皓月2
「秘密、だと?」
俺は固唾を呑んで、やつを見つめた。
「知っていると思うが、現在この国にいる多くの半神や半妖が暮らしている。やつらは旧日本の富国強兵政策による特殊兵計画で、誕生し、爆発的に数を増やした。だが、俺の親父は違う。親父は普通に合法ロリであるババアと自然恋愛して結婚している。つまり俺達には変態ロリコン野郎の血が流れている」
「はあ?」
なんだその話は? 秘密でもなんでもねえじゃねえか。
「お前はロリコンになるんじゃねえぞ」
「突然何言ってんだてめえ。下の話題を持ち出すなんて、息子との距離を測り損ねた父親か?」
今この状況で、この話題には、何の価値もない。
では、なぜ皓月はこんな話を持ち出したのか。
簡単だ。
やつは煽り返そうとしている。
戦いとは基本的に冷静さを欠いたほうが負ける。
精神攻撃戦。
つまり、煽り合いに勝利した側が勝利する。
現時点で俺が有利な状況だ。
皓月は真剣な表情を崩さなかった。
「これは俺の心からの忠告だ」
俺は鼻で嘲笑い、告げた。
「なら答えてやらあ。ロリコンは精神疾患だ。てめえに心配されるまでもねえ。俺は巨乳派なんだ」
「お袋に育てられたくせに、巨乳派、だと……?」
皓月は目を見開いた。
「ああ、そうだよ」
俺は自信を持って言える。ジジイとは違い、ロリコンでないと。
だが、俺の答えに、皓月は俯き、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ククク……」
「? 何が可笑しい?」
「フフフ、フハハハハハハ! 息子よ! お前が楽しんでる巨乳物、タイトルは『真・時間停止巨乳学園 時間を止められる魔法の砂時計』だな!!」
親父は千里眼でも使用しているかのように、俺が楽しんでいるアダルトDVDのタイトルを言い当てた。
「な、なぜ知っている!」
「俺もそいつで楽しんだからなあ! そして、息子の正常な情操教育の為に俺が屋根裏に仕込んでおいたんだ!!」
「う、嘘だ! あれは未開封だった!!」
「未開封の奴をわざわざ買ってきて仕込んだんだよぉ! 数年前からお前の息子は、俺の手の中で踊ってたんだ!」
「ぶっ殺してやる!!」
俺がコルトを向けると、皓月は無表情で両手を挙げた。
「まあ待て、お前が煽ったから煽り返しただけじゃないか」
ダンッダンッダンッ!!!!
全力を込めた霊弾は、結界に弾かれることなく、皓月をぶち抜いた。
「さっきの教訓を活かしてるじゃあないか。霊撃の威力が桁違いだ。だが、まだできるだろう?」
が、打ち抜かれた皓月は蜃気楼のように揺らぎ、消えてなくなった。
「お遊びはここまでだ。さて、話を戻そう」
声と共に俺の周囲に五人の皓月が生まれた。そういつらは同じ動作、同じタイミングで、俺の周りを歩き出した。
皓月は先ほどまでと打って変わって、冷徹な声で言った。
「俺は桜花結界のルールを書き換える」
「なんだって? そんなことが可能なのか?」
「ああ。桜花結界の本質は人の意志に敏感な混沌だ。それを百八つの結界で護ることで実体化したものが上野千年桜だ。百八つの結界はクソ頑丈だが、混沌までの道のりを切り開きさえすれば、あとは願うだけで、容易にルールを書き換えることができる」
「あれほど強力な魔法が、人一人の願いで変化するだと? んなわけあるか」
「信じずとも構わん。俺のやることは変わらない」
「じゃあ、てめえはあのクソ頑丈な結界をぶち破れるってのか?」
「当り前だ。それを叶えるのが、純粋なニホニウムからなる原子力爆弾だ。このキャリーバッグの中にそれは入っている。こいつに指向性をもたせ、千年桜にぶち込み、結界を切り崩す」
「原子爆弾だって? 間抜けか? 原爆も桜花結界が花びらに置換しちまうだろ」
「ほう。お前は気づいていないのか」
皓月はほくそ笑んだ。
「時を止めた世界では、銃弾や爆弾の置換は起きない」
「嘘だ。桜花結界だぞ。この置換を抜けられるはずがない」
「それがありえるんだな。桜花結界の花びらへの置換を織りなしているのは俺の力だからな」
「は? てめえ、今、なんて言った?」
あり得ないことを耳にしたと思った。
皓月は話を続けることで、それが真実だと語った。
「桜花結界は俺達七人が作った。そして、俺達はこの神国の、全てを手にした――はずだった。桜花結界が完成すると、やつらは俺を裏切った。代償は大きく、俺はかけがえのないものを奪われ、国を追放された」
皓月は顔を歪ませ、後悔の色を瞳に浮かべた。
「それを取り戻すために、俺は帰ってきた」
やつはゆっくりと顔を上げ俺を見つめた。
灰色の瞳が暗い影に覆われていた。
「お前は、お前の母親——リンネがどうなったか知ってるのか?」
母さんの名前を耳にした瞬間、心臓が締め付けられるような感じがした。
「母さんが、桜花結界と関係があるのか?!?」
「その様子だと、お前の母親が鬼の血筋であることも知らんようだな」
母さんが鬼の血を引いている?
母さんは俺が三つの時に、家から居なくなった。
だから、記憶の中の顔も朧気で、なぜか家には写真も残されていない。
当然、母さんが鬼の血を引いているなんてことは全く知らなかった。
「……母さんは、今どこにいる?」
皓月はおもむろに、視線を千年桜に向けた。
俺も視線をそちらに向け、異様なほど大きな、一本の桜を見つめた。
「まさか――」
そして、頭の中に一つ、最悪な答えが浮かんだ。




