第37話 計画通りの干渉
予言者という存在が居る
彼らは「魔女」に選ばれた予言を齎す存在である。
四十人とも呼ばれる四十人の予言者である彼らは、
しかし約1500年の時を掛けて予言者を書き上げたと言われている。
預言者という存在が居る、彼らは「魔女」の真の言葉を語ると言われる謎多き者である。
四十人予言という予言がある。
神の主権の計画と救いの計画、
そして愛の計画と人類愛の計画、四つについて書かれている。
予言書そのものの存在である
予言書を創り出した予言者モーセやゼガリアなどの四十人が1500年にわたり執筆し、伝え聞いたと言われる。
これら全ての情報について「魔女」の代行権を持つと言われている彼ら三組、
行政の代行権を持つ賢人会、
そして立法の代行権を持つ国際議連、
司法の代行権を持つ最高裁判所の長官から職員までほぼ全員が知っていた。
鏡の世界の僻地にあるなり損ない戦線の維持や治安維持を担当する魔女の代理全員すら知る一般常識をしかし予言の魔女であるシアは知らなかった。
単純に、鏡の世界に来たばかりであるからである。
死刑保留の状態のままであれば彼女は教えられていただろう事は想像に容易い。
教えないと問題であるとさえ言える。
それ程の一般常識だったのだ、予言書についての知識は
全体の人工の一割弱の約五億を占める程一般的な代行会の魔女。
そして50億人の鏡の世界の魔女達殆ど全員。
彼女らですら知っているこの情報についてけれど鈴と葵の二人の魔女の代理はシアに伝えるつもりでいた。
「計画」に必要な情報なのだ、鏡の世界の魔女に殺人者と忌避されるシアに情報を伝えるという判断になっても無理もない。
影から出て来た彼ら、
目の前に居る仔羊の面をし、白い衣裳を着込み外套を羽織った魔女教団の残党達。
そして十字の瞳を持つ魔女やなり損ないである七十二字騎士団達、
そして「幹部」である首絞めの魔女やプネウマ、
彼女らを後ろに控えさせた「魔王」を僭称する魔女、
白髪二つ結びの左右非対称な黒布の目隠しをした野太い声の少女、禍根鳥憂喜。
彼女は白い外套を靡かせ、
着込んだ白い衣裳が見えるのを気にもせず、
けれど「魔王」を僭称する魔女としてこう言った。
「"人類の平和の為に"、お前達を殺し尽くそう。」
その言葉と共に双方が地を蹴った。
暴食の魔女の代理と禍根鳥がお互いに剣を抜いた。
鈴が月蝕を模した飾りをし腐った指によって編まれたような装飾を持つ杖を仕込み刀として抜き、禍根鳥が七色に光るブロックノイズの剣を手の平に作り出し抜き放つ。
首絞めの魔女とプネウマの二人が特徴的な装飾をした杖を以て「鉄の杖」を持つ白髪の王、そして傲慢の魔女の代理である葵に向ける。
仔羊の面をした魔女教団の残党と十字の瞳を持つ七十二字騎士団が影に姿を消す。
その時、鈴と禍根鳥の刀同士の衝突によって・・
衝撃波と土煙が「旧研究塔群」を満たした。
□
首絞めの魔女やプネウマなどの「幹部」の杖はそれぞれ司る「死」の形を示している。
首絞めの魔女は二つ目の地獄である質の地獄を元にした、「依代の杖」
プネウマは三つ目の地獄である終末の地獄を元にした、「消失の杖」など、
それぞれがそれぞれに在った杖を魔女の代理に匹敵し、
「死」の魔力を禍根鳥から与えられていると言われている「幹部」は与えられていたのだ。
「魔王」を僭称する魔女の首を狙う彼ら「幹部」はしかしどうしても高い実力を「魔女」から与えられた杖から得ていた。
だからこそ、目の前の光景に成っているのだと理解している鈴と葵の二人である。
土煙が晴れ、目の前の視界がクリアになる。
魔女教団と七十二字騎士団は居ない・・恐らくは禍根鳥が念話にて退避指示をしたのだろう。
鈴には何処にも姿も気配も感じさせない程に遠く離れている・・ように感じた。
恐らくは上位の技術である影遊びの応用影空間を用いて影の中に避難したのだろう。
赤子の笑い声とどろりとした気配をさせた禍根鳥の剣、
七色に光るブロックノイズの剣を、
抜いた仕込み杖でしっかりと受け止めた鈴が魔力感知で見たのは一言で言えば理解出来る状況であった。
目の前に居るのは杖を防ぎ鍔ぜり合う禍根鳥であり、
横に居るのは首絞めの魔女と鍔ぜり合う、白髪の王であり、
プネウマの一撃をシンプルに神聖さを表す杖で受け止めた葵の姿そのものであった。
「成程、良い一撃だ。
お互い拮抗しているようだな、
魔女教団の残党と七十二字騎士団は再び影の中に身を潜めたか。」
「・・・全く白々しい程他人行儀の言いようだな裏切りの魔女よ。
しかしその言葉には合意せざるを得ないな、今、お互いの戦力は拮抗しているようだ、口だけでは無くな」
