第37話 一人目のマスターピースvs四人目のマスターピース(上)
「・・・それがお前のマスターピースとして「覚醒」した姿か、
肩までの短さの白髪に白と紫の烈日のような瞳とは随分と様になってるじゃあないか。レヴィアタンという嫉妬の悪魔の名を継ぐ魔女の代理としてはどうかとは思うが、四人目のマスターピースとしては上出来だ。」
神聖にも思える朝日のような瞳の形をした光輪を戴く、
肩までの短さの白髪に白と紫の烈日のような瞳を持つ少年、
それが嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏が「復活」し「覚醒」した姿であるとインナーカラーになっている内側の髪を傍目に見て魔力に微かな疑問を覚えつつしかし冗長にも思える程語りながら禍根鳥は理解していた。
そしてこうも知っていた禍根鳥である。
そう嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏は目覚めたのだ。
四人目のマスターピースとして
マスターピースには三つの段階がある。
マスターピースとしての力は多くの場合眠っている。
浅いものから深いものまで多種多様な「種類」があるそれは「眠り」という第一段階そのものだ。
けれど「覚醒」は違う。
それは「眠り」に次ぐ第二の段階であり力の目覚める事その物を指す言葉である。
基本的にこれらに共通点は少ない。
しかし「眠り」と「覚醒」にはただ一点のみ共通点があった。
マスターピースは必ず「眠り」を経て「覚醒」するという唯一の共通点が
「・・・いいや、それが本来の姿なのかな。
認めよう。貴様は今、マスターピースとしての力を覚醒させた。」
桃と赤の混じった瞳でただじっと見ながらけれど「魔王」はそう「悪魔」を讃えた。
短い攻防で引き出したとは思えない莫大な力に対して尊重を示したような形である。
事実として「魔王」は知っていた。
「悪魔」とはあらゆる要素でなり損ないを上回る力を持つ。
全ての要素で文字通り、何に対しても発揮されるそれはあのなり損ないでさえ、今のままでは敵にすらならない・・そんな強力な「力」である。
つまりは概念的な優劣関係、強さと弱さの絶対支配、それこそが「悪魔」の「特性」であるのだ
『四人目のマスターピースとして井伊波乃瑠夏は覚醒したか、何にしろおめでたいものだ。我々の「目的」にも一歩近づけた、しかしあの白髪、「悪魔」の部分がやや大きいようだが問題はないか、禍根鳥。』
「どれだけの姿であれ、「覚醒」は「覚醒」だ。
認めるも何もないだろう。ようやくだが彼は成したのだ四人目のマスターピースとして、して「悪魔」の力、その「覚醒」を、「計画」の通りにな。
だからこそそれは褒め称えるべきだと私は考えている、それがどんな手段であっても・・な」
「念話」で話しかけてきたプネウマにけれど慈悲深い言葉を返せばしかし『まぁ、そうだな。』という言葉を「魔王」は聞いた。
・・禍根鳥憂喜という「魔王」は知っていた。
これが当たり前の事である事を
・・禍根鳥憂喜という「魔王」は知っていた。
これが「計画」の通りである事を
・・禍根鳥憂喜という「魔王」は知っていた。
これが”人類の平和の為”などでは無く個人の怒りである事を
だからこそ、どんな方法であれそれを許容する心構えであるというのをけれど「魔王」は「魔王」自身で理解していた。
しかし、こうも考える「魔王」である。
これは本当にあの方の「計画」の通りなのか・・と
『「計画」の通りだというのは前提の条件だぞ、
それとも目の前の嫉妬の魔女の代理にそこまで期待できる事があるとでも、見た所あの方でもなければ彼でも無い。どころか私達の場所からは何の脅威も感じない、魔力もな。まるで魔力そのもののようだぞ。そんな相手を警戒しすぎるものでもないぞ、「魔王」よ。』
「・・・・確かに、魔力は欠片も感じない、
「悪魔」の覚醒にしてもマスターピースとしてもどちらも不完全でアンバランス極まりない。
