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転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第六章:国家の選択

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シーン1:知識の法廷

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

王都の朝は、ひどく静かだった。

昨夜のパニックが嘘のように、街には整然とした魔力照明の光が戻り、煙も火の手も上がっていない。ただ、その静けさの底には、三十万人の市民が抱え込んだ「何か得体の知れないものが起きている」という強烈な不安が渦巻いているのが分かった。


そしてその不安の震源地である王立図書塔の広場には、今、数千人を超える群衆が詰めかけていた。


「……随分と集まったね」


私は広場を見下ろすバルコニーの欄干から身を乗り出し、眼下の群集を見下ろした。

貴族、騎士、商人、平民。普段なら決して交わることのない階級の人間たちが、昨夜の事件の真相を求めて塔の前に押し寄せているのだ。


「閣下が、昨夜の魔力炉異常の原因と対策について、すべての市民に公開説明を行うと宣言したからだ」


私の背後で、特務騎士団の隊長が硬い声で答えた。


「で、その『対策』の張本人である私を、このバルコニーに立たせたわけだ。……悪者にするつもり?」


「それは閣下がお決めになることだ。我々はただ、護衛するのみ」


隊長はそう言って口を閉ざした。

私はルビの入った胸ポケットを軽くポンと叩き、深呼吸をした。

ヴァルグラムの意図は読めている。彼は三十年間守り続けた「知識の独占」という法を、自らの言葉で終わらせようとしているのだ。だが、それは同時に、彼自身の政治的生命の死を意味する。


バルコニーの中央、拡声の魔導具が置かれた演壇に、ヴァルグラムが姿を現した。


広場を埋め尽くしていた数千人のざわめきが、一瞬で水を打ったように静まり返る。

彼の灰色の瞳が、眼下の群集をゆっくりと見渡した。


「王都の市民よ」


低く、しかし空気を震わせるような声が、広場全体に響き渡った。


「昨夜の魔力炉の停止、および再起動による混乱。その全責任は、王立図書塔管理長官であるこの私、ヴァルグラムにある」


群衆がどよめいた。

貴族たちが顔を見合わせ、平民たちがざわめく。


「原因は、炉の老朽化でも、外部からのテロ攻撃でもない。……この塔に封印されていた『知識』が、辺境の村と共鳴し、制御不能の出力を生み出したことによる」


「なんだと……?」

「知識が……?」


ざわめきが、明確な恐怖と怒りの色を帯び始める。

三十年前のグランベルクの記憶を持つ年配の者たちの顔が、一気に青ざめていくのがバルコニーからでも見えた。


「静まれ」


ヴァルグラムが一喝する。

その声の圧に、再び群衆が沈黙した。


「三十年前。私は、知識の暴走からこの国を守るため、すべての本をこの塔に封じた。だが、それは誤りだった」


彼の言葉に、今度は私が息を呑んだ。

あの頑迷で、冷徹で、ゼロリスクに憑りつかれていた男が、数千人の前で自らの三十年を否定したのだ。


「私は『安全な知識』だけを国に与え、『危険な知識』を隠した。だが、知識とは本来、すべてが繋がって初めて完全な輪となるものだ。車輪の半分だけを回せば、車は必ず倒れる。私はその当然の理屈から目を逸らし、この国を三十年間、停滞という名の鳥籠に閉じ込めていたのだ」


ヴァルグラムは振り返り、バルコニーの端に立っていた私を見た。


「……リリア・アーカイブ」


拡声器を通した彼の声に呼ばれ、私は数千人の視線が一斉に突き刺さる演壇の隣へと歩み出た。五歳の小さな身体が、バルコニーの欄干からようやく顔を出せる程度の高さしかない。


「この子供が、昨夜の臨界を救った」


「こ、子供……!?」

「あんな幼女が、魔力炉を!?」


群衆の混乱がピークに達する。

ヴァルグラムはそれを制止することなく、私に拡声の魔導具を向けた。


「さあ、語るがいい。君が組み上げた『分散制御』の理屈を。この三十万人の市民に」


私は拡声器の前に立つ。

見下ろす群集の目は、私を「救世主」として見ているわけではない。「得体の知れない怪物」を見るような、警戒と不信に満ちた目だ。


(……ここで、間違えちゃいけない)


