第27話 作戦開始
三日目の朝7時半、色欲の一族と副代理処刑
現在、魔女暦2998年8月13日、午前5時30分
処刑執行まであと二時間半。
・・城門を蹴破った時に自然とそんな情報が頭に流れ込んできた。
あらかじめ操作していたそのタイマーのように機能した情報はけれど私に二つの物を齎した。
危機感と義務感に似た二つの感情・・だった物を
私が抱くべきであったその感情は既に魂を失っているが故に感じられない物のけれど私はこう思う事にした。
「何かをすべき」と感じたのであればそれは理解出来なくとも他者の感情のように優先すべき事柄だと。だからこそ私はこれらの事項についてこう感じた。
分からない、けれど為さなければいけない事柄がある・・と
理解したのだ、私の「計画」について
それはきっと人の為になるだろうと
「目的」についても同じである
鏡の国の人々に平和を与える事、
「計画」を実現させる事、
十二あるマスターピースを集め「予言」を叶える事、
この私の目的である三つ・・だけではない。
鈴と副代理が望むこれらも在った
首絞めの魔女という痕跡を探し、
色欲の一族の処刑を阻止し、
して三人で「色欲の街」を救う、
この三つも確かに叶えなえれば行けない意思があるのだと私の中の魔女の血が告げていたのだ。
彼女から貰った魔女の血だ、
だからこそかなり損ないである私は決してこの欲望に逆らえなかった。
『十二ある「世界の欠片」、全てを集めた者ただ一人が全ての魔女を超え「魔女」と成れる』
この予言を成すが為にけれど私は魂が無くとも生きなければならないのだ
例え、記憶の実感が無くとも
例え、感情が無くとも
例え、本当に魂を「蛇」に売ったとしても
私は前に進まなければならない、だからこそ跳ね飛んで行った城門を見て私と鈴はこう言った。
「「この処刑、暴食の魔女の代理の名の元に待ったを掛ける。」」
二人で声を合わせてこう言った。
氷のような無表情を浮かべつつ言葉を吐いた鈴を第二特性の情報の「収集」と「集積」で感知しながらも、
そして女神のような笑みを浮かべながらも私はこう言った。
昨日の会議通りの言葉を口にした。
何かの視線の下で
□
何かの視線について、
何かと共に禍根鳥が居る・・その前提条件が在った。
「色欲の街」の中枢、「城」に来た時から感じていたこの不気味な視線にけれど禍々しい視線が交雑している事を
けれど私は理解していた、
「魔女」が大罪の遺物のオリジナルを持つと新しい記憶達から知っているようにこれらの事が決して噛み合う事が無いと決まっているという事を
「「この処刑、暴食の魔女の代理の名の元に待ったを掛ける。」」
鈴と私のそんな言葉に反応する魔女達の反応は大まかにこうだった。
驚いて固まる者、
杖に手を掛ける者、
そして事態が呑み込めず状況に困惑する者
この三種類であったのだ、けれどだからこそ、私は第二特性である情報の「取集」と「集積」を用い鈴と共に歩いて中に入りながら周囲を検める。
色欲の一族はこの広場には居ない
処刑の二時間前なのだ、無理もない。
ネオンに照らされた「城」の一階にはしかし色欲の一族の白髪に対照的の黒布の目隠しをした少女達が特徴通りの存在が居た。
やつれている、少しだけ心配だ。
して禍根鳥屍花、色欲の魔女の副代理はけれど二階に居る、
そして彼女の目の前には「SILENCE」と思わしき魔女が椅子に座って、居た。
屍花の体はどうしてか傷が酷い物のどれも治りかけだ、白い煙を立てて肉が盛り上がっている。
順調に再生されている。
「屍花は二階に居る、顔だけが傷つけられていないから不穏な想像は出来るけど。鈴、貴方は知っておいた方がいい。」
「顔を傷つけずに体を傷つけていたか
・・本当に良い想像は出来ないな、不思議ですらある。
しかし、そんな事よりも考える事が在るだろう、掟破り」
