第35話 前哨戦
人の死んだ声が聞こえた。
人の生きた声が聞こえた。
人が蘇る声が聞こえた。
声は木霊しけれどどこにも行かない、届かない・・そんな光景をただ19号は見ていた。
そう、ある場所、ある場所からである。
そこは研究塔、第13地区15区画17番地、なり損ないが暴走した場所である。
なり損ないが魔女の一割を鏖殺し尽くした地、それこそがこの場所であった。
この場所にあるのは瓦礫の山。
この場所にあるのは魔女の死体。
この場所にあるのは一つの研究塔ただ、それだけの場所であった。
つまりこの場所は瓦礫の山と魔女の死体が数多く放置された死地であるのだと白い摩天楼の上で19号は理解していた。
「そうですわね、お姉さま。今日もいい日ですわ。
魔女が大勢死にして生きそして蘇りととても綺麗です。
声だけ聞こえるというのが残念な程。
ところでお姉さま、19号という名からしてみれば妹ちゃんと呼ぶべきなのでしょうが19号お姉さまと「小細工」にかかり記憶を大部分失い輪廻転生が発動した今も呼ばせて頂きますわ。」
「私は良い日なんて言ってないですよ、15号。
実際、多くの魔女が死んだ瓦礫の山なんぞ見ても当然つまらないだけでしょう。
苦しんでいるなら尚の事だ、しかしここに来てよかった。
15号、貴方もいるし何より、貴方の声が聴けます。
貴方の不思議と混ざり合った声は心地がいいですからね。」
不思議に混ざり合った声で話された長いセリフを同じ長さ程のセリフで返しながら声の主である15号に対して答える19号である。
「まあ、口がお上手で。」なんて言う15号の少しだけ嬉しそうな不思議な声を聴きながらしかしじろじろと15号を改める。
少女のようで
女のようで
老人のような見た目をした銀髪銀眼の魔女。
白いローブをきっちりと着こなした彼女は、
腕を組みながら風に身を任せ、
髪を靡かせながら魔女の断末魔に耳を澄ましつつしかしおしゃべりを19号と楽しんでいた。
少女のようで、女のようで、老人のような声を持つ魔女、
15号は「幹部」の中でも「随一」と称される程の実力を持つ実力者である。
して聞こえてくる断末魔、それは魔女の肉体の「死」の証である。
魔女は不老不死である。
肉体の再生に限りは無く、寿命にも際限がない。
だからこそ魔女を殺せるものは世界に一人としていないというのが通説であった。
だが「契約」の違反は別である。
「契約」とは違反者の自滅を代価とした約束事の取り決め、即ち命を代価とした誓約である。在るのは守った際の利益と、違反した際の魔術的な「死」でしかない。
正しその利益と「死」が絶対的だからこそこの「契約」は成り立っている。
だが守った際の利益が変わらないように守らなかった際の「死」は変わらない。
だからこそ魔女は死ぬ、それこそ絶対的に。
故にこそのこの光景だと理解していた19号である。
死者が死んでいる。
生者が生きている。
二つを行き来する者が蘇っている。
魔力感知を使わずとも見えるその光景はどうあっても地獄そのものだ。
だがこれは地獄ではない、なり損ないが起こした所謂「煉獄」と言われる物だ。
「煉獄」とは文字通り、地獄にも天国にも行けない者達の寄る辺を指す。
つまりは天国と地獄の狭間、どちらにも属さない者が天国に行く前に通る責め苦の路なのだ。
所謂、少しだけ汚い水をろ過する濾過装置のような物であると考えればいい。
だからこそ彼らが死ぬのは魂の浄化の為、
だからこそ彼らが生きるのは魂の純化の為、
だからこそ彼らが蘇るのは魂の順化の為、
そうして彼らを魂を救う為に救うまで焼き続ける、それこそが「煉獄」である。
これこそが「煉獄」、彼らがなり損ないとした”何か”の代償である。
彼らは負けたのだ、なり損ないとの”何か”そのものに。
