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Adonai's Failure  作者: 白河田沼
第二章 なり損ないと「魔王」の敵対

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第31話 失う言葉

自由とはある種の隷属である。

自らの由を知る事がある種の開放であるように何もかも出来るという事はしかし逆に自分を縛っているのだ。自由であるという事実でがっちりと自分自身を。

ならばどうあっても、この世に本当の自由はありはしないのか・・そう考える筈だ。

けれどそれは違う、それは違うのだと他ならない少女は確かに知っていた。

そう少女は確かに知っていたのだ、




”あの時”までは









死ぬ事とは生きることである。

生きることの延長線上に存在するこの死というものはけれど死ぬことでしかないと多くのものは言う。それはある種正しい、けれどその正しさは部分的に間違っている。

それは実際死ぬことでしかないもののそれ自身では無く、生きる事ができるのだ、心の中で

他者が存在するが故に

他者が生きるが故に

他者が意味を見出すが故に、




少女、19号は目覚めた。

ゴポゴポという音の中「マスク」を着けて、

桃と赤の混じった培養液を内容する「棺」の中において自身が禍根鳥憂喜(マイマスター)に生き返らされたという確信と共に






少なくとも19号が生きている事について理由が分からないだろう。

故にこそこれは回想である。

回顧するのだ、昔を

禍根鳥憂喜がどうやって「死」を閉じ込める事に特化した筈の「棺」に死体を入れて、蘇生を成功をさせたのかそしてどうして「進化」させようとしているのかをその理由を、

はっきりと19号は回想する、

奴隷であった自分自身を


禍根鳥憂喜(マイマスター)の”あの時”の顔を浮かべながら















ある言葉が鏡の世界(クルシア)には存在する。

それは計画に縛られけれど生きる魔女(ウィッチ)がよく知る言葉であった。

「人類の平和の為に」そんな理解しきれないような言葉は魔女(ウィッチ)のポリシーであり予言に記された文である、そう彼女達は理解して生きてきた



少女もそうであった。

十字の瞳を持つ桃髪金瞳の少女それこそが奴隷である少女であった。

彼女に名は無い、だからこそ少女は19号と呼ばれていた。

彼女には親は居ない、だからこそ少女は引き取られ19号と名付けたと主は言っていた。






名は覚えていない。

顔も覚えてはいない

瞳の色ですら朧気でしかない

けれど良い人であったと19号は理解していた。

当然だが19号に”殊勝な趣味”はない、だけれども客観的に見て良い人・・それこそが主であったのだ。

そんな主は「奴隷」を溺愛していたように思えた。特にその一人である19号を

同じ髪色であるからかそれとも同じような顔だからかは覚えていないがいたく19号を主は気に入っていたのだ





「奴隷」とは身の回りの世話だけでは無く魔女(ウィッチ)を覚醒させる為の生贄としての意味をも持つ・・と言っていたがその言葉をただ口にしながらも愛情深く思える程19号の頭を主は撫でていた。

ある時は一緒に勉学に励んでみたい

ある時は一緒に本を読んでみたい

ある時は一緒に遊んでとみたいと

ともかく19号と共に何かをしたがっておりけれどそれを常に考えているという事を主は19号に言葉にしていた、いつも主は口にしていたのだ貴方と何かがしたいと言わんばかりに。

