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転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第五章:制御と暴走

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シーン3:世界の裏側に降りる階段

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

王立図書塔の地下。

そこは、塔の職員でさえ足を踏み入れることを禁じられた完全な不可侵領域だった。


ヴァルグラムから受け取ったマスターキー——王家の紋章が刻まれた重い鉄の鍵——を握りしめ、私は暗く湿った螺旋階段をひたすらに下りていく。

壁に埋め込まれた魔石は完全に沈黙しており、頼りになるのは私が片手に持っている小さなランタンの灯りだけだ。五歳の小さな身体には、一段一段の段差が高く、降りるだけでも体力を激しく消耗する。

胸のポケットの中で、ルビが震えるように身を縮めているのが伝わってきた。


「大丈夫だよ、ルビ。もうすぐ着くから」


強がるように呟いた自分の声が、異様なほど反響して鼓膜を打つ。


階段は、果てしなく続いているように思えた。

この塔の「高さ」が知識の総量を示すなら、この「深さ」は何を意味するのか。それは隠蔽の深さであり、この世界を歪めた悪意の深さだ。


——カツン。


やがて、私の革靴が石の階段ではなく、硬い金属の床を叩いた。

底に着いたのだ。


ランタンの光を前にかざす。

そこに広がっていたのは、巨大な円形のドーム空間だった。

空調が効いていないのか、空気はひんやりと冷たく、古い紙とカビの匂いが充満している。


「……これが、真実の部屋」


空間の中央には、黒曜石でできた巨大な石碑のようなものがそびえ立っていた。

そしてその石碑の周囲に、無造作に——まるで見せしめのように——何千、何万という数の『破り捨てられた紙片』が、ガラスのケースの中に無残に積み上げられていた。


私が禁書庫で見た「欠落した数式」の残り半分。

安全弁の設計図。素材の強度計算式。そして、私の前世の『分散制御理論』の後半部分。

世界を安定させるためのブレーキの知識が、すべてここに死蔵されていたのだ。


「ひどい……」


私はガラスケースに歩み寄り、その中を覗き込む。

ただ切り取られただけではない。ご丁寧に、一枚一枚に何らかの魔術的な封印が施されているようで、紙の表面に赤黒い幾何学模様が蠢いている。


「これじゃあ、読めない。解読するのに何時間もかかる」


私は歯噛みした。

上の階では、一時間後に魔力炉の仮設セーフモードが限界を迎える。その前にこのブレーキの知識を見つけ出し、私自身の脳髄を通して塔のネットワークに「理解」を上書きしなければならないのに。


その時だった。


「……遅かったな、アーカイブの娘」


背後から、声がした。

冷たく、湿り気を帯びた、蛇が這うような声。


私は弾かれたように振り返る。ランタンの光が、部屋の奥の暗がりを照らし出した。


そこに立っていたのは、一人の男だった。

灰色のローブに身を包み、顔の半分を布で覆っている。だが、その布の隙間から覗く目は——ヴァルグラムのそれに似た、感情の読めない銀色の瞳だった。

しかし、ヴァルグラムのような国家を背負う重厚さはない。あるのは、純粋な「観察者」としての冷酷な好奇心。


「あの紙切れを私の部屋に差し入れたのは、あなたね」


私はランタンを高く掲げ、男を睨みつける。恐怖で足が震えそうになるのを、前世のプライドだけで無理やり押さえ込む。


「あなたは誰? 三十年前、この世界の知識を切り刻んで、グランベルクの惨劇を引き起こした黒幕プレイヤー?」


男はくつくつと喉の奥で笑った。


「プレイヤー、か。いい表現だ。だが少し違う。私は『庭師』だ。この世界の技術が、正しく『剪定』されるように管理する役目だよ」


男はゆっくりと歩み寄り、ガラスケースの表面を指でなぞった。


「人間というのは面白い。アクセルを与えれば、ブレーキがなくても喜んで崖に向かって走り出す。グランベルクの時もそうだった。彼らは知識の欠落に気づきながらも、進化の快感に抗えず、自ら炉を暴走させた」