故にこそ「契約」を破った者のように肉体は魔法的に死に
故にこそ「計画」を守る者のように精神はある種の隷属化状態となり
故にこそ「煉獄」に居る者のように魂が炎に焼かれ続ける。
肉体が魔術的に死にながらも隷属した精神を持ちそして魂を炎が焼き焦がし続ける。
それこそがこの場所、
研究塔、第13地区15区画17番地
通称、”蛇への小道”という「魔王」の拠点の全容であった。
「だけれど今の貴方には理由がない。
この”蛇への小道”で起こす五回目の地獄、安楽の地獄にて全力で戦う理由が。だってそうですよね、この戦いが終わったあと、マイマスターが弱っていればその首を捕り、魔女の代理が弱っていればその首を捕り両方弱っていれば両方捕る。そういう所謂漁夫の利の方があなたの性格にあっているのでは?」
「・・・ふふ、全く酷い言いようですわね19号お姉さま。しかし理解していなくてよ。この儂のことを」
冗長にけれど冷たく言い放たれた言葉を毅然とした態度で言葉を返す15号を理解していた19号である。「ふふふ。」なんていう今日日聞かない笑い声を発しながらも不適に腕を組むこの魔女とは付き合いがある。
とても長い付き合いだ。
記憶は朧気ながら15号が小さい頃から交流があるのだ。
気心が知れている・・とは二人の事を指すのだろうと少しだけ19号は感じていたと・・・何んとなしに理解している15号である。
だからこそ遠慮することなく言葉を返す15号である。
「儂は常に自身を楽しませる者と居たいのですわ、いつまでも、どこまでも。
19号お姉さまも当然その一人・・ですわよ。
ですので態々怯えず、言葉を選ばなくてもよいのですわ。」
「ふーん。そうですか。貴方は確かにそういう人でした。私の朧気な記憶もそう告げています。しかしどうでしょう。この疑問に答えられますかね。」
「・・・・ん?一体、儂に何を?」
不思議と混ざり合った声で儂と不可思議な一人称で語る15号をしかし見つめながら疑念を投げかける19号である。
19号は気付いていた
近づいて来る「何か」に
遠くにある「何か」に
途轍もない速さの「何か」に
当然だがふざけて言い訳ではない、不思議な混ざり合った声・・って何だというふざけた事を言っていい状況ではないのだ。
だからこそ19号は問う、風に当たっている15号に。
「当然の疑問です、しかし貴方だって答えられるはずですよ。
端的に言います貴方本当にこの気配に気付いていないのですか。空を高速で移動するこの気配が。」
「無論、儂は気付いていますよ。そろそろ来ますね、彼が」
不思議に混ざり合った声で自身の挑発交じりの言葉に返答をした事をしかしその主である15号を見ながら19号は理解している。
第13地区、”蛇の小道”は既になり損ないの手によって魔女の一割ごと
半ば「煉獄」と化している。
そこは既に死であり、
そこは既に生であり、
そこは既に蘇りの場となっている。
だからこそこの場所には人どころか魔女すら寄り付かない。
単純に炎に巻き込まれれば不老不死の魔女ですら魔術的に死んでしまうからだ。
しかしこの時この研究塔に居る者、全てが気付いていた。
「ある者」が近づいている事が
瞬時、空に星が流れれば。
黒い炎の大地が揺れた。
揺れる大地、
揺れる空、
立ち上る土煙、示していたのはただ一つ。
彼がここに来たのだ。
カツン、カツンと靴が瓦礫を叩く音が聞こえる。
カツン、カツンと靴が空気を叩く音が聞こえる。
カツン、カツンと靴が死体を叩く音が聞こえる。
瞬時、音が止んだ
その時、死体がぴくりと動きゆく。
その時、死体が呻き声を上げゆく。
その時、死体が紫がかった黒へと変わり集まってゆく。
カツンという靴が鳴らす音がただ近づいてゆく。
その時15号、19号は地面に居た
「ある者」の貌を見る為に地面に降りたのだ。
