第31話 作戦通りの許可
「開け、門よ。」
そんな言葉と共に空間を割り、
何かと百合の二人を連れて再び魔女文字を周囲に浮かべながら色欲の街の「城」の広場の石畳を再び踏んで天使の笑みを私は浮かべた。
鈴と赤神の目的を叶え、そして鏡の国の人々を平和を与えるという私の「目的」を一つ果たす為に私は歩み出す。
まるでなり損ないのような気配を発しながらも、
「色欲の街」の全ての情報の解析が終わるまであと二時間と成ったという現状を理解しながら、
孔の空いた雲の下で、残る177人の魔女を相手に時間を稼ぐ為に魔女の包囲網に向けて作戦通り再度石畳の上を踏んで進みだす。
瞬時、私の姿が消えた。
地面を踏む、地面を踏む、地面を踏む。
加速度的に足を置く時間を減らしていく
体が加速していく、音と光が遠ざかっていく。
音の壁に触れる寸前、けれどきゅきゅと片足で止まれば、
瞬間、衝撃波が追いついた。
ドーンという腹の底に響く音が「色欲の街」の「城」、その広場に響き渡り通った石畳が抉れ、多くの魔女が宙を舞った。
■
魔女が考える対策について三つ予想出来る事が在った。
まず一つ目の対策は包囲網を構築する事。
再生阻害の魔術は未だに一部の魔女を縛っていた。
急造で拵えた物だ、大半が解除されたのは理解出来る。
あれは元来、解く魔力さえ計算に入れて、敵の損耗を少しでも減らす為に掛けた物に過ぎない。
だからこそ、魔女の数は177人では無く、275人と二倍近く増えていた。
包囲網を構築するには最適な数になっている事について「色欲の街」を第二特性で情報の「収集」と「集積」で解析しながらも理解して、ここに来る直前、念話で百合に話していた。
して二つ目の対策は魔女文字への対策である。
魔女文字は「魔術」の込められた文字だ。
結界などで術式を乱されれば発動する事すら叶わない。
実際、ここに来るまで魔女文字の大半が機能を喪失し、浮かぶだけの不可思議な文字に落ちぶれてしまっている。
おそらくは「色欲の街」の「城」の広場全体に術式阻害結界が掛けられているのだろう
そして三つ目の対策は私こと、なり損ないへの対策である。
なり損ないは、「魔女の血」を魂の一部として全て取り込み己の魂のほとんどを燃やして魔力に変え、更にその力で周囲から魔力を奪い、成長する・・という冗長で難解かつシンプルな性質を持つ。
それは単純に己の魂が無い私には魔素を合成する事すら出来ない事実を示すのだ。
これこそがおそらく四度目の復活を経て肉体を失った今も一度目の復活前から続いている魔力の枯渇が解決していない理由であり、
二度目の復活と三度目の復活の折り自分の体に対して鞭を撃った結果として「特性」を得る必要があった理由である。
一度目の復活前、
33人もの人を殺し、一つの街に存在する魔力を一夜にして奪いつくした時の記憶については戻っていない。
だからこそ、魔力が殆ど枯渇している理由についても分からない。
だが一割にも満たない割合でしか魔力を持たない私は三度目の復活経ただけでは「模倣」で得た魔術で肉体を擦り潰してでも魔素を肉体に補給する必要があった。
それ程に魔力が枯渇していたのだ
しかし今、
この場には殆どの魔力が無かった、
来たるなり損ないである私への対策だろう。
「何、変な事考えてやがる、クソ。」
「澄ました面しやがって、ぐぁ」
そうして空を舞い地面にドサドサっと雪崩のように落ちていく多くの魔女をしかし魔女文字越しに振り返りつつ見ながらけれど私は天使のように笑う。
予想通りなのだ、この状況について
三つの対策についてもこの通り予知した上で包囲網を力づくで突破し、
魔女文字を最低限度でやり繰りし、
魔素を自分の義体を一部魔力に変換して補填し力で捻じ伏せたのだ。
右の眼球や腕の一部も魔素に変換して魔力の合成に当てた物のけれど瞬時にしゅるりという音と共に魔素を用いて義体を再構築した。
己の魂の一部を糧にしそして「魔女の血」を媒介にして、魔力を集め、力を扱うのが魔女である。
