第34話 無垢なる者の目覚めと暴走
裏切りというものについて考えた事が無い。
魔女の代理が鏡の国を裏切る・・それは理解している。
それは少女にとってはいつも主導権を握り実行する物であり、
私自身がされる事では無いからだ。
私は全知全能の存在として五星世界に在り続けた。
それがどれだけ痛みを伴う行いだろうと、
それがどれだけの快楽を伴う行為だろうと、
それがどれだけの代償を伴う行動だろうと、
少女には世界の全てが美しく見えたからだ。
だからこそ、私は問う。
「世界」を裏切った者として少女はどういう存在なのか、
現実世界を生きる人間にとってどういう存在なのか
鏡の世界を生きる魔女にとってどういう存在なのか、
青水の大地を生きるなり損ないにとってどんな存在なのか、
私は問う、「計画」通り一人の魔女の代理が鏡の世界を裏切り敵に回そうと、全ての魔女がこの世から根絶するまで・・
”人類の平和の為に”
□
『お前はこれからどう生きるつもりだ』
声と言葉がけれど頭の中で反響する中、私は目覚めた。
場所はいつもの自我空間、透明な地平線が見える場所だ。
「蛇」の居る場所に八度目だが来たのだ。
なり損ないの「王」
王にまた呼ばれたのか・・・と理解すればそんな声が聞こえた。
一度、二度、三度と何度も反響するその言葉にけれど私は答えられなかった。
言葉にしているのは「蛇」
沈みかけの上弦の月のような瞳をした黒髪赤目の少女、
私と殆ど同じ容姿をした「蛇」である。
美しいと対外的に言える少女はけれど私とは違う赤の瞳をこちらに向けながらもこんな言葉を口にする。
『お前はこれからどう生きるつもりだ』と何度も言葉にするのだ。
度重なる質問に、
その執拗な言葉にけれど私は答える。答える・・筈だった。
透明な地平線を背にけれど、私はこう言った。
「私が皆に平和を与える。」
と神のように笑みながら・・・答えに成らない答えを吐いた
けれど言葉にすれば血反吐を吐くような気配が私を包みこむ。
肋骨を軋ませ内臓を圧迫するそんな気配がした。
内臓が潰れている、それもここに七度目に来た時とは違う。
一つの臓器だけじゃない。
より多くの臓器が潰れている・・そんな事が第二特性で理解出来た。
血反吐を自然とゴボッと吐き出せばそれと同時に・・
視界が回る。
視界が回る、視界が回る、視界が回る。
ぼとりという音と、舞う黒髪、
そして噴き出る血飛沫に理解した。
私が「蛇」に手刀で首を切られた事を
そうして目を開き、閉じれば・・・私は目を覚ました
灰色の天井の下で
■
「目覚めたか、掟破り。」
・・「声」に私は目を覚ます。
「声」は寝起きの私には鈴の音のように聞こえたが、しかし、一つある音が耳朶を打った。
鈴の音、彼女の耳に掛かっている不気味な鈴。
その歯茎が綺麗に噛み合ったような外見から発せられる涼やかな音は成程私を納得させたのだ。ある意味で。
あの女がいるのだとという趣旨で。
しかし私はこう言った。
「なんで、乃瑠夏じゃないの。
自分の記憶も無いしそもそもあったとしても実感持てないのに彼女じゃ無いどころかその兄である乃瑠夏ですら無いなんて・・・空気読んでよ・・・・鈴。」
私の言葉に鈴は白ずむこともなく煙を吐くカップを渡した。
両の手で受け取りを覗けば、黒い液体がカップの中から満遍なく息を吐いていた。
白い、息を。
弁解するが、今の私には記憶の全てが無い。
残っているのは一般常識に関する記憶と、
第五特性「全知全能」を解析している際に得た一部の過去の記憶のみである。
完全に制御出来るまで千年の時を要するこの「特性」を解析する事によって得る情報も有ったのだ。
第二特性である情報の「収集」と「集積」を解析に用いているが故に私は彼女や乃瑠夏、鈴など鏡の国であった魔女達の記憶についてはある程度疑似的ながら思い出しているのだ。
だからこそ、これまでの記憶をある程度は持っていると考えてもいい。
「コーヒー、ありがと。けれどこれからはどうするの?」
「これからについてはまだ考える必要はない。
所でその様子・・素に戻ったというわけだな。
随分と見つけるのに苦労したがしかし、
井伊波恣意どころか、
「魔女」や「幹部」である首締めの魔女すらここにはいないぞ。
特に乃瑠夏や禍根鳥、プネウマ達はな。して今度のお前の敵は分かっているな。」
鈴の言の葉にしかし私は黙ってコーヒーカップを手に持ち白いカーテンの奥の空を見つめる。
孔の開いた空、空を見上げれば薙ぎ払われ晴れ渡った空模様が。
そこには黒い煙が立ち上っていたのだ。
隙間を縫うように、狭間を示すように
辺りを見渡せば、大量の瓦礫とネオン街の中心に光を浴び聳え立っていた「城」、して破壊された町々。
