第34話 嵐の前の静けさ
”なり損ない”は実質的な「幹部」の一人となり禍根鳥の手に堕ちたのだと魔女は口にする
彼女は「幹部」ではない・・・そんな言葉にはしかし賛同出来ない
「魔女の代理に匹敵する」
「「魔王」の首を狙っている。」
「「死」の魔力を与えられている。」
以上の三点が「幹部」には共通しているというのが賢人会の判断であるからだ。
してなり損ないは下記の二点を満たしていると「SILENCE」から情報が入っている。
諜報部「SILENCE」は賢人会直属の諜報機関である。
三権分立の一角である魔女の代理率いる代行会はもちろん、もう一角の国際議連ですら彼らの情報は噂程度でしか聞かない。
現世の諜報組織を遥かに上回る彼らはしかし存在が秘匿されていた。
しかし乃瑠夏は知っていた、
諜報部「SILENCE」の存在について
他ならない「SILENCE」に会ってすらいるのだ。
彼らの情報は少なかったが一つだけ確信している事があった。
諜報部「SILENCE」は賢人会の命令しか聞かない。
諜報部「SILENCE」は賢人会以外誰の言葉も聞こうとしない。
諜報部「SILENCE」は誰の役にも立とうとしない・・この三つをはっきりと理解し確信していた乃瑠夏である。
してその諜報部「SILENCE」から聞いていた事が一つあったのだ。
あのなり損ないは「進化」出来ない
・・と「SILENCE」の口から、そんな言葉はしかし真に迫った物であると理解している乃瑠夏である。
どうしても、彼女は感情を持っており。
どうしても、彼女は拍動をする心臓を持っており。
どうしても、彼女はなり損ないでおり。
そしてどうしても、彼女は肉を持った人間であるのだと乃瑠夏は知っているからだ。
その証拠に彼女は涙を流した。
その証拠に彼女は血を流した。
その証拠に彼女は”あの子”の呪縛から逃れることすら出来ずに脳の隅っこに逃げる事自体を流してしまった。
その証拠に三島は死ななかった、あのなり損ないが説諭書に書かれた「契約」に抵触しなかった証である。
これこそがなり損ないが人を殺していない証そのものであった。
彼女は殺していなかったのだ、一人も決して人の命は。
なり損ないが死んでいないが故の安心の「心」
人を手にかけていないが故の安心の「心」
三島という魔女が死んでいないが故の安堵の「心」
この三種の温かい感情が心を満たしていた事にしかし乃瑠夏は少しの疑問を覚える。
何故なり損ないが死んでいない事に安堵するのか、それが分からないのだ。
人間的に過ぎるのだ、彼女は、そう考える乃瑠夏である。
なり損ないとは違い涙を流すのも感情が在るから。
なり損ないとは違い”あの子”から逃げられないのも思い出が在るから
なり損ないとは違いある意味で感情的に魔女を殺し鏡の世界ごと敵に回したのも執着が在るから。
この三点自体がなり損ないではなく魔女である証拠だとしかし乃瑠夏は考えていた。
どう考えてもあのなり損ないは魔女である・・そう考えるのも無理は無い。
あのなり損ないは魔女である可能性が高い
という言葉を諜報部の「SILENCE」から聞いても・・・何一つ違和感のない乃瑠夏であった。
あのなり損ないのせいで井伊波恣意が死んだ
あのなり損ないのせいでなり損ない自身が死んだ
あのなり損ないのせいで四回目の地獄、尊厳の地獄はより凄惨な物となった。
新たに並んだこの三点からしても疑念が多すぎるのだ。
当然だか、乃瑠夏は知っていた。
なり損ないが井伊波恣意を殺した訳では無い事を
してなり損ない自身のせいでなり損ないが死んだわけでは無い事を
そしてなり損ないにしては四回目の地獄、尊厳の地獄が死者十万人以上と異例な被害規模である事を
この三点から見てもどうあってもなり損ないは何もしていないとも言える事を乃瑠夏は知っていたのだ。
けれどこの事は知っているのだ。
あのなり損ないには謎が多い・・そんな当たり前の事を
