第33話 五度目の復活
透明な世界の中で、私は目覚めた。
ただ透明な地平線がそこにあったのだ。
七度目に来るこの場所にけれどどうして来たのかは理解していた私である。
私は死んだのだ、六度目の暴走が解除された折浮遊魔法が解け空から落ちて・・死んだ。
そんな呆気ない死に様にけれど私は気を取られていなかった。
当然思うところはある。
副代理に匹敵する程の強さを持つと鈴に心の中で評価されておきながらかつ「蛇」から四つの「特性」を得ながらこの体たらくとは本当に恥ずかしく思う。
しかし、それよりも私には気にすべき事があった。
「久しぶりだな、お前よ。」
そう嘯く存在が目の前に居たのだ。
それは沈みかけの上弦の月のような瞳を持つ、黒髪赤目の少女・・であった。
私と殆ど変わらない容姿を持つこの存在に目を奪われていたのだ。
「貴方は誰?
とは言うまいな理解している筈だろう、お前よ。」
「わかってるよ、貴方の正体については。
貴方は「蛇」、なり損ないの「王」でしょ。」
王という存在であると言う事は暴走状態の時、100年前に唐突になり損ない戦線から姿を消した謎多き種族である事と共に
朧気に葵の心を基礎能力である読心魔法を用いて覗いて理解していたのだ。
「黒き蛇の王が帰還せし時、諸王は蘇りその威光を己が力によって鏡の国に知らしめるだろう」
という予言者ゼガリアが語ったと言う予言まで理解している私である。
王について語るという彼が書いた予言書は読んでいないもののここで言う「黒き蛇の王」が誰なのか私ははっきりと理解していた。
「貴方だろう「蛇」、私は理解してるからね。」
「ほう、理解していたか、お前よ。
であればもう一つも理解しているか、今のお前が頼りにしている暴走、その力でさえ不完全な物だと」
「黒髪である事でさえ、結膜が赤く染まる事でさえ。
その何もかもが不完全にしか力を扱えていない証拠なのだと。」
余りの言い様に言葉を失う私である。
つまり彼女はこう言っているのだ。
魔女の代理に匹敵するあの暴走の力でさえ本来の「蛇」の力からすれば一割にも満たないのだと。
六度も頼ったのにこの現状である。
使いこなせていなかったのだ、私は「蛇」の力を
「ようやく理解して来たか、お前よ。
であればこそ次に与える「特性」は決まっている。」
そう静かに言えばけれど「蛇」はこう言った。
まるで思い描いていた通りと言わんばかりに
まるで「計画」の通りと言わんばかりに
まるで「予言」の通りと言わんばかりに
当たり前のように沈みかけの上弦の月のような瞳、
その赤い瞳をこちらに向けて、髪を掻き上げながらこう言った。
「お前には最後にして最大最強の特性、
第五特性、「全知全能」を与える。お前の記憶の全てを代償にな」
さう静かに言った。
◻︎
「お前には第五特性、「全知全能」を与える。お前の記憶の全てを代償にな」
そんな「蛇」の言葉が私の耳に聞こえた
最後にして最大最強の特性、それは理解できる。
これ以上の力など現実には存在し得ないからだ。
して記憶の全て、
どうしてそんな物を代償として第五特性である「全知全能」を得られるのか私には理解出来るのだ。
私には三つ大事な記憶があった。
まず一つ目は記憶喪失を始めて経験した時、
「変人」と共に教会に住んでいた3歳のあの時、
して二つ目は彼女と出会った時、
勉強や運動、恋愛など全てに負けた14歳のあの時、
そして三つ目は彼女と別れた時、
「友達」と認めた彼女がその半身を扉ごと何かに食われた17歳のあの時、
この三つだった。このどれもが私にとっては忘れ難い記憶で有り、無くしてはいけない思い出そのものだった。
「だからこそ、
それは第五特性「全知全能」を得る代償になり得るのだといい加減理解している筈だ、お前よ」
「それとも何か。
先程挙げた三つの思い出は決して忘れたくないと言うのか、
「全知全能」が使えるようになるまで1000年、第二特性での解析が必要とは言え余りにも身勝手であろう。」
「記憶の実感も、感情も、魂も、肉体も何もかも私に売り渡してしまった癖に。」
