立川実践高校1
「そのぐるぐる巻きのエルフはなんだ?」
「はあ? てめえ教師か? 舐めんじゃねえぞ」
「教師だとか、教師じゃないとか関係はない。そのエルフはなんだと聞いている」
始業式前、校門に掲示されたクラス分けに従い教室で俺は待機していた。
エメリアを担いだまま教室に入った瞬間、全ての人妖の視線を集めたが、誰もこいつがいる理由を尋ねてくるやつはいなかった。
学校に入る直前に、気絶パンチを喰らわせてエメリアは静かになっている。
だから意外といけるかと思ったが、チャイムの音と共に教室へ入ってきた人間の男に高圧的に聞かれた。
腕毛とか髭の濃い、筋肉質の丸く大きい男だった。あだ名はゴリラだと教室の全員が思う容姿だった。
「エルフを縛り付けて学校に持って来ちゃいけねえって校則でもあんのかよ」
「普通持って来ちゃいかんだろ」
知ってるわボケナスが。
「それに縛り付けたエルフを持って来ちゃいけないって校則もある」
「んな校則あってたまるか」
「三千四百二十五条十一・五項にあるぞ」
分厚い辞書をめくってゴリラが示した。
『エルフハ持チ込ミ不可トスル』
どんな学校だよ。アホか?
「だからってなあ、校則で生徒縛り付けるもんじゃねえだろ。俺達にも自由ってもんが、あるはずだろ、自由ってもんがよぉ!」
「たしかに」
ゴリラは頷いた。ボケナスか、こいつ?
「自由というのは他者に迷惑をかけない限りは保証されるべきだ。だが、他者に迷惑をかけた瞬間、それは自由ではなく横暴になる」
「ゴリラてめえ、さてはちょっといい大学出てるな?」
「この学園は外来妖怪にも勉学への平等な機会を与えるべきだと考えている。そのため、保険証を持たない外来妖怪にも寮が割り当てられ、仮の人権が与えられる。さて、そこのエルフにも人権があるわけだが、どうしてエルフを縛っているのか、説明してもらおう」
ゴリラは俺を詰めた。
さすがにエルフを教室に転がしとくのは無理が合ったか?
若干の判断の甘さを悔やんだ時、ガタッと音を立てて、教室の一人が立ち上がった。
それは雪子だった。
そして、雪子は俺の方向には見向きもせず、教室の前方を、誰もいない黒板の方向を見たたまま、無感情な声で言った。
「エルフはその人の性奴隷です」
「は?」
「言ってました。偽装結婚して住所くれてやるからお前は今日から性奴隷なんだって言ってるの聞きました」
「はあ?」
雪子が言ってるのは意味不明な虚言だった。
さすがのゴリラも困惑したようだった。
「何言ってるんだ君は?」
「毎晩、喘ぎ声が隣の部屋から聞こえてくるんです。すごいひどいこともしてるんだと思います。その人住んでるの神社だから拷問器具とか、エッチなやつもある地下室に連れ込んでいろいろしてるだと思います」
死んだ目をして雪子は、尚、虚言を吐いた。
おそらくこいつは怒っている。
電車から飛び降りて、俺が着地したのは大きな池だった。
マジックキャンセラーであるエメリアには治癒魔術が使えない。全員の無事を優先するなら、水に落ちるのが一番だった。
その結果、ずぶ濡れで学校に来ることになったのだが、雪子はそれが許せなかったらしく、池から上がって文句を言ってから、一言も口をきかなかった、
教室にはエメリアと俺と雪子、びしょぬれの人間が三人いた。
ゴリラは困惑していた。
「それで、君達は揃ってびしょぬれで、君はこいつとどんな関係なんだ? もしかして君も性奴隷だとかいうんじゃないだろうな?」
ゴリラの言葉に、雪子ははっとした。
「せ、性奴隷なんて! そんなわけないじゃないですか! 私はただ一緒の家に住んでいるだけで――」
ドン引いてるクラスメイトの視線と、自分が何を口走ってしまったのか、雪子はようやく気付いた。
彼女は、一瞬で耳まで赤くした。
「ち、違います! わっ、私は……! 私は、ただ、一緒に住んでるだけで……」
視線から逃れるように雪子は席に座り、叫んだ。
「に、肉体関係なんて、持ったことありませんから!!」
沈黙が、教室を支配した。
ゴリラが一つ咳ばらいした。
「よし、お前ら、これから入学式だけど、その前に校長室な」




