第30話 四度目の復活
透明な世界、ただ透明な地平線がそこにあった。
六度目に来るこの世界について私は考える事は無い。
そうして辺りを見渡していればけれどある気配がした。
一回り大きい「空白」の輪郭が目の前に在ったのだ。
そう、「蛇」である。
「そう「蛇」である・・じゃないだろう、お前よ。しかし久しぶりだなこうして会うのは。」
「・・・私たちが会ったのは二日前、
あの方が私の首を跳ねた後、
三度目の復活の時だよね。
だから久しぶりじゃ無いんじゃないかな、分からないけど」
静かに考えたあとけれど私はこう言った。
この世界に来るのは久しぶりなのだ、饒舌に成るのも仕方が無い、分からないけど
分からないなりに魂が無いというのは理解していたのだ。
自我空間
自身の中そのものであるこの場所に来ているのだと新しい記憶達から私は認識していた。
「認識していたか、
それにしては三度目の復活の折り会った時に比べ心の声がダダ漏れだがな、
心理防壁が使えなくなったのか。」
「別にずっと心理防壁使ってた訳じゃ無いよ、
考える内容を吟味してただけ、
初めは心を読んでくるクリミナを騙す為だけに心理防壁を貼りつつもそうしてたけれど、
・・途中から心読んで話しかけられなかったのはこの為だしね。
これも魔女対策だね、
あの子達すぐに私の心を読むんだ。
ずっと心理防壁を使うっていうシンプルな対抗策も考えたけど現実的じゃ無いからね。
今度からは地の文とも会話出来るようになるよ。」
と冗談めかしに「蛇」に対して私はそう言った。
一回り大きい透明な輪郭を持つ「空白」その物の「蛇」はしかし私に対してこんな風に嘯く。
記憶の実感も感情も、魂も無い私に対してこう言う。
「「こう言う」じゃ無いんだよ、 お前よ。
理屈は理解したが本題を忘れていないか。」
あ、うん覚えてますよ「蛇」
第二特性である情報の「収集」と「集積」を発動して二日目のご飯のことだよね、
作戦開始の前祝にハンバーグに寿司とピザ食べたっけ。
あれは太るね、分からないけど
まぁ私は脂肪が胸に行く人間だから気にしなくて良いけど。
「そういう意味では無いのだが・・・
まぁ気にしなくて良い。お前が調子を戻して私も嬉しい。」
「あ、そうだね。所で本題ってのは、何?」
代償を払うのが
まるで自分が自分の体に対して鞭を撃った結果であろう事は理解している。
けれども少しだけ理解出来ない事があった。
だからこそ、こう聞く。
「四度目の復活の代償についてだよね。」
血反吐を吐くような気配がきっとする、
まるで憤怒という言葉を表すような肋骨を軋ませ内臓を圧迫するそんな気配がするのを察して「蛇」に対して私は泰然とこう言った。
そんなことを察していればけれど「蛇」は「ああ、そうだなお前よ」とただ言った、そうしてこう言った。
「「予言」の内容の一部についてと四つ目の地獄、尊厳の地獄にもだよ・・」
と静かに言った。
◻︎
「まずは四つ目の地獄、尊厳の地獄について話そう。
「理解していないかも知れないが、これは尊厳的な死についての地獄だ。
例えば、末期の癌患者、
例えば、重度の精神病や障害を抱えた子を孕んだと知った母
例えば、自殺を望む社会底辺者のように
尊厳的な死を望む者は現代社会において多く居る。
この地獄は彼らに尊厳的な死を与える為の物を転用し応用した物だと考えられる
「四つ目の地獄、尊厳の地獄が発動した時「病塔」に居るクリミナも巻き込まれるか、心配か。
だが問題には成るまい
「病塔」とは「研究塔」と同じ外見ながらもしかし内装の異なる場所であり、患者を抱える病棟そのもの・・・だったか
クリミナが入院しているのは「一つ目の地獄」の亡骸、第一地区23番地にある白い摩天楼とも呼ぶべき場所の一つ・・であったな
お前の心を読めば分かるぞ。
その一つ足るあそこには当然、
悪名名高い「自治区」にいた者も居るという話・・だったな、」