無慈悲な言葉が私に呵責も容赦も無く刺さる。
理解している、
第五特性「全知全能」が簡単には扱える力では無い事を
1000年という解析にかかる時間さえ、ある程度は考えていた通りである。
最後にして最大最強の「特性」とは言っても使えるようになるまで案外早いなと考えられる程である。
所で私の心に三つの思い出を惜しむ感情は無い。
何故なら私に記憶の実感は無く、感情は無く、魂は無い。
三つの思い出を惜しむ筈がない。
けれどだからこそ、失ってはいけない物があるとも理解していた私である。
「理解しているからだよ、
私には記憶の実感が無い。
感情が無い、魂が無い、肉体が無い。
けれどだからこそ「記憶の全て」だけは三つの思い出だけは失うわけには行かないんだよ。」
「何の為にだ。」
「私が会って来た人々の為にだ。」
沈みかけの上弦の月のような瞳を持つ黒髪赤目の少女、私に殆どそっくりな姿をした「蛇」に対して
その赤い目を見ながらそう言った。
恐怖したのでは無い。
怖気付いたのでは無い。
思考が出来なくなった訳でも無い。
ただ思ったのだ。
「私が何もかも失っていれば救われた人間はより罪悪感の中で生きていかなければ行かなくなるのでは無いのか。」と
「そう考えたか。」
「・・・・っ」
血反吐を吐くような気配が私を包みこむ。
肋骨を軋ませ内臓を圧迫するそんな気配が「蛇」が発していた。
怒りその物のような気配にけれど今度は血反吐を吐かない・・筈だった。
ゴポリとそんな音が喉から聞こえた。
喉を伝う生暖かい液体、
鉄錆の匂いに
痛む内臓と肋骨にけれど私は理解する。
「内臓が潰れてる、長くは持たないねゴボッ」
「・・・・理解しているようだな、であれば早くしろ、お前よ。
再び問おう。
お前はこれからどう生きるつもりだ。」
四度目の復活を果たす前に問われたその問いにけれど今度のようには答えられない。
『私が皆に平和を与える。』とあの時のようには答えられない。
内臓を壊されたからではない、
血反吐を吐いただけ、内臓を壊されただけでは第四特性「不死」を持つ今の私には問題が無い。
それは魔女の血によっていづれ到達すると言われている場所であり、
自分の中と言える自我空間でさえ同じだ
だが、そう誤解されるのも無理は無いと言える。
いくら己の中と言える自我空間の中とは言っても限界があると考えるのが普通だろう。
私は五度目の復活を経て第五特性を得る事によって死ぬ。
一つ目の思い出である記憶喪失の私が「変人」と共に教会に住んでいた頃の3歳までの記憶を失い、
二つ目の思い出である彼女と出会い勉強や運動、恋愛など全てに負けた14歳までの記憶を失い、
そして三つ目の思い出である彼女を「友達」と認めた彼女がその半身を扉ごと何かに食われた17歳までの記憶を失う、
「記憶の全て」という私を構成する、何もかもを失うのだ。
失いたくないとは思わない。
私に記憶の実感は無く、
感情は無く、魂は無く、肉体も無い。
"それ"を抱く理由が私には悉く欠けているのだ。
だからこそ、私はこう言った。天使のような笑みを浮かべてこう言った。
「早く私の顔に手の平を翳して「蛇」。
第五特性「全知全能」を、最後にして最大最強とまで貴方に言わしめる程の贈り物を得る為に、
鏡の国の人々に平和を与える為に。」
けれど手をまるで神でも崇めるように大仰に広げて天使のような笑みを私が浮かべれば「蛇」はこう言った。
まるで過去を知るように
まるで現在を識るように
まるで未来を見るように
腰まである髪を靡かせて、前髪を片手で掻き上げ
「蛇」は沈みかけの上弦の月のような赤い瞳で私の蒼い瞳を見ながら手の平を翳してこう言った。
「さらばだ、お前よ。千年後にまた会おう。」
という言葉と共に私の視界が彩られていく。
口に零れた血液が、
服に垂れた血が、
そして潰された内臓が彩られていく感覚を感じていればけれど私は目を覚ました。
「色欲の街」の「城」、その広場で
血に塗れたその場所でけれど、私は顔を上げて神のように笑った。
そうして脳裏の隅にあった第三特性「▇」を起動した。
