立川駅1
学校が終わり、私とエミリアは立川駅のホームで、電車を待っていた。
「ユキコー、やっぱり次郎系ヌードル食べに行こうよー」
「先週も食べたじゃないですか」
五月になった。
私がこの街に来て、一ヶ月が経った。
暁さんは、今日も今日とてタイマン張りに精をだしているので、駅のホームで電車を待っているのは私とエメリアの二人だけだった。
「それにエメリア残すじゃないですか」
今日は残飯処理係の暁さんがいない。
「でもでもー、我がお金出すからあ」
「奢り?」
「そうそう! 奢りデース」
エセ外人喋りでエメリアが無駄に容姿の良い顔を寄せてきたが、今日は同行できない。
「今日は私が食事当番ですから。夕ご飯を準備しないと、百夜さんが困ります。一人で行ってきてください」
「いやいやー! エメリア可愛いエルフなので、アカツキみたいな変態的ニッポンジーンに攫われてしまいマース!」
「チビスパモン呼べばいいじゃないですか」
彼女はマジックキャンセルされた魔力を蓄積しスパモンを呼んでいるという事が判明したが、先週でかいのを呼んだばかりなので今は小さいのしか呼べない。
「チビスパモン弱いデース」
チビスパモンは弱い。
彼女の魔力放出のため、日々召喚させられ、暁さんの的にされている。
エメリアが雑魚スパモンしか呼べないのに反し、上野スパモン桜は成長を続けていた。
スパモン桜の根は上野公園から伸び広がり、アメ地下を呑み込み、東京ストリッパー大学を超え、今や内郭環状線結界にぶち当たっている。
東京の十三区の三分の一の水道からはビールが出るし、先週から米を炊くと米ヌードルに置換され、味噌汁に入れないと食べれなくなってきている。
これ以上異変が起きる前に千年桜を切り倒すべきだという声が挙がる中、天照大神様は冷静になるよう呼び掛けている。
「おい、誰が変態だって? このザル頭」
「あー! アカツキ! 返せ! 我の、我のザル!」
物陰から急に暁さんが現れた。
ザルを取られてぴょんぴょん跳ねているエメリアの反応からして時間停止してきたわけではなさそうだ。
エメリアは詠唱した。
「『我は全てのドグマを否定する! 出でよ、スパモン!』」
「おえっ、おえええ――」
暁さんは口から拳大のチビスパモンを吐き出した。
どうやら彼の体内に召喚されたようだった。その隙にエメリアはザルを取り返して頭に被った。
「見たことか!」
エメリアが勝ち誇ったのもつかの間、暁さんは彼女の頭からザルをはぎ取ろうとした。
「あっ! やめて! 宗教弾圧、宗教差別! それ、ふざけてやっちゃいいけないやつ!」
「うるせえ! てめえが先に吹っ掛けてきたんだろ!」
「いるって知らなかったんだもん! 気づいてたら変態的ニッポンジーンなんて言わないもん! クソごみかすロリコペドフィリババアコンプレックス短小男!」
「てめえ! 短小じゃねえだろ!」
そっちロリコンより嫌なんだ。
「ああっ!」
ベルが鳴った時、暁さんはエメリアからザルを取り上げ、駅のホームへ投げ込み、入ってきた列車がザルを粉砕した。
「あーーーーーーーーー!!!!」
エメリアが絶叫し崩れ落ちたが、彼は彼女の襟首を掴み上げた。
「ほら乗るぞ」
「さすがに引きますわ」
人が大切にするものを躊躇わず粉砕する彼の所業は、人間としてどうかと思う。
「うっせえ」
私の蔑視を一蹴し、彼は電車に乗り込んだ。
彼に運ばれたエメリアは呆然と電車の床に座っていた。
私は四等車両の椅子に腰かけた。
暁さんは私の隣で窓ガラスに頭を預け、寝たふりを決め込んでいる。
今日も今日とて、暁さんの乗る電車は避けられているようで、降りていく人妖の姿が見られる。
私は床に座るエメリアに話しかけた。
「そういえば、なんでザル被ってるんですか? 魔力が増幅するわけでも、制限されるわけでもないでしょう?」
「……スパモン様のスパゲッティ触手から逃れるためでーす」
ザルを失ったショックを引きずったまま、エセ外国人っぽい口調で、エメリアは言った。
「スパモンってあなた達の創造主ですよね? どうして創造主の触手から逃げないといけないんですか? 神の手なら加護とか与えてくれるものでしょう?」
「違いますよ、ユキコ。スパモン様のスパゲッティ触手はとてつもなく恐ろしい力を秘めて居るのです」
エメリアはふらふらと立ち上がった。
「恐ろしい力、ですか?」
天照大御神や三千院轍など、この国のトップクラスの存在が解決のため動いているにも関わらず、一月経った今もなお桜花結界はスパモンに強い影響を受けている。
もし、スパモンに隠された力があるのなら、その力も桜花結界のルールに影響を与えているに違いない。
彼女は鞄からスペアの折り畳みザルを取り出して頭に被った。
「そうです、それはそれは恐ろしい力です。これは今現在も世界中に大きな影響をもたらしています」
「どんな力なんだよ?」
寝たふりをしていた暁さんが片目を開けて、エメリアを見つめた。どうやら彼も私と同じく、スパモンの隠された力が気になったようだ。
エメリアは鼻を鳴らし、暁さんを嘲笑い、そして言った。
「スパモン様のスパゲッティ触手は我々地球上の全生物の頭を押さえることで身長が伸びるのを阻止しています……!」
「はい?」
彼が隣で静かに目を閉じるのが見なくてもわかった。
エメリアはザルを被り直したことで元気を得たようで、熱を込め語りだした。
「スパモン様は人間の成長を抑えるために無限に存在する触手を常に伸ばしているのです。しかしスパゲッティ触手であるスパモン様の手はザルを越えられない。つまり、このザルを被っていると身長が伸びていくのです! 我はこの身長で満足していない! 将来的に我はスパモン教大司祭として、日本愚民、邪教徒、下等種族を見下さねばならいのです! 残念ながらザルを被っていない貴様らは日本愚民は、身長が縮んで——、ああ! ユキコ! ザルを取らないで! どうしてユキコまで! 返して! 返してください! 窓開けて、どうするつもりですか? ユキコ……、ユキコ――――!!!」
私はエメリアの頭を押さえつけ、大きく振りかぶって電車の外にザルを投げ捨てた。




