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千年桜決戦1

「な、なんだ!?」


 バキバキと音を立てて、スパモン桜が地面から伸びあがっていた。


 上野公園の桜が傾き、大地がひっくり返ったように隆起した。


 その中心で、スパモン桜が地面から大きな根を引っ張り出し、地上に立ち上がった。


 桜花の中で二つの大きな赤い瞳が眩く輝いた。


「ズビャビャビャビャビァァァァァァァァアアアアアアッッッ!!」


 それは狂気に陥りそうな異質な叫びだった。


 久作は顔を顰めた。


「テレビ男が乗っ取られたせいで、千年桜がスパモンに掌握されたか。轍、何か手はあるか? ……轍?」


「……リンネが早池峰の子供産むやなんて……。あっちが先に約束してはったのに……。あっちは帰る……」


「おい! どこ行く気だ!? 轍!」


 久作が叫んだが、轍は何も聞こえない様子で、ふよふよと浮遊して天居の方へ帰っていった。


「力ずくで引き留めろよ」


「スパモン桜と一緒に轍の相手もする気か? ここにいるやつらでどうにかするんだ」


 苦々しい表情で久作が言った。


 そこに水名が尋ねた。


「でもさ、このままスパモン桜でもよくない? 形は変わっても桜花結界は維持されてるし」


「魔術省の見立てによれば、スパモンが桜花結界を掌握した場合、三日のうちに国民全員がストリッパーになり、十年後にはアル中になって国が亡ぶらしい」


「魔術省は実に悲観的だね。僕らは千年桜を通してスパモンのことは理解してるけど、スパモンはそんな壊滅的な神じゃないから安心するといい。葦の子らがアル中になって死んでいく中で子供がたくさん生まれて、人口は維持されるから日本が完全に亡びることはないよ」


「そういう問題じゃない。俺には二人の娘がいるんだ。この国の常識が覆えりそれが正常だとしても、娘をストリッパーにするわけにはいかない」


「え? 久作結婚したの」


「お前が千年桜に入る前には結婚したって伝えていたが?」


「あー、そうだっけー?」


 水名がとぼけて目を逸らした。


「ん、んん……」


 気を失っていたエメリアが苦しげな声を漏らし、ゆっくりと目を開いた。


 雪子が心配げに彼女を覗き込んだ。


「エメリア、大丈夫ですか?」


「雪子……、無事、だった……?」


「おかげさまで。この身を犠牲にせずに済みました」


「何いい感じで言ってんだ。全部お前の勘違いなんだから、犠牲になろうとしてもなれなかっただろうが」


「い、今は言わないでくださいよ!!」


 雪子は顔を赤くして叫んだ。


 エメリアを地面に下ろすと、しっかりと立った。調子は悪くなさそうだ。


「よくわかんないけど、雪子が生きてるならよかった……って、スパモン様が、空を飛んでる……!? 主の降臨! 予言の刻は来たれり! スパモン様の時代がやってくる!!」


 エメリアは駆けだしてスパモン桜を抱くように、両手を天に伸ばして歓喜した。


「何喜んでるんですか! みんなストリッパーになってしまうんですよ!? それでもいいんですか!」


「いいじゃん。皆でスパモン教しようよ。毎日バーベキュー、良くない?」


 スパモンを背後に、エメリアは、平等に訪れる死を恐れぬ聖女のように微笑んだ。


「心配しないで雪子。みんながストリッパーということは、みんなストリッパーじゃないっていうことと同義だから」


「おいスパ子」


「なに暁? ストリッパーになるのが恐ろしい?」


 俺は二つの拳でエメリアの頭を挟んでぐりぐりした。


「いたいいたい!」


「何、聖人そうぶってんだ。そもそも、てめえが呼び出したスパモンだろ。てめえがなんとかしろ!」


「世界の救済が成されようとしているのにっ! どうして我がっ! いたいたい!」


「ふざけてっと、このまま頭をぶっ潰すぞ」


「雪子! 雪子! 暁が突然狂暴化してる! 助けて!」


「エメリア……。私達は、良き友でした」


「見捨てないで! わかった! わかった! どうにかするから!」


「ほんとか?」


「ホントホント!」


 俺はエメリアを放した。彼女は頭を抑えながら、二、三歩後ずさった。


 かと思えば俺に向けて右手を突き出した。


「馬鹿め暁! 『我は全てのドグマを――』ぐぶフゥ!」


 俺するより先に、雪子がエメリアの腹に蹴りを入れた。


 エメリアの身体が地面を転がり、うつ伏せに倒れたのをひっくり返して雪子が馬乗りになった。


 雪子が凍てついた声音でエメリアに告げた。


「エメリア、私はストリッパーになりたくありません。今から私はあなたの両目をくりぬき、すりつぶし、海外に逃れます」


「さっきの、冗談! 冗談だって!」


 雪子の指先がエメリアの眼窩に伸ばされた。エメリアはその腕を強く掴んだ。


「暁! 助けて! 雪子がマジ!」


「お前が悪いだろ」


 俺は嘆息した。


「じゃあ、この状況をどうにかできんのか?」


「できる! スパモン様はどうにかできるから!」


「ほんとですか?」


 エメリアの目蓋に指をかけていた雪子がその手を止めた。


 エメリアはほっと一息ついて、言った。


「スパモン教には滅びの呪文がある」


「冗談は要りません。さようならエメリア」


「これホント、ホントだから!」


「雪子やめてやれ。ガチっぽいぞ」


「みたいですね」


 涙を浮かべて叫ぶエメリアに、雪子はすんなり手を引いた。


 最後はエメリアを試していたらしい。それまでは本気だっただろうが。


「で、その呪文でどうなるんだ?」


 エメリアは服についた埃を払いながら言った。


「全知全能なるスパモン様にも弱点がある。スパモン様のスパゲッティ触手はザルだけは通過できない。だから滅びの呪文でスパモン様を湯切りすれば退治できる」


「それで、千年桜を元に戻せるのか?」


「これはスパモン様用専用だから当たり判定はスパモン様にしかなくて、スパモン様を千年桜から分離させることができるはずだよ」


「それはいいね」


 水名がそう言って笑った。


「それなら千年桜を取り返せる」


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