第28話 作戦通りの行動
「作戦開始だ。口だけでは無くな」
と厳かに魔女の軍勢の前で鈴の鳴るような声で鈴がそう言えばけれど私は瞬時、地を蹴った。
走る、走る、走る。
大地を蹴り、風を受けて、
けれど激しく靡く腰まである長い髪を気にする事も無く私は走った。
前髪が目線を邪魔しない事をむしろ幸運と考えてただひたすらに大地を蹴った。
鈴はその場には居ない。私と同様、あるいはそれ以上の速度で先の言葉とほぼ同時に空間転移魔法を用い空間を割り、姿を消している事だろう。
私達には作戦が在った。
首絞めの魔女という痕跡を探し、
色欲の一族の処刑を阻止し、
して三人で「色欲の街」を救う、
この三つの目的を叶える為の作戦が在ったのだ
まず、私の「目的」については考えなくてもいい、あれら三つの願いはけれどこの作戦と共に叶えられるのだ。
その作戦は三つに分かれていた。
まず第一段階目「宣言」
暴食の魔女の代理の名の元鈴と共に処刑そのものに待ったを掛け、魔女を混乱させる。
して第二段階目「先制攻撃」
これを用いて敵意を集め、私達、陽動部隊に注意を引かせる。
そして第三段階目「突入」
以上で広まった動揺を付いて力ずくで押し入り、陽動部隊に注意を向けさせながらも鈴と赤神の率いる潜入部隊の手によって色欲の一族を救い出す。
これら三つの段階こそが私と鈴、憤怒の副代理である赤神と立てた作戦であった。
そう振り返りながらも私は手元に浮かばせていた魔女文字を足に触れさせた。
「魔女文字だ!奴は「予言」の通り魔女文字を使うぞ!!ぐわっ」
そんな言葉を発した魔女の頭に蹴りをねじ込む
突き刺さるようなその蹴りは文字通り人間離れした結果を示すように頭を振り切らさせた。
瞬時、突然足を止めたが故の突風に襲われる魔女達を目で見遣りながらも私は回顧する。
これは私がこの街の情報を収集する過程で得た魔術、身体強化魔術である。
二度目の死を経てから得た魔女文字、それを用いたこの術式はけれど私個人が得意とする魔術であった。
効果は至ってシンプル、触れた部位の身体機能を強化する。
私はこの魔術をここに来る前、門を鈴と蹴破る直前に掛けていたのだ。
だからこそ、ただ魂も無い女子高生が巨大な城門を蹴破れたのである
「こいつ情報よりも速すぎる!ぐは」
「ぐあ」「ぐぅ」「ぐお」とまるで雨の中の蛙のように魔女を鳴かせる。
腹を蹴り、腿を蹴り、脛を蹴って
地面にドサリと倒れさせるように一人、一人圧倒しながらも制圧していった。
杖を持つ者は蹴って、蹴って杖を地面に転がして
魔術を使う口は、手で塞いで握り潰した。
再生阻害の魔術をそれぞれ掛けながら返り血の付いた頬を親指で拭いけれど再び地を蹴った。
怒号と悲鳴を上げる彼女らを、地面に血反吐を吐くように蹴って転がしながらも私は「城」に近づいていく。
「何だ!お前は何なんだよ!!」
そう喚く魔女の頭を掴めば地面に勢いよく突っ込んだ。
魔女文字を用いて全身に掛けておいた身体強化魔術の効果故か、
そいつは地面にクレーターを開け血反吐を吐いて意識を失った。
当然この時、再生阻害の魔術も忘れない。
魔女は不老不死である、その再生能力にも際限は無いが故の処置である。
一人、一人、丁寧に蹴って意識を奪いならが私は「城」に近づいてく
「この化け物が」
そんな風に言う魔女の喉を潰して再生阻害を掛け地面へ放っぽり出す。
ごろごろと転がってビクリ、ビクリと痙攣し動かなくなったのを情報の「収集」と「集積」で確認すればけれど、私は目視で確認をする。
戦闘に入ってから3分、それで倒した人間は123人である。
一人に3秒も掛けないその手腕は我ながら流石と言える。分からないけど
