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転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第六章:国家の選択

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シーン2:蒸気と理屈の間で

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

「臨界まで四分です!!」


管理術師の怒声が、七階の炉管理室に響いた。


公開討論の最中だった。

バルコニーから広場の群集を見下ろしている私の背後で、管理室の扉が勢いよく叩き開かれ、術師の一人が真っ青な顔で飛び込んできたのだ。


「何が起きた」


ヴァルグラムが即座に踵を返す。


「保守派貴族のロートリア卿が……今朝早く、中央核の補助コアを強制起動させました! セーフモードを強制解除して、出力を最大まで引き上げています!!」


「なんだと!?」


管理術師の声は震えていた。


「昨夜の炉の停止で、貴族区画の暖炉と魔力調理器がすべて停止しました。その報復として、ロートリア卿が塔の副制御室を占拠し、強制起動を——」


「馬鹿が」


ヴァルグラムが低く吐き捨てた。


私はバルコニーを離れ、管理室へ走る。

昨夜、私が組んだセーフモードの制御式は、あくまで仮設の構造だ。外部から強制的に出力を最大値へ引き上げられれば、ノイズキャンセリングの計算式は瞬時に崩壊する。


(最悪のタイミングだ)


管理盤の水晶板に手を当て、状態を確認する。

出力が、恐ろしい速度で跳ね上がっている。昨夜の臨界寸前よりも、さらに速い上昇カーブだ。


「副制御室の場所は」


「三階の東棟です! でも、ロートリア卿の護衛騎士が占拠していて——」


「人数は」


「二十名ほど……」


「ヴァルグラム! 副制御室の強制解錠権限はあなたが持ってるはず!」


私は彼を振り返る。


ヴァルグラムは一瞬だけ眉を動かし、頷いた。


「特務騎士団を動かす。三分でドアをこじ開ける」


「三分じゃ遅い。臨界まで四分しかない。扉を開けても制御が間に合わない」


「では——」


「別のルートで止める」


私は管理盤から離れ、部屋の奥、ほとんど誰も使っていない埃の被った棚の前に走った。

この塔に来てから五日間、読み続けた禁書庫の知識の中に、確か——あった。


「これだ」


私が引っ張り出したのは、三十年前の設計図だ。

王立図書塔が建造された当初の、魔力炉の設計原図。地下から七階まで貫く中央魔力管の全体図。その中の、ある一本の補助管が目に飛び込んでくる。


「緊急放熱弁。炉の出力が設計上限を超えた際に、余剰魔力を塔の外へ強制排出するための弁。……この三十年間、一度も使われてないから、存在自体を忘れられてる」


私は設計図を術師に向けて突きつけた。


「この弁は、どこにある?」


術師が設計図を食い入るように見て、顔を上げる。


「……五階と六階の間の、壁の中です。でも、魔力でじゃなく物理的な開閉弁で、レバーを直接引かないと——」


「案内して。今すぐ」


「でも危険です! 余剰魔力を一気に放出すれば、弁の周囲で爆発が——」


「弁から離れれば済む話だよ。走って!」


私は設計図を抱えて廊下へ飛び出した。

五歳の短い足で、石の廊下を全力疾走する。エルドとマリナが、さっき広場から飛び込んできたのが見えた。


「エルド!」


「リリア様!! 炉が——また唸り始めてます!」


「分かってる! ついてきて!」


螺旋階段を駆け下りる。六階、五階半。

壁の一角に、分厚い石板に覆われた扉がある。設計図の通りだ。石板には古びた鉄のハンドルが突き出ている。三十年分の錆が、ハンドルを石板に固着させていた。


「……開かない」


私が両手で引いても、ハンドルは微動だにしない。

五歳の握力ではどうにもならない。


「退いて」


エルドが私の横に並び、両手でハンドルを掴んだ。鍬を振るい続けた農夫の手だ。彼の全身の筋肉が、ギリギリと軋む。


「くっ……! 錆が……!!」


「マリナ、エルドの腰を押して!」


「わかった!」


マリナが背後からエルドの背中を全体重で押す。

私は設計図を横にどかし、壁の石板の隙間に指を押し込んで、引力の方向を変えようとした。


「せーので引っ張る! せーのっ!!」


三人が一斉に力を込めた瞬間。


——ギィィィィン!!


三十年分の錆が断ち切れ、ハンドルが一気に引き出された。


次の瞬間。


——ゴォォォォッ!!!