「分かってるよ、鈴。
何か・・あの方についてでしょ。
「城」には居ないよ、私の第二特性である情報の「収集」と「集積」が二日目の朝に入ってからもう既に街の七割以上を呑み込んだけど未だにあの方も禍根鳥も気配すら見つからない、
全てを読み込んだ今でさえ視線は感じるのに何処にも見当たらない。
概念的な力・・ていう線もあるけど、私の勘は「色欲の街」の全てを呑み込み読み取った情報を精査するまで判断は待てと囁いている。
あと二時間と少しで全ての情報の精査が終わる。
だから、それまで魔術を使うのは待って欲しい」
記憶の実感も、感情も、魂も無い私の言葉にけれどふと足を止めて振り返る鈴である。
疑問なのだろう、魂も無い私にどうして勘などいう機能があるのか
疑問なのだろう、感情の残滓すらない私がどうしてこの事を静かに述べるのか
だからこそ、鈴はこう言った。
「その勘通りにするつもりか、掟破り」
「うん、そのつもり。それとも信じれない、女の勘。」
「いいや、信じるさ。掟破り、今回はお前に賭ける。その方がいいと私の女の勘が言っている」
「うん。」とどこか気に障るような鈴の言葉にけれどそう返せば私は自ら目を閉じる。
魔女、ここに居る全てを第二特性を用いて収集すればその時、私の掌が光る。
光る、光る、光る。
「城」がネオンの光では無く、
私の第三特性「█」が発する光のような物質に包まれれば・・
「城」が真っ白な光に貫かれた。
□
なり損ないであるシアの力
第三特性、「█」は光のような物質を以て敵を殺し尽くす。
それは生物であれ非生物であれ対象を選ばない。
だからこそ、通常の術者であれば己の肉体をも焼く光と成るだろう。
何せ光は術者の体も照らしているのだ
本筋の力ではない物の重症は避けられない筈であった。
けれど粉塵が舞う中、それが晴れればそこに在ったのは・・
傷一つ無いなり損ないの姿だった。
術者であるなり損ないの体には一つも傷が無い。
鈴も同じである。
彼女達二人の肉体には一つも傷が付いていなかった。
なり損ないがある手段を用いて術式対象の選択を行ったが故である。
けれど傷が付いていないのは「城」も同じであった。
「まさか、傷一つないとは、驚きだね。」
「会議で話した通りだな、対個人魔術級では傷一つ付けられない。」
「分かっているよ、鈴。貴方が言った通り会議で話した通りだし、新しい記憶達で見た通りだ。」
冷静にそう言いながらもけれどなり損ないは新しい記憶達の事を思い出す。
事の外、静かな鈴は何も言葉を返さなかったがけれどなり損ないはそれを振り返らない。
先の言葉通り思い出すべき事が在ったのだ
対個人魔術
対個人に特化した魔術。
基本的に一人を殺す魔法であり、魔女に多い魔術でもある。
代償は使用した分だけの魔力の消耗である
対集団魔術
対集団に特化した魔術。
基本的には集団を殺す魔術であり、魔法使いに多い魔術である。
代償は相当量の魔力の消耗である
対空間魔術
対空間に特化した魔術。
基本的に対空間に特化しており、そこに居た個人や物体をも巻き込む、なり損ないや覚醒したマスターピースに多い魔術である。
代償は所有者の性質上無く、在れば死のみである。
基本的には三つだが対惑星魔術や対世界魔術などもある物のなり損ないはこれらを振り返らない。
城に傷一つ付けられなかったという結果は予想が出来た物だからだ。
なり損ないは先の一撃で手を抜いていた、本来であれば対集団魔術級の力を対個人魔術級の力にまで落としていたのだ
「会議通りとは言え、
土埃だけ上がって傷一つ無い状態の「城」が目の前に在るのを見ると少しだけれど凹んじゃう気がするな~。あ、さっきの言葉は分からなくて良いからね、
私も魂が無いのに何でこう言ったのか分かってないから」