そこには細目の少女3号と垂れ目の少女5号の二人も居る。
19号を含めて白いローブを思い思いに纏った、四人の「幹部」全員がプネウマを除いて集結していたのだ。
プネウマがここに居ない理由については・・既に皆、知っていた。
だからこそ、四人は誰にも問わなかった。
目の前の「ある者」に神経を集中する為に、霊子から杖を造り出し待っていた。
してカツンという音と共に在る物が露になった。
それは黒いブーツ、冬物と言われるそれである。
その靴を履いた物について四人の「幹部」は知っていた。
だからこそ19号は問う、その姿を露にした者にある事を。
「・・・・何をしに来たのですか。空を駆け、死体を魔素に変え「煉獄」を消してまで何をしに来たのですか。
・・・ねえ、嫉妬の魔女の代理。」
冷たい声音でただ品定めするように告げた19号である。
そんな彼女の目の前に居る冷たい赤い瞳を持つ肩までの短い黒髪を持つ少年、
黒い衣裳に外套を腰に巻いた黒いブーツの、嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏はこう口にした。
「なり損ないを取り戻しに来たんですよ。処刑対象の元”旗持ち”副隊長。」
常識知らずにも冷たさすら感じない抑揚の無い声でけれどそう乃瑠夏は言った。
少しだけ、昔を振り返ったような口調でけれど確かな意思を感じさせる態度で髪をパッと片手で払いながら・・四人の「幹部」に対して面と向かってそう言った。
・・・けれど現在を見据える為に、未来を見る為に井伊波乃瑠夏は唐突に振り返る・・少しだけ過去を。
□
髪が靡く、
風が吹く、
花の匂いが舞う。
そんな中で嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏はただ立っていた。
横に立つのは紫髪紫瞳の魔女、確か紫藤藤乃という者である。
目の前で眠る者の名は紫髪紫瞳の魔女・・紫藤藤乃である。
同じ髪色に同じ瞳、同じ顔立ち・・に乃瑠夏はけれど驚かない、
むしろ見慣れた光景ではあると乃瑠夏は振り返っていた。
『紫藤藤乃は無数に存在する。』そんな事をけれど乃瑠夏は思い出していたのだ。
それは確かに正しい・・と自ら乃瑠夏は肯定していた。
無意識まで読心する魔女である藤乃は貴重な存在である・・ともしかしそれ以外特に藤乃については知らない乃瑠夏である。
影分身なのか
クローンなのか
よく似ただけの別人なのか乃瑠夏は知らないのだ。
ただ知っているのは「SILENCE」の副長というだけである。
だからこそただこう問う。
「君がここに居るのは知っています、
そして誰の使いかも、
賢人会でしょう「SILENCE」の副長である貴女を使うのは、要件を言って下さい。
私は今すぐにでも”向かう場所”があるのです。」
「だからこそこの場にあたしは来たのです、
どうか聞いて下さい嫉妬の魔女の代理殿。あのなり損ないについて賢人会からの新たな任務です。」
冷ややかな声で丁寧に述べた乃瑠夏に一呼吸で機械的に思える程に藤乃はそう言った。
藤乃を見つめながらけれど彼女について考える乃瑠夏である。
紫藤藤乃は謎が多い。
態度は良い。
性格もいい。
実力も副代理に匹敵する程あり友人も多くいる。
けれどどうあっても信用できないそれこそが藤乃であった。
実力は折り紙つきであるもののどうあっても誰にも心を許されていないそれが現状であるのだ。
・・少なくとも藤乃はそう理解していた。
だからこそ期待せずに言葉を待っていればしかしある反応を引き出せた、期待以上の反応を。
「『単独でなり損ないを取り戻し「魔王」と「幹部」を皆殺しにしろ。』・・と。」
一呼吸で機械的に思う程にしっかりとした声でけれどそう言ったのを乃瑠夏は理解したと分かる藤乃である。