「心配か、クリミナの事が、だが問題はない。奴はマスターピースの一人だ、それ故に問題その物が無いと言えるからな。
「話を戻すが、尊厳死の魔力を用いて引き起こされるであろうこの地獄は、
しかし「魔王」を僭称する魔女である禍根鳥憂喜の手によって成されると賢人会は予想しているようだ
「生命倫理をなぞると言われる「地獄」、
その四つ目である尊厳の地獄についてこれ程的確な推測も無い筈だ。
・・私がどうやって知ったかについては気にしなくていい。
どうあっても伝えられない話だからな、ところでお前よ、予言については知っているか。
「・・・うむ、知っている様だな。
だがアレの内容については知るまい、良い機会だ教えてやる。
「予言書によればあの方の「計画」はこうだ
第一日目、五星世界の原型を作り、「██」を作った。
第二日目、鏡の世界を作り、魔女を創った。
第三日目、闇に覆われた世界に「光」を生み出した。
第四日目、青水の大地を作りなり損ないを作った。
第五日目、白空の海を作り「██」を住まわせた。
第六日目、序獄を作り、魔法使いを住まわせ、最後に現実世界を創り人を創ってそこに住まわせた。
第七日目、「魔女」は御休みになった。
この全七段階で出来ている、魔女の代理はこの神話にも似た記述と予言書に記載されている黙示録から「計画」を立てたようだ。
「賢人会についてはこの限りでは無い、
預言書という秘されて久しい書物を用いて「予言」の全てを知り、
奴らなりの「計画」を立てているからな。
「地獄」もこれに基づいて行われるだろう、
何故禍根鳥憂喜が預言者の内容を知っているかは、今考える必要は無い。
興味深い存在とだけ覚えて置けば良い
「・・・・そして話を戻すが、
予言の魔女であり、
最大最強のマスターピースでもあるお前の四度目の復活の代償だが・・
己の心に聞いてみれば分かるだろう、「魔女の器」。
「四度目の復活の代償、そう、それはお前の肉体だ
■
四度目の復活の代償が私自身の肉体である事に疑問は無かった。
一度目の復活では記憶の実感を「蛇」に売り渡し、
二度目の復活では感情を「蛇」に売り渡し、
三度目の復活では魂を「蛇」に売り渡したからだ
正確には代償として三度「蛇」に私の大切な物を支払い第二特性と第三特性を得ただけなのだが、
赤神にそう言ったから何となく言い続けているのだがけれど私には理解出来ない物は無かった。
自分が自分の体に対して鞭を撃った結果であろう事は理解している
私に三度目と四度目の死を与えたあの方同様に全知全能では無い物の知った物事の大抵は理解出来ていた。
座学は得意だったからだ。
当然、体育なんかも得意である。
運動が出来る優等生だったのだ私は、分からないけど
元の地頭と運動神経の良さに加えて私には第一特性である「模倣」、
第二特性である情報の「収集」と「集積」、
そして第三特性「▇」が在った。
情報の「集積」と「集積」を用いて街の殆どを呑み込んだ私からすれば大抵の事象はどうとでも出来る物事に過ぎない
だからこそ、代償を払わないと行けない事実について思う事は無かった。
むしろ私はこう考えている。
このまま四度目、五度目と代償を払って行けば私は更に「特性」を得て強くなるのではないかと
「魔女の器」として聖女の笑みや、女神の笑みのような人外染みた笑みを浮かべる事が多くなった私にとってこれは数少ない朗報その物だったのだ。
「そう考えているか、お前よ。」
「・・・何か、問題ある。
いきなり下ネタ言うよりはマシだと思うんだけど」
「何か、聞きたいのかな。」と言葉にすればけれど私を血反吐を吐くような気配が包んだ。
肋骨を軋ませ内臓を圧迫するそんな気配が「蛇」から発せられた。
その怒りその物のような気配に中てられ地面に膝を付けばけれど「蛇」はこう言った。
「己を代償とすれば鏡の国の人々に平和を与え、
「計画」を実現させ、
十二あるマスターピースを集め「予言」を叶える事が出来ると、
これら三つの願いを叶えられると本気で考えているか。」
「・・・」
「黙らなくても良い、お前は考えてなど居ない、
お前が自分に鞭打つように代償を払う理由も心の底ではお前自身が理解している筈だ。
であればこそ、私はこう問う。」
「お前はこれからどう生きるつもりだ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
答えられなかった、
記憶の実感も、感情も、魂すらもない私が更に肉体を失ってどう生きるのか。
四度目の復活を経てからこれからどう生きるつもりなのか、分からないのだ。
分からない、分からない、分からない
本当に私は私が分からない。
こんな疑念を抱く理由すら分からなかった。
己を取り巻く不理解の理由すら分からないのだ、
こんなんでは本当になり損ないと呼ばれてもどの魔女にも反論出来そうに無かった。
「であれば、どうするつもりだ。
このまま四度目の復活を経ず、第四特性すら得ずに死ぬか。」
「・・・・・・・・」
気配が強まる、
肋骨を軋ませ内臓を圧迫するそんな気配が強まる。
憤怒その物のような気配が強まる、
そんな異常な気配の中でけれど膝を付きながらも私はゴホゴホと咳き込んだ。
掌に在ったのは血塊、血塊であった。
自我空間という自分の中とも言える世界でけれど私は初めて「蛇」の気配で血反吐を吐いたのだ。
内臓が気配にやられたのかは分からない
けれど私には理解出来る所が在った、
私は死ぬ。
「蛇」の気分次第で、選択肢次第で、
第四特性を得られずに四度目の復活を果たす事も無く・・死ぬ。
33人もの人を殺し、一つの街に存在する魔力を一夜にして奪いつくしたと言う大罪人である私には相応しい末路と言えるかも知れない。
だけれど私には変わらない物が在った。
鏡の国の人々に平和を与える
「計画」を実現させる、
十二あるマスターピースを集め「予言」を叶える
これら三つの願いを私が、何も無い私が叶える、
それこそが今の私の「目的」であった。
その為には第四特性を得て四度目の復活を遂げなければならない、
選択肢を間違えてはならないのだ
だからこそ、私はこう「蛇」に答える。
「いいや、死ぬつもりはない、私が皆に平和を与える。」
「・・そうか。」と「蛇」が静かにそう言い手の平を開けばけれど私は女神の笑みを浮かべる
視界が色付いていく。
地面に落ちた汗に色彩が加わり、
口から零れ落ちていた血反吐に色彩が加わり、
透明な世界に色彩が加わる。
そんな状況に目を瞑ればけれど「蛇」はこう言った
形を失い透き通っていく蒼い瞳が湛えられた私の顔を見つめながら、
手の平を私の眼前に翳しながら段々と彩られていき作られていく顔を自分の顔だと云わんばかりに笑みに変え沈みかけの上弦の月のような赤い瞳で見つめながら「蛇」はこう言葉にした
「励むと良い、お前よ。「蛇」たる私がこの世界を呑み込むまでな。」
という言葉と共にけれど視界が彩りに呑み込まれれば私は目を覚ました。
草原の中、
私が作り出した疑似空間の中で
教会の壊れた天井から差す日差しを浴びながら私は目を覚ました。
そして私は第四特性「不死」を得た
■
「起きましたかなり損ない。」
そんな声が聞こえた。
明星百合と何か、両方の気配が情報の「収集」と「集積」越しに伝わってくる。
日差しの下、目を覚ませばそこは草原だった。
位置が移動してる、百合、貴方が移動させたのか
「ああ、血溜まりの中で放って置くのは余りにも可哀想だから運んだ。
不衛生でもあるし、仕方なしにって感じ。
心は・・読みやすくなってる、どしたの」
「心を読まれる対策については既に諦めたよ、
しても仕方ないって思ってね。
ずっと対策したまんまじゃ心を許した感じしないでしょう。
・・・質問を質問で返すようで悪いけど、どうやって私を運んだの。」
心を読まれる対策についてはもう諦めた。
良い機会だし、三度目の復活まで続いていた魔女への対策を解除した証である。
四度目の復活を経て平和を与える人間の態度では無いと判断したのだ、分からないけど
なり損ないと呼ばれているがそこは気にしない所存である。
「・・そう、大変だね、なり損ないも
「どうやって私を運んだの。」っていう質問に答えるけれどあんたが眠ってる間に、私が気合で頑張った」
「何をしていたの。」
「介抱を」
そう短縮にけれどこう言ったのは百合であったと理解した私である。
何かの大きな視線に視界を半分程影に覆われながらも体を起こしつつけれど私は考える。
私の肉体について、
こっちから物には触れられる、
物を見る事も出来る。
けれど肉体は無い・・そんな確信が第二特性である情報の「収集」と「集積」を持つが故に在った。
情報が無いのだ、
闇の中にある血溜まりとバッサリと切られた長い私の髪以外は私の肉体についての情報が
第四特性「不死」について副産物として不死身に近しい再生力を得る力だとも情報の「収集」と「集積」を用いて理解しているというのにこの体たらく、
全くもって不甲斐ない、分からないけど
言っておくが「色欲の街」の情報を解析している今であっても私の情報取集能力は健在である。
第二特性である情報の「収集」と「集積」の影響と元の地頭の良さもあってその精度は並の魔女よりもきっと図抜けていた。
だからこそ、分かる。
今の私の肉体がこの第一特性「模倣」の心髄「想像」と「創造」によって作られた疑似空間同様、
疑似的な物・・所謂義体とも言うべき物である事を
そう、理解して私は自身の肉体の一部である腕を構成する魔素を一部解く
触れられない、触れられない、触れられない
草原に茂る花弁にも、
してその下の土にも、居る筈の虫にも、
百合の顔にも触れられない。
腕の先の魔素を解いてみればけれど腕の先からが無くなり、魔素を戻せばけれどそこには腕と手が在った。
本当に肉体が疑似的な物でしか無くなっている、
そんな現実を理解していればけれど私はこんな声を聞いた。
「本当に肉体が疑似的な物でしかなくなっている・・じゃないよ、マジで。
あんた蘇るのは良いけど本当に報告通り、代償を払って「特性」っていう力を得るんだね、今回は第四特性か・・一応聞くけど名前は」
「「不死」副産物として肉体の際限の無い再生を可能とする」
「了~、理解したわ。
大体、魔女と同等かそれ以上の再生能力を得る力ってことね。
けどそんな事は置いとくとしてこれからどうするつもり、なり損ない。
もう一回戦う?それともまた魔力供給を口実に私にキスするの?」
「いいや、戦わない。」そう言えば魔女文字を自身の周りに浮かばせけれど私は立ち上がりこう言った。
天井の下、教団が作った教会の廃墟の中央にある草原に二つの足を付けながら、
何かと、百合の前で前髪を掻き上げた。髪を下ろし、
そして風に靡く腰までの長い髪を後ろ目で見た後こう言った。
「帰るよ、色欲の街の「城」に、開け、門よ。」
そんな言葉と共に空間を割り、
何かと百合を連れて再び魔女文字を周囲に浮かべながら色欲の街の「城」の広場の石畳を再び踏んで天使の笑みを私は浮かべた。
首絞めの魔女という痕跡を探し、
色欲の一族の処刑を阻止し、
して三人で「色欲の街」を救う、
これら鈴と赤神の目的を叶え、
そして鏡の国の人々を平和を与えるという私の「目的」を一つ果たす為に私は歩み出す。
まるでなり損ないのようにおどろおどろしい気配を発しながらも、
残る177人の魔女を相手に時間を稼ぐ為に孔の空いた雲の下で作戦通り再び石畳の上を踏んで、踏んで進みだす。
「色欲の街」の全ての情報の解析が終わるまであと二時間と成ったという現状を理解しながら、
現状を理解するのは大切だ。
それはいずれ糧になる。
〜人助けの魔女〜