窓から乗り出して横を見れば研究塔と思しき、白き摩天楼達それらが在った。
クリミナが居た「一つ目の地獄」の亡骸、
第一地区23番地にある所謂「病塔」だろうか・・そう考えればけれど理解する。
窓から体を戻し、見れば目の前にあるのはネオンに照らされていた「城」。
広がっていたのは残骸と化した都市であった。
横に広がっているのは恐らく色欲の街の郊外にある「旧研究塔群」だろうと私は第二特性、情報の「収集」と「集積」を用いて読みとり理解した。
・・・私が壊したであろうネオン街、「色欲の街」・・その残骸が広がっていた。
私は、暴走した。
自身の思うがままに第五特性「全知全能」に溺れ、
第三特性「█」の力を使い、
辺りに居た197人の魔女を
傲慢の魔女の代理を、
そして五人の副代理を殺し尽くしたのだ。
当然、巻き込んで多くの色欲の街の住民達を殺しているだろう。
そんな自身の業の結果とも言える異様な景色の中で私はただ言葉にした。
「・・・・分かってる、今度は
・・ああ、皆が敵だ。魔女、全てが敵だった。」
言葉と共に風が吹き、髪がそよぎ流れる。
コーヒーを一飲み、その後に私は神のように笑った。
笑みはしかし瞳の中にさえ微かな濁りを一辺も湛えていなかった。
そうして私は思い出したように静かにそう言った。
・・眦からいつの間にか涙が溢れる
胸を抑えていた手指に
シーツによって隠された私の裸体の谷間にはしかしどこにも傷一つ無かった。
心臓。
拳の裏、その位置に
心臓のみならず、骨のみならず、背骨のみならず何も、どこにも傷は無かった。
第四特性「不死」が起動した証だろう、私には誰であろうと傷は残せない。
副産物としてのその力はけれど瞬時に肉体を再生させるのだ。
・・私は目を瞑る。
鈴が座る椅子の下を、床を、そして廊下を絨毯のように占める黒い外套の魔女達・・・
その飛び出した腸に目を向けずに。
その死肉に目を向けずに。
その死体に目を向けずに。
私は目を瞑る。
徹底して壊された町々に目を向けずに、市街に目を向けずに。市外の異常な騒ぎに目を向けずに。
けれど、そうして現実逃避していれば傲慢の魔女の代理、都市を滅ぼせる程の魔力がこの場所を包み、
十字の瞳を持つ魔女となり損ない達、
七十二字騎士団のその軍隊振りから、
彼らの行進から目を背ければ・・・
私と鈴の二人、そしてベッドと椅子に絨毯のように転がっている魔女達、彼女らの一人の手指が・・・
ピクリと動いた。
□
「・・・・分かってる、今度は
・・ああ、皆が敵だ。魔女、全てが敵だった。」
風が吹く中、
今、私は髪が流れる中、
白い煙を吐くコーヒーカップを持つ中、
笑みを浮かべる瞳にのみ微かな濁りを湛える事すら無く神のような笑みを浮かべた。
・・体に視線が吸い寄せられる。
それは先程、髪に掛かった大きな肉塊と朧気に認識した私の乳房であり
コーヒーカップを持っていない片方の指で自身の頬に触れた時に付いた温かい涙だった、
そして泣き虫な私にはけれどとても見慣れないものだった。
「お前の様子を見ていたが、赤神を手に掛けたあの時、涙を流していたな。」
そう、確かにそうだ。
記憶はないがそれは分かる。
私を止めに来た副代理の中に彼女、憤怒の魔女の副代理、赤神泣が居た。
ずっとでは無いにしてもそれなりに側にいた彼女を殺した程度で、私の眦からは涙が溢れた。
どうしてだろうか、分からない。
私に記憶の実感は無く、感情は無く、魂は無く。
して肉体すら無く、記憶の全ても無い。
人間にとって重要な物が感情含めて五つも欠けているのだ、
涙を流す筈がない。
けれどどうしてか私は涙を流した。
それだけは理解していた。
むしろ解りやすい、理解しやすい。
頭に溶け込みやすく、けれど染み込みずらいそんな感覚があった。
なにせそれは私には・・・・
「よくあることだと言いたげだな。だが今。聞くべきことがあるだろう。」
確かにそうである。
私が今聞くべきこと。
明星百合の事ではない。人質に取った彼女は未だに不可視の魔女文字が首を囲っていながらもそれが起動された痕跡すらない。
だからこそ、私には他に聞く事が在るのだ。
記憶の実感も、感情も、魂も、
肉体すらも失い、記憶の全てを失った私には聞くべき事が在った。涙を拭いけれど理解する。
五つの「特性」を持つ私には聞くべき事が在ったのだ
そうそれは他ならない。
・・私に関係のあることなのだから。
「確かに関係しかないな。何故ならばお前は。」
私は
「お前は。」
私は。
「「今、敵に隙を晒しているのだから。」」
その言葉と共に影が視界を覆った。
コーヒーカップが割れ、中身の黒をぶち撒けたその瞬間・・・
