第38話 一人目のマスターピースvs四人目のマスターピース(中)
煙が立ち上る。
カラカラと瓦礫が破片となりその下に落ちる中で、
それは大地を覆い尽くし、空を埋め尽くさんばかりに立ち上る。
二つに割れた雲の下を席捲し尽くしていたのを乃瑠夏は見ていた。
探していたのだ「魔王」がどこに居るか、その居場所を
「█████████」
『シアは大丈夫なのか』という心配の言葉は常識知らずにも宣言とも賛歌ともつかない天使のような言葉に塗り替わる。
それに思うところが無い訳ではない
なにせ喋れないのだ、
不便な事極まりない。
ついでに言うなら必ず全ての言葉が黒塗りに思える程の言葉に変わるのも不愉快に思えていた。
しかし今はこれよりも気になる事があった。
シアが「幹部」に成っているか・・では無い。
そんな事についてはもう十分に覚悟を決めている。
『私はどちらでも構わない、どちらであっても助け出すのみ』と考えているのだ。
だからこそ考えるのは他の事であると乃瑠夏は理解していた。
しゅーっという音とともに肉が盛り上がり筋肉を繋がるのを感じる。
腸の位置と「死」の魔力で撫でられた感覚さえ薄れていく。
精神の傷でさえ「安楽死」の淵に在ったという自覚と共に治癒していくのを感じる。
しばらくしていれば、けれど精神と肉体その全てが治癒されたのを乃瑠夏は感じた。
マスターピースは文字通りの意味で不死である
その再生能力には魔女同様、限りは無く。
その精神にも魔女同様、限界は無く。
治せる対象にも魔女同様、限りはない。
どうあっても死ねないのがマスターピースであるとも乃瑠夏は理解していたのだ
だからこそマスターピースの再生能力は肉体を治癒し精神をも快癒するのだと乃瑠夏は知っていた。
誰から負わされた傷であっても関係などありはしないのだ。
それが例え「魔王」によって負わされた傷であってもである
シアの肉体が心臓を奪われた状態で生きていられるのはこれが理由である。
マスターピースは死なない、
例え誰に傷つけられようと
例え誰に心を穢さされようと
例え誰に魂を凌辱されようと死ねはしない。
全て、「計画」の為に治癒し快癒するそれがマスターピースという存在なのだと乃瑠夏は理解していた。
マスターピースとしての進化には段階がある。
まず一つ目、殆どのマスターピースが陥る「眠り」、
二つ目、して全てのマスターピースがいずれ至る「覚醒」
三つ目、そしてごく限られたものしか到達出来ない「進化」、の三段階である。
乃瑠夏でさえ「覚醒」という第二段階にあるという。
しかし「魔王」は違う、
例え同じ「覚醒」の段階に在ったとしても、
その上の「進化」を経ていたとしても文字通り格が違うのだと乃瑠夏は知っていた。
だからこそこうなるのは仕方がないとけれど乃瑠夏は知っていた。
「素晴らしい、一撃だ。晴れ晴れとした気分だよ、「嫉妬」よ。」
そんな慈悲深い言葉と共にけれど現れたのは禍根鳥憂喜という「魔王」、「魔王」であった。
見ればそこに居たのはいつも通り、いつも通りの「魔王」を僭称する魔女である。
衣裳には汚れ一つなく
コートには少しの埃すらついていない
白さ、白々しいとさえ言える程の白さをした少女、
透き通るような白髪に澄み切った桃と赤の混じったきっかりとした瞳を持つ野太い声の少女・・それがしゅーっと煙を立てるブロックノイズの剣を手に持ちつつけれど立っていた。
慈悲深い母のように「魔王」の笑みを浮かべながら、
けれどキッと睨みつけるような目を「感情」と共に唐突にも向けながら禍根鳥は問う。
「君の先程の一撃、あれは晴れ晴れとしていたのと同時に洗練されていた。
どうやら多くの者と戦ってきたようだ。
であればこそお前は多くの者を殺してきた筈、それが自分で無くとも、そしてあってもな。
私はそれが許せないよ・・・「嫉妬」よ。
だからこそ問おう、その力得る為にどれだけの人を殺した、魔力無き魔法使い。」