「「計画」の通りにな。これは予言が外れないが故のもの。
微調整はあるものの大方が問題なくこれに乗っ取っている。違うか嫉妬の魔女の代理よ」
「・・・・・・・違いありません。全ては魔女の手の内です。」
機械的ながら堅苦しい001の言葉をしかし慇懃無礼な程にもきっちりと言葉の主に返答する乃瑠夏である。
目の前に居るのは賢人会001ただ一人である。
野原を踏みしめ北極星を中心に回る星々を背景にけれど乃瑠夏は立っていた。
今、嫉妬の魔女の代理である井伊波乃瑠夏は星持ちの場に呼び出されている。
呼び出したのは諜報部である彼ら、「SILENCE」である。
紫がかった黒のローブを羽織り五芒星の面を付けて現れた彼らはこんな言葉を乃瑠夏に吐いた。
『星持ちの場へお越しください、嫉妬の魔女の代理よ。この世界の主が貴君をお呼びしています。』
ただ一呼吸で語られた機械的なその言葉はいつもの通りの定型句そのものであった。
だからこそ動揺の一つも無く空間転移魔法を使用しこの場にやって来た乃瑠夏である。
そして聞いたのは「現状」それそのものである。
なり損ないに依る魔女の一割の殺害から始まり。
鈴という「魔王」と傲慢の魔女の代理が失踪。
「研究塔」にて傲慢の副代理が失踪その場所にて死体として蒼炎晴香が発見・・・と散々な結果となっている事を乃瑠夏は賢人会から聞かされた。
「現状」と聞くには余りにも悲惨な状況、それが今の鏡の国そのものである。
ところで鏡の国と鏡の世界は国と世界で規模の異なる言葉である・・だけではない。
鏡の国は全ての都市国家の中枢、
鏡の世界の心臓部にあたるただ一つの都市国家を指し、
して鏡の世界はそのまま魔女の支配するこの世界そのものを指している。
鏡の国はかなり損耗しているそれも解りやすい程に・・それこそがこの「現状」を表す言葉そのものである。
「魔女の一割というものの死んだ者は殆どが君達代行会の魔女だろう。
我々とて支援はするが君達自身でどうにかする事はどうにか出来る・・と考えて良いな。」
「無論です。我々こそが治安を維持する者。
自身の尻拭いは自身でするべきだと考えています。
しかしどうあっても気になる事が在るのです。」
機械的ながら明け透けな001の言葉にしかしただ当たり前の事を言うように自信有り気にそう乃瑠夏は告げた。
立法、
行政、
司法、
立法を司る国際議連と行政を司る賢人会、
して司法を司る裁判所と三権分立の中でそれぞれがそれぞれの役割を持ち担当するその中で魔女の代理は治安の維持と緊急時の一時的な自治権を持つ。
これが意味するのは戦争などの緊急時においての鏡の国自体の支配と秩序、二つを司る証である。
そして今は、魔女の一割が死亡したと言われる程の異常事態の中だ。
これが意味するのはただ一つである。
つまりは魔女の代理による鏡の国という全ての都市国家にして世界の中枢、それを支配し秩序を保つ事を担当する必要があるのだ。
他ならない嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏こそがその一人である。
他の者は呼ばれていない。
憤怒の魔女の代理は城に籠り切りであり。
強欲の魔女の代理は金儲けに夢中であり。
怠惰の魔女の代理は旅へと掛かり切りであり。
傲慢の魔女の代理と暴食の魔女の代理は失踪し色欲の魔女の代理は空席である、だからこそ呼べるのは嫉妬の魔女の代理である井伊波乃瑠夏、ただ一人であった。
実質的な世界の支配を任されたのだ井伊波乃瑠夏は、ただしそれにも限りがある。
あくまでこの事態の解決と掌握を経た後という限りが
現在、「魔女」の代わりの支配者である賢人会が全てを監督するという限りが。
だからこそ嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏はここに来た。
全てを監督する賢人会の指示を仰ぎ、権限の移行を済ませる為に。
「疑問か、答えよう。」