血が部屋を赤くした。
■
影
それは多くの小説にて心の闇を表すもの。
太陽の対、光の裏に常に潜むモノ。
多くの災厄の象徴たるものはしかし今は好都合だった。
コーヒーカップが割れる音がした。
微かなコーヒー豆の香りとその後すぐに血液の匂いが部屋を充した。
落としたコーヒーに気を取られている暇はなかった。
ぶすりと刺さった。
胸に。
そこの所謂、胸部にぶすりと・・・
いいや、ずぶりとだったかも知れない。
なにせそれは深く刺さったのだから。
深く、不覚にも。
刺さったのだから
腕が。
魔女。
他ならない、一瞬、指を動かした者の胸に、
私達を襲おうと立ち上がった者に、
今、私の裸体を吹き出した魔女の赤い血が染める
染まる、染まる、染まる。
私の顔が、髪が、体が、赤黒い血液に染まっていく。
飛び散った赤い血が目に入り頬に流れる。
風に腰まである黒髪が靡き、
血飛沫を全身で浴びる中、私は思った。
返り血塗れの乳房に掛かっていた髪が風に吹かれるのも気にせずに
噴き出す魔女の血を無表情で浴びる、
魔女の体がビクンビクンと痙攣し、瞳が光を失った。
その彼女から浴びる血液は
とても、温かかった。
■
鏡の国との縁は今、切れている。
私は恐らく五人の副代理、傲慢の魔女の代理、
そして大量の魔女を殺した事から賢人会から直々に「処刑対象」と決定されている事だろう。
「計画」通りであろうその事象故か今の私には魔力が殆ど無い、なり損ないの力は無いに等しいのだ
魔術も魔法も使えないままの筈だった。
だからこそ今胸を貫いたのは私の力でないのだ。
魔女文字を用いて再現したのは外套に搭載された機能の一つ、
再現し模倣するその力を今再び用いたのだ。
・・・魔女文字で模倣した力を、第一特性「模倣」を用い再現したのだ。
使用したのは単純、身体強化魔術である。
ぽたりぽたりと滴る血液は、魔女の胸部を貫いた腕としての真っ赤な証左がついていた。
体も髪も何もかも、返り血塗れである。
鬱陶しい・・そう感情の真似事をする余裕が私には在った。
「腕はバキバキのようだがな。」
「ああ、そうだね。」
だけれど今の私はなり損ないではない。
だからこそ肉体強度でも常人と同等程度でしかなにのだ。
故に私の腕は・・・
「本当にバキバキだ。」
指の方向でさえばきばきだった。
腕から骨が飛び出る程に
しかし、瞬時に腕と手指がしゅ〜という音と白い煙を立てて再生した。
体に付いた返り血が魔素となり空に還っていく中
手指に付いた返り血が空に還っていく中
私の開いた五指に魔女の血液が夥しく滴り、赤く染め上げるのも気にせず鈴は言葉を続ける。
「それでも治るのがなり損ないだがな。」
「それは魔女もでしょ。
禍根鳥さんから聞いてないけれど、
思い出してるよ、鈴」
そう私は聞いていないのだ。
「蛇」から聞かされた「計画」を知る上で。
おそらく多くの魔女が「幹部」である19号やその主である禍根鳥が失踪していたと考えていたであろう裁判所でのあの時。
私を護送する前のあの時に。
私は力を貰った。
なり損ないとしての力を・・・
「なんの記憶もない筈なのに推測か・・・分かるのはそれだけではあるまいにな。」
「確かに、私の記憶は全部無いし有ったとしても他人事だけれど今の私だって記憶は・・・あれ?」
人をずぶりと刺したままけれどそれを引きずって。
私は歩く。
綺麗な体、顔、脚、指、腕。
突き刺さった人体を腕から逃がさないアンカーになる様な開き方をした血濡れた五指と手指。
その目も眩む程、己の血塗れの手指に対して感じる筈の新たに滴る朱い眩しさに私は少しも見とれずに鈴の前に歩き、けれど止まる。
「思い出せない・・・・そのことだけが。」
そう思い出せなかったのだ。
自身の力を得た理由が
「色欲の街」の魔女や街並みを壊滅させた理由が。
「今は、いい。これからはお前のことについてだ・・・・
・・予言の魔女。」
吸い込まれる髪と瞳を持った黒髪黒目の少女は、そう言った。
魔女と魔物の大群にして軍隊、して
絨毯たる魔女と一部の魔法使いを椅子の足と、組んだ足の片方で踏みつけにしながら・・・
そう言った。
ずきりと何故か頭が痛んだ。
■
十字の瞳。
いいや十字の瞳孔に金色の瞳の目玉。
スカートのポケット、そこにあるこの不可思議な魔導具はしかし今、私の血塗れな手にあった。
魔女の死体が邪魔だなぁと考えながらもけれど思考を再開する。
十字の瞳孔に金色の瞳の目玉。
それこそが今、私の手にあるのだ。
ポケットから取り出したそれを、転がっていたスカートのチャックを片手で開け取り出したそれを見つめる。
「人を貫いて離さず歩いているままなのだがな。」