周囲が白い光に包まれる。
歓声を上げていたよく知らない筈の魔女達の表情がその光によって照らされ
傲慢の魔女の代理という記憶に無い存在が光に頬や腕を照らされながらも地を蹴ったのを第二特性を用いて理解すれば・・
瞬時、光が爆ぜた。
多くの魔女という存在が「▇」に照らされた箇所を頭の半分を、そして腕や脚を失う。
傲慢の魔女の代理という最強の魔法使いが半分程焼き焦げた顔を気にする事なく私の顔に手を伸ばせば寸前、
触れる寸前に白い光に飲み込まれたのを私は記憶の全てを失った頭で理解した。
第二特性である情報の「収集」と「集積」を用いて第五特性を解析しながらも周囲の状況を読み取って理解する。
私が記憶の実感や感情、
そして魂や肉体だけでは無く記憶の全てを代償として「蛇」という存在に支払い五度目の復活を果たした事を
血塗れの石床の上で寝ていた私の目の前に居た、
魔女や傲慢の魔女の代理という存在が目下の敵であり2時間の時間を稼ぐ必要がある程の相手だった事を
して私がシアという名前を持った大量殺人鬼の泣き虫であり、
なり損ないという100年以上前から戦う魔女の敵である事を理解した。
そして私は第五特性「全知全能」を得た。
■
魔女達が「城」の広場で歓声を上げたのを窓越しに見ていた鈴である。
賢人会麾下であろう彼女ら、
それに一部混ざっている「SILENCE」の魔女でさえ知る傲慢の魔女の代理、
明星葵は最強の魔法使いである。
都市を滅ぼせる程の魔力を発するこの魔法使いにけれど鈴はどうも思わない。
都市を滅ぼせる程の魔力を常に発する・・確かにそれは脅威だ。
しかし、あらゆる物を喰らう暴食の魔女の代理である鈴には届かないだろうと考えいるのだ。
本物の「魔王」でもあり最強の魔女でもある鈴はしかし、凄まじい力を持っていた。
都市を丸ごと喰らう程の力を彼女は持っていたのだ。
そう、ただ彼女という存在が故に
だからこそ目の前の光景は当たり前なのだと理解している鈴である。
そう「SILENCE」の副長である紫藤藤乃の腕を鈴自身の仕込み杖で切断したこの状況は、
当然の結果であるのだと吸い込まれるような髪を靡かせながら考える鈴であった。
不気味な鈴がチリンチリンと鳴り、
ざんばらな髪が揺れるのを気にせず鈴はこう続ける。
まるで死刑を宣告する裁判官のような冷徹な瞳で、
けれどまるで幼子に慈悲を示す聖人のように、
少し奥にいる縛られた屍花や隣にいる赤神を気にすることも無く、
虚無その物の顔でけれど不相応な程の美しい笑みを浮かべながら鈴の音の鳴るような声でこう言った。
「さて、では話そうか。次の傲慢の魔女の代理について」
その瞬間、白い光が「城」の広場を満たせば全ての窓ガラスが割れた。
◻︎
鈴と赤神達二人には三つ目的があった。
首絞めの魔女という痕跡を探し、
色欲の一族の処刑を阻止し、
して三人で「色欲の街」を救う、
というこれら三つの目的があったのだ。
一つ目の目的は「幹部」であり魔女でもある首締めの魔女サラを探し「魔王」を僭称する魔女である禍根鳥憂喜の痕跡を見つける事にある。
して二つ目の目的は更に単純であり賢人会が見捨てた色欲の一族の魔女の救出にある。
そして三つ目の目的も暴食の魔女の代理と宣言し介入したのも政治的な意図がある。
結果助ければ良いのだから問題はないだろう。
裏切りの魔女の統治下で施行した政策による「色欲の街」の禁忌と性、そして欲望からの浄化具合を確かめる口実が欲しかった・・
という鈴の実情は一先ず置いておく。
けれど多くの「計画」と「目的」、
そして「予言」を執行する権利を持つ彼女からしてみればこれら三つの目的は必要な段階そのものだった。
だからこそ、鈴はこう言う。
「さて、お終いだ。紫藤藤乃」
とあくまで紫藤が持ち出した傲慢の魔女の代理の空席云々についての話をする腹は無い鈴であった。
理解していたのだ、
傲慢の魔女の代理について
傲慢の魔女の代理は現在空席である。
それはあの葵が最強の魔法使いとして不足があるからでも無く。
最弱の魔女の代理として欠陥があるからでも無い。