魂の一部を糧にし魔素を生み出し魔力を合成する彼らはしかし周囲の魔力が無くとも最低限行動できる。
己の魂を自己循環内で切り崩し魔素に変えて貯めた貯蓄さえあればある程度はソレを用いて魔力を合成し「魔術」を行使できるのだ。
魂の一部を糧にするとはそう言う意味である。
だからこそ、この現状は周囲の魔素が無くとも魔女が行動出来る事自体は疑問が無かった。
「それにしても多いな。」
粉塵の中で立ち上がりこちらを見つめる275人という余りに多い魔女の戦力に対してこちらは何かを含めても二名と少なかった。
明星百合についてはもう、問題ではない。
この魔女については既に私の人質として機能して貰っている。
キスをして魔素を「供給」している間に隙を見て仕掛けを施したのだ。
不可視化した魔女文字で首輪を作りそれを嵌めた形である。利敵行為をしたと私が見なせば彼女は首が吹っ飛んで死ぬ。
だからこそ、私がやる事は一つ。
蹴る、蹴る、蹴る
地を蹴り姿を消して飛び上がった魔女を
粉塵の中で震えながらも杖を持ち立ち上がる魔女を
先の突進に付与した再生阻害の魔術が効かなかった者達を蹴る。
魔術的な防護が施された衣裳越しに蹴る。
「ぐぅ」「ぐぇ」「がゎ」とそれぞれ上がる悲鳴を聞き流しながら容赦なく蹴りを入れる。
蹴りの衝撃波で粉塵に穴が空いていく
「この野郎!」
「死ね、なり損ない!!」
「皆の仇!!!」
そう言葉を吐いてくる者を魔女文字越しに見てけれど瞬時、粉塵に姿を消して見えない所から蹴りを入れる。
自身の周りに浮かぶ数少ない使える魔女文字を一部身体強化魔術に転用しつつもそれを成す。
一度目の戦闘で問題に成った肉体の疲労を
第二特性、情報の「収集」と「集積」を起動して二日目に構築した切り忘れていた回復魔術で回復させながらも、
彼女ら全てに蹴りを入れる。
蹴りを入れる。
蹴りを入れる、蹴りを入れる、蹴りを入れる。
そうして一秒に二、三人という一度目の魔女に対する蹂躙を上回るスピードで倒しながらも目に映る魔女、全てを蹴り倒していく。
衝撃波によって粉塵が晴れたその時も私は戦闘を続けた
音の壁に触れる寸前の速度で魔女の腹に拳をめり込ませ、
音の壁に触れる寸前の速度で魔女の頭を地面に投げ捨てた。
上がった土埃、出来上がったクレーターとビクビクと痙攣する魔女の肢体を見て再生阻害魔術を掛けたのを確認すればけれど私は土埃の中、地を蹴り姿を消した。
魔女は不老不死でありその再生能力も底はある物の際限は無い。
しかし再生阻害魔術は魔女の血に直接働きかけ再生能力を阻害する。
だからこそ、蹴り倒された魔女は立ち上がる事も無く。
だからこそ、地面に放り投げられクレーターの中で血反吐を吐いて転がった魔女も立ち上がる事も無く。
だからこそ、再生阻害の魔術を混ぜて使った第三特性「█」で貫いた魔女の頬に付いたかすり傷も再生の煙すら上げない・・筈だった。
けれど275人という復活した魔女の数を鑑みれば話は変わってくる。
私が一度目の蹂躙で倒したのは3分で123人、
しかし今居る数は倒した35人もの数を含めれば275人と300人中明らかに多くの者が戦線に復帰していた
理屈は分かっている。再生阻害の魔術を解除出来る者が居るのだ。
それも副代理と同等以上の実力を持つと鈴に心の中で評価されていた私を超える魔術の才を持つ者が、
その者について正体は分からないが確信は在った。
その者が一部において魔女の代理に匹敵する程の実力者である事を
「そうだよね、傲慢の魔女の代理、明星葵」
そう言って魔女文字を手の平で砕き、浮遊魔術を用いて空に上がればけれど私はそう言った。
魔女文字が手の平の上で周回し囲う中でけれど魔女文字に体を守られながらも
粉塵の上で、悠然と空に浮く私は葵に、
どうしてか敵対している、傲慢の魔女の代理を見てそう言った。
まるで「そうだ。」と言わんばかりに粉塵が葵の魔力によって晴れれば都市を滅ぼせる程の彼の魔力を肌で感じた。
けれどだからこそ、私はこう言葉を続けた。