「あ、確かに。」
言葉を返すと共に理解する。
忘れていた。
ついさっき、鈴から「何故ここに軍隊が迫っているか身に覚えのある事を話せ」と言われて出した物だ。
ある種私の知り合い、首締めの魔女や傲慢の魔女の代理の瞳と同じ・・
十字の瞳。
あの時、私はそれを取り出したのだ。
「腕に人を貫いて離さず歩いているままなのだが、という先の言葉を流されたことは置いておくとして。」
「寛大だね。鈴。」
「置いておくとして。ここに来る理由が少しは分かった筈だろう。」
確かに、分かった。
ここに人が来た理由。
それは・・・・
「なんだっけ。」
そう何も分からなかった。
何も
何もなのだ・・
「そのように心の中すら誤魔化しても無駄だ。動機は理解出来ても同期のようにはなれないぞ。」
「妙竹林かつ非道いこと言うね。まあその通りだけれど。」
確かに鈴、いいや暴食の魔女の代理の言葉は正しいのだ。
けれど彼・・いいや彼女はこう反論した。
まるで自明の事を話すように
子供に説教を聞かせる様に
当たり前の事を話すように鈴はこう言った・・筈だった。
「そうする筈だった・・が「彼」とはとんでもない勘違いだ。」
「彼女って言う程、「女」でもないと思うんだけれど。彼っていう程、見た目がおっさん臭い訳でもないか。」
「女、と言われるには確かに口調からは「男」しか感じないだろうが。だがしかし・・
・・・私は女だ。」
そう足を組み替えてそう言った。
服を寛げずにけれどその態度に私は少し目を奪われる。
ある種の欲。
性欲ではない何かを抱いたのだ。
「欲情するなというのも間違いだな。ならば単純に向けるなという訳か・・」
何の話か分からなかったがしかしそのあとの声は怒気の入った声はしかしこう耳に入る。
「感情を。」
とても魅力的に
その言葉の後に私が手を閉じれば
私の腕に貫かれている魔女がずるりと落ちた。
そして彼女らの同類たる魔女達や、
小憎らしくずる賢いと言われる魔法使いと同じように 床材の一部と成り果てていた。
手指に付いていた血が魔素となり空に還るのを横目で確認したあとけれど正面に目を向けて言葉を返す・・筈だった。
けれど瞬時、それら全てが黒い粒子と成り果てる。
魔素、あるいはそのような存在に。
鈴の「月蝕の魔術」と言う権能によって成り果てる。
咄嗟に十字の瞳を魔素に還して取り込めば、ガランと椅子が鳴った、目の前には・・・
「久しいな、予言の魔女。そしてさっきぶりだな・・
ベルゼブブ。」
傲慢の魔女の代理、明星葵がいた。
立ち上がった鈴の前に
全裸の私の前に。
手指は未だ、血濡れたままだった。
■
今の私は記憶が全て無い
具体的に言うなら、自身の記憶が全て在りはしないのだ。
自身を以て言えないのだ。
あるのは一般常識と己の名前、五度復活した時の代償、そして「五つの特性」である。
自身が無く自信がなく、そして私心がない。
私心が無いというとどこかの何かを思いだしてしまうけれどだけれどしかし今言うべきことが在るのだ。
今の私は記憶が全てない。
だからこそこれは起こった事態なのだ。
辞退するべき事態なのだ。
明星葵がいた。
傲慢の魔女の代理がそこに居たのだ。
ガランと椅子が鳴るその中で鈴が立ち上がり見つめる中、
目の前に、裸の私の目の前に、血濡れた手指を持つ私の前に
・・彼がいた。
葵は窓枠に腰掛け、
咄嗟にただ何となく血濡れた手指を隠せばけれど彼は口を開いた。
「久しいな、予言の魔女。そしてさっきぶりだなベルゼブブ。」
風が髪に靡けばしかし私は前髪を抑える。
・・危うく崩れる所だった、前髪が。
あるいは体裁がである。
殺した筈の最強の魔法使いが目の前に居た。それに動揺する私なのだ。
もしかしたら、五人の副代理や殺した197人の魔女も生きているかも知れないと考えかけた。
けれどそれを察したのか葵が鈴に問うた。
「ベルゼブブ。何故彼女は全裸なのだ。」
「俺が脱がしたからな。必要な処置だったのだ。」
ほら、崩れた。
葵の言葉に対する鈴の言の葉の答えから分かる。
嘗められているのだ・・圧倒的に。一時的にラスボスのような動きをしたというのに。
・・・一体何の話だ。
さっき出た言葉に実感が持てない。記憶からも出る筈が無い言葉・・・である、本当にびっくりだ
ついれに寒い。
隠して居ない片方の手で反対側の肩を撫でながらけれど私はこう言葉にした。
「鈴、一体。必要な処置ってどういうこと?脱がされた理由。よく分からないんだけれど。「ところで。」
無視された。
酷い、まったくもって。
葵が出した疑問だったのに。
「19号、「幹部」でもあり首絞めの魔女でもあった