瞬時、音が止む。
瞬時、魔素が集まる。
瞬時、カツン、カツンと靴が床を叩いたような音が鼓膜を揺らした。
怒っているのだ・・と靴を鳴らして遠のく彼についてけれど静かに理解していた藤乃である。
カツンという音と共に靴が石床を叩けばしかし乃瑠夏は止まった。
藤乃と少しの距離を保ちつつしかし乃瑠夏には分からない。
今、命令を撤回した意味が
今、命令をした意味が
今、藤乃を遣わせた意味が
同等の地位を持つ筈の魔女の代理は賢人会から命令を受けていた。
『なり損ないを取り戻し、処刑せよ。』とい命令を
紫藤藤乃は「SILENCE」の副長として賢人会と関係しているし
その相手である魔女の一割強は眠っているし
今や、その代表である嫉妬の魔女の代理の乃瑠夏は受け入れているし
立場も地位も同等な人間に命令される・・そんな異常な事態にけれどこの場にて驚く者は居ない。
だからこそ憤った、
許せなかったのだ賢人会の命令の撤回が
賢人会の人の命をなんとも思わない傲慢と我が儘が
そしてそれを放置していた常識知らずな自分自身が、ただだからこそ乃瑠夏は告げる。
冷ややかな声で、けれど確かな意思で。
「無論です、必ずやなり損ないを取り戻しましょう・・全ては”人類の平和の為に”。」
瞬間、『開け、門よ。』と詠唱し、
瞬間、空間が割れ、
瞬間、空に星が瞬く
「飛んで行きましたか、”蛇の小道”に」そんな一呼吸で機械的にも思える風に言葉を発した藤乃を置いて乃瑠夏はそうただ告げて飛んで行った。
ただ、音も無く
ただ、当然のように
ただ、当たり前のように
あのなり損ないを助ける為に
・・・そんな記憶を垣間見た19号である。
冗長で退屈で、面倒にも思えるその記憶はけれど彼女にとって必要な物だった。
写すのは十字の瞳、それその物である。
十字の瞳、
魔女の読心能力とは違うそれは五感の強化だけではなくある物を写す機能を持つのだ。
それは記憶、見た物の記憶を写す力である。
七十二字騎士団の持つ量産型の「十字の瞳」では有り得ないその瞳はしかし、今、記憶を見ていたのだ。
人間が感じる五感、そして第六感として感じてきた感覚を引き延ばしたが故の「記憶の読解」である。
つまり、彼女が十字の瞳に映したのは嫉妬の魔女の代理、乃瑠夏の先程までの記憶だ。
「なり損ないを取り戻しに来たんですよ。処刑対象の元”旗持ち”副隊長。」
だからこそ常識知らずにも冷たさすら感じない抑揚の無い声でけれどそう乃瑠夏が言ったのを俯瞰的に19号は聞いていた。
写した記憶は一部だが見えたのだ。乃瑠夏の記憶が、ここに来る理由が
「あのなり損ないは救わなければならない。」そんな動機が。
・・理解してしまったからこそ乃瑠夏をただ見つめる19号である、ここに来た理由について些かの共感を覚えたのだ。
だからこそ19号はある手段を取った。
「見えているんです、一部だけですが貴方の記憶は。だからこそ無駄です。私は既にその情報を「幹部」全員に共有している。前に進まないで下さい、私なら先程の情報で貴方の少し先の未来は見れます。」
「成程「記憶の読解」ですか。
十字の瞳、傲慢の魔女の代理の一族に受け継がれるその特殊な目に宿る力。
しかし解せませんね、何故、貴方がその力を。
して何故このタイミングで暴露を。記憶を読む力など使おうとすればいくらでも有効に使える情報でしょう。しかし無駄です、私はここに話に来たのではない。」
常識を知らないような物言いをする乃瑠夏に対して常識を押し付けるように述べればけれど冗長かつ退屈にも思える程の長さの言葉を乃瑠夏は返したのを19号は理解した。
けれど瞬時、異変が起きた
けれどその時、大地が割れた。
けれどその時、空気が割れた。
けれどその時、空間が割れた。
