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桜花陰陽極受像電子ノ尊1

「スビャビャビャビャビャビャ!!!」


 煙の中から、汚らわしい耳障りな笑い声が聞こえた。


 爆煙が晴れ、テレビ男の姿が明らかになった。


 さっきまでの姿とは全く異なる恰好をしていた。


 くすんだ麻のシャツに茶色い革のベストを身に着け、その上に重厚なコートを被っている。ズボンはゆったりしたダークブラウンのパンツで、膝上で折り返しのあるカットブーツを履き、腰にはピストルと、細長い剣を差していた。


 頭部は相変わらずのブラウン管テレビだったが、赤いバンダナを巻き、ドレットヘアーのように三色コードや電源コードをバラバラと垂らしている。


 それはどうみても、海賊ジャックスパロウのコスプレだった。


「アホみてえな姿だな」


「困ったことになったね」


 俺の感想とは反対に、水名がそう言った。


「雑魚そうじゃねえか。もう一発ぶっ飛ばせばいいだろ」


「そう簡単な事態じゃないんだよ」


 水名が困ったように肩をすくめた。


「さっき轍がテレビ男を破壊したのは、桜花結界の効果で再誕させて暴走状態をリセットするためだったんだ。だからテレビ男が復活するのはいいんだけれど、テレビ男が海賊の姿をしているという事は、桜花結界がスパモンに乗っ取られたということさ」


「おいおい、スパモンはどうにかなったんじゃないのかよ」


「デバックの最終実行はテレビ男が行う手はずだったからね。僕らもいい加減千年桜の外に出たいし、平時の管理者はテレビ男に任せたかったからね。でもおかしいな。テレビ男は皓月や轍に勝てずとも、負けないようには設計したのに。あの攻撃じゃ、憑代まで破壊されないから乗っ取られるはずないんだけど」


「うっ。そ、それは、俺が憑代を俺がぶっ壊しちまったから……」


「ぶっ壊した!?」


 水名が目を丸くした。その隣で母さんが爆笑した。


「どうりで、さっき『五道転輪』の気配がした と思ったんだよねえ。やるじゃん、暁」


「ええー。どうするんだよもう。僕また一から作り出すのやだよぉ」


 水名が本当にげんなりした顔で俺を睨んだ。


 ガチで面目なさすぎる。


「楽しいお話の最中に申し訳ありません。皆様に一つだけ、お尋ねしたい事があります」


 テレビ男は平素と変わらぬ口調で俺達に尋ねた。


 が、やつの質問内容は、その姿に相応しく、きっちりイカれていた。


「あなた方は、我らが偉大なる主、スパモン様のお導きを信じますか?」


「信じてるけど?」


 母さんが平然と答えた。


 絶対嘘だ。


 テレビ男は画面に黄色い丸のスマイルスタンプを浮かべた。


「それは重畳です。天国に案内いたしましょう」


 テレビ男が頭上を指さし、詠唱した。


「『夢見るままに、ビールを吞んで、待ち至り』」


 その指が鳴らされた。


 瞬間、白い空間を埋め尽くすほどの黄色い液体——ビールの津波が現れた。


 轍が印を結び、唱えた。


「『水鏡(みずかがみ)』」


 ふっと、床が消え、投げ出されるような感覚。


 落下した俺は水の中に沈み込んだ。かと思えば水は引き、気づけば、芝生の上にいた。


 どうやら上野公園の端のほうに転移したらしい。スパモン桜の幹がやや離れた場所に見える。


 周りには俺と同じようにびしょぬれの皆がいた。


 いや、待て。


 エメリアがいない。


「轍! エメリア忘れてんぞ!」


「バカエルフは魔法で運べへんさかいに」


 轍が忌まわし気にそう言った時、母さんが声をあげた。


「あ! 私の娘忘れてきた!」


「リンネの娘? 息子の間違いとちゃうん? アホ息子ならここに居はるで」


 首をかしげる轍に、母さんは頭を掻いた。


「いやー、轍には言いづらいんだけどぉ……、千年桜の中って暇じゃん? それで、水名との子供、できちゃった」


「……は?」


 轍が停止した。


 やつの脳内で歯車が軋む音が聞こえてくるような、見事な停止だった。


 瞳孔が開き、時が止まったようにピクリともしない。


「マジかよ……」


 どうなってんだ今日は。


 親父は自分の息子探してて、母さんは娘出産してて……、意味がわからん。


「やったね暁。妹が増えるよ!」


「親指立てて言わないでくれ」


 俺は額を抑えた。


 ってことは俺と雪子は親戚になるのか? いや、結婚とかしてないから親戚にはならないか? いや、そんなことは、どうでもいい。


「ってか、妹が増えるって、一人目じゃねえか」


「コウゲツの浮気相手にも女の子いるから、暁の二人目の妹だよ」


「はあ!?」


 おいおい、あのクソ親父。浮気して子供までできてるのか。そりゃあ息子取られるわ。


「これで今日からお兄ちゃんだね」


「え? 母親ってこんな殴りたくなるものなのか」


「リンネ。自分のガキを忘れてくるな」


 久作が赤ん坊を抱きかかえて現れた。


 こいつは子供の事を知っていたのだろう。それに、エメリアも背負っている。轍の転移魔法を不動で耐えて回収してくれたのだろう。


 母さんは赤ん坊を大事そうに受け取った。


 赤ん坊は、普通の人間の赤ん坊と同じ姿かたちをしていた。


「久作はいつもだよりになるね」


「お前らがいつまでも学生気分なだけだ」


 久作は母さんにそう言いながら、ぞんざいに俺にエメリアを渡してきた。


「あ、ありがとう」


「自分のツレの面倒ぐらい自分でみることだな」


「うっせえ」


 俺がエメリアを受け取ったその時、突然、大地が激しく震えだした。


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