「あの子達は私を裏切ったの?」
そう言えばけれど私を見て葵はただ笑った。
都市を滅ぼせる程の魔力を発しながらも笑ってこう言った。
私を見上げながらもこう言った。
「鈴から連絡があってな、作戦目標は達成した、お前はもう用済みだ。」
その言葉にけれど魔女文字と共に空に浮かびながらも私は天使のように笑った。
鈴と赤神が作戦通り行動してくれたのだと理解して、
けれど、当たり前のように左の眼球と右腕の一部を魔素に変換しながら、
しゅるりと体を魔素で編み上げながら、
葵が発する都市を滅ぼせる程の魔力すら気にせずに笑った。
まるで思い描いていた通りに
■
『作戦目標は達成した』
これは合言葉である、この言葉には主に三つ意味がある。
首絞めの魔女という痕跡を探した事、
色欲の一族を処刑を阻止した事、
三人で「色欲の街」を救った事、
どれかが叶った事を意味するのだ、状況的にこれは一つ目、首絞めの魔女という痕跡を探すという一つ目の「目的」が叶えられた事を意味するのだ。
その証拠に「SILENCE」の副長と話していた筈の鈴と赤神はこちらに来ている。
屍花の姿は無いから、色欲の一族の処刑を止めるという二つ目の「目的」は叶えられていないのだろう、無理もない。
だからこそ、これら二つの条件が揃わない限り「色欲の街」を救済するという三つ目の「目的」を達した意味には決して類推出来ない。
故にこそこう考えたのだが、けれど私は振り返る。
「色欲の街」の情報を全て収集するまで1時間59分23秒、
戦闘開始から19秒、倒した人数は35人と
240人という残りの数を思えば中々厳しい状況であるのだ。
第三特性「█」は使えない為私一人では厳しく思えた
「これ以上戦うのが厳しく、思えたか。我が花嫁よ。」
「・・・誰が君の花嫁になるの、傲慢の魔女の代理?
私は貴方と会ってから三日も経ってるんだけど未だにまともな会話してないよね。
戦闘については貴方の言うとおり・・うん、それなりにね。
厳しいかなって思って、
だから聞きたいんだけど・・・本気出していい?」
この質問には一つ意味があった。
それは文字通りの意味であり、言葉通りの理由だ。
本気を出していいか
魔女を戦闘不能の先まで追い詰めて良いのか聞いているのだ。
魔女は不老不死である。
本来、記憶の実感を「蛇」に渡した私が同情する余地もなく
本来、感情を「蛇」に売った私が憐憫する必要もなく、
本来、魂を「蛇」に売り渡してしまった私が躊躇するべきでも無い程の再生能力を持つ。
人間とは桁違いの自己治癒能力を持つのだ、魔女は
けれど、だからこそ私は彼女達を殺せなかった。
同情した訳ではない
憐れんだ訳でも無い
そして躊躇った訳でもない
ただ単純に思ったのだ、魔女も死ぬのは嫌なのではないかと、
記憶の実感も、感情も、そして魂すら無いなりに考えた結果である。
鈴に一人、詫びたのはそういう意味なのだ、魔女を殺せなくてごめんなさい・・という意味であったのだ
厳密には他の理由もある物のそれが大半の理由である。
だからこそ、私はこう問うたのだ
貴方達の強さを信じて良いか・・と
魔女の命を取っていいか間接的に鈴と赤神に、そして目の前にいる葵に許可を取ろうとした形である。
「そう考えたか我が花嫁よ、であれば答えは一つ!」
「戦え!なり損ない!!
全力で戦闘することを許す!!
世の眼前にてその真の実力を見せ、一切合切を殺して見せよ!!!」
「・・・了解、本気出すね」
そんな言葉と共に周りに浮かんでいた魔女文字が消えていく。
無い筈の怒りの感情で心が赤く、朱く染まってゆく
視界が赤く染まってゆく、
眼前、目の前に現れた赤い光を亀裂の入った手の平で掴んだ。
葵の都市を滅ぼせる程の魔力を感じながらも手の平の中で眩く光る赤い光に私が目を閉じれば、
その時・・
・・少女を朱が包み、大地と空を繋げた
無い筈の怒りに飲まれる必要は無い
それは何れ失われる物であり
それは何れ得るものだからだ
〜人助けの魔女〜