しかし理解している筈だプネウマよ、「念話」だけではない、五感をも共有する機能を持つ十字の瞳越しに感じるその魔力では計れない圧こそが「正解」であることを、目の前の敵はただの雑兵では無く、はっきりとした「脅威」である事を。
・・・・・・・ッ」
目の前の敵を見つめて口にした言葉はしかしソレを目にした瞬間、消えた。
居なくなったのだ、瞬時に乃瑠夏が
瞬きの内に起こったそれはしかし、「魔王」を動揺させるには十分な事であった。
基本的には「魔王」は敵を見失うことは無い。
目の前で姿を消されることはあれ、
くらませられる事はあれ最後には敵を見つけ出し、あぶり出して「死」を与える。
それこそが禍根鳥という「魔王」の戦闘においての常套手段であった
しかし、今回に限っては違う。
嫉妬の魔女の代理、彼は「驚異」である。
雑兵と見分けも付かなかった教え子とは違い乃瑠夏は持っていた、初めからあらゆる才能、全て
傍目に見ていれば滑稽な程の妹の剣の技も兄がすれば流麗な剣舞となったように雑兵に毛の生えた時から持っていたその力はしかし多くの者を打ち砕き、絶望させた。
生まれつきで多く違いがある魔法の才能でさえ、けれど同じだった、
彼は誰にも負けなかった。
けれど「魔王」は知っていた、その才能が長くは続かない夢のような物である事を
けれど「魔王」は知っていた、その力が子どもの夢見る英雄のように少し生きれば砕かれる事を
けれど「魔王」は知っていた、その魔法がいつかは消える夢路のように初めには儚く最後には細々と消えていく事を。
しかし彼は成った、成ってしまった。
だからこそ子供の夢見るような力を持っている、
だからこそ誰もが夢見るような力を持っている
だからこそ「驚異」足り得るのだと嫉妬の魔女の代理に対して「魔王」は認識していた。
『・・・・・・』
『「・・・・・・魔力を欠片も持たない相手に対してのその対応、
やはり十二あるマスターピースの中でも消失していた九つのマスターピースはそれぞれが脅威と見るべきか、そう言いたいようだな赤子殺し」とでも言いたげだな「嫉妬」よ。
・・・成程、少しややこしいが理解は出来るぞ。
念話に意識だけで割って入りプネウマとの通信網を一部断絶させたか。
しかし妙だなこのように姿を隠しては攻撃できる物も出来ないのではないか、喋ろうとしないのも興覚めだな!それに加えて疑念も多くあるぞ、それをほおっぽりだして戦いかそれでも魔女の代理か「嫉妬」よ!!』
声が木霊する。
四方八方から聞こえる。
それは「念話」の形となってけれどどうあっても聞き取りやすいように調整されていると思える程に「挑発」の形となってけれども慈悲深くもはっきりと聞こえた。
姿の見えぬ敵を前にけれど「魔王」は目を閉じる。
溢れる、
溢れる、
溢れる、
身体から魔力が溢れる、
どろりとした気配、赤子の笑い声と共に魔素が魔力となり、そして気配となって一瞬、身体を覆えばしかし収束する。
胸の前で集まった気配を片の手の平で優しくぎゅっと包めばしかし、瞬時に拡散した。
掌で包んだ気配が、
魔素となり魔力となりどろりとした気配となって周囲に拡散されたのだ、
赤子の笑い声と共に。
・・そうして気配が周囲に溶け込めばしかしある能力を瞬時に起動させる
基本能力の一つ、魔力感知を用いて周囲の情報を集め、情報解析を用いて周囲を瞬時に検分する。
莫大な情報の中、認識阻害魔法を用いて思考の限界を引き延ばし思考を加速させた中でけれど確認した事があった。
『「嫉妬」の場所は魔素の拡散と基本能力を以て把握した。
しかしここに来る前の空間断絶、19号を傍観者にしたそれはおそらく私が来たと同時に何故か解除されている。
・・・プネウマの念話は、「嫉妬」に占有されているが大半の機能が壊されている、修繕は必要だ。
しかしどうしてかネットワーク自体は壊されていないようだ。
そして四人の「幹部」である我が子達にしても同じだ、