「ええ、ありがとう御座います。
しかし教えて頂きたい。
貴方達はどこに「権限」を隠しましたか。」
して疑念を賢人会代表001に直接ぶつける為に乃瑠夏は感謝の言葉と共に疑問を投げかけた。
001の堂々とした言葉に疑念を覚えながら口にした疑問の言葉はしかし答えを齎した。
きっと誰にも予知出来ないような言葉として
きっと誰にも予想できないような言葉として
きっと誰にも予言できないような言葉として投げかけるようにただ耳に入った。
思わぬ答えとして・・はっきりと。
「権限を私は持っていない・・いいやどころか誰一人持っていないのだ。ある・・なり損ないを除いてな。」
そう、そんな言葉が賢人会001から
・・聞こえた。
□
考えれば分かることは以外と分からない。
当然だがそんな事は受け入れられない。
なにせそれはあくまで考えれば分かる程度のモノであり、
どうあっても即興で考え付く思考のパターンその一つに過ぎないからだ。
即興で解る
どうあっても即興で考え付くパターン
これら二つが示すのは「考えれば分かることは考えれば分かる事に過ぎないという当たり前の事。」に過ぎない。
つまりは当たり前の物が当たり前であるように「変わらない」事であると言えるのだ。
即興で作れた物が即興で作られた物の域を超えないように
当たり前は当たり前であるように
人が神を超えられないようにそれは変わらない。
どうあっても超えられない認識、それこそがこの壁そのものであるのだ。
そしてそれが乃瑠夏にとっては「考えれば分かる事」であった。
乃瑠夏には分からないのだ、常識が、その一切合切その理由が・・だからこそ起きた自体だと常識の分からない頭脳で乃瑠夏はただ振り返る。
「権限を私は持っていない・・いいやどころか誰一人持っていないのだ。ある・・なり損ないを除いてな。」
「・・・・・」
機械的で冗長にも感じる001のその言葉にしかし沈黙する乃瑠夏である。
乃瑠夏には常識が分からない。
正確にはその一切合切の理由が解らない。
だからこそこの事態にも理解が追いついていなかった。
数少ない魔法使いである彼には理解出来ない。
だってその言葉は魔女の間では当たり前の言葉であるからだ
ところで魔法使い、彼らは絶滅寸前の種族である。
魔女や「魔女」をも超えるポテンシャルを持つと言われる彼らはしかし10年前殆どが滅んでいた。
禍根鳥の起こした三回目の地獄、終末の地獄によって
だからこそ理解出来ない。魔女の中に溶け込んで日が浅い乃瑠夏には魔女の常識など一つも。
故に乃瑠夏はこう返してしまうのだ。
いつもの通り、
常識知らない
立場を知らず身の程すら知らない・・そんな事が解るような、言葉を。
「ならば必ず連れて帰ります。なり損ないを貴方の目の前に。」
そう常識なく果断なく当たり前のように乃瑠夏はそう告げた。
賢人会、001、逆さの五芒星の心の中での微笑みを知らずに。
ブウンという音と共に現れた逆さの星々の内心での冷笑を知らずに。
□
「派遣した魔女が死体で発見された、
現場は散々な物だったと。
場所は研究塔、第13地区15区画である。そう「SILENCE」から聞いている。」
「それだけではない。
現場にて鏡の国の一割の魔女が死んでいる、
その全てがまるで「契約」に違反したように生命活動を停止しているのだ。
不老不死の魔女が死んだのだ。
これは異常な事態だ。どうあっても解決しなければならない。
契約に違反したように相手の命を奪う事の出来る者はこの世界に一人しかいない。そうだな誉れある嫉妬の魔女の代理よ。」
「・・ええ、理解しています。「魔王」が動きだしたようですね。」
機械的な007の言葉を機械的ながら冗長に返す005は意味深げに返しながら考えつつ聞いていた乃瑠夏である。
乃瑠夏は考えを整理する。
まず一つ
なり損ないの暴走によって魔女の一割が死んだ事、
衛星が発見した莫大なエネルギー波と現場の惨状こそがその証である。
