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転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第五章:制御と暴走

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シーン1:塔の悲鳴

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

最初の異変は、深夜に起きた。


塔に連行されて五日目の夜。

私は研究室——実質的な独房——の机の上で、地下へ続く経路の地図を羊皮紙に書き写していた。あの紙切れを寄越した何者かとの接触を試みるために、昼間の「読書」を利用して塔の構造を少しずつ把握しているところだった。


その時。


——グォン……。


低い。地の底から来るような、唸りだ。

熊の腹の中にいるような、空気そのものが振動する音。


私は手を止めた。

ルビが机の端にある木箱の中に飛び込み、ガサガサと身を縮める。


(……魔力炉の音だ。でも、こんな音、今まで一度も聞いたことがない)


塔の中層部。私の研究室の三つ上の階には、王都の照明と暖房を一手に担う巨大な魔力炉がある。辺境の廃図書館で見た小さな魔導知識核とは比べ物にならない規模の、塔そのものと直結した動力炉だ。


この五日間、その炉が発する音は、低く安定したものだった。

だが今、あの音は——唸っている。


私は耳を澄ます。

唸りの周期が、少しずつ短くなっていく。一分に一回。四十秒に一回。三十秒に一回。


「……共鳴だ。でも、何と?」


私は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、窓——鉄格子のはまった狭い窓——に顔を押し付けた。眼下の王都の夜景が見える。整然と並んだ魔石の街灯。その街灯が、全体的にいつもよりわずかに明るい。


(まずい。出力が上がってる)


私の脳裏に、アーベルシュタットで行った実験の記憶が走る。

理解者の数が増えれば、魔導知識核の出力は上がる。そして今、アーベルシュタットの村では、私がいなくなってからも——


「……あの村の『理解』が、まだ続いてるんだ」


私は小さく呟いた。


エルドは、私に言われた通り「図書館を守る」行動を続けているはずだ。村人たちの読書会は止まっていない。私が王都に連れてこられてからも、あの辺境の村では知識の連鎖が広がり続けている。

そして、アーベルシュタットと王都は、同じ王国の「魔導知識核」で繋がっている。辺境の出力上昇が、王都の炉に伝播する。


「……想定してなかった」


私は額を冷たい窓枠に押し当て、ぎゅっと目を閉じた。


私の安全設計は、あくまでも「一箇所で行う知識の共有」を前提としていた。辺境と王都、複数の核が相互に影響し合う場合の計算を、していなかった。


——ドンッ!!


突然の衝撃が、壁を揺らした。

続いて、廊下の外から激しい足音と、怒声が飛び交う音が聞こえてくる。


「第三炉が緊急停止!!」

「第一炉の出力が設計上限を超えた!!」

「市街の照明系統に過負荷警報——!!」


「……始まった」


私は鉄の扉を叩いた。

バン、バン、バン。拳が痛くなるほど強く叩き続ける。


「開けて! 炉の管理室に案内して! 今すぐ!」


廊下の足音が乱れる。

見張りの騎士が困惑している気配。彼らにとって、この状況での正しい判断は「囚人を部屋から出すこと」ではない。


「聞こえてるでしょ! このまま放置したら、炉は三十分以内に臨界点に達する! グランベルクの再現がしたいの!?」


扉が、外から勢いよく開いた。

若い騎士が、蒼白な顔で私を見下ろしている。


「長官閣下には——」


「もうそんな時間ない。行こう」


私はルビを胸ポケットに突っ込み、廊下へ飛び出した。

塔の内部は、すでに異常な熱気に包まれていた。普段は安定した温度に保たれているはずの石廊下が、サウナのように蒸している。壁に埋め込まれた魔石の照明が、ビリビリと点滅を繰り返している。


「炉の管理室はどこ?」


「七階です、でも——」


「走って」


昇降機が停止している。

炉の出力過剰で、昇降に使う魔力も不安定になっているのだ。私と騎士は石の螺旋階段を駆け上がった。五歳の短い足で、それでも止まらずに。


七階の管理室の扉を開けた瞬間、熱気と怒号が一気に押し寄せてきた。


「第一炉、出力百二十パーセント!」

「冷却水の供給が追いつかない!!」

「術師を全員集合——いや、もう無理だ、逃げろ——」


室内は十人ほどの管理術師たちが、パニックで走り回っている。中央には、高さ三メートルはある巨大な球体の水晶炉——その表面は赤熱し、亀裂が入り始めていた。

亀裂の隙間から、青白い光が漏れ出している。あの光は、アーベルシュタットの魔導知識核が発する色と、同じだ。


「これは制御の問題じゃない」


私は管理盤の前に立ち、数式が踊る水晶板を睨みつける。


「出力を下げようとしても、炉の外から入力がある限り無駄だよ。源泉を止めなきゃいけない。炉自体じゃなく、この塔に繋がっている魔導知識核のネットワークを、一時的に遮断しなきゃいけない」


「そ、そんなことをしたら、王都全域の魔力供給が——」


「街灯と暖炉が少し消えるだけだよ。命の方が大事でしょ」


私は制御盤の水晶板に手を当て、構造を把握しようとした。その時、背後から鋭い声が飛んだ。


「下がれ、子供」


振り返ると、ヴァルグラムが管理室の入口に立っていた。

深夜だというのに、法衣の乱れ一つない。灰色の瞳だけが、炉の赤い光を受けてギラリと光っていた。


「原因の分析は」


「辺境の村との共鳴です。アーベルシュタットの知識進化が止まっていない。私が連れてこられた後も、エルドが読書会を継続していて、その出力が王都の炉に伝播してる」


「……君自身の行動が、この暴走を引き起こしたということか」


ヴァルグラムの声は、怒りではなかった。

それよりもずっと深く、重い——「だから言っただろう」という、哀れむような冷静さだった。


私の喉が、きつく締まる。


(…………その通りだ)


私は一瞬、声が出なかった。

私の加速主義が、この危機の直接の引き金を引いた。バランスを取った安全設計を施したつもりでも、複数の核が連動するシステム全体については計算していなかった。


「私が間違えました」


私は、口の中で岩でも飲み込むような重さで、その言葉を吐き出した。


ヴァルグラムが僅かに目を細める。

私は彼を見上げ、続けた。


「でも、今は誰の責任かを言い合ってる場合じゃない。炉の緊急停止に必要なのは——」


「『分散遮断』だ」


私の言葉を、ヴァルグラムが引き取った。

彼は管理盤に手を当て、慣れた手つきで制御水晶を操作し始める。三十年間、この塔を守り続けた男の指が、迷いなく動く。


「ネットワークを十二の小区画に分割し、各区画を順次遮断する。街への影響を最小限に——」


「待って。その手順は間違ってる」


「何?」


「一区画ずつ止めたら、遮断した分の負荷が残りの区画に集中する。逆に出力が跳ね上がる。全区画を同時に遮断しなきゃいけない」


「だが全停止すれば、この冬の王都で——」


「三分だけ我慢すれば、炉が安定する。三分後に再起動すれば、街への影響は最小限だ。計算は合ってる」


二人の視線が、正面からぶつかった。

炉の赤い光の中、管理術師たちが息を呑んで私たちを見ている。


ヴァルグラムの指が、制御盤の上で静止している。

一秒。二秒。三秒。


「……全区画同時遮断を実行する」


彼は私に背を向けたまま、命令した。


「全員、衝撃に備えろ!!」

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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