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転生幼女の国家級チート図書館~本を読むだけで技術が進化する世界で、私だけ未来知識持ちでした~  作者: はりねずみの肉球
第四章:強制召喚

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シーン2:石と鉄の巨大な蓋

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。予約投稿も使えばいける、、、はず。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

辺境から王都までの道のりは、普通なら馬車で十日はかかる。

だが、私が乗せられた黒塗りの護送車は、わずか三日でその距離を走破した。昼夜を問わず馬を乗り潰し、交代の御者が鞭を打ち続けるという、常軌を逸した強行軍だった。


「……手荒な真似をしてすまない。これも長官閣下のご意思だ」


向かいの席に座る特務騎士団の隊長が、兜を脱いで短く言った。

私は返事をしなかった。鉄格子の嵌まった小さな窓から、流れていく景色をただ見つめていた。


揺れは酷かった。サスペンションという概念が未発達なこの世界の馬車は、石の硬さをそのまま背骨に伝えてくる。五歳の身体には拷問に近い。

胸のポケットに隠れたルビが、不安そうに身をよじっているのが分かった。私はその小さな背中を指先で撫でてやりながら、頭の中ではひたすら計算を繰り返していた。


(……ヴァルグラムの狙い。私を『特別研究員』にした理由。単純な監禁じゃない。私の知識を、王都の管理下で利用するつもりか?)


いや、違う。彼は「知識による進化」そのものを恐れていた。

ならば、彼が私を連行した最大の理由は——私を、アーベルシュタットの「理解の連鎖」から物理的に引き剥がすことだ。知識の源泉である私を隔離すれば、辺境の異常な進化はいずれ止まる。彼はそう読んだのだ。


「もうすぐ王都の門をくぐる」


隊長の声で、私は思考から引き戻された。


窓の外を見る。

遠くの空が白み始め、夜明けの光が地平線を切り裂いていた。その光の中に、巨大な影が浮かび上がる。


「……あれが」


思わず、呟きが漏れた。


高い。とにかく、異常なほどに高い。

王都を囲む城壁を越えて、天を突くようにそびえ立つ灰色の巨塔。雲を突き抜けんばかりのその高さは、前世の超高層ビルすら凌駕しているように見えた。


「王立中央図書塔だ」


隊長が、誇りと、そして微かな畏怖を込めた声で言った。


「三十年前、国内すべての有益な知識が集められ、あの中に封印された。塔の高さは、王国が抱える知識の総量そのものだ」


馬車が城門を通過する。

石畳の舗装は辺境とは比べ物にならないほど滑らかになり、馬車の揺れがピタリと収まった。


王都の街並みは、整然としていた。

だが、その「整然さ」は、アーベルシュタットの村で見始めた「生き生きとした変化」とは真逆のものだった。

均一な高さの石造りの家々。同じような服を着て、決められた道を歩く人々。彼らの顔に、新しい知識に触れた時のあの輝きはない。ただ、与えられた生活をこなすだけの、歯車の一部としての安寧。


「……息が詰まりそう」


私は窓枠に額を押し当て、そうこぼした。


「安全で豊かな街だ。それが不満か」


「安全なだけ。時間が止まってる。あの塔が、この街全体の時間に巨大な『蓋』をしてるんだよ」


巨大な図書塔が、馬車の窓を完全に覆い尽くした。

塔の足元は、城壁よりも分厚い黒曜石で守られており、入口には百人以上の近衛騎士が立哨している。ただの図書館ではない。ここは知識を閉じ込めるための、要塞であり、牢獄だ。


馬車が塔の中庭で止まった。

鉄の扉が開かれ、朝の冷気が流れ込んでくる。


「降りろ。長官閣下がお待ちだ」


私はポケットのルビが落ちないように片手で押さえながら、馬車から降りた。

見上げれば、塔の頂上は朝靄に霞んで見えない。首が痛くなるほどの威容。この中には、この世界のすべての「答え」が眠っている。三十年間、誰にも読まれることなく。


「……歓迎しよう、リリア・アーカイブ特別研究員」


塔の重厚な入り口。

そこに、灰色の瞳を持った男が立っていた。ヴァルグラム公爵だ。

彼は深紺の法衣の裾を風に揺らしながら、冷たく私を見下ろしている。


「道中、不便はなかったかな」


「最悪でした。子供の背骨を折る気ですか」


「王国を揺るがす頭脳を無事に運ぶためだ。多少の揺れは我慢してもらわねばな」


ヴァルグラムは感情の読めない顔で踵を返し、「ついてこい」とだけ言って塔の中へ歩き出した。


私は短い足でその後を追う。


塔の内部は、外観の威圧感を裏切らない、圧倒的な空間だった。

吹き抜けになった中央部。壁という壁、見上げる限りの天井まで、びっしりと本棚が円筒状に配置されている。何百万、何千万という蔵書。それらがすべて、埃一つない状態で完璧に管理されている。


だが、人がいない。

これほどの規模の図書館でありながら、本を読んでいる人間の姿が一人もないのだ。静寂だけが、巨大な墓標のように支配している。


「ここは……お墓だね」


「何?」


前を歩いていたヴァルグラムが、わずかに顔を巡らせた。


「本のお墓。知識のお墓。誰にも読まれないなら、本はただの紙の束だ。こんな立派な場所に並べられていても、本たちは死んでるのと同じだよ」


「……その『死んだ本』を甦らせた結果が、三十年前の十万人の死だ」


ヴァルグラムは冷酷に切り捨てた。


「君はここで、王国のために働く。だが、君の知識が塔の外へ出ることは二度とない。この塔の蔵書に触れることは許可するが、それを『誰かと共有すること』は一切禁ずる」


彼は歩きながら、塔の中央に設置された巨大な魔法陣——上層へ昇るための昇降機の上に立った。


「君が賢い子供なら、理解できるはずだ。独りで本を読んでも、世界は変わらない。この塔の中で、君のその異常な才能は、ただ安全に消費されるだけだ」


私は彼の隣に立ち、ゆっくりと上昇していく魔法陣の中で、眼下に広がる何百万冊の本を見下ろした。


(……独りで読んでも、世界は変わらない)


確かに、この世界の法則はそうだ。理解者の数が足りなければ、システムは起動しない。彼が私をここに閉じ込め、外部との接触を断った理由はそこにある。


でも。


私は、胸の奥でひっそりと笑った。


(ヴァルグラム。あなたは、致命的な勘違いをしているよ)


三十年前のルールしか知らない彼は、今の「私」が持っている最大の武器に気づいていない。


私が王都に呼ばれたこと。

この塔に、国中のすべての知識が集まっていること。


これこそが、アーベルシュタットの村人たちが待っている、「次のアップデート」への最大の鍵になるのだから。


昇降機が、塔の中層で停止した。


「君の特別研究室だ」


ヴァルグラムが指し示したのは、分厚い鉄の扉だった。

ここから、私と国家の、本当の知恵比べが始まる。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


リリアの物語を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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