色欲の魔女の副代理の振りをしていた奴は既に旗持ち副隊長ではない。
代表会議、それにおいて予言の魔女とプネウマ同様になんでもないようにあっさりと罷免されている。
処刑対象でもあるのだ。
議論された時間で言えば色欲の魔女の代理、禍根鳥憂喜が5割以上なのだ。
二人や操られた、
あるいは失踪した熟年魔女や、
あるいは熟練の魔女や、なり損ない達は鏡の世界に仇なした時点で既に語るまでも無く処刑が決定されていたのだ。魔女の掟に反したが故に、な。」
唐突に語り出した彼の言葉はしかし聞き馴染みのない言葉である。
まるで初めてでも聞いたこともない言葉・・・けれど私はどうしてか納得が出来た
血濡れた手指を持つ私には、「ただ魔女を殺した」それに罪悪感を何も抱かない私には理解出来たのだ。
「納得出来たか。意味は分からずとも。・・まるで主人公だな。」
「主人公どころか、私は既に全裸の変質者なんだけれ「しかし。」
また葵に言葉を妨害された。
けれど先に続く言葉は私には答えられる言葉で、答えられない言葉だった・・そして私はこう思った。
葵の言葉に片方の血に濡れた手指を隠しつつけれどこう返した・・筈だったのだ
「服を着ろ、変態。」
「殺したろか、お前。」
次いでに言った。
手に付いた魔女の血液もそう言った気がした。
■
ジジジとファスナーを閉じる。
つまりは脇腹の下から上までしかし小難しく言うなら後ろ身頃から前身頃までファスナーを閉じる。
何故、小難しく言ったのか。
私としては血に濡れた手指を隠せない以外に果たして理由がある。
なにせ、それは今の事態に関係があるのだ。
「タイを治す事がか。しかし今、それどころでは無いのでは。」
鈴の言葉に私は応える。
確かにタイは治す必要がある。
横に360度ずれているし、片方の手使えないから仕方無いんだけどね、と
「それは元のままだろう。一周しているではないか。ある種というか既に。」
「確かに実際は100度くらいだね。適当に通したたから襟もエリマキトカゲみたいに立ってるしね。」
鈴の言葉に葵が興味深げに私を見つめる。
しかし今、エリマキトカゲ足る私はその体勢を威嚇の態勢のまま走り出すことはない。
走り出して首の骨を折り無駄死にすることは無かった。
そう血に濡れた手指を後ろに隠しつつもそう言えばけれど葵が唐突に語る。
「エリマキトカゲというのは走れば死ぬらしいしな。広げた襟に空気抵抗がかかり首がぽきりと折れるのだと。」
「・・・・」
「当然、空気抵抗がかかる程の速さで走らなければ些少の問題もないのだがな。」
「・・・・」
葵、彼の傲慢の魔女の代理をしっかりと見つめる。
いいや、睨みつける。睨め付ける。
片方の手指を隠しながらも睨み付ける。
しかし彼は気にしない。
同じ・の数である事と同様に彼は気にしなかった。
どころか言葉を続ける。
「まずは花嫁、エリマキトカゲのような襟、即ちセーラーカラーを治せ。タイと同様にな。」
・・嗜めるように葵に語られた
下らない、身嗜みの事を。阿保みたいな前提と共に。
私は知らなかった、
これから重要なことが起こるとも知らずに。
・・血に濡れていない片方の手指でタイを回しながら、器用に片手で襟を正しつつも葵の言葉にそう「予感」したのだ。
だが、それを気にせず葵はこう言葉にした。
「しかし不思議なものだ。一体どうやって鏡の国を敵に回した我が花嫁が生きているのか。」
「・・敵に回したのにって言うか。
貴方は殺した筈なんだけれど、傲慢の魔女の代理」
葵の見る中、鈴の見つめる中、私は隠していた手指を見せセーラー服の上から胸に触れる。
無い、傷がどこにも在りはしない。
ずきりとすら痛まないそこはしかし今、何の傷も無かった。
第四特性「不死」のおかげだろう、在った筈の傷が全て塞がっているのだ。
そもそも「色欲の街」を蹂躙した時傷が負ったのかすら怪しいのだが
・・ただ胸に血が滲む感覚があるだけだった。
それすら魔素に変わればけれど葵はこう言う。
「しかし、今、服の下では血は滲んでいない。傷は塞がっているのだろう。」
静かな葵の言葉にしかし私は沈黙を返す。
胸当てから血濡れた手を放す。
しかししっかりと葵を見て、鈴を見てして再び葵を見た。
そして私はこう言った。
「暴走する私を止めたのは貴方だよね。葵。」
十字の瞳が少し微笑んだ。
□
問いかけ
少ない出会いと多くの別れを齎すそれは、して少ない話し合いの切っ掛けと少なくもない離別の前触れであり前兆そして後書きでもありエピローグでもある。
要するに切っ掛けであり別れと言えるのだ。この行動・・・問いかけは。
だからこそこの事態は展開は起きたのだ。
展開し転回されたのだ。
まるで当たり前のように、当然のように。