慈悲深い口調でけれど確かな怒りを宿しながらけれど嫉妬の魔女の代理に「魔王」は問いかける。
「魔王」は怒っていた。
「嫉妬」と呼ぶ目の前の者が多くの人を殺したかも知れない事に、
「嫉妬」が自身の才能を維持する為にも他者を殺してきたであろう事に、
そしてまるで聖書の天使のように多くの者を自身の心同様に犠牲にして来たであろう事に、見当違いな方向に怒りを抱いて、憤慨をしていたのだ。
まるで母のように、多くの者を殺してきたとは思わせないような義憤の心で
「██████████████████████████████」
『会話に成らないか・・では、死ね、「魔王」よ。消せ、我が姿を、』・・そんな宣言が常識知らずにも宣言とも賛歌ともつかない天使のような言葉に塗り替われば瞬時、乃瑠夏の姿が消え、すーっと音も無く杖を持って現れる。
振り返ればそこに乃瑠夏が居たのを「魔王」は理解した。
それを可能にした技術は魔女の戦闘技術の一つ「歩法」である。
「歩法」とは文字通り歩き方を指す言葉である。
多くの場合が運動や戦闘に用いられるそれはしかし鏡の国の意味でのみ違う意味があった。
戦闘技術という基礎の戦闘技術全般を指すその言葉の一つとして相応しい意味を持っていたのだ。
それは言うなれば「歩き方に魔術的な技術を織り込む技術」そのものである。
それに込められる「魔術」は平凡が一種、優秀で二種、そして天賦で三種以上とそれぞれ高い壁がある。
この中で乃瑠夏は既に天賦の域に達していた。
つまりは、乃瑠夏は掛けたのだ、自身の歩法に・・
同時に数種類の「魔術」を、「消せ、我が姿を」というそれを表す一つの言葉を用いて
この時の魔術は三種類に分類される。
一つ目が足音を消す「魔術」
二つ目が気配を消す「魔術」
三つ目が魔素を消す「魔術」
まず一つ目の魔術で足音を消して聴覚から姿を殺し、
次に二つ目の魔術で気配を消して意識から息を潜めて、
最後に三つ目の魔術で自身の少なくも付いた魔素を消して歩法を用いて瞬時に「魔王」の後ろに回る。
そうして後ろを取った乃瑠夏はしかしいつの間にか杖を構えていた、
瞬間的に霊子から杖を作り出していたのだ、
瞬時に「魔術」を用いて・・そう「魔王」は認識していた。
「魔王」は知っていた、
乃瑠夏がこの行動を取る事を
「歩法」という戦闘技術を用いて魔王の後ろを取る事を・・だからこそ瞬時に言葉を掛けた。
「消せ、我が姿を、」
そんな言葉と共に姿が消えるのをけれど杖を振りかぶった乃瑠夏は理解した。
瞬時、同じ魔術を用いて姿を消し背後に現れる事でさえ杖を振りかぶってある種無様を晒した乃瑠夏であっても理解出来ていた。
・・して乃瑠夏は「████████」という言葉と共に姿を消し「魔王」の背後を取る。
そうしていれば瞬時に「消せ、我が姿を、」という言葉のあと煙と共に姿が消える。
だからこそ再び宣言とも賛歌ともつかない同じ言葉を発して「魔王」の背後を取る。
一度、また一度と背後を取り合う。
不毛な隙の伺い合い、
不利な状況の押し付け合い、
不義理な戦いへのいつも通りの前哨戦、
そんな下らない物を乃瑠夏と「魔王」はしていた、互いに確かに必要だと確信しながら。
しかし彼らは他の攻撃魔術を用いていた。
詠唱破棄さえしているのだ。
して行われたその「魔術」についてけれど二人が理解している事があった。
お互いがお互いに攻撃をしあっていたのだ、
杖と剣、互いが互いの武器の軌道を読み合いながら、
一瞬の内での背後の取り合いと杖とブロックノイズの剣と掛けた「魔術」の攻防、
それがそこでは繰り返されていた。
一発、一発が衝撃波を発し円形に煙を晴らして、
音の壁を破る音が”蛇の小道”にて響き瓦礫を細かい石粒に変えてゆく。
大地が踏まれ、砕ける音が
空気に触れ、音の壁が割れる音が
大地が裂け、空が響く、空間が割れぼわっと煙が晴れる音が乃瑠夏の耳と「魔王」の耳に入っていく。