「・・・だと言うのにその有り様。まるで感情があるみたいで愉快じゃないか、掟破り。」
「あんまり揶揄わないでね、鈴。」そう言ってなり損ないは笑えばけれど鈴はこう思う。
本当になり損ないに魂が無いのかと
なり損ないは強く成った
それも副代理に比肩する程に
一時的であれば魔女の代理にも手が届き得る程の力を得たのだろう、それについては理解出来る。
自身の魂すらも「蛇」に与える事によって得られたその力は普通であれば忌避すべきものだ。
「蛇」とは全知全能の「魔女」アドナイの敵対者だ。
魔女の宿敵でもあるなり損ないの頂点に立つ者の一人である彼の存在から力を貰ったなど、
代行会を率いる魔女の代理の一人であり、
鏡の世界の魔女でもある鈴という「魔王」からすればこれは看過できぬ事柄である。
けれど彼女の個人であれば話は別であった。
「しかしだ、お前が何に魂を売ろうと俺は信頼するつもりでいたぞ、掟破り。口だけでは無くな。」
「そう、嬉しいね。
じゃあとっとと目の前に居る護衛の魔女達倒して、
首絞めの魔女も取っ捕まえて色欲の一族と屍花さん助けちゃおっか。」
「ああ、そうだな。」と口にしながらも鈴は自身の心の中の言葉を理解する。
鈴個人としてはなり損ないに記憶の実感が無かろうと、感情が無かろうと、魂が無かろうと。
そしてなり損ないの頂点に立つ彼の「蛇」に魂を売っていようとも同じなのだ。
この子を守る。「予言」も「計画」も関係なしにそんな大望を以て尽くすべき対象であるのだと鈴は自分の心に対して決めていた。
鈴はもう既にそう決めていた、
「拘束」の魔術を施しながらもそれがあの子の望みだからと夢の中で自身の手を引く少女の意思を、
灰色の放送室の夢を尊重すると決めたのだ。
だからこそこう告げる。
「掟破りよ、この戦いに勝利すれば宴をやるぞ。
それもこの「色欲の街」全てを巻き込んだような盛大な宴だ。
「魔王」を僭称する魔女やあの方などその時は忘れて酒と享楽に身を浸すのだ。」
「・・・すっごくフラグっぽいね。加えて酒は飲めないよ、私は17歳、鈴は18歳で未成年でしょう」
「なんだ、嫌か。
無論だが俺は酒は未だ嗜めていないぞ。
さっきのは言葉の綾みたいなもんだ。
勝利の美酒に酔うと言うだろう。なり損ない戦線に「外勤」に行く前、それを浴びる程飲むつもりだぞ、口だけでは無くな」
「・・・そう、要するに「酒と享楽に身を浸す」・・・ていうのは比喩表現ってことね。
大方勝利の余韻を皆で愉しみましょうって意味でしょう。
でもなら良いかな、私もそうする事にするよ。」
楽し気ななり損ないの言葉にけれどきょとんと首を傾げる鈴。
それを見て「プっ、そんな仕草しないで、鈴」と言えばけれどなり損ないは女神のように笑んでこう言った。
目の前を見据えてこう言った。
「必ず勝つって意味だよ、私達二人で「色欲の街」を救っちゃおう。」
髪を掻き上げながらけれどなり損ないはそう言った。
何かの視線の下で
目の前にぞろぞろと集まってくる剣呑な気配を漂わせた護衛の魔女達を見て
魔女文字を手の平の上に浮かばせながら
そしてそれに守られている「城」の主が如く椅子に座る「SILENCE」と思しき魔女を倒し、
屍花と色欲の一族を処刑の魔の手から助け出す為に鈴は杖を霊子から作り上げ構えてこう言った。
「作戦開始だ。口だけでは無くな」
と厳かに魔女の軍勢を前にしてもまるで怯まない鈴の鳴るような声でそう言った。
吸い込まれるような黒髪が揺れるのを気にせずに
吸い込まれるような黒瞳を目の前の軍勢に凛と向けて、
チリンと片耳から垂れた白い紐の先にある不気味な鈴が鳴るのを気にも留めずに、
眼前に掌を翳すなり損ないの隣で自身満々にそう言った。
希望を抱く者に罪は無い。
勇気を持つ者にも罪は無い。
ただ絶望する者を苦しめるだけだ
~人助けの魔女~