壁の奥から、眩い青白い光の奔流が噴き出した。

炉から逃げ場を失って限界まで溜まっていた余剰魔力が、放熱弁を通して塔の外壁へ向けて一気に放出されたのだ。


「伏せて!!」


私は咄嗟にマリナの背中を押して床に伏せ、自分も石畳に腹ばいになった。

光の奔流が廊下の天井をなぎ払い、壁に埋め込まれた魔石が次々に粉砕されて火花を散らしながら飛んでいく。


三秒。

五秒。

十秒。


轟音が収まった。


「……生きてる?」


「……はい……耳が、鳴ってますけど……」


エルドが首を持ち上げ、呆然とした顔で宙を見つめている。マリナは両手で耳を押さえ、目をぎゅっと閉じていた。


私は立ち上がり、廊下の窓の外を見た。

塔の外壁から、巨大な青白い光の柱が夜空に向かって垂直に噴き上がっていた。王都の全市民に向けて、炉の過負荷がただいま排出されたことを、これ以上ないほど派手に宣伝していた。


「……悪目立ちするね、これ」


私は小さくつぶやいた。

でも、光の柱の向こうの空が、じわじわと暁の橙色に染まり始めているのが見えた。


「出力は?」


私は廊下に設置されている補助計器——水晶板に刻まれた魔力計の目盛りを確認する。

針が、赤い危険域から黄色の警戒域を過ぎ、緑の安定域へゆっくりと下りていく。


「……落ちてる。安定してる」


私はその場に、ずるずると壁にもたれかかって座り込んだ。


「よかった……」


「リリア様……あなたは本当に」


エルドが、頭から石の粉を被りながら私を見下ろしていた。その目は、呆れと、感動と、泣き笑いが全部ぐちゃぐちゃになった、なんとも言えない表情をしている。


「なんで毎回、最後は物理なんですか……」


「魔法で解けない問題は、力で解けばいいんだよ。錆びたレバーは引っ張れば開く。理屈より単純だよ」


私は笑った。

三日間ほとんど眠れていない全身の疲労がどっと吹き出して、いっそ清々しいほどだった。


廊下の向こうから、足音が響いてくる。

ヴァルグラムと、特務騎士団の面々だ。彼らは外壁から噴き出した青白い光の柱を見て、仰天しながら駆けつけてきたのだろう。

彼の灰色の目が、廊下に散乱した瓦礫と、壁に空いた巨大な穴と、そのそばで壁にもたれて座り込んでいる五歳の私を見て、一瞬で状況を把握した。


「……放熱弁を使ったか」


「はい。三十年分の錆が固まってたので、力技で。炉の出力は安定域まで下がりました」


「ロートリア卿の強制起動は、騎士団が制圧した。副制御室は奪還済みだ」


「ならもう問題ない。セーフモードは維持されてます」


ヴァルグラムは私の前に仁王立ちし、腕を組んだ。


「リリア・アーカイブ。今日一日で、君は塔の炉を三度、崩壊の淵から引き戻した」


「数えてたんですね」


「評価の根拠として記録するのが私の仕事だ」


彼は腕を解き、胸の前で手を組んだ。


「……君の『分散制御』の提案を、正式に受け入れる。王国各地への知識核の分散設置と、各都市への蔵書の部分的解放を、段階的に実施する」


廊下の空気が、しんと凝固した。

エルドが口を開けて固まっている。マリナが顔を両手で覆って震えていた。


「ただし」


ヴァルグラムは静かに付け加えた。


「安全設計の監督は、君が行う。村の図書館で試みた『バランスの管理』を、今度は王国全土で実施してもらう。……君が関与しない限り、私はこの計画に同意しない」


「……分かりました。やります」


私は立ち上がり、瓦礫を踏みながら、彼の正面に立った。


「でも一つだけ条件があります」


「聞こう」


「アーベルシュタットの図書館を、この計画の第一号にしてください。あの村の人たちが、最初の実証データを作ってくれたんです。最初に報われるのは、彼らじゃなきゃいけない」


ヴァルグラムは一秒だけ沈黙し、頷いた。


「……了解した」


私は深く、長く、息を吐き出した。

廊下の窓の外では、青白い光の柱がゆっくりと消え、代わりに王都の夜明けの光が差し込み始めていた。


知識の独占という、三十年の呪いが解ける朝だ。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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