乃瑠夏の一撃により立ち上がった煙がその攻撃によって耳を劈く音と共に一つ、一つぽっかりとした穴を空けて煙を崩してゆく。
何度も、何度も致命的な一撃を煙にそれは与える。
それは正しく、魔女の代理同士の戦いであり、「覚醒」したマスターピースとしての戦いであると乃瑠夏は認識していた。
しかし「魔王」は違う。
この戦いに少しだけ飽き始めていた。
「こんな物にさえ興じられるとは戦闘狂の素質があるな。「嫉妬」は」と乃瑠夏に感心さえし始めていたのだ。
実際それは正しい。
こんな物は魔女の代理同士の戦いであると「魔王」は思っていたのだ。
こんな地味な戦いはマスターピースの戦いではないと感じてすらいる。
まず、「歩法」というのが地味だ。
一種類魔術を掛けようと、
二種類掛けようと、
三種類以上掛けようと、
歩き方に魔術を数種類かけたとて効果が知れている。
次に攻撃魔法が地味だ。
足や腕に掛け肉弾戦を行うならばともかくこれは分かりやすい攻撃魔術、
ビームとは違うモノの触れれば肉体が焼き尽くされる光を放つ魔術だ。
例えそれが大地を焼き尽くす程の光量であろうと、
これは魔女の代理程度の力であればぎりぎり避け切れる類のモノであった。
もし避け切れなくともブロックノイズの剣で受け止めるなどと・・何度も実際にその規模の攻撃を防ぎ切っていたのだ。
最後に規模が地味だ。
大地を一撃で裂けるのは良い。
空気が衝撃波によって割れるのも良い。
空を音の壁を越えてマッハ以上の速度飛ぶのもいい。
大地を焼きつくす光もまだいい。
ただ足りないのだ、マスターピースとしては。
戦いの規模が
「地味だ、つまらないこれがマスターピース同士の戦いか。
大地を裂き、空間を割り、音の壁を越え空を飛ぶのは良い、
数種類の魔術を掛け合わせるのも使い合いもいい、
大地を焼き尽くす程の攻撃魔術もいい。
しかしそれだけだ、
いくら「嫉妬」から魔力を感じないにしても問題外だろう、魔力無き魔法使いにしても限度はある。
これでは魔女の代理同士の戦いでも事足りる。
足りないな、足りないのだ、「血」が、「戦い」が、そして「死」が」
「██████████████████████」
『何を言ってるんだ貴様は、・・消せ、我が姿を、』・・と呆れた言葉と共に杖を一振りすれば大地が焼き尽くされる。
光によって貫かれてゆくように大地が割れ、空間がギイイっと悲鳴を上げる。
その一撃によって完全に煙がバアアっと晴れるのさえ乃瑠夏は見た。
「死」の近づくその中でしかしブロックノイズの剣を「魔王」が振ればそれがバチンと光が掻き消える。
常識知らずにも宣言とも賛歌ともつかない天使のような言葉に塗り替わったというのにマスターピースとしての力を発揮したのに弾かれたこの一撃に、乃瑠夏はもはや動揺しない。
これは先程までの攻防で何度も防がれた詠唱破棄して用いていた攻撃魔術そのものだからだ。
二人の戦いは一秒の内に数十程の攻防が起こった戦いである。
してこの攻撃は何度も、何度も防がれてきたこの戦いの殆どを占める程に・・・それが例え「幹部」達を追い詰めその首を狩った一撃より尚上であってもだ。
だからこそもう既に乃瑠夏と「魔王」にとってはこの攻防は挨拶代わりに成り下がっているのである。
故に、「魔王」はこう慈悲深い声でこう告げた。
「もう、「死ね」、さらばだ「嫉妬」よ。」
瞬時、そう詠唱すれば魔術が発動した。
「死」の魔術、協調法によって威力を拡大した絶対的な死の魔法であった。
それはどろりとした気配と共に赤子の笑い声をさせながら魔素となり魔力に練り上げられ、ブロックノイズへとなる。
それが体を包んでいく
それが体を包んでいく
それが体を包んでいく
それ、「安楽死」の魔力そのものであるそれが、
慈悲深くも母のように「魔王」の笑みを浮かべた者の体を包む。
そうして瓦礫が、
大地が
空間が覆い尽くされれば、瞬時の内に”蛇の小道”と共に、
ブロックノイズによって・・
二つに割れた孔の空いた空ごと真っ黒に塗り潰された




