アメ地下1
上野アメ横集落は沿線上にある緩衝地帯の一つだ。
アメ横集落は一見テナントビルが並んだ賑わいのある商店街だが、その内部は摩利支天徳大寺による『吉運開闢結界』により迷宮化している。
『吉運開闢結界』は求める者を求める物へ導く結界であり、扉を開ける度、別の場所にたどり着く。
ドア開いた者は必ず足を踏み入れないといけないというルールがあるが、目的地にすぐ着くので結構便利で、どこでもドアのように利用する人も多い。
さて、両手があるってのは楽だ。エルフを担ぎながらでも、ドアが開けられる。エルフさまさまだ。
俺達はアメ横集落の入り口にあるマクドナルド、アニメイトを経由し、天下一品、ケンタッキー、牛タン食べ放題の店を抜けて、ようやく、地下商店街のような細長く続く閉鎖空間に出た。
ここは地上の道からは隔離されている。
頭上から電車の走る音が聞こえることから、おそらく、高架下ではないかと推測される。
昼間だというのに夜のように暗い空間では、軒先の赤い提灯が周囲を赤く照らしていた。
人妖はまばらに歩き、店の前でどこか懐かしい音のベルを鳴らし、店主が内側から扉を開け店に入っていく。
ここにまともな店はない。扉の出口として今出てきた灯りのついていない飲食店には、「くりぬきたての『目』だせます」と、黄ばんだ紙が貼られていた。
「ここがアメ地下ですか? じめじめした嫌な所ですね」
「こっから下ってくんだよ」
薄気味悪い商店街を、少し歩いて目的地にたどり着いた。
雪子は入り口に掲げられている看板を見上げ、声に出して読んだ。
「漸コソアメ地下ゑ。ココカラ先、日本神国憲法通用セズ……?」
破壊された鳥居に架けられた、茶色くさびた大きな看板にはそう書いてあった。
鳥居の向こうには、地下へ下っていく大きなトンネルが伸びている。青臭いカビの匂いが鼻腔を突く。
箱やガラクタが並び、どこかから漏れてくる水で濡れた道には、ぼろ布を被った妖怪か人間が、立っていたり、横になっていたりする。
奥に行けば行くほど、目だけが光る何者かが住んでいる廃材でできたバラックの数が増え、異臭が強くなり、道は細くなっていく。
そんな地下トンネルが広がっており、進むのも躊躇されるのだが、今回はありがたい事に、鳥居の下にはドア枠のあるピンク色の扉が一つ建っていた。
「アメ地下ドア?」
雪子がドアノブに掛かっている札を読み上げた。
アメ地下からの帰り道は『吉運開闢結界』を使えるが、有事の際の対策なのか、行く道で使えるドアは限られている。
「この前来た時にはぶっ壊れてたけど、誰かが建て直してくれたみてえだな。ありがてえ」
俺は躊躇わずドアを開けた。