目の前には手刀を横に引いたようにした乃瑠夏が、そして目の下には割れた大地と空間が其処に在った。
割れていたのだ、瞬時に
大地と空気、そして空間が
そう目の前の少年、
嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏の放った警告代わりの手刀による斬撃によって
この場の「幹部」全員が理解していた。
「この者はただでは殺せないと」魔女の代理に匹敵する四人を以てしても一人や二人、いいや三人で掛かればぎりぎりの所で倒せる程の例外の部類の脅威である事を
嫉妬の魔女の代理は暴食の魔女の代理に次ぐ実力者である・・そんな「魔王」の言葉を思い出す程に
「何のつもりですか、嫉妬の魔女の代理。」
「警告します。
この線を超えれば必ず命を獲ると。最も死にたいのであれば話は別ですが、ねえ19号、貴女はどうしますか。」
当たり前のように問えば常識知らずにもけれど乃瑠夏がそう言ったのを理解している19号である。
「警告」、文字通りの意味のそれはしかし19号は理解していた。
それがほぼ絶対的である事を
「幹部」の首が飛ぶその時を
空間が割れるその瞬間を
・・嫉妬の魔女の代理は悪魔の名を継いでいる。
「悪魔」とはなり損ないを上回る上位存在であるとは魔女の間では常識である。
それは「魔女」と戦った、古の怪物の名であり
それはなり損ないの祖先、その存在そのものである。
「悪魔」という存在はどうあってもなり損ないには負けないそんな力関係にある存在なのだ。
つまり何が言いたいのかと言えば嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏は悪魔の名を継ぐからこそ今のなり損ないよりも・・数段強いという事だ
「皆、目の前の嫉妬の魔女の代理は力のみならず悪魔の名をも継いでいます、だからこそ今のなり損ないよりも強い。しかも四回目の地獄、尊厳の地獄の時の彼女よりも数段実力は上手です。15号、下がってここは私が、」
「・・・・無論、理解していますわ
・・19号お姉さま少なくとも儂達はあの男に対する全てね。だからこそ・・・ここに居ますの待っていてくださいまし今、この男を殺します!」
当たり前のように後ろに下がるように告げればしかし前に出て忠告の言葉を発した15号の行動原理を理解していた19号である。
居るのは線の先、
居るのは空気の向こう、
居るのは空間の断絶の先、
そこに15号は立っていた、空間の断裂の先に。
まるで瞬間移動をしたように
赤い瞳が銀の少女を写したその時、
細い目の少女と垂れ目の少女を映したその時、
断絶された空間の向こう、ドンという地鳴りと地響きのあと視線の先で・・土埃が天高く舞い上がった。
■
大地が裂け、空気が割れる
「幹部」と嫉妬の魔女の代理の戦闘、
魔女の代理の戦闘であり、けれど魔女の代理の戦闘ではない・・そんな戦いを19号は見ていた。
一挙手一投足が自然を狩り、一手一手が意味を持つようなその戦いはしかし人間が認識出来ない戦闘ではありながら19号が認知出来ない戦闘では無かった。
細目の少女である3号、
垂れ目の少女である5号、
銀髪銀眼の魔女である15号はそれぞれが魔女の代理に匹敵すると言われる「幹部」である。
「魔王」の首を狙い、鏡の国と敵対する彼らは超越者である。
「死」の魔力を持つ彼女らは一撃、一撃が空と大地を蹂躙するだけの力を持つ
・・どんな人物にも勝利を収め、団結すれば適うものは居ないとすら言われたのが彼らなのだ
しかし目の前の人物は別である・・と15号は認識していた。
「幹部」は強い、それも魔女の代理に匹敵する程
一撃、一撃が大地と空を蹂躙する彼らの力はしかし目の前の相手、悪魔の名を継ぐ嫉妬の魔女の代理には通じなかった。