して二つ
なり損ないには謎が多くある事、
なり損ないがどうやって魔女の血を得たのかという「謎」。
なり損ないが鏡の世界を裏切っても死ななかった「謎」。
ある手段によってなり損ないと化したシアが力を使い切ってもその状態を継続出来た「謎」。
・・とについてはとりあえず今挙げられるだけで、七つの「謎」があると乃瑠夏は知っていた。
そして三つ
「魔王」の戦力が強大である事、
ところで三万、いいや五万人以上の死者を出した三つの地獄
それらに依った死体から作られた騎士団、
七十二字騎士団、七十二の十字を持つその軍団は一つの軍団につき千人以上だと賢人会は結論している。
19万人以上の死体が七十二字騎士団として利用されている可能性も賢人会は当然考えていた。
懸念していたのはクリミナだけではないのだ。
「五回目の地獄が何なのかは分かっていない。
だが”何か”があると「あの方」も言っていた。
末恐ろしい”何か”がな。」
「しかしなり損ないによって魔女の一割が持っていかれるとは・・あの存在も人外のようだ。これについてどう考える嫉妬の魔女の代理よ。」
「鏡の国にとって彼女は脅威です、しかし対処できない程ではありません。」
機械的な003の言葉をしかし002はただ同じく機械的ながら冷静に返すのを乃瑠夏は言葉にしながら聞いていた。
002の問いかけにもはっきりと答えた乃瑠夏はただ考える。
なり損ないの暴走によって魔女の一割が死んだ事、
なり損ないには謎が多くある事、
「魔王」の戦力が強大である事、
これら三つは既に賢人会から聞いた事である。
彼らは既に知っていた。
「SILENCE」の諜報活動によって情報を手に入れていたのだ。
だが、それだからこそ解らない事もただあった。
「具体案を聞こう。
なり損ないとなり損ない戦線はどうする?
あの場に魔女の代理を置かずそのままほおって置けばこの世界は滅ぶぞ。
今、世界が無事なのも「機構」があるからに過ぎないのだから。魔女の代理に自由などないぞ。」
「なり損ないについては魔女と魔女の代理を召集出来るだけ召集し今、動けるだけの全戦力でなり損ないを撃ちます。」
「現実的とは言えないな。その資金は、そしてその準備は誰がする。まさか我々か?」
「怠慢に身を任せてはいけません。
そうでなければ「幹部」と共に「魔王」がこの世界を滅ぼすでしょう。
五回目の地獄はそれ程の規模になるのです、あのなり損ないのせいで。そう「SILENCE」の情報から推測出来る筈です。どうかご再考を彼女は途轍もない脅威、「魔王」と共に今すぐにでも潰すべきです。」
機械的な口調で質疑をする003の言葉に対して理路整然と答える乃瑠夏である。
なり損ないは脅威である。
「幹部」は魔女の代理に匹敵する。
「魔王」は果てしなく強い。
そんな事は当然、乃瑠夏は知っていた。
身の程知らずの言葉では無い。
自身の身の安全を優先している訳でも無い
危険という物を知らない訳でも無い。
ただ知っているのだ「魔王」とあのなり損ないの脅威を、だからこそ毅然とした声で乃瑠夏は言葉を重ねる。
「なり損ないはまだまだ進化します。これから必ず。だからこそ今すぐ消すべきだ。」
常識知らずにもただそう告げた乃瑠夏である。
「ああ」という賢人会の声を聴く為に、
ただはっきりとした声と顔でそう告げていた。
・・星持ちの場の門はそうして閉じられた、ただ乃瑠夏を外に立たせて。
ただ「しかし、受け入れられないな、なにせ彼女は最大最強のマスターピースなのだから。」などという長い否定の言葉を賢人会から得て。
□
「「計画」に支障はないな。
「あの方」に関する情報も少ないが。全て修正の範囲内だ。」
「だからこそ僥倖と言えよう。
「計画」こそ「予言」を元に「あの方」の立てた物、我らでは逆らいようがない。」
「・・問題なく奴らは動けるようだな。ならば「計画」には何の支障もないだろう。・・そう思うかな001殿?」