けれど始末したのは全体で三割強程だ。
単純に多いのだ。魔力の枯渇した私にはこの177人という数が、
倒した魔女から魔力を奪ってギリギリ身体強化を維持する。
それだけでもぎりぎりの戦いだった。
して戦い方も出来るだけ戦意を失わせるように容赦なくというのが「魔王」でもある鈴の言葉であった。
それを履行するのもけれど難しい。
記憶の実感は無く、感情は無く、魂も無いからか心は痛まない、けれど体が単純に疲労するのだ
一人、一人を倒すのに時間が掛かるというのが厄介なのである。
これだけやっても三割強、300人居た魔女を倒した者含めて全て行動不能にするのは正直厳しい。
けれどだからこそ、私はある作戦を思いついた。
髪を掻き上げて魔女文字を手の平に浮かばせる。
そうして手の平の中の魔女文字を手指で握り、砕いてけれどこう言った。
「掛かってきな、賢人会の犬共。」
そうして私は第三特性「█」を起動し手の平を魔女達を目に映す。
そうして地を蹴った。
唐突に距離を詰められた一人の魔女の「ひっ」という声を聞けば、
瞬時、翳した手の平から出た光が辺り包んだ
そうして、私は人を殺すつもりで白い光を放った。
■
第三特性「█」について私はあまり知らなかった。
戦闘において理解するつもりだったこの力はけれど私にも分かる事が在った。
それは圧倒的な力、そしてそれに見合わない程の圧倒的な魔力消費である。
単純にこの特性は消耗が激しいのだと私はこの戦いの中で理解した。
だけれど、これはある条件が整えば無視出来る。
それは放った相手の命を奪った時だ
そもそも特性は基礎能力の一つである。
生きる為のこの力は呼吸や拍動、して食事と何ら変わりない。
であればこそ、この力は欲するのだ。
敵の確実な死を
「殺せれば無理は無かったんだけれど、結局こう成っちゃったか。」
嘯くのは私である。
私は先程、一人の魔女の顔の前に手の平を翳し、殺そうとした。
命を奪おうとしたのだ。
まるで33人を殺し一つの街の魔力を奪い尽くした一度目の復活を果たす前の私のように
それは愛伽から貰った説諭書に明確に違反した行為であった。
三島椎名に許されていない「契約」で許されていない行為だった。
だからこそ、私は殺せなかった。
三島と愛伽の二人の命と、色欲の一族の皆の命を天秤にかけ前者を選んだのだ。
だからこそ、私は魔女の頬をただ光が霞めるのを見届け、
だからこそ、私は項垂れながらも前を向き
だからこそ、私は分からないながらも考える。
どうして私は目の前の人を殺せなかったのか、自分が「契約」によって死ぬのが怖かったのかと。
三島椎名と鏡月愛伽が死ぬのが恐ろしかったのかと。
答えは当然決まっていた。
「分からない、私には命の価値が分からない。
だから選べなかった、
目の前の魔女を殺せなかった、色欲の一族を、色欲の街を救い皆を助ける選択を取れなかった」
「ごめんね、鈴。」
そんな言葉と共に目の前の魔女が杖を振りかぶれば、
目を瞑りその時を待った。
けれどガキィという音に目を開けば
白い手の平が、白い外套が揺らめき、
私を何処かから見ていた筈の七つの目を持つ白い仔羊の面をした何かの手指が魔女の杖を受け止めていた。
まるで思い描いていた通りに
「開け、門よ。」
そう女神のように笑めば、
「模倣」した空間転移魔法を使って空間を割り、
利用する対象であるあの方と眼前に居る一人の魔女を攫うように私は「城」の広場から姿を消した。
紛らわしい行動は取るべきではない。
紛らわしい行動を取ればそれは当然面倒な事と成るからだ。
今に誰も居なくなる
~人助けの魔女~