すり抜ける、すり抜ける、すり抜ける。
蹴り、突き、穿ち、そして剣閃のような杖を用いた一撃、全てがすり抜ける。
脳天に中てようと、
心臓を突こうと
鳩尾を穿とうと
両腕を切り刻もうと全ての攻撃がすり抜けて行った。
そうして残ったのは割れた大地と空、
そして彼と距離を取り息を整える3号と5号
そしてその前にぎゅっと杖を握りながら彼を見つめる15号、
そして冷たい赤い瞳を持つ肩までの短い黒髪を持つ少年、井伊波乃瑠夏の姿のみ・・と彼らはどちらが言うでもなくその状態に成っていた。
「・・・・・・・・・・」
「・・やはり、まだ届きませんか嫉妬の魔女の代理殿。」
実力を認めながらけれど静かに口にしていた15号である。
目の前で杖を持つ乃瑠夏はしかし一言も喋らない、
ただこちらの隙を伺うように3号と5号の様子を見ながらも15号に冷たい視線を向けるだけだ。
この時、三人の「幹部」は気付いていた
今のままでは目の前の相手に勝つどころか一撃すら与えられない事に
して目の前の相手が”少しの本気”すら見せていない事に
だからこそ15号は言葉を紡ぎ掛け、けれど気付いた。
目、目が変わっていたのだ。
赤い瞳が、白と紫の烈日を思わせる程の瞳に
空間そのもののような魔力が、大地を焼く程の魔力にとあらゆる物が苛烈に、あるいは熾烈に変わっていた。
放つ力のみで大地を焼き尽くせるようなその魔力にしかし15号は違和感を覚える。
「君は一体何のつもりですか、
その力本当に本気には見えんでござる・・いいえそこは理解しているでござる、見れば分かるでござるモノ。しかしこの手加減のしよう、魔女を愚弄しているのでござるか!魔女の代理!!」
「ごめん、ふざけた口調で喋らないで3号、本当にうっとおしい・・と5号は思うな!」
冗長で軽薄なそのふざけ切ったようなその口調をしかし変な語尾で5号にツッコまれるのを3号は理解していた。
3号は膝を突き杖をつきなが息を整え、
5号は杖を突きながら息を吐きながら少しだけ落ち着いたようにそうしている。
満身創痍、二人はこの短い戦闘時間でその状態に陥っていた。
未だに息を整えられていないのがその証拠である。
15号はそれを見遣りけれど視線を興味なさげに乃瑠夏に映した。
力の差、今、「幹部」と嫉妬の魔女の代理にあるのは純粋にして純然たるそれである。
どうあっても覆し難いそれはしかし19号にこんな感慨を与えていた。
このままでは皆殺しにされてしまう・・・という当たり前の想いを
・・だからこそ19号はこう話す
目をキっとしながら
断絶された空間越しに乃瑠夏を見つめながら
「乃瑠夏、少しだけ話をしよう。」
・・そんな言葉と共にけれど視線が回る。
ぐるぐる、ぐるぐると何か軸を失ったように、支えを失ったように視線が宙を舞う
ぼとりという音と共に再び目を開けばそこには在った
3号の首が
5号の首が
そして15号の首が。
断絶された空間ごと首を切られたそう断たれた首だけで思考しながらもけれど三人の「幹部」の首を目に収めながら19号は見た。
優しい、母のような手を
易しい、魔女のような目を
慈悲深い、「魔王」のような気配を
どろりとした気配、赤子の笑い声のするその気配の中けれど野太い声の少女は母のように「魔王」の笑みを浮かべながらただ言葉にした。
ただ当然のように
「我が子達よ、あとは少女に任せなさい。」
とただその手の平に黒布の目隠しを持ちながら、
腕に奔る血印の赤い輝きを見せつけるように、
桃と赤の混じった瞳で嫉妬の魔女の代理を見つめながら
バフォメットを肩に乗せながらただ・・睨みつける嫉妬の魔女の代理を歯牙にも掛けずに四人の「幹部」達の首の前で慈悲深くもそう言った。
・・なり損ないの眠る塔の下で五回目の地獄、安楽の地獄が今、始まる。