慈悲深くも野太い声をさせて言葉にした禍根鳥
そんな彼女を見てけれどチリンと耳に垂れた鈴を鳴らして暴食の魔女の代理である鈴は平気な顔でそう返した。
「魔王」であり最強の魔女でもある彼女はしかし、当代最強の魔女の代理として言葉を紡ぐ。
「お前とここまでいい勝負になるとは思わなかったぞ、禍根鳥。俺がまだ本気を出していないとはいえ‥大したものだ。」
「当然だ、舐めて貰っては困る「暴食」よ」
慈悲深くも野太い声で禍根鳥はそう言った。
「魔王」を僭称する魔女である彼女はしかし魔女の代理の中でも群を抜いた圧倒的な力を持っていた。
七人の魔女の代理、彼らはそれぞれが国家を転覆を可能とするだけの力を持っている。
最弱の魔女の代理と言われる傲慢の魔女の代理でさえ、最強の魔法使いと言われ、
かつ最低限、都市を壊滅させるだけの魔力と力を持つのだ。
それ以外の魔女の代理などさもありなん。
他のマスターピースを持つ彼ら六人はしかし圧倒的な力を持つ事は殆ど決定事項のようなものだった。
禍根鳥憂喜は強者である、
その魔女の代理の中でも三本の指に入る程の
プネウマと力を合わせれば分身すら可能とする禍根鳥からしてみれば目の前の事態はそうそう侮れる物では無かった。
「魔王」を僭称する魔女である彼女の痕跡探しが首絞めの魔女以外殆ど進展が無いに等しいのも、
そして禍根鳥自身が圧倒的な力を持つのもけれど鈴からすれば理解出来る事柄であった。
しかし、それも仕方ないと考えている鈴である。
禍根鳥憂喜、
彼女こそがこの鏡の世界に生まれた一人目のマスターピース・・その後継者なのだ。
三人目のマスターピースである暴食の魔女の代理、鈴や
二人目のマスターピースである嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏を超える力を持っていて当然なのだと考えていた鈴である。
傲慢の魔女の代理、明星葵はマスターピースも無しに圧倒的な力を持つ、
クリミナが継承した霊子の絶対優位性依、
五人目のマスターピースとしての力を持たずとも彼は強い。
男の魔法使いである魔法使いの中でも最強と言われる程に、
けれどだからこそ、葵が鍔ぜり合っているプネウマという存在には警戒している鈴である。
プネウマからは感じるのだ・・・実に禍根鳥憂喜の十倍以上の魔力量を
その得体の知れない体の内に、魔物とも言うべき魔力が巣食っているのである。
だからこそ、と鈴は耳から垂れた不気味な鈴がチリンチリンと鳴るのも気にせず、
鍔ぜり合う仕込み杖に力を込めながらも言葉を紡ぐ
「傲慢の魔女の代理と戦うプネウマだが。圧倒的な魔力を感じる。
おおよそ俺の素の魔力量の五倍といった所か、
お前の魔力量の十倍以上の力など殆ど異常だぞ。あれに何を仕込んだ。」
「・・・さあ、教える義理が果たして少女にあるかな。」
「無いな・・お前にとっては隠していた方が事を有利に進められるのだろう。口だけでは無くな」
そうして更に鈴が力を鍔迫り合う杖に込める。
けれどガキンという音と共に足元に土埃を上げながら後方に下がらせられた禍根鳥、
鍔ぜり合って土埃を上げながらもお互いに下がらざるを得なかった、白髪の王と首絞めの魔女、
そして未だ鍔ぜり合うプネウマと葵を見て鈴は思考の海に身を委ねる。
今の戦力は拮抗している。
鈴と禍根鳥では、禍根鳥には分は無く。
白髪の王に成った暴走状態のシアと首絞めの魔女は同程度の力を持ち、
葵とプネウマでは、プネウマに分があると考えていた鈴である。
だからこそ、予想以上に拮抗している葵を見て心配は杞憂だったのだと鈴は考えていた。
鍔ぜり合いが終わり、土埃を上げつつお互いに後ろに下がった葵とプネウマ。
その二人を見て、けれど鈴は耳から垂れた不気味な鈴がチリンと鳴るのも気にせずに杖の刃先を禍根鳥に向けた。
そうして虚無そのものの顔をして鈴が「降参しろ。」と口を開きかけた。
その瞬間にけれど禍根鳥の姿が消えた。
「どこに行った。」
「成程・・逃げた・・訳ではなさそうだな口だけでは無く。」
「・・・・・・・」
鈴と葵の言葉を無視しながら白髪の王が第三特性「█」を起動させる。
亜光速で放たれたその白い光は分裂しながらもしかし首絞めの魔女とプネウマに向かっていた。
当然である。
姿を消した禍根鳥を追うという不毛な行為をするより、
目の前の魔女の代理にも匹敵する強者二名を攻撃した方が人質にも成り戦略的な価値もあるのだろう・・とこの時の王は判断したのだ。
微塵の躊躇も無く行われたその思考は正しくなり損ないの直感とも言うべき「蛇」の思考だった。
弾幕のように二人を囲む白い光に首絞めの魔女が「依代の杖」を振りぬけば・・