「思えば気配が薄くなっているんだけれど、何でなのかな?」
私はそう言った。
明星葵、傲慢の魔女の代理。
しかし「力」が無くなったわけではないのだ。
ならば何故、気配が消えたように感じたのか。
それは・・・
「お前が順応したのだ。先程までエリマキトカゲのように襟を立たせてかつタイを間抜けな角度のままにしていても気付かなかったようにな。」
葵の言葉にしかし私は得心した。
そう、そういう意味なのだ。
いくら特異な状況でもそれが当たり前のように続けば慣れてしまうように。
血濡れた手指の感覚に慣れてしまうように
時間が経つだけで起こっていたそれはしかし現実でも起こり得る。
即ちうっかりであるのだ。これらの事は。
しかし手指に血がべったりついているのとは違いここまで大きなものだと・・
「おかしいか。
ならば一体どういうことか理解出来るだろう。それ自体は・・・魔術だな。
先程世がかけた細工の一つだ。」
葵の言葉にしかし私は応えない。
先程、その言葉が過去を指すのか未来を指すのかいつを指すのかすら分からないがそれについては今、きっと考えるべきではないのだ。
なにせこれからは
「魔女やなり損ない達全てが敵なんだから。」
私はそう言った。血濡れた手指を目の前に物を掬うように差し出してぎゅっと握りけれどそう言った。
皆の視線を感じる。葵に気を配りつつも探れば都市壊滅規模の気配、それを感じた。
そして鈴の冷たい視線。
きっとこれからは私一人だ。
私一人で彼女らに立ち向かわなければならない。
してこの場所から逃げ出す事もきっと不可能に近いのだろう。
それ程に魔女の代理というのは壁として厚いのだ。
そして今、目の前にいるのは最弱ながら最強に思える傲慢の魔女の代理と最強の魔女にして「魔王」、暴食の魔女の代理。
即ち、明星葵と鈴。
当然、勝てる筈が無い。
生きて帰れる筈もない。
隙を見ても自死など出来る筈もない。
何故ならばきっとそれは・・・
「我らが望んでいないからな。世としては今、貴様の首をとってもいいのだが・・」
「そういう訳にもいかないようだ。」
葵と鈴の声に私はまたしても意識を向けられなかった。
赤子の、赤子の泣き声が聞こえたのだ。
どろりとした気配が辺りを包めば・・・
けれど彼女は現れた。
「久しぶりだな。予言の魔女。」
慈悲深くも野太い声に目を向ければそこに居たのは・・
白髪二つ結びの左右非対称な黒布の目隠しをした野太い声の少女。
白い外套を着た禍根鳥憂喜がいた。
「魔王」のような笑みを浮かべて
■
赤子の泣き声。
不可思議かつ不気味な声にしかし反応する者はいなかった。
いいや居たのかも知れない。しかし少ない者達とて多くの者と同じである。
つまりはここに居た者達の反応は彼女の気配と彼女自身に対する反応ではなく、
彼女という存在そのものに対しての「反応」だったのだ。
「新しい衣裳似合ってるね、禍根鳥さん。」
「ありがとう、
しかし不可思議で不気味とは酷い言いようだな。予言の魔女。」
禍根鳥の言葉にしかし私は沈黙で返す。
この気配。
禍根鳥の慈悲深くも野太い声・・だけではない。
赤子の泣き声、包み込んだこのどろりとした気配に身構える。
血濡れた手指をぎゅっと握った。
・・今、私は魔女の代理の目の前にいるのだ。
「処刑対象だがな。魔女の代理としての力は破格だが、ここに姿を現したということは・・・」
「早々「捕まる」気はないらしい。」
鈴の言葉に葵が言葉を返すのを見ればしかしそこには彼女は居ない。
白い髪が揺れるのを目の端に捉えれば目の前、瞼の裏にも思えるその場所に彼女はいた。
左右非対称な黒布の目隠しをした野太い声の少女。
白髪二つ結びの慈悲深い貌を浮かべた元色欲の魔女の代理がいた。
彼女はこう言った、私の瞳を覗きながら・・
「・・・今、この場では戦闘はしない。我々にも目的がある。」
「・・・・・・・」
「だが・・今はここを引け。さもなければ命は無い。」
沈黙、少しの間のあとの言葉には多くの「含み」があるように思える。
瞳を覗かれたが故かの少しだけ感じたこの感覚に対しての私の答えは当然こうであった
神のような笑みを浮かべて血濡れた手指を再びぎゅっと握ればけれど私はこう言った。
「「断る。」」
そしてそれは私達、三人の答えであったのだ。
■
暴食の魔女の代理の杖。
腐った指によって編まれたような装飾をしたその杖の先は、月蝕を模したようなその先はしかし鈴によって向けられていた。
葵にではない、そう禍根鳥にだ。
葵の杖もそのシンプルに神聖さを表す特異な装飾を私にではなく禍根鳥に向けている。
目の前に居る白髪二つ結びの左右非対称な黒布の目隠しをした少女。