機械的な口調で彼ら、賢人会は語りあう。
002が機械的に言葉を語り、
003が機械的に冗長に返事をし、
そして005が機械的ながら端的ながら長々しく独り言ちる。
まるで機械通しの彼らの会話にしかし聞く物は他にいない。
他ならない八人の賢人を除いて、
それこそが賢人会の命令であるが故に
・・既にこの場所には人が居なくなっていたのだと001は理解していた。
だからこそ耳をただ澄ましながら考える。
賢人会は一枚岩の組織ではない。
自身の利益に執着する者、
他者を蹴落とすことに躍起な者、
あるいは双方を兼ねそして考え得る全ての悪徳を成さんと欲する者を抱えるこの組織の一員である彼らは、鏡の国を牛耳る最高権力機構にしてこの世界最大の腐敗と堕落の元凶である・・と知られている。
十人十色、いいや八人八色の腐り方を持つとも言われる彼らはしかしどうあっても反りが合わない。
各々に目的があり
各々に因縁があり
各々に因襲があるからである。
殆どの者が対立する理由を持ち、そして殆どの者がお互いの首を狙っているのだ。
そんな共存など不可能に思える状況でどうやって協力しているのか・・という疑問はさておき、
けれど何か起ころうとどうあってもそれぞれがそれぞれ相容れない・・という事を理解している001である。
「ああ、「計画」には何も問題ないとも。少なくとも「あの方」の「予言」は何も狂っていないのだから。」
「・・・・・・ああ、そうだな。全くもってその通りだ。」
機械的に白々しいほど臆面も無く告げた言葉に003が少し長い沈黙と共に言葉を返すのを001は聞きながら再び考える。
「お互いが相容れない事。」・・ところでこれについては仕方無いのだといつものように断じていた001である。
しょうがないのだ。
彼らにも立場があり
彼らにも地位があり
彼らにも過去があるのだから。
お互いが対立しあうのは当然なのだしかし001はこう考える。
「我々にもお互いが団結出来る瞬間がある」のだと、それは「目的」について語るとき、想いを馳せる時である。
得体の知れず。
正体も知れず。
存在も知れない彼らはしかしその一点、ただそれが故に徒党を組んでいたのだ。そうある大いなる「目的」が故に。
だからこそ001は答える。
機械的な声で北極星の下で草原を見下ろしながら、風を感じつつ言葉にする。
ただ「計画」の為、して「目的」が故に。
001は答える賢人会、皆を見渡しながら独りよがりに。
「ああ「計画」には何も問題が無いとも、嫉妬の魔女の代理は我こそが利用しよう。」
・・そんな減然たる事実を機械的な言葉で・・ただ001は答えた、。
皆を支配する為に
皆の賛同を確かめる為に
皆の英気を削がない為に、ただそう答えた
■
代行会とは魔女の代理が私設した公共の私兵団である。
魔女の三割強という膨大な団員を抱えるこの組織は、
”人類の平和の為に”という目的の為に戦っていた。
代理人とはその一員を指し示す言葉である。
「それにしても今日は息しずらいよな、魔素薄いのかな。」
「かもね。副代理さまも話してたよ。今日は息しずらいってなんかあったのかな。」
フランクな友人の言葉を上司の話を何気なく上げながら紫髪紫瞳の魔女は話した。
副代理、彼らは代行会のNO.2である。
実力も折り紙付きの彼らはしかしここに一人以外勢ぞろいしていた。
憤怒の副代理、赤神泣
嫉妬の副代理、井伊波海
暴食の副代理、蝕指音
怠惰の副代理、怠編殖眠
色欲の副代理、禍根鳥屍花
とビックネームと言われる者達が勢ぞろいである。
色欲の副代理は穴埋めではある者の殆どが欠けが無いのだ。
ところで傲慢の副代理は居ない、「魔王」に捕まったのだと紫髪紫瞳の魔女、紫藤藤乃は理解していた。
「それは一人だけじゃないんだけどね。”旗持ち”だって副隊長失踪して処刑対象だって。なんでも処刑対象の魔女の代理について言ってたというよりその「腹心」だって~。
