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転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第五章:制御と暴走

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シーン4:天秤が砕け散る夜

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

「……化け物め」


庭師の男が、腕で顔を覆いながら低く唸る。

彼を押し返しているのは、物理的な風や衝撃ではない。純粋な『理解の質量』だ。私一人ならただの五歳の頭脳でも、辺境の百人と王都の術師十人が同時にこの理論を支え、強固なネットワークを形成している。

その圧倒的な演算処理能力が、魔導知識核を通してこの地下室の空間そのものを青く発光させているのだ。


「化け物じゃないよ。これが人間の『社会』だ」


私は床に置いたランタンを拾い上げ、彼に一歩近づく。


「あなたが一つの街を滅ぼしてまで証明したかった『人間の愚かさ』なんて、初めから存在しない。正しい知識の全体像を教えれば、人は自分でブレーキを踏める。それを隠して安全設計を破綻させたのは、あなただ」


男は舌打ちをし、覆面の奥の銀色の瞳を細める。

彼の手のひらに黒い靄が渦巻き、青い光を相殺しようと試みる。だが、靄は光に触れた端からジュッと音を立てて蒸発していく。個人の魔力では、数十人の『理解』がもたらす世界法則のアップデートには絶対に敵わない。


「……計算外だ。まさか、あの辺境の農民どもが、これほど高位の魔術理論の『土台』を担えるとは」


「土台なんて誰でもいいんだよ。理屈さえ通れば、五歳児でも大人でも、農民でも貴族でも同じ。それが知識の平等性でしょ」


男の姿が、足元からずるずると周囲の影へ溶け込み始める。

撤退だ。彼もまた、論理的な思考回路を持っている。ここで私とネットワークの出力勝負をしても勝ち目がないと悟ったのだ。


「逃げるの?」


私は挑発するように首をかしげる。


「今日は退く。だが、君が組み上げたこの『分散制御』のネットワーク……果たしていつまで持つかな」


男の身体が半分以上、石畳の影に沈む。


「知識を共有すればするほど、大衆は力を得る。王都の貴族どもが、自分たちの特権を脅かすその力を黙って見過ごすと思うか? 君が暴走を止めても、次は人間同士の醜い殺し合いが始まるだけだ。……私はVIP席で、その結末を見届けるとしよう」


「心配しなくていいよ。それも含めて、私が全部設計し直すから」


「……傲慢な子供だ」


その言葉を最後に、男の姿は完全に闇の中へ消え去った。

後に残されたのは、粉々に砕け散ったガラスケースと、宙を舞う『前世の数式』の紙片だけ。


私はふう、と短く息を吐き出し、その場にぺたりと座り込んだ。

張り詰めていた緊張の糸が切れた瞬間、五歳の身体に尋常ではない疲労感が襲いかかってきた。手足が鉛のように重い。脳の裏側が焼け焦げるように熱く、ズキズキと脈打っている。


(……でも、まだだ)


私は目を閉じ、意識の底でネットワークの接続を確かめる。

思い出した『完全なブレーキ』の制御式を、上階の管理室にいる術師たちへ流し込む。彼らの脳がそれを受け取り、理解し、魔力炉のシステムへ最終的なアップデートとして定着させていく。


——キィィィン……。


かすかに聞こえていた塔の共鳴音が、高く澄んだ音へ変わり、やがて完全に消失した。

冷たい地下室の空気が、ふっと澄み渡る。


「……終わった」


私は目を開ける。

地下室の重厚な鉄扉が、バンッ! と乱暴に蹴り開けられた。


「リリア・アーカイブ!!」


松明を掲げた近衛騎士たちを従え、ヴァルグラムが雪崩れ込んでくる。

彼の灰色の目は、普段の冷静さを完全に失い、驚愕に見開かれていた。無理もない。誰も入れないはずの地下の最深部で、封印されていた特級危険指定のガラスケースが内部から爆散し、無数の紙片が青い光を放って宙を舞っているのだから。


「これは……一体、何が起きた」


ヴァルグラムが、散乱する紙片の一枚を拾い上げる。

そこに書かれているのは、彼が三十年間恐れ続けた『暴走の引き金』ではなく、それを完全に抑え込む『制御の極致』だ。


「炉は、どうなりましたか」


私は座り込んだまま、掠れた声で問う。


ヴァルグラムは紙片から私へ視線を移し、複雑な表情で唇を噛んだ。


「……完全に安定した。ただのセーフモードではない。過去三十年間、一度も記録したことがないほどの高効率と静縮性で、王都全域の魔力供給が復旧している」


私は口角を少しだけ上げる。


「よかった。理屈は、通したよ」


「君が……この地下に封印されていた知識を、炉に接続したのか」


「一人じゃないです。アーベルシュタットの村人と、上の階の術師たち。全員で『理解』を共有した。だから暴走せずに、世界がアップデートされた」


私は重い腕を持ち上げ、ヴァルグラムを指差す。


「これでもまだ、知識は塔の奥底に隠しておくべきだと言いますか?」


ヴァルグラムは反論しなかった。

彼の手に握られた紙片が、青い光を失ってただの古い羊皮紙に戻っていく。彼はそれをじっと見つめ、やがて深く、長く息を吐き出した。


「……三十年前。私はこの目で、知識が街を焼き尽くすのを見た」


彼の声は、これまでにないほど弱く、そして人間らしかった。


「誰もが新しい技術に熱狂し、競うように本を読んだ。だが、誰もブレーキの存在に気づかなかった。私はそれを人間の際限のない欲望のせいだと結論づけ、すべてを封印する道を選んだ。だが」


彼は私の前に歩み寄り、片膝をついた。


「初めから、ブレーキの知識だけが意図的に『抜き取られていた』としたら。……私の三十年間は、一体何を守っていたことになるのだ」


「国家を守ってたんだよ。間違った設計図の中で、必死に」


私はルビの温かい背中を撫でながら、目を伏せる。

ヴァルグラムは悪人ではない。彼もまた、あの『庭師』に踊らされていた被害者の一人だ。


「でも、もうその古い設計図は捨てて。私たちが、新しいものを書くから」


限界だった。

言葉を紡ぐ端から、強烈な睡魔と脳のオーバーヒートが意識を刈り取っていく。

視界がぐにゃりと歪み、冷たい石の床が顔に迫ってくる。


「……アーカイブ?」


ヴァルグラムの声が遠くなる。

誰かの大きな手が、床に倒れ込む寸前の私の小さな身体を受け止めた。


「少し、寝る……。起きたら、村に帰るから、馬車の……サスペンション、柔らかくしといて……」


私は最後にそう言い残し、深い、真っ暗な意識の底へと沈んでいった。


王都を包んでいた恐怖の夜が明けようとしている。

知識の独占という名の巨大な塔に、決定的な亀裂が入った夜。

次に目を覚ました時、私はこの国全体を巻き込んだ、思想と権利の本当の戦争に直面することになる。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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