その白い外套を着た彼女が目隠しをした貌に向けて杖が向けられているのだ。
しかし少女は動じなかった。
「「断る。」」
そう言えばけれど一撃、ただ一撃が葵と鈴に加えられた。
ガード越しのただの一撃だけである。
ただの一撃、しかしこの攻撃は鈴を一歩、
そして葵を二歩下がらせることに成功した。
他ならない、いつの間にか現れた首締めの魔女とプネウマの攻撃によって。
禍根鳥の傍に控えるように沿った彼らはしかしそれぞれの相手をただただ見つめる。
ピリピリとした空気、それが辺りを包む。
血濡れた手指をぎゅっと握ればけれど禍根鳥はこう言った。
「・・・少女とて何れ来よう、今は時が悪い。」
しかし打ち破ったのは慈悲深くも野太い声だった。
白髪二つ結びの左右非対称な黒布の目隠しをした少女はしかしこうも続けるのだ。
慈悲深く、けれど厳かに・・
「魔王」のように笑んでこう言った。
「さらばだ・・・予言の魔女。そして魔女の代理達よ。少し黙っていて貰おう」
影、影が映る。
丸くなった影が。
「影が丸くなってる。」
あり得ない。
あり得ない筈の光景にしかし今、気は取られていればそれは起こった。
手指、手指である。
喜色も悪く、気色も悪いそれは私の足元、脚、股、胸、顔と這い上がり影として私を包み込んでいく。
しかし手指は止まらない。伸びる、影と共に伸びてゆく。
瞬刻、動きを止めれば視界が塞がる。
「・・・むぶ」
口を、首を、目を、胸を、して腕や腿をガッチリと白く細長い腕が掴む。
魔女文字が周囲に浮かべばけれど白くなり灰のように消えていってしまった。
肩にまで及んだその拘束はしっかりけれどガッチリ私を掴む。
まるで引き込まれるような雰囲気にしかし息を詰まらせる。
瞬時、手指全てが私の全身を覆えばけれど塞がれた喉から声が漏れた。
「・・・ん・・んん~~!!」
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
ただただ気持ち悪い。
吐き気がする。
覆われた視界も・・胸や目や口を覆うこの鬱陶しい程に冷たい手指にも何もかも。
感じる感触も・・気持ちが悪い。
けれど白く細長い赤子の手指、その隙間から半分、半分は見えた。
だから見ようとした。
このまま彼女のように汚され狂うのは嫌だった、だから目に映そうとした。
だから・・・後悔した。
「・・・・・・・」
沈黙の中、その空気に身を任せながら空いた目を見開いた。
影が合わさったのだ。禍根鳥に・・・
嫌な予感がした
「何・・・これ・・。」
思わず声が漏れていた。
口は塞がれているというのにもである。
実際はもごもごとしたような情報量が無いに等しいだけの雑音に過ぎない音であっても口を突いたのだ。
・・・動揺していたとも言える。
手腕。
手腕が生えてきたのだ、白くも細長いそれが。
禍根鳥の背後に・・・それも複数。
「・・大き過ぎる。」
又しても雑音を吐く私の言葉にしかし私自身も意識を向けない。
禍根鳥憂喜をも超えるその手腕は目算にすれば3メートルをも優に凌ぐだろう大きさであった。
これは理解出来る、私や鈴と葵の三人を覆っている赤子だ、
巨大な赤子の手指だ
「赤子の手指か・・これは邪魔だな。」
「全くだ。」
しかし鈴と葵の二人は動じていない。
二人とも拘束などされては居ないように振る舞っていたのだ。
鈴と葵二人の中で一際異彩を放つ者がいた。
鈴だ。
鈴は腕や肩を掴まれながらも欠伸を上げていたのだ。
少し、間抜けに思えるその構図にもしかし禍根鳥はこう返した。
「私の「小細工」が効いているようだ。
「月蝕の結界」を突破できたのがその証拠だな。」
慈悲深くも野太い声で発せられた要領を得ない言葉もしかし感じた気配に首を傾けた。
「嘘。」
喰らっていたのだ。
力、ただ自分が纏っただけの魔力で自身を拘束していた赤子の手指を
見せつけていたのだ。その圧倒的な自身の「魔術」・・・
「月蝕の魔術」を
存在の否定すら錯覚させる魔術を自身の拘束を緩める為とは言え私の第二特性情報の「収集」と「集積」の目があるにも関わらず用いたのである。
とてつもない力を持っているのは知っていた、一度とは言え私の暴走状態に勝っているのだ。
生半可な力しか持たない訳がない。
だがよもやここまでとは思わなかった。
赤子の手指だった肉片がぼとりと落ち、
腐ったように黒くなってさらさらと風に吹かれて消えればばけれど理解する。
最強の魔女、その実力の片鱗を
「圧倒的だ・・・」
白く細長い赤子の手腕に体を拘束されている状況すら忘れてそう言った。
圧倒的な実力を何のためらいもなく
何の呵責もなく晒していた