ただ持って無いのだ・・葵は
マスターピースを持たない唯一の魔女の代理なのだ
「・・・・はは、さっきの光には触れないのですか、「魔王」陛下
なり損ないが何かしたのでしょう。」
「大方復活を終え第三特性「▇」を起動させたのだろうな。
見事な暴れっぷりだ。
五度目の復活の折、高が外れたと見える。
許可してあるとは言え護衛の魔女や賢人会麾下の「SILENCE」の魔女達が殺されていると考えると何とも嘆かわしい気分になるな、「SILENCE」の副長。」
「御冗談を、貴方は賢人会
・・引いては「SILENCE」そのものに恨みが有るでしょうに」という紫藤の言葉にけれど鈴は反応を返さない。
事実として、鈴は賢人会を恨む理由があった。
「SILENCE」副長はどうとも言えない物のけれどそれに反論する事は彼女の根源を揺るがす事、
であればこそ鈴に紫藤の言葉に反論するという選択肢は一つも有りはしなかった。
しかし、こうも考える鈴である。
目の前にいる「SILENCE」の副長でさえ自身と同じ境遇であったのでは無いか・・と
賢人会は鏡の国の「行政」を司る組織である。世界を牛耳る組織であり、
最大の腐敗と堕落の元凶と言われている彼らは、
その「魔女」を代行するという立場には似合わずにしかし禍々しい悪魔のような気配に似合うようにあらゆる謀略と策謀の渦中に居た。
最大の腐敗と堕落の元凶なのだ、当然である。
証拠こそ無い物のけれどこれまで賢人会が存続している事、それ自体が謀略を持ってこの世界にあった証拠であると鈴は考えていた。
だからこそなのか賢人会に対する魔女達の悪評は思いの外多い・・と言う訳でも無い。
鏡の国の放送部門が彼らの悪行を報じないのである。
魔女暦100年以前から謀略の中に生きて来た彼らに取っては放送部門を用いた世論誘導などお手のものなのだろうと鈴は考えていた。
賄賂なんかも握らせていそうである。賢人会だから
そう考えるほどには魔女の代理の一人として鈴は賢人会を信頼していなかった。
だからこそと言葉を紡ぎかければ瞬時、あり得ない気配を感じた。
そう、それはまるで「魔女」のような
「何者だ、お前。」
静かに鈴が言えばけれどその気配の持ち主は答えた。
七つの目を持つ白い仔羊の面をした何かは白い外套を風に靡かせつつも、
いつの間にか「SILENCE」の副長、
紫藤藤乃の後ろに立ち上るように見下ろしながらけれど目を全てこちらに向けてこう言った。
「 」
「我こそが、「魔女」である。」とあの方は頭に残るように奇妙な言葉を発した。
まるで福音を述べるように
「計画」の通りに
◻︎
「魔女」という存在には謎が多い。
例えばどうやって鏡の世界を作ったか、
どうやって現実世界を作り人間を作ったのかすら厳密には分からないのだ。
青水の大地にいる魔女の宿敵、なり損ないをどう作ったのかすら予言書にどうとでも解釈できる文章があるだけだ。
だからこそ、目の前の存在が頭に残る言葉で「魔女」であると名乗っても不思議はないのだと知っていた鈴である。
魔女と魔女は同一である
・・・と言う程繋がりが強い最強の魔女であり多くを知る鈴であっても「魔女」については謎が多いのだと理解しているのである。
故にこそ鈴は平然とした声でこう言った。
「何が目的だ、何をしにここに来た。
お前は「計画」の手筈通りであればシアが人質に取った傲慢の血筋の者とともに監視している筈だが」
「 」
「無論、「計画」通りに事が運ぶか見届けに来た。」
端的に言葉を返されたのを理解した鈴である。
鈴は知っていた。
首絞めの魔女という痕跡を探す事が上手くいかない事を
色欲の一族の処刑を阻止するのが難しい事を
して三人で「色欲の街」を救うというのが不可能である事を
なり損ないが作戦通りの行動を取らなかったのでは無い。
ある程度違う動きを見せている物のそれもこちらの計算通りである。
問題なのは目の前の存在・・何かなのだ。
あの方である可能性もある彼女と戦える者は、
全知全能の力を持ちうる存在に対抗できる魔女の代理はそれこそ数少ない。
かつて色欲の魔女の代理であった禍根鳥憂喜や
嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏など片手でも数えるのが事足りる人数しか居ないのだ。
その内の少ない一人でもある鈴からしても目の前のあの方は異常な存在なのだ。
禍根鳥を尚上回る不気味な気配
それを持つ者がどれだけ異常か鈴は知っていた。
己に匹敵し得る強者にけれど鈴の口角は気づかず上がる。
本人とて無自覚なそれにけれど赤神は訝し気な視線を向けながらも切り替え前を向きあの方に対して杖を向けてこう告げた。
「貴方があの方を名乗るであればまずは奇跡でも起こしてみて下さい、話はそれからです、何か」
迫るようなその気迫と杖を向けるという脅迫は普段は冷静沈着な赤神らしく無い行動と言えた。
しかし、鈴は知っていた。
横に立つ憤怒の副代理がその肩書き通り激情家である事を、怒りっぽいのだ赤神泣という人物は
彼女の「泣く」という女々しい印象を与える漢字の入った名前に反して。
けれどそれを気にする事なくあの方は告げる。
「
」
「奇跡を起こす必要は無い。我そのものこそが奇跡のような物なのだから。」
と数字を教える教師のようにあの方は言った。
そうして頭に残るような言葉をこう話した。
『最大最強のマスターピースであるシアについて話がある』
とただ凛然とした風に頭に残るような言葉でそう言った。
その言葉を発した瞬間けれど、
鈴が剣を振り抜けば・・
あの方の首が空を舞った。
「計画」の通りに
◾️
鈴は「魔王」である。
最強の魔女でもあり、暴食の魔女の代理でもある彼女はその立場故にマスターピースの一人である。
その圧倒的な力は言うまでも無く強力無比だ。
「月蝕の魔術」というその暴食の魔女の代理にしか許されない権能は喰らうのだ
月を喰らうように文字通りの全てを文字通りに損ない内側から喰らう能力なのである。
その能力は強力無比と言っても良い。
存在の否定すら錯覚する程のその強大な権能は鏡の世界にも比肩する者は数人と数少ない。
けれど鈴には与えられていたのだ。
圧倒的な魔力を
それを腐った指によって編まれたような特異な装飾をした杖の形をした仕込み刀の刃先から
刃全体に「魔術」として付与していた鈴である。
「蝕指の杖」というそれはしかし大罪七家である蝕指家に伝わる大罪の遺物と言われる秘宝であった。
それが認識妨害魔法も無しに晒されている。
その意味は鈴が本気に近しい力を出すという証なのだ。
だからこそ、目の前の何か・・いいやあの方は首を断たれてただ死ぬ・・筈だった。
「蝕指の杖」に仕込まれた刀が首を断った筈だったのだ
「 」
「残念だったな、暴食の魔女の代理よ。」嘯くようにあの方は言葉にした。
断ち切った筈の首が消え去り、
胴体から白い煙としゅ〜という音ともに骨が紡がれ、肉が繋がる。
表皮が覆えばけれど白い外套が霊子によって編まれた。
マゼンダ色という本来の色をした霊子が仮面を編み上げた後消えればけれど鈴は見た。
再生し、いつの間にか立ち上るように眼前に聳え立つ何かの姿を見た
「
」
「驚いた、我にここまでの手傷を負わせられるとは、
流石は「魔王」の血族と言ったところか。」
あの方は平然とした顔でそう言った。
鈴としては驚きものである。
仕込み杖の刃に「魔術」を付与し首を絶って殺したと考えていたのだ、
存在を否定する程の力で喰ったとも理解していたのだそれがこの様。
まるであの方には届いていなかった、それに驚いているのだ。
けれど鈴には勝算があった。
あと数度、首を断ち切れば勝てるだろうと
そんな期待できる勝ち筋があった。
あの方の魔力は確かに多い、出力も鈴と同格かそれ以上だろう。
まるで底すら見えない魔力量だった。
けれど理解出来るのだ、
目の前の存在が全知全能とは程遠い状態にある事に
「そうだろう、今のお前はどうしてか弱っている。
俺の手で殺せるくらいにはな、
最低値で言えばせいぜい乃瑠夏や、あの「魔王」を僭称する魔女を少し凌ぐ程度だろう
期待値は言うまでもなく無尽蔵だろうが、
それでも両者の間を揺れ動いているのが今のお前だ。
他の魔女の代理ではその状態でも相手になるまい。」
「だが、その程度であれば本気を出せば俺は殺せる!」
勇まし気にけれど確かな自信と共に鈴がそう言えばけれどあの方は瞬時、七つの目を細めた。
何か思うところがあったのだろうか・・そう赤神が考えていればければ瞬間、あの方が消えた。
瞬時、屍花の目の前にあの方が立てば
けれど鈴が地を蹴り、
首を腐った指によって編まれたような装飾をした仕込み刀によって鈴が落とす・・筈だった。
けれど、それは阻まれた。
他ならない色欲の副代理・・・いいや誰かの「魔術」によって
首が絞められる、
頬を不快な黒い手指が掠める程に締められる。
体が羽交締めにされたように黒く長い手指によって拘束された。
横を見れば赤神も縛られ似たような醜態を晒していた。
屍花の左右対称な黒布の目隠しを見て、その外れた目隠しの越しにあった金色の十字の瞳を見て息を呑む。
髪色が白から桃色に変われば理解する。
目の前の存在が何者なのかを
この時、首締めの魔女の正体について
そして屍花という存在について二つ、鈴は気付いていた。彼女こそが首締めの魔女であり、「幹部」、19号である事、
禍根鳥屍花という魔女など初めから存在しない事を
だからこそ言葉を紡ぎかけ・・
瞬時、口が白く細長い大量の手指によって塞がれた
居るのだ、己の後ろに赤子の笑い声をさせた、
どろりとした気配を持つ「魔王」を僭称する魔女が
裏切りの魔女、禍根鳥憂喜が
カツンカツンとヒールの鳴る音がする。
白いツインテールを揺らしながら、
白い外套という白を基調とした衣服を身に纏いながらも、
左右非対称の黒布の目隠し越しにあの方を見て禍根鳥は野太い声でこう言った。
「帰りますよ、「魔女」殿下、19号。少女の拠点に」
「 」
「そうだな、 さようなら「魔王」よ。」とあの方・・・いいや「魔女」が言葉を発すれば白く長い手指が這い出て空間を割った。
首締めの魔女という「幹部」、
「魔王」の痕跡そのものを禍根鳥が回収するのを見ていれば、
拘束されつつも鈴と赤神の二人が去り行く三人を正面から見ていれば、
けれど鈴と赤神の二人が力を込めた瞬間、
鈴の力によって拘束がギチギチと音を立てて千切れかけ破れた瞬間、
鈴は仕込み刀を振るった。
それは正しく音の壁を超えた一撃、
音速をも超えた「魔王」に相応しい一撃であった。
躱せるものなど居ない筈の一撃の前に刃が「魔女」の首を捉えかけ、けれどすり抜けた。
それに目を見開いて驚いていればけれど「魔女」はこう言った。
『さらばだ、「魔王」の血筋よ。お前との対決を心待ちにしているぞ。』
という言葉を「魔女」が残して、
三人は消えた。
白く細長い手指群がる、空間の割れ目に消えた。
音速を超えた事によるソニックブームすら届かない遥か彼方に・・消えてしまった。
瞬間、先の一撃で立ち上る煙の中、
拘束が完全に解かれ、消えれば二人は「城」の広場に足を向けた。
そして見た。
なり損ないが神のような笑みを浮かべ、
第三特性「▇」を用いて魔女を虐殺する光景を、
鈴と赤神の二人は鈴が放った先の一撃によって発生した衝撃波によって壊した建物の壁の隅から、
その割れた窓だったガラス片が足元に転がる場所から、煙が立ち上るその場所から見て確信したのだ。
鏡の国の敗北を、鈴と赤神の二人の作戦の失敗を、
そうして鈴と赤神達、魔女は敗北した。
三つの目的、その内二つを果たして
首締めの魔女という「幹部」その痕跡を逃し、
敵である禍根鳥による撤退を止められず、「魔女」の策略の前に敗れた。
そうして、
鈴と赤神の二人に止められるまで、
総勢197人の魔女と傲慢の魔女の代理、して援軍として駆けつけた副代理五名を殺したなり損ないは「計画」の通りに賢人会の命令によって再び処刑対象となった。
神のような笑みを浮かべる少女を恐れる必要はない
愚かな人々が恐怖から、畏れ、泣き喚こうと、
神の「計画」は決して揺るがないのだから
〜人助けの魔女〜