首を断たれ即死している者の「棺」を用いれば蘇生は容易だろう。最も基本能力が発動しないのが引っ掛かる所だ。』
・・そう乃瑠夏の位置情報と共に「魔王」は理解した。
しつこくも現状を述べるのであればこれは異常な事態である。
乃瑠夏の位置情報が分からず、魔素を拡散し、基本能力を駆使して乃瑠夏の居場所を割り出しそれ故に割り出した場所である真上、目掛けじっと「魔王」が見据える。
大地を裂いた空間断絶はしかしどうしてか「魔王」がここに来た瞬間、大きな割れ目を残して消えていた。
プネウマに創らせた「念話」による連絡網は先の通信妨害においてずたずたの状態であり、故によっぽどの事が無い限り七十二字騎士団をここに召集する事は難しい状態である。
空間転移魔法を用いることも考えたが今、姿を隠している「嫉妬」に妨害されるだろうそう「魔王」は理解していた。
そしてこれらの現状において3号、5号、15号、19号の「幹部」四人の首の切断された死体についてはそれを成した嫉妬の代理を始末しない限りは「小細工」による誤魔化しも「棺」による「死」の魔力を用いた蘇生も出来はしないとさえ考えていたのだ。
だからこそ、見落としたのかも知れないと加速した思考の中、「魔王」は考えた。
迸る、
迸る、
迸る、
袈裟切りのように切られ、胸から血が迸るそんな様を「魔王」は見た。
自身の体が切られる・・そんな純然たる光景が何故か唐突に目の前の光景として目に映る。
だからこ目線を下げ、前を見据えればしかしそこには居たのだ。
神聖にも思える朝日のような瞳の形をした光輪を戴く、
肩までの短さの白髪に白と紫の烈日のような瞳を持つ少年、嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏が
瞬間、視界が赤に染まればけれど「魔王」は見た
「███████████」
そんな宣言とも賛歌ともつかない天使のような言葉と共に、
常識知らずにも視界が赤に塗れる光景を、
自身の胸から血が迸る様を、
ぎゅっと握られた杖の先、血に濡れた自身の呆然とした表情を、「魔王」は見た。
しかしまるで母のような慈悲深さに満ちた笑みを浮かべれば
「・・█・・██」
苦悶に満ちた声と呼気、
そして天使のような声と共に瞬時に赤が迸ったのを乃瑠夏は見た。
痛い、痛い、痛い。
体に丸ごと風穴を開けられたような痛み、
カランという音と共に杖が落ち、転がり、そして霊子に変わる
『杖の支配権を失ったか・・・』
そんな思いと共に視線を下に向ければそこには刺さっていた、血塗れの「魔王」の腕が、腹に
そうして乃瑠夏は見た、慈悲深くも母のように「魔王」が笑んだ光景を。
■
腕が腹に刺さるという事は経験が無い。
なにせそれは致命傷そのものであり痛みを伴う行為そのものだからだ。
だからこそ戦いにおいてもその行動を避けるし、自分からも進んで行動はしない。
故にこそ油断していたと嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏は思う。
「・・█・・██」
神聖にも思える朝日のような瞳の形をした光輪を戴く
肩までの短さの白髪に白と紫の烈日のような瞳を持つ少年、
その美麗な瞳が囁きの声か導きの声ともつかない天使のような喘ぎ声と共に苦痛に歪んだ。
吐息と共に吐き出された血液はその腸の色を見るかのように鮮やかな赤である。
インナーカラー、紫に染め上げらえれた内側の髪にまるで染め上げるように赤が空気に飛び散る、
ピチャッと頬に付いた血液を親指で拭いながらもしかしそう「魔王」は判断した。
しゅーっという音の中、骨が繋がり、肉が盛り上がり紡がれ、皮がそれらを覆った。
そこにあるのは真っ白な柔肌、
野太い声の少女には似つかわしくない少女の二つのふくらみ、それである。
白いローブの裂け目、その隙間から覗く、そのある種淫猥とも言える光景をしかし乃瑠夏は知っていた。
乃瑠夏は理解していたのだ。
「魔王」に致命傷を与えられない事を
して「魔王」が反撃をしてくる事を
それが胴への袈裟切りの意趣返しとは思わなかったモノの理解出来たのだ。
四人目のマスターピースであるが故に、そして悪魔の名を継ぐ嫉妬の魔女の代理であるが故に。
肉体はいとも容易く紡がれ、
衣服すら布の白さと共に魔素によって紡がれ、織り直されてゆく。
先の戦闘を経ても揺れるコートには糸のほつれの一つも無い。
して時がいたづらに立てばしかし服すら魔力となり治癒された。
そんな絶望的な光景からしかし乃瑠夏は目を逸らす。
「魔王」の貌を見つめた。
透き通るような白髪に澄み切った桃と赤の混じったきっかりとした瞳を持つ野太い声の少女、というそのままの美貌の化け物の顔を見つめているのだ。
腹をぶち抜かれながら。
「どうした、少女の顔を見つめて。
見惚れでもしたか。「嫉妬」よ。」
「█・・・・█・・██」
ぐちゃぐちゃという音と共に腸が攪拌され血液がぷしゅ、ぷしゅっと傷口から吹き出す。
自身の体全ての臓腑を掻き乱されたような痛みに目を見開き吐血しながらも叫び声とも雄たけびともつかない声をぽつぽつと上げながら、光輪を戴く白髪の少年は考える。
目の前の「魔王」は脅威である、それもおそらくはなり損ないよりも。
予言の魔女と同一視されたあのなり損ないは世界を滅ぼす力を持つ、そう文字通りの意味で
最大最強のマスターピースとされる彼女が全ての力を取りもせば魔女のおそらく誰も勝てはしないだろう。
魔女の代理でも足止めで力を使い果たす筈だ。
だが「魔王」は違う。
十二全てのマスターピースを集め、”人類の平和の為に”戦う彼女は唯一暴走した彼女に抗する手段そのものである。
マスターピースとして殆ど完成された禍根鳥は初見の者の想像と違いしかし強いのだ。
魔女の代理でも最強と目される、本物の「魔王」と同等程に
「・・・・・・・・・・█・・█」
「どうした「嫉妬」よ見ているだけか、見ているだけであれば君も死ぬが。
本当にそれでいいのか。少女とて君を殺すのは躊躇われる。あの方の「計画」から外れているからな。しかし腸に手を入れられ、血を吹き出し臓物の匂いを漂わせる憐れな君に「情け」を掛ける事は出来るが・・どうする。」
慈悲深くも冗長に語りながら雄たけびとも喘ぎ声ともつかない微かな呻き声を天使のように上げる乃瑠夏の腹に指をうごめかし腸を掴みしこしこと扱く。
まるで前戯のような卑猥な動きを途方もない痛みと共に腸に駆け巡る。
してひんやりとした「死」の気配に更に脳が警鐘を鳴らした。
それはまるで首を刀で撫でるように、
やさーしく、やさーしく調整しながらも「安楽死」の魔力という触れた物を魔術的に殺すその力を腸に触れた指に込めているのだと理解出来た・・精神を壊す程に。
だからこそ乃瑠夏の背中には「死」の恐怖がべったりと付きまとう事になると「魔王」は理解していた。
けれどそんな様子を気にせずにもしかしどこか妖艶に笑う「魔王」を見て乃瑠夏は理解した。
彼女は正しく化け物そのものである・・と乃瑠夏の脳が受け入れたのだ。
そうして乃瑠夏の脳裏に浮かび上がった言葉は一つ。
『このままでは負ける』
・・・・という当たり前の言葉である。
動けもせず、痛みもひどく、どうしようもないのならばこれは仕方がなかった。
しかし今は別だ。
動ける。
痛みもそこまで酷くない。
どうしようもない訳ではないというのがありありと乃瑠夏の肉体からぴしりとした痛覚と共に伝わってきた。
だからこそ乃瑠夏はこう告げる。
「███████████████████████████████」
常識知らずにも苦悶の内で宣言とも賛歌ともつかない天使のような言葉を告げればけれど瞬時に光、光が視界を覆った。
紫、紫の光である。
紫がかった黒と同様の魔素を収束して生まれた異質な光が乃瑠夏の手の平から発されていた。
その光が「魔王」の貌を、体をそして”蛇の小道そのものを覆い尽くす、
その手刀が光と共に振り下ろされれば、
・・瞬時粉塵が立ち上ると共に、
孔の空いた雲が真っ二つに割れた。