それ程の余裕が本物の「魔王」にはあったのだ。
しかしそれは相手も同じであった。
見た、禍根鳥が見た。私達を。
・・禍根鳥の視線と共にしかし細い手指は瞬時に向けられた。
鈴、葵、私というこの場にいた三人ほぼ全ての者に対して。
けれど私が瞬けばその一瞬の内に巨大で白く細長い複数の赤子の手指は、切り刻まれていた。
どうしてか、私を拘束していた手指も、葵を拘束していた手指も消えていた。
ぼとりぼとりと肉塊が血液とともに落ちる中考える。
誰が切り刻んだのか瞬きをした私には理解出来なかったのだ。
だが直感する。葵・・だけではない。
葵とて己を縛る手指は切り刻んだのだろう。
それは第二特性が「収集」した情報から理解出来る。
私を助けられたのは鈴、そう他ならない鈴なのだ。
私の肉体を拘束していた白く細長い赤子の手指は切り刻まれた。
鈴の杖によって切り刻まれた。
目にも止まらぬ速さで
肉片が落ちる中、鈴は禍根鳥に目を向け言葉にする。
「赤子の手指による拘束、
それを用いた時間稼ぎは無意味だったな、裏切りの魔女」
肉塊舞い落ちる中、勝気なその言葉にしかし今禍根鳥は動じない。
視線に動じない。ただただ鈴に目を向けるだけだ。
赤子の泣き声とどろりとした気配ともに
肉塊の一つがボトっと地に落ちる。
赤が灰色の床に広がってゆく。
当たり前の顔をして、何の恥も無しに。
肉塊全てが落ちるその時、血溜まりとなり血池となった。
肉塊、
最後の一つがポチャリと血の池に落ちた時
鈴に葵、彼女達が杖を向けた。
「刃の先で無くて悪いが・・・これで終わりだ。」
禍根鳥に放った鈴の言葉に葵は返事を重ねない。
知っていたのだ。
腐った指によって編まれたような特異な装飾。
禍根鳥に向けられたのはそれの切っ先そのものだったのだ。同様、否平凡な杖が一本、二本、否十本、あるいはそれ以上の数の禍根鳥に首締めの魔女、プネウマに・・向けられていた。
いつの間にか多くの魔女、魔法使いが居た。
先程死んでいた彼らである
「成程な・・・生きていたか。」
慈悲深くも野太い声をした禍根鳥の言葉にしかし皆は動じない。
魔女は不老不死である。
その再生能力にも際限は無く、魔力切れという底がただあるだけである。
そんな魔女の性質をこの場にいる私含めた全ての者が理解していたのだ。
魔女は決して死なないと信頼しているが故に
ただじっと彼女を見つめるだけである。
彼女・・・「魔術」によって一つの街を滅ぼした怪物。
禍根鳥憂喜。元色欲の魔女の代理、処刑対象の魔女の代理はしかし裏切りの魔女としてこう言葉にした。
「止まれ。」
拘束魔術を反語法で使用したのだ。
しかしその魔術はしっかりと縫い留めた。
どういう原理か葵と鈴、死んでいた魔女達の足首を掴むようにその場に縫い留めたのだ
ほんの一秒。
けれどこの一秒で事態は決する。
そんな予感がした。
瞬時、風が舞えば土煙が上がり、地面に落ちていく。落ちていく。
「・・・何これ。」
土煙、ただ土煙が辺りを埋め尽くしていた。
首締めの魔女とプネウマ・・味方だった彼らの姿はない。
葵と鈴もいない、魔女達もだ。死んだのかは分からない。
けれど理解した。禍根鳥、
彼女がただ、
いつの間にか手に出現させたブロックノイズの剣で・・
ほんの一秒の間でこの建物を破壊し尽くしたのだと
「「白の摩天楼」と貴様は言っていたな。」
「何の話を・・・まさか貴方。」
落下、落下する中での慈悲深くも野太い禍根鳥の声、私の言葉に対する返答に禍根鳥はいつもの声で
けれど慈悲深い表情で左右非対称な黒布の目隠し越しに見つめる。
その時彼女が慈悲深い「魔王」のように笑んだ。
血濡れた手指を意識する事すら出来ない速さで
足元
空に影が伸びれば、
視界が覆われる。
暗い、暗い闇の中、白く細長い手指。
それに禍根鳥の持つブロックノイズの剣ごと体が包まれれるのを自覚したその時、慈悲深くも野太い声が聞こえればわ・・
「開け、門よ。」
ピシリと世界が割れた。
その時、けれど私は神のように笑めば・・
第五特性「全知全能」を半ば強制的に起動し、
そうして眼前、目の前に現れた赤い光を亀裂の入った血濡れた手の平で掴む。
朱い光を握った片方の手指に付いた血液がパキパキと魔素に変わり空へと還っていく中で
ブロックノイズの剣を握る禍根鳥と私を包むように聞こえる赤子の泣き声、
そしてどろりとした魔力を感じながらも手の平の中で眩しい程の赤い光に私が目蓋を閉じれば、その時・・
・・少女を朱が包み、大地と空を繋げた。
裏切り者については議論する価値が無い。
それは初めから定められていた者であり
だからこそ、予想が出来ない事柄であるからだ。
~人助けの魔女~