「……悪趣味な実験ね」


「実験ではない。これは『限界テスト』だ。この星の魔導知識核が、どこまでの異常なアップデートに耐えられるか。それを計るための」


男の言葉に、私の脳内でいくつもの線が繋がっていく。


「……なるほど。あなたが三十年前にブレーキを隠したせいで、ヴァルグラムは知識そのものを恐れるようになり、この塔に本を封印した。でも、あなたはそれが不満だった。彼が強固な『蓋』を作ってしまったせいで、限界テストができなくなったから」


私は一歩前へ踏み出す。


「だから私を利用した。辺境の廃図書館で私が知識の連鎖を起こしたのを監視して、あえて放置した。私が王都に呼ばれ、塔の炉と共鳴して再び暴走の危機を引き起こすのを待っていたんだ」


「察しが良い。前世の記憶を持つイレギュラーな魂は、良い触媒になる。君のその完璧な『安全設計』の理論……実に不愉快だったよ。あれが普及すれば、この箱庭は完全に安定してしまう」


男の目が、三日月のように細められた。


「だから、君にはここで、自分の無力さを噛み締めながら死んでもらう。君の作った仮の制御式が崩壊し、上の炉が臨界して、この王都の三十万人が消し飛ぶ音を聞きながらな」


絶望的な宣言だった。

この男は、初めから私を助けるために地下へ呼んだのではない。私が希望にすがり、地下に降りてきたところでその希望をへし折り、最も残酷な形で絶望させるために呼んだのだ。


「……どうかな」


私は、乾いた唇を舐め、口角を少しだけ上げた。


「なに?」


「私は前世で、一人で完璧な理論を作ろうとして失敗した。今世でも、私一人の計算で安全設計を組もうとして、人の心を読み違えて失敗した。……だから、もう『一人』で背負うのはやめたんだよ」


私は胸のポケットからルビを取り出し、肩に乗せた。

そして、ランタンを床に置き、大きく息を吸い込んだ。


「ねえ、庭師さん。あなたが隠したこのブレーキの知識……封印されてて読めないって言ったけど、あれ嘘だよ」


「……強がりを言うな。その封印は、特級魔術師でも三日は——」


「解読なんてしない。そんな時間はない」


私は、両手をガラスケースの上にバーンと叩きつけた。


「私が探していたのは、『私の前世の知識』の残り半分だ。自分が書いた理論の後半部分なんて、見れば一瞬で『思い出す』に決まってるだろ!!」


封印で文字が読めなくても関係ない。

図解のシルエット、数式の配置、余白のバランス。それらが私の目に飛び込んできた瞬間、前世の私の脳髄に焼き付いていた「答え」が、フラッシュバックのように蘇ってきた。


『自己増殖型エネルギーネットワークの分散制御理論・後編』。

魔力波長を完全にゼロに帰結させる、究極のブレーキの計算式。


ドォォォォンッ!!


その瞬間。

地下室の床から、いや、塔の根底から、強烈な青い光が爆発的に膨れ上がった。


魔導知識核のシステムが、私が「理解」した完全なブレーキの知識を世界にアップデートした音だ。


「なっ……馬鹿な! 一人で理解しただけで、システムがこれほど強力に反応するはずが——」


庭師の男が驚愕に目を見開く。


「私が一人なわけないだろ!」


私は光の中で叫んだ。


「エルド! マリナ! アーベルシュタットの皆!! 王都の管理室の術師たち!!」


アーベルシュタットで私を信じて読書を続けている百人の村人たち。

そして今、上階の管理室で、私の残した仮の制御式を必死に理解し、維持し続けている術師たち。

私が彼らと共有した「基礎理論」が土台となり、今、私が思い出した「完全なブレーキ」の知識とネットワーク上で強烈にリンクしたのだ。


「人数×理解度×知識の質。これがこの世界の法則だ! 私が一人で思い出した知識でも、繋がっている人間が全員でそれを『支えて』くれるなら、出力は無限大になる!」


青い光が、ガラスケースを粉々に砕き割る。

封印されていた紙片が宙に舞い上がり、光の渦となって塔の頂上へと駆け昇っていく。


「私たちが、この世界を正しく回す。あなたの悪趣味な箱庭は、ここで終わりだ!!」


私は光の奔流の中で、庭師の男を真っ直ぐに見据え、言い放った。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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