それに対抗する俺達は傲慢の魔女の代理も、暴食の魔女の代理も欠いてはいるけれど強いっちゃ強いんだよね~。けど上には上がいるって感じすよね~。先輩もやっぱ憧れるのは魔女の代理の方々だよね。」
「まあ、そうだね。副代理の人々は欺瞞ばかりだし。」
冗長に語るフランクな友人の男口調交じりの言葉をしかし藤乃は肯定と共に答えつつ考える。
まず、当たり前の事だが魔女の代理は七人居る。
「傲慢の魔女の代理」、
黄金の髪と瞳、十字の瞳孔にサイドから垂れる髪を三つ編みにした和服の青年、明星葵。
「憤怒の魔女の代理」、
赤い髪に赤い瞳、髪を逆立たせた少年、弩怒蛇明楽
「強欲の魔女の代理」
茶色に黄色がかった琥珀の瞳、ポニーテールそして片側に目を覆うような大きな火傷を負った少女、、富田神女
「怠惰の魔女の代理」、
緑髪を長く伸ばし節々で粗雑さを感じさせるように結んだくすんだ金の瞳を持つ壮年の男、怠編殖埜呂懸
「嫉妬の魔女の代理」、
冷たい赤い瞳を持つ短い黒髪の少年、井伊波乃瑠夏
「暴食の魔女の代理」、
吸い込まれるような髪をバッサリと切られたような切った黒髪黒目、片耳から鈴を垂らした女、鈴
「色欲の魔女の代理」、
そして目の前に立つ、白髪二つ結びの左右非対称な黒布の目隠しをした野太い声の少女、禍根鳥憂喜
と多種多様な人間が魔女の代理を務めていたのだ。
副代理もそれぞれが個性のある連中であり、名前だけであればむしろ強そうなのは彼らの方なのだがしかし彼ら魔女の代理にはあったのだ。
圧倒的なカリスマと
圧倒的な地位、
して圧倒的な実力が
しかしどこに居て何をしているかを知らない事こそが今の問題であった。
「魔王」を僭称する魔女、
禍根鳥憂喜は強い、魔女の代理でも対抗できる者が数少ない程に。
そして五人の「幹部」とてそれぞれが個性的で魔女の代理に匹敵する者である事が既に代理人の魔女に知られていた、だが藤乃には気になる事があった。
なり損ない、彼女が「幹部」に成ったのでは・・という噂についてである。
「あいつに煽られたの未だに根に持っちゃいますよ~。我が友はどうすっか。根に持ってますかね~。」
「変な呼び方しないでよ。
けどああ、そうだね。遺灰城は掟が多いし。それもあってかよりうっとおしく思うよ。」
フランクな友人はフランクにしかし語りながら問うのを知っていた藤乃である。
フランクな友人、彼はしかし良い人である。
いつも皆の中心で
いつも皆の心の中にいて
いつも皆の仲立ちで
太陽のような人間なのだ、少なくとも藤乃からして見れば。
二人は備えていた。
これから来る一つの町をも滅ぼす戦争に対して。
所謂五回目の地獄に。
他ならない、嫉妬の魔女の代理の命令故に。
代行会、ほぼ全ての人間がこの遺灰城前広場にて杖を磨き魔素を滾らせていた。
・・・・そのある種の平穏をある一声が奪う。
「総員、傾聴!」
勇ましい教官の言葉にしかし藤乃は魔素を集め、細い棒とし、杖を長くピンと地面に少し作り上げる。
そして石突をドンという音と共に叩き付けながら前に出し、胸を張った。
これこそが魔女式の敬礼・・である。
「嫉妬の魔女の代理殿の言葉!!」
「・・・・・・・」
再びの勇ましい教官の言葉にしかし藤乃は黙る。
沈黙、それこそがこの場の解答でありある種の礼そのものである。
して代行会、その代理人達は待っている。
他ならない嫉妬の魔女の代理、井伊波乃瑠夏の「地獄を阻止せよ!!!」という言葉を、
しかし乃瑠夏は知っていた、そうは成らない事を。
だからこそ次の言葉を黙して聞ける・・と考える藤乃である、その方が楽であるからだ。
だがそんな期待を裏切ることなく聞くことになる。以外な言葉を、意外な風に。
「総員、「眠れ」」
・・そんな眠りの呪文という形で。
その場に集められた代理人、魔女の一割強の人数の眠りという形で。
「どうして」という藤乃の疑問と言葉のあと魔女の全てはその場に倒れた。
常識知らずな乃瑠夏の魔術が故に。