私は拳をぎゅっと握りしめる。

前世で私が失敗したのは、相手の感情を無視して、ただ正しいだけの数式を押し付けようとしたからだ。

人は、理屈だけでは動かない。恐怖を取り除き、利益を提示し、そして「自分事」として腹落ちさせなければならない。


「王都の皆さん。おはようございます」


私の高い子供の声が、広場に響く。

群衆の緊張が、少しだけ拍子抜けしたように緩むのを感じた。


「昨日の夜、真っ暗になって怖かったですよね。私が魔力炉を止めたからです。ごめんなさい」


「……っ」

「おいおい、自分で止めたって言ったぞ」


「でも、止めないと爆発してました」


私は言葉を続ける。


「なぜ爆発しそうになったか。王立図書塔が、皆さんに『隠し事』をしてたからです。強いエンジンだけ作って、ブレーキの作り方を教えてくれなかった。だから、いざスピードが出た時に止まれなくなった」


私は背後にある巨大な塔を指差した。


「あの塔の中には、皆さんの生活を豊かにする知識が山ほどあります。病気を治す薬の作り方、冬でも暖かい家の建て方、美味しいパンを焼くための小麦の育て方。……でも、それらを一箇所に集めて、一部の人間だけで管理しようとするから、負荷が集中して暴発するんです」


私は群衆の最前列にいる、身なりの良い貴族たちを見据えた。

彼らは今、既得権益を奪われる恐怖から、私を殺気立って睨みつけている。


「だから、提案します」


私は声を一段階大きくし、広場の隅々まで届くように言い放った。


「知識を、塔から解放してください。王都の『中央核』一つで国中を管理するんじゃなくて、各都市、各村に『小さな魔導知識核』を分散させて設置するんです」


「分散だと……?」


「はい。一つの巨大な水槽に水を貯めるから、決壊した時に街が飲み込まれるんです。小さなコップに分けて、それぞれが必要な分だけを使えばいい。誰かが本を読んで新しい技術を見つけたら、それを安全に少しずつ、みんなで共有していく」


私は両手を広げた。


「知識を独占するから、世界が歪む。知識を共有して、みんなでブレーキを踏みながら進めば、グランベルクの悲劇は絶対に起きません。……理屈は、通ってますよね?」


静寂。

数千人の人間が、五歳の幼女の言葉を頭の中で反芻している。


「……ふざけるな!!」


沈黙を破ったのは、最前列にいた恰腹の良い貴族だった。


「そんな子供の戯言が信じられるか! 知識を平民どもに解放すれば、再び国が滅びる! それは三十年前に証明されているだろうが!!」


「そうだ! 危険だ!」

「長官閣下! この子供は魔女です! 言葉に惑わされてはいけません!」


保守派の貴族たちが一斉に声を上げ、それに同調した一部の市民も怒号を上げ始める。

空気の温度が、一気に「恐怖」へと傾きかけた。


(来た)


私は唇を噛む。

予想通りだ。一度植え付けられた恐怖は、論理だけでは簡単に覆らない。


だが、その時だった。


「……ふざけてるのは、あんたたちの方だろ!!」


広場の後方から、一人の少女の甲高い声が響いた。


群衆が割れ、前に進み出てきたのは——泥だらけの服を着た、アーベルシュタットの村の少女、マリナだった。

彼女の後ろには、エルドや、村の大人たち数十人が、息を切らして立っている。王都まで三日の道のりを、夜通し走って追いかけてきたのだ。


「リリア先生は、間違ってない!」


マリナは涙ぐんだ目で、貴族たちを睨みつけた。


「先生の知識で、わたしのお母さんの病気は治った! 村の麦も育った! 先生はわたしたちに、ただ本を読ませたんじゃない。『なぜ』そうなるのか、ちゃんと理由を教えてくれた!」


マリナの言葉に、周囲の市民たちがざわめき始める。


「理由を知っていれば、人間は間違えない! 隠すから、分からなくなるんだ!」


彼女の悲痛な叫びが、広場に木霊する。


私はバルコニーの上から、その小さな姿を見つめていた。

(……ああ)

胸の奥で、何かが熱く溶けていくのを感じた。


前世で、私は一人ぼっちだった。

でも今世では、私の理屈を理解し、それを自分の言葉で世界に叫んでくれる人間が、ちゃんと目の前にいる。


マリナの言葉に呼応するように、魔力炉が微かに、しかし確かに、青い光の脈動を強めた。

大衆の心が「理解」から「共感」へとシフトし、新しい世界の法則を支えようとしているのだ。


決着の天秤が、今、大きく傾こうとしていた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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