形させ、根を伸ばして、バリバリと千切って食べ始めた。
「こらバカ! ヘンダーソン! しっかりしろ!! 間抜け! ヌードル野郎!!」
エメリアは地団太を踏んだ。黄金の腕ヘンダーソンは押し返されつつあった。
けれども、それらは織り込み済みだった。
俺は隣に立つ雪子に声をかけた。
「行くぞ」
「わかってますよ」
彼女は頷いた。
秘密警察が三人がかりで転移魔法を俺達に唱えた。