けれどそれにつれない19号である、だからこそそれを示すように19号はいつものように口にした、主の為に。


仁王立ちで上から見下ろし睨みつけながら







「起きてください、主。人類の平和の為に」



「変わった呼び方だね、ご主人様って呼んでよ19号むにゃむにゃ~、起きるのはう~ん。あと百年、いや~千年以上!」

「・・・・・・」少しの沈黙と共に冗長にも思えるセリフ発した主を睨みつけながら布団を揺するのだけれどこの時19号は理解していなかった。

19号の正体を

”あの時”までもう少しである事を19号は知らなかったのだ。

主という奇妙な呼び方をするこの少女に関する事実と真実を

そんな言葉を諳んじればベッドを持ち上げて、窓枠の向こうに19号は放り投げた。




主そのものを

窓枠の向こうのほう庭に向かって微塵の躊躇も無く

そんな朝の雲雀とともに強行された奇抜かつ信じられない恐慌と共に目覚めた主を、静かな怒りに細められた瞳を持った少女を・・19号は見た。





根本から性根がおかしいのかも知れない。

あるいは奴隷と魔女(ウィッチ)では心が違うのかも知れない。

そう思っているのかと考えていた

しかし違うのだと主に対して19号は理解していた。



主は「名家」の生まれである。

けれどそうとしか主は明かさなかった

しかし理由の分かった19号である。




「”奴隷は奴隷らしく”してねって言ったよね、19号。」そんな言葉を聞くとそれこそが魔女(ウィッチ)であるとも19号は理解していた。

それこそが鏡の国(クルシア)に住む魔女(ウィッチ)であると誇りに思う者は少なくない、

奴隷制の廃止されていたとしてもそれは変わらないのだ

それこそが魔女(ウィッチ)であるともけれど主についてこうも考えている19号である

主がそんな言葉を吐くとは考えずらい・・とだからこそこう軽口で返す。






「・・そんな事を云うなんて酷いですね。19号。」



「そうかも知れませんね、主。いつもの通りです、全く以て。」

そう主に対して軽妙に口を叩く19号はしかし言葉にしながら理解する。

非道く暖かい声が耳朶を打つのを理解していたのだ少女について19号は。

主、主の声である

非道に思える程の温かい声、人を食ったような丁寧な口調それこそが主の数少ない特徴であったと19号は把握していた。







「19号、数少ない特徴というのも云い過ぎですね、こうやって名を呼んでいるではありませんか。あなたの私に対する呼び方である「主」に含まれた奇妙さには決して勝てないかもしれませんが、言葉遣いについては決して・・覚えられませんか。」



「はい、覚えられません。しかし一言多いですよ主、いえお嬢様。」

非道く暖かい声が耳朶を打たせる語調とは裏腹のその声の主が他ならない主の物であると19号は理解していた

寝ころがっているのはベッドの上して目を向けているのは主にして名家のお嬢様。

名家の一つのお嬢様である。

次期当主とも目されている・・・とも噂されている程に性格の良い少女であった。

同性からも美人に思える程貌がよくかつ頭脳やそれ以外も優秀な人だと噂される人物だと理解しているのだ19号は、けれどしかしどこか問題があるのではと19号は理解していた。




彼女は狂っている・・そんな予感がするのだ







「19号。貴方という人は。普段の態度や先程の気狂いそのものの行動からして人の事は言えませんよ、言葉を改めなさい19号。」



「狂っている事は確かでしょう、お嬢様。・・・失礼、口が過ぎました、主。」

非道く暖かい声が耳朶を打つのを理解していたのは19号だ。

声を発したのが自身の主である事も理解しながらだが臆することもなく頭を下げ自身の非礼を詫びる19号である。

理由は当然、主を立てる為・・だけではない

主を尊敬しているのだ、19号はそうしっかりと頭を下げる今の態度だけでも解る程に。

「主」という奇妙な呼び方をしているにも関わらずその主当人がその呼び方を許している理由がそれである。

だからこそ要らぬ世話とも思いながらもおせっかいを19号にただ言葉にする主である。







「・・・しかし、主。本日の予定についてはご存じでしょう。」



「ええ、云わなくとも理解しているわ、”あの方々”との会議でしょう19号。」

非道く暖かい声でけれど落ち着いたように主は19号の目を見ながら言った。

布団を捲り上げ床のスリッパに足を入れつつけれど主は再び言ったのだ

ただ静かにけれどしっかりと非道く暖かい声で19号の目を見ながらも言った、


()()()()()()()()()()()()()





「魔女の代理の方々との会議に行きましょう、19号。」

そう主は19号に言った

静かにけれど非道く暖かい声でそのあと”あんな事”が起きるとも知らずに。

けれどブロックノイズが視界に瞬けば






・・・そこで目が覚めた。


不自由とはある種の解放である。

自由とは正反対のこれはしかしある意味で自由そのものなのだ

望まない自由は決して欲しいかったものではなく

望んだ不自由が断じて欲しくなくなるものではないように

不自由という縛りはしかし望まれれば自由にもなり得るのだ。


それが世の中に存在しているが故に




「マスク」

呼吸器そのものとして周囲の魔力を取り込み内循環器系を巡り回る役割を果たす。

すると血と共に一部をそして全身を回りいづれ「体」そのものとなる。

体に「死」の魔力を定着させ同一化させる事と同義だと19号は知っている。

閉じ込める為の死を逃がしもしない「棺」は「死体」を内包する、

今、19号が付けているのはそれであり入っている物についても心辺りがあった・・「棺」である。





「棺」

この装置は三つの機能に分類しながら形と役割を持ちながら死体を入れる為の装置としてほぼ一つである。「棺」の機能を元に死を迎えたシアを三度目の以上の死を迎えさせ魔力を用い「死」と共に「進化」させる計画であると指揮している19号は理解していた。