白い光が全て弾かれ、「依代の杖」に吸い込まれる。
まるで拠り所を得た獣のように全ての光が首絞めの魔女の杖に吸い込まれたのだ。
「魔女」が下賜したこの杖は一つの能力が在った。
それは対象とした意思を持たぬ物を魔力化して吸収しそれを依り代として封印を施す禁術、
言ってしまえば関係を縛り、対象を精神的にも物理的にも依代と化して縛る魔術である。
国家近衛部隊、通称”旗持ち”副隊長としての魔術、隷属魔術であった。
第三特性「█」の場合、それ自体に意思が無い為、
依代としての吸収というよりもエネルギーとしての吸収の側面を持つ。
圧倒的な力を持つ対象を縛る封印術の一種を首絞めの魔女は「魔女」から与えられた杖を以て起動したのだ。
「・・・・・驚きだな。」
「・・・・・・」
白い光が弾かれ、無効化される様を、
「█」が欠けて、吸収され、崩れ落ちる様をけれど白髪の王と葵は見ていた。
してプネウマが飛び立ち、「消滅の杖」を振って辺り一帯に業火を顕現させた。
それは優に一千五百度を超える炎であった。
鉄をも溶け始めるその温度を前にしかし、鈴は手の平を広げた。
諦めて降参をしようとしているのではない。
瞳を閉じ開けば目の前に広がっていた業火を前にけれど自身の「魔術」を起動させたのだ。
月蝕の魔術は対象とした物を魔素に変え、喰らい尽くす。
事象の否定もかくやのこの力はしかし禍根鳥の五倍という圧倒的な魔力量を誇る鈴であっても使い熟すには難しい力で在った。
そう「大粛清」に参加した八歳という幼い年までは・・
「・・・成程、悪くない温度だ。口だけでは無くな。」
「・・・・・・・・」
「・・・流石だな、暴食の魔女の代理。」
白髪の王の沈黙と傲慢の魔女の代理の言葉、
そしてプネウマの驚きの表情を気にもせずに鈴は目の前に広がる炎に対して
翳した手の平の中に、月蝕を模した杖を顕現させその先を向けた。
魔素が鈴の体、腕、手指を伝って「蝕指の杖」に流れ込む。
けれど瞬時黒みがかった紫の奔流が巨大な牙を剥いて大きな口を広げ、炎を呑み込んだ。
存在を否定し喰らうようなそれは、
正しく圧倒的な力を首絞めの魔女やプネウマの二人にだけでは無くこの場所にいる全ての者に見せつけていたのだ。
全ての炎を紫がかった黒が一飲みにする。
黒が鈴の杖である「蝕指の杖」の月蝕を模したような杖の先に吸収される。
呑み込まれたそこには何も無かった。
炎も残っていた「█」の欠片も何もかも・・鈴に喰い尽くされて無くなってしまったのだ。
「勝ったな。」
「ああ、世達の勝利だ。」
「・・・・・・」
とそれぞれ三人が油断していた瞬間。
けれど、どろりとした気配と赤子の笑い泣き声が周囲を包み込む。
まるでその時を待っていたと云わんばかりのタイミングに鈴は驚く。
けれどそれを表に出さず仕込み杖を振りぬく。
七色のブロックノイズの剣と「蝕指の杖」が触れあったその時・・
再び衝撃波と土煙が「旧研究塔群」を満たした。
□
いきなり禍根鳥が姿を消した理由についてけれど鈴と葵の二人は理解していた。
何れ勝利を確信したタイミングで不意打ちを仕掛けてくるだろう・・と
けれどそれがいつかまでは自身が状況を整えるまで分からなかった二人である。
白髪の王でさえ半ば理解している当たり前の事柄ではあるがこれは誰もが抑えるべきである定石そのものであった。
だからこそ、土煙が晴れ鈴が「蝕指の杖」を、そして葵が「明星の杖」を二人とも向ける。
白髪の王が「鉄の杖」を片手で握りながら、
しかしじっとそれを窺っていればその気配は訪れた。
「成程・・・そう言う事か。」
「これは世も予想外だな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
三者三様に驚きを示しながらもけれど三人は感じた。
魔力感知で感知したのだ、禍根鳥の後ろから、
禍根鳥のどろりとした気配より尚上回る、不気味な気配を
全知全能の「魔女」の気配を
魔女の代理にも匹敵する気配を放った二匹のなり損ない、
白い竜と黒い竜の気配を
「 」
「迎えに来たぞ、我が仔達。」そんな頭に残るような言葉と共に魔女の代理に匹敵する気配を持ったなり損ないを二匹連れ、「魔女」が現れる。
それに気付いて、鈴と葵、そして白髪の王が地を蹴った。
音の壁を突破しないながらもそれに迫る程の速度で三人それぞれがそれぞれの杖を「魔女」と二匹のなり損ないに振るったその時・・
白く長い手指が這い出て空間を割った
「魔女」の「計画」の通りに
愚かな者に付き合う必要は無い。
見てくれの良し悪しに関わらず
その者は愚か者なのだから
〜人助けの魔女〜




