テレビ男1
視界がぱっと眩く輝き、身体の内側から爆ぜるような衝撃があった。
視界が暗転し、身体が引きつって動かない。全ての音が遠く聞こえる。
「雷撃!? あなたは……」
雪子が襲ってきたやつを見つけたようだった。
俺はぼんやりと見えてきた視界で、その姿を見つけた。
そいつは、意味不明な恰好をした馬鹿野郎だった。
黒いスーツに、ブラウン管テレビを被った男。どうみても、NO MORE映画泥棒のパクリみたいな野郎だった。
おそらく、付喪神の一種だ。
異質すぎる雰囲気から、クソみたいに強い気配がする。
テレビ男は、雪子の眼前で、恭しく一礼した。
「雪子様。お迎えに上がりました」
「どうして、ここに……」
「今日一日雪子様の傍に控えさせていただきました。約束の刻が迫っています。あなたは千年桜の下に参らなければなりません」
テレビ男は雪子の手を取った。
「ご同行ください」
「放して!」
おそらく『絶対守護領域』を発動したのだろう。
雪子は男の手を振り払った。
腕が消え去ったにも関わらずテレビ男は動じなかった。男の腕からは眩い電流があふれ出し、一瞬で手が元通りになった。
「『無形』……」
雪子は警戒しながら、そう呟いた。
『無形』。
それは魔術の最高峰の一つだった。
己の肉体を流動的な物質に変換することで、容易に再生を可能とし、物理的なダメージを受けづらくなる。それだけでなく、新たな本質とした物質の特性を強く得られる。
こいつの場合、テレビの付喪神だったのだろうが、その本質を電気へと移行させたのだろう。
俺はひきつる喉を絞りあげ、叫んだ。
「雪子……逃げろ!」
「驚きです。その状態で声が出せるんですか」
テレビ男は俺に向かって手を伸向けたが、その間に雪子が立ちはだかった。
「させません」
テレビ男は表情の無い画面で彼女を見つめた。
「『絶対守護領域』……それには明らかな弱点がいくつもあります」
やつがそう言った瞬間、雪子が身を震わせて倒れた。
「一つは大地。あなたが地に足を付けている以上、『絶対守護領域』はそこに発生していません」
「おい雪子! くそっ……何が、目的だっ……!?」
彼女はどうやら意識を失っているようだ。死んでは、いないはずだ。
「私の仕事は雪子様を千年桜に連れて行くことだけです」
テレビ男はあっさりと白状した。
「時間を稼ごうとしても無駄ですよ。あなた達が戦っている間に警備隊は片付けましたから、あなたの助けとなる勢力がここにやってくることはありません」
「くそっ、なんで、身体が、動かねえんだ……!」
俺は芋虫のようにもがいていた。
立ち上がろうとしても、身体が言う事を聞かない。雷撃を受けたにしても、傷は再生し、すぐに行動できるはずだった。
「痛みは感じないんですか? さっきの一撃であなたの頸椎に雷の種を仕込みました。常にあなたの神経を焼き切っています。リジェネーターとの戦いは一撃でその命を絶つか、再起不能状態を維持するかのどちらかになりますからね」
テレビ男は気を失った雪子を抱えあげた。
「それに、殺人による穢れの蓄積は、私には致命傷になりますから」
「雪子を、どうする、気だ……!?」
「それを、あなたが知る必要はありません」
テレビ男の手が俺に差し向けられた。
「おやすみなさい、少年」
掌に稲光が収束し、輝きを増していく。
俺を片付けるつもりだ。
『絶』を使うか?
だが、俺の頸椎にクソ野郎が何か仕組んでやがる。
『絶』を使ってたとして、それが停止し肉体を回復させられるのか、それとも時間停止の間も俺の一部となったそれは俺の神経を焼き続けるのか。
どっちにしても、やるしかねえ!
俺は覚悟を決め、『絶』を使おうとした瞬間、不意に、雹が降ったような音を立てて、何かが地面を跳ねた。
それはたくさんの丸い球だった。
夜の明かりを表面に吸ったその球体は、ガラス玉のように見えた。
追うように、テレビ男とは別の男の声が聞こえた。
「『美しき牢獄よ・大地に根を降ろせ・汝は茨・磔刑せよ・彼の遺骸を!』」
男の詠唱に、ガラス玉の中で、簡素で特徴的な紋様が浮かんだ。
ルーン文字。
現代に残る偉大なる魔法の一つ、北欧魔術が行使された。
目に見えぬ力で、テレビ男の手足が取られ、何もない広場で、十字に架けられた。
ガラス玉の中で、ルーン文字が怪しく輝いている。
背後から足音が近づいてくる。
それは俺の真後ろで止まり、上から俺を覗き込んだ。
「よう、息子。また会ったな」
「皓月!!」
そいつは、俺の親父、琴平皓月だった。