だからこそ・・そう考える19号はけれど口にした。




「・・・・・・」



「だからこそですよね禍根鳥憂喜(マイマスター)。」

微かな恫喝と警戒の意思を孕んだ語調の言葉を禍根鳥に発するのは19号である。

そうして目の前の黒布の目隠しをした黒布目隠しの少女を見つめながらけれど19号は思考した。

いつ目隠しをしたかはどうでもいい。

いつ自身が棺に入れられたかもどうでもいい。

けれど何かこの人は嘘をついていると・・そう長らく仕えてきた19号の勘が囁くのだ。

だからこそ静かにけれどそう思える程に厳かに問う。









「・・・・・何を隠しているのですか全て話して下さい。禍根鳥憂喜(マイマスター)。」

そう静かに19号は問う。

禍根鳥の自身の首を跳ねた黒布目隠しの少女を見ながら。

一言、ただ一言だけ

けれど厚顔無恥に思える程の静かな声でかつ顔を見ながらも禍根鳥は答えた



「では話そう、君の言う隠し言について。少女(わたしたち)の”言わないだけのこと”について。」



まず初めに言うが我が子よ。

三つ、少女(わたしたち)は君に”言わないだけのこと”を話す。

これはその一回目であるのだ。


まず一つ目、「契約」についてだがこれだけは意図的に言葉を伏せていた事だ

はっきり言えば「契約を結んだ者は人間や魔女(ウィッチ)と問わず死ぬ、何の例外も無く」

加えてこれは一度の死を意味しない。

ところで「月」の広場、いわゆる遺灰城前の広場においてそこで死んだ赤紐の赤子の親やその他関係者はほとんどが人間ではあるものの少ないながらも魔女(ウィッチ)も居たのだがしかし全員が死んでいる。

出生、身分、性別問わずあの時全員の首が飛んだのだ

それはあの者らが「契約」に違反したからである


つまり、「契約」は違反した者をどこに居ようと誰であろうと一部の隙も無く殺し尽くす、魔女(ウィッチ)であれ・・これに例外はない。


して二つ目、19号という君の名前についてだが

はっきり言っておく19号、それは少女(わたしたち)が付けた名前ではない。

君の名前とも言うべきではないその番号はしかし意味があるのは確かではあるがな。

これに関することについて君に言うことは無い。



そして最後の三つ目、あのなり損ない(フェイラー)は生きていない、

意識を失っていたが三度目の復活のあと意識も無く疑似心臓を心臓に近づけながら周囲から魔力を集めつつ「棺」ごと脈打ち「進化」を進めている。

これに妨害は許されていない。










「何か聞くことは。」

そう慈悲深くも優しく告げるのは禍根鳥憂喜が告げるのをしっかりと棺の中19号は理解していた。

透き通るような白髪に澄み切った桃と赤の混じったきっかりとした瞳を持つ野太い声の少女でもあり白髪二つ結びの左右非対称(アシンメトリー)な黒布の目隠しをした野太い声の少女でもある禍根鳥憂喜であるとも。

けれど”言わないだけのこと”と嘯ていたのがまるで嘘のように詳細かつ饒舌に秘密を語ってくれるとは思っていなかった19号である。




けれどだからこそ19号は見た

他ならない自身の目の前、手の平の中に光が見えることを

だらりとした彼女の腕の先に光があることを19号が理解すればけれどその時・・






19号は意識を失った。

まるであのなり損ない(フェイラー)のようにけれど()()()()()()()()()()()

”また一人にしてしまいますね”という他人事のような朧気な禍根鳥憂喜(マイマスター)に対する言葉と記憶を「失うという実感」と